アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

347 特級の実力

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 「今日は遠いところをよくおいでくださいましたな。アレク坊っちゃんお土産にメイプルシロップはどうですかな」
 「(坊っちゃんはやめて!)ありがとうございます村長さん。じゃあ遠慮なくいただきますね」
 「アレク俺の分も頼むぞ」
 「うん、もちろんだよ」
 「かーお前らメイメイが好きだなあ。アンナアマイモンタダデモイラネェーヤ」

帰ったら何作ろうかな。
容器にいっぱい入ったメイプルシロップを前に、嬉々として夢想中の俺を見てロジャーさんが言ったんだ。

 「てかお前どうやって持って帰るんだよ」
 「大丈夫だよ。そう思ってこれを用意してきたんだから」

俺は肩かけ用の皮のベルトとゴムを用意してきたんだ。そして持参した鉄の塊から、その場で背嚢を発現した。背嚢。つまりリュックサックだね。それはメイプルシロップを入れるためだけの金属タンク製リュックサック。帰り道、揺れてガンガンあたると痛いから背中と腰、革ベルトで下げる肩のあたりにゴムクッションを装着した背嚢なんだ。

 「なんだこの背嚢は?」
 「この柔らかいものは?」

 手にとってジロジロと見たり背負ったりしたおっさん2人が何やらごにょごにょ話している。

 「(これかなり使えねぇかロジャー)」
 「(ああ、冒険者にも騎士団にも領兵にも使えるな)」

 「アレク帰ったらその背嚢で話がある。ああ言い間違えたな。話があるアレク工房さんよ」
 「なんだよ嫌みったらしい言い方しやがって」
 「ガハハハ」
 「まあその代わりといっちゃあなんだが、あとでお前の戦闘をみてやるよ」

マジか!?それはめっちゃラッキーじゃん。
タイランドのおっさんもロジャーのおっさんも請われて王国内各地の領で武術指導みたいなこともしてるって知ってたからね。

 「マジ?ホント?じゃあ帰ったらギルドで説明するよ!」
 「やっぱお前カンタンな奴だなあ‥‥」


領都ヴィンランドの冒険者ギルド。その顧問はロジャーさんだ。元は王都の冒険者ギルド本部のギルド長でもあったおっさんだ。戦時下の2つ名は国を救った英雄『救国の英雄』。
それは知ってたんだけどね、タイランドのおっさんの2つ名は知らなかった。
『鋼鉄の鉄槌』又は『斬鉄のタイランド』
まあ考えてみれば特級ランクの冒険者だから2つ名がないわけないんだけど。でもかっこいいなあ。厨二病心をくすぐるかっこいい2つ名は羨ましいなあ。俺なんて……どうせ俺なんて……。

 「すげぇなおっさん2人の2つ名」
 「そうかあ。ああ!思い出したぞお前の2つ名」
 「ロジャー俺も知ってるぞ。『学園の狂犬』だろ。獣人の娘っ子のブラをはぎ取って鼻血出してぶっ倒れたってやつだろ」
 「あーーーやめてーーー!」
 「「ガハハハ」」




わずかながらの山の恵みを糧に暮らしていたコバック村。その村がメイプルシロップの採取から精製を一手に担うようになって半年。人の往来も格段に増えた。
早、村の基幹産業へと育ったメイプルシロップ。領の隆盛を支えているという自負心も村人には芽生えている。
「生みの親」とも伝え聞くアレク工房のアレクという名に足をむけて寝ることはできなくなっていた村人たちである。
そしてアレク工房の名の下に安定して働けるようになったことにすべての村人が感謝をしていた。それは偏に愛くるしいアレク坊っちゃんのおかげであると。

 「「アレク坊っちゃーん」」
 「「坊っちゃーん」」

見ず知らずの村人から声がかかる。

 「「ガハハハハ」」
 「もうやめてよ!なんの嫌がらせだよ本当に!」


メイプルシロップの採取。冒険者、騎士団、村人、商人、文官に至るまで。その一連の流れを視察したんだけど、気になる問題点はぜんぜんなかったよ。むしろどの分担部分が滞っても全体に影響を及ぼすことを誰もがみんな知っていたからより一層、一丸となって取り組んでいるんだ。

 「どうだアレク?」
 「うん来てよかった」

 みんなが団結して働く様。いつの日かヴィンサンダー領でもこんな光景が見られたらいいな。





 「少し奥に入るか」
 「うん」

やった!ついにおっさんたちの実技が見られるよ。

 「じゃあアレク、まずはお前が2、3体闘ってみろ。俺たちは剣と拳のみで魔法は使えねぇからな。だから魔法以外でやってみろ」
 「わかった」



 バキバキバキバキ‥

すぐに索敵に引っかかったのはオークだ。俺もわざと俺の存在がわかるように足下の枯れ木をバキバキ折って音をたてたんだ。

 ウオオオォォーーッ!

目の前の木々を踏み散らかしながら急接近してくるオーク。
さすがは黒い森。練習用を含めて魔獣に事欠かくことはない。

 ウオオオォォーーッ!

 「ロジャーのおっさんの弟が来た!」
 「アレクてめえ!」
 「ガハハハ。アレク弟を指導してやれ」
 「タイラーてめえ!」

 ウオオオォォーーッ!
 ドドドドドドドドドドドド‥

駆け寄ってくるオークを腰に差した刀を抜いて正眼に待ち構える。
本当は背の刀を抜いて待ち構えたほうがカッコいいんだけどね、メイプルシロップの背嚢を背負ってるから仕方ないんだ……。

 ウオオオォォーーッ!

2.0メル近いオークが闇雲に両手を振りながら迫ってくる。
右手には堅そうな棍棒を持って。

 「(おお、さすがに構えはディルさんの最後の弟子だな)」
 「(ああ)」
 「(さてどう闘るか楽しみだな)」
 「(だな)」

 俺は正眼に構えたままオークを待ち構える。

 ガアアッ!

棍棒を振り下ろすオークを左右の重心移動だけで避け、そのままオークの腹を横一文字に斬る。

 ザンッ!

 「(ほおー)」
 「(上手いじゃねぇか)」

その後も数体の魔獣を斬り捨てたあと。俺は後ろで観ている2人に気になっていたことを投げかけた。

 「なぁおっさんたちのその身体って‥」

おっさんたち2人はここまでずっと魔力を目に見える形で身体に纏っていたんだ。

 「ああ。お前も魔力の流れが見えるようになったんだな」
 「うん。ダンジョンの後半から見えるようになった」
 「そうか。じゃあちょうどいい。今度は俺らの番だからな。あの魔獣でやるから見てろ」

 ドドドドドドドドドドドドドドド‥

一直線に向かってくる四つ足の魔獣が3体。大きな牛サイズのワイルドボアだ。

先に仕掛けたのはロジャー顧問だ。

 ダッダッダッダダッ‥

 突っ込んでくるワイルドボアに向けて刀を構えるロジャー顧問。その刀は武骨な様がまさに似合うバスターソードだ。

 ダッダッダッダダッ‥

ロジャー顧問はワイルドボアとの距離がまだ10メル以上もあるのに気にも留めずに刀を振るった。刀からは星戦争で主人公が振るう光る刀のような音がしたんだ。

 ブウウゥゥゥンッ!

 斬ンッッ!

 「えっ‥‥!?」

離れてるのに一刀両断されるワイルドボア。

 「次は俺の番だな」

タイランドギルド長が少し前に立ち、腰を落とし刀に手をやる。それは居合いを構えるようでもあり、隙のない構えからもディル師匠を思い出させた。
タイランドギルド長の刀は俺と同じ片手剣だ。

 ダッダッダッダダッ‥

ゆっくりと正眼に構えたタイランドギルド長。この構えはまさか……。
ワイルドボアとの距離はまだ5メルはある。それなのに。

 ブウウゥゥゥンッ!

あっ。また星戦争の刀の音がした。

 斬ンッッ!

真っ二つに分かれるワイルドボア。

ドドドドドドドドドド‥

 「今度は拳でいくからな」

そう言ったタイランドギルド長が腰だめに構えたんだ。正拳突き?
身体に纏う魔力が拳に集まってきた。
ワイルドボアとの距離はまだ10メルもあるのに。

 ブウウゥゥゥンッ!

これもあの音だ。しかも空気が揺らいだみたいに見えたんだ。
突っ込んできたワイルドボアが立ちどまる。

 ピリピリピリピリ‥

ワイルドボアに無数の亀裂が入った。

 パァァァァーーンッッ!

破裂するように四散するワイルドボアの身体。

 「なんだこれ‥‥」

 俺は2人との実力差に愕然として声も出なかった。

 「俺たちは魔法は使えねぇからな」
 「なあタイランドのおっさん。おっさんのあの構えって?」
 「ああ。俺はお前の兄弟子だよ。ディルの爺さんは元気か」
 「う、うん」

 マジか!兄弟子じゃん!なんかね、ただの暑苦しいおっさんが身近に感じられたんだ。

 「お前は魔法はどこまで使える?」
 「内緒にしてるけど火水風土金の5つだよ」
 「「「やっぱりな」」」
 「それプラスお前は精霊魔法も使えるんだろ」
 「うん」
 「俺たちは戦闘レベルで使える魔法はない」
 「だが魔力を身体に纏うことはできる」
 「強化魔法‥」
 「そうとも言うな」
 「来たときの脚は?」
 「ああ。あれは脚に魔力を回した」
 「今は?」
 「刀には刀、拳には拳に魔力を纏わすのさ」

なるほどな。原理としては理解できるよ。俺の突貫なんてまさにそれだから。それでもその纏い方は超一流のそれだった。今の俺にはまだあそこまでは無理だ。

 「わかったよ‥」

それは聞くのでさえ憚られる力の差。例えて言うならその道の最前線で闘っているプロのアスリートに素人が助言を求めるようなもの。素人にはプロが言わんとしていることのごくわずか表面しかわからない。(感動はするけど)
でも最前線のプロが語る機微は今の俺にはわからないな。
それでも。悔しさを通り越してはいるんだけど思わず口に出たんだ。彼我の、それこそ雲泥の差を思うと。

 「でも。この差は‥‥」
 「まあ俺たちはおっさんだからな。お前より20も30も上だ。今は仕方ないさ。歳が経てばお前もここまでくる」
 「うん‥‥」
 「まあ助言と言うなら、まだ成長前だからな。今は力よりスピード重視だろうなタイラー」
 「ああ。お前もまだ4、5年は伸び盛りだ。学園にいるうちはスピード重視でいけ」
 「わかった。ありがとう!」


 「よかったねアレク」
 「うん」

にっこり笑えた。
はやく強くならなきゃってモヤっとしてたのが取れた気がする。頭の中のモヤモヤが晴れたみたいだ。
そっか、今はスピード重視でやれることをやればいいんだ。







冒険者ギルド前には午後1点鐘に帰ってきた。


 ササッ‥


 サササッ‥


 ササササッ‥


 サササササッ‥


 なんで気配を消してギルドの中に入るんだよ!

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