アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

343 サミュエル学園長

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学園長との個人面談。学園長は隻眼のイケオジだった。

 「アレク君、お茶はどうかな?」
 「はい、ありがとうございます。いただきます」
 「えっ!?(湯呑み?急須?)」

それは湯呑みのような器と急須だった。この世界で初めて見る器だった。

 「さっ、どうぞ」
 「いただきます」
 「えっ!?(日本茶かよ!)」

思わずびっくりしたんだ。

 「どうだい?」
 「あっ!?え、えーと‥‥オイシイオ茶デスネ(マジうま!)」
 「ははは。そうかいおいしいかい」

学園長はさも愉快と笑った。

 「さてアレク君。日本茶を飲んでおいしかったかい?」
 「あっ、はい。に、に、に、日本茶?おいしかったですけど‥‥学園長はなぜ‥‥」
 「じゃあ本題に入る前に、私から秘密の話をしようか」

そう言った学園長が微笑みながら語り始めた。

 「今から話すことは誰にも話したことのない話だよ。たった1人を除いてはね」
 「はぁー‥」
 「アレク君生まれはどこだい?」
 「ヴィンサンダー領の貧しい村です‥」
 「うん、そうじゃなくて生まれだよ」
 (まさか俺の出自を知ってるのか?!)
 「あ、あー‥その‥(めっちゃ顔に出てるな)え、えーっと本当はサウザニアの‥」
 「違うよアレク君」

学園長は俺の目を見ながらゆっくり話し続けたんだ。

 「今君は僕が出した湯呑みと急須を見て驚いた。さらにはお茶を飲んで『日本茶か!』と呟いた。ははは、ということは‥‥?」
 (まさか学園長も‥?)

銀髪隻眼のイケオジ学園長は嬉しそうに大きく頷いたんだ。
 「!?(マジか)」
 「私もだよ」
 「ま、まさか‥」
 「私は神奈川横須賀出身だよ。生まれは昭和だけどね。ははは」
 「俺、ああ僕は都内で平成生まれです」
 「平成?そうだったね。年号が変わったんだよね」
 「今は令和ですけどね」
 「もう変わったのかい!どんな字なの?」
 「はい。命令の令に平和の和です」
 「ふーん」
 「「ハハハハ」」

同郷!
初めて同郷の日本人に会った。見た目は2人ともぜんぜん日本人じゃないんだよ。でもたったこれだけのことで、俺と学園長の間は一気に縮まったんだ。

 「アレク君。畏まらなくていいよ。ましてこの世界だから日本みたいな『年功序列』もそこまで厳しくないからね」
 「はい。ありがとうございます」
学園長も脚を組んでリラックスした姿勢で続けたんだ。
 「まあお互いこんな顔だから、今の名前でいこうか」
 「はい」
 「私はねアレク君、ツクネ、マヨネーズで君が日本人だって確信したんだよ」
 「ハハハ、ですよねー」
 「ただね、あのキーサッキーのツクネ、うん‥‥これはやっぱりイカメンチの方がしっくりくるな。私は父方の実家が東北なんだよ。だからイカメンチは懐かしかったね」
 「あははは。俺もじいちゃんが東北だったんです。だから最初はイカメンチって言ってたんだけど、結局イカメンチよりキーサッキーのツクネになっちゃいました」
 「それでもこの世界じゃどうしようもない嫌われ魔物のキーサッキーが今じゃおいしい食糧だからね。ヴィヨルド領が富み栄える輸出品。わからないもんだよね」
 「ですね‥」

懐かしい日本の話をいっぱいしたんだ。最初は怖かった学園長の隻眼もぜんぜん気にならなくなったよ。


 「でねヴィヨルド学園1年1組のアレク君にお願いがあるんだ」

居住まいを正した学園長がこう言葉を投げかけた。

 「なんでしょう学園長。俺ができることならなんでも言ってください」
 「ありがとう。今回の探索は惜しかったね。あと少しだった……。
お願いというのはね。アレク君が在学中に是非とも50階層を目指して進んでほしいんだ」
 「はい‥‥」
 「聞いてるかもしれないけど30数年前の記録というのは、私たちのことなんだよ。
当時の私たちは、チームワークもあり学園ダンジョンの探索はそれなりに自信もあった。仲間にはデュークという精霊魔法に秀でた親友がいたからね。
50階の休憩室を抜けてすぐ。私がトラップを踏み抜いたんだ。何処かに飛ばされるほんの一瞬、デュークは私の手を引っ張って代わりに忽然と自分が消えたのさ。


それは一生懸命探したよ。
当時はダンジョン入山の規制は今よりは厳しくなくってね。それで若くて力のある冒険者10人で入山したこともある。ご領主様の許可をもらって大人の冒険者ばかりで20人で入山したこともある」
 「どうなりましたか?」
 「若い冒険者10人はね、2階層で私を除いて全滅さ」
 「えっ‥‥」
 「文字どおり、本当に全滅だったよ‥」
 「大人20人のときはね、入山早々に山ほどの魔物が溢れかえってね。そのままほぼスタンピードになったよ‥」
 「スタンピード‥」
 「ああ。あのときはね、まだ領都騎士団の精鋭50人も入山するはずだったんだよ。
不幸中の幸いだったのが騎士団員がダンジョン入口にいたことさ」
 「魔物が街に出ることは免れたけど精鋭の騎士団員が何人も亡くなったよ‥」
 「亡くなったんですか!?」
 「ああ。ルールを守らない探索者には容赦がないってことがこのとき、明らかになったのさ。だから今のルールが厳守されるようになったんだ」

 学園長曰く、学園ダンジョンは学園生だけの入山を認め、それ以外の入山を阻むという。


 「私はね、在学中のあれ以降5年間は50階層どころか20階層もいけなかったんだよ」
 「‥‥」
 「だからねアレク君、卒業するまで。あと5年のうちになんとか頑張ってほしいんだよ」
 「はい‥‥俺も卒業するまでになんとか頑張ります」
 「学園長聞いてもいいですか?」
 「なんだい」
 「その目はその‥‥」
 「ああ。お察しのとおりだよ。この隻眼はその時のものさ。あのときの悔しさ、贖罪、友とともにあること。そんなすべてを片時も忘れないためにこのままなんだよ」

 ああ、やっぱり。
学園長なりの贖罪の気持ちの顕れなんだな。口には出さないけどね、俺、なんか日本人らしいよなって思ったんだ。


 「アレク君、ときどき遊びにおいで。私も懐かしい日本の話を聞きたいからね」
 「俺も日本の話を聞きたいですからマジでまた遊びにきます」
 「ははは。じゃあ待ってるよ」
 「はい、失礼します」




 「シルフィ今まで黙っててごめんね」
 「ふん。そんなのとっくに気づいてるわよ」
 「やっぱりシルフィさんはなんでもお見通しなんだね」
 「あたぼーよ。べらんめぇ!」

 シルフィ、江戸っ子かよ!

 「「はははは(フフフフ)」」



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