アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

385 謁見

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385  謁見

 アザリア領領主アネキア・ド・アザリアは王家の外戚であるという。アザリア領という名はその領主の家名から名付けられているのは多くの領と同じである。
 ご領主様の名前アネキアと領都アネッポの名前が微妙に似てるのは何か意味があるのかな?

 「そんなの知らないわよ」

 あーシルフィさんでしたか。そうですよね。俺の脳内独り言、シルフィさんに筒抜けでしたよね。トホホ……。

 そんなご領主アネキア様(漢字的に姉貴亜を充てたいけどもちろん漢字なんてものはこの世界にはない。ちなみに男のご領主様である)は歴代のご領主様同様に病弱であるという。そのためふだんから病床に臥せっていることが多いらしい。


 背の高い吹き抜け天井のあるお屋敷の謁見の間。そこに通された俺たち。高校の体育館ってイメージがぴったりくる謁見の間だ。
 入口からご領主様のいる謁見先までは20メル以上。左右には騎士団員がぎっしりと立ち並んでいる。何人かは殺気を隠してもいないな。騎士団員の後ろには大勢の家臣や貴族たちにいかにもって人も見え隠れしている。

そんな人たちの気に当てられた鉤爪の3人がみるみる冷や汗を流しながら小声で俺に話しかけてくる。

 「ハ、ハンスの兄貴、大丈夫ですよね?」
 「まさかってことはないですよね兄貴?」
 「兄貴俺震えが止まらないです‥」

 そんな3人の前を歩くテンプル先生とサンデーさん。堂々とした様はさすがだよな。ロジャーのおっさんは‥‥うん言うまでもないな。
 お散歩かよ!

 「サンデー商会会長サンデー・ウィンボルグ殿並びにお付きの方々ご入場です」

 案内されるままサンデーさんとテンプル先生が並んで先頭を歩く。次いでロジャーのおっさんと俺、鉤爪の3人が後に続く。御者さん2人は馬車で待機だ。てか馬車はもう1台でよくない?

 謁見の間について早々。アネッポの貴族たちのヒソヒソ話が止まらないみたい。

 「(なぜ救国の英雄殿が?!)」
 「(ロジャー様がなぜ?)」
 「(何があるというのだ?)」
 「(誰だあの犬の仮面は?)」
 「(誰だ狐の仮面は?)」


 1列に整列した俺たち。ひな壇の最上段に座っているご領主様に向けてテンプル先生が犬の仮面を取り、1歩前に進み片膝を折って挨拶をされた。

 「ベルナルド・テンプル参上仕った」

 ザワザワザワザワ‥
  ざわざわざわざわ‥
 ザワザワザワザワ‥

 その瞬間、周囲に居並ぶ家臣や貴族たちの中からどよめきの声が上がる。

 「(今なんといった!?)」
 「(まさかあの御仁‥)」
 「(本物のテンプル殿なのか‥)」
 「(よもや商会の随行に‥)」


 「久しいなご領主。何十年ぶりかの。まずは我らのこのようないでたちを許されよ」

 ひな壇の上。豪華な椅子に座る高齢のご領主様が声も上げず、ただ震える右手を僅かに上げて了承の意を現した。うんご領主様、生気がまるでないな。目は虚ろだし。大丈夫かな?
 そんなご領主様に代わって声を上げたのは隣に立つ男だった。
 太っ!でもなんか失礼じゃね?

 「老師様。敬愛するわが領主アネキア・ド・アザリアは生来の病いのため私鎮台のジャビー・ド・ワイヤル伯爵がご領主に代わりこの場を借りてご挨拶申し上げますぞ」


 ジャビー・ド・ワイヤル伯爵。
 アザリア領ならびに領都アネッポを実質的に牛耳る男である。
 身の丈180セルテ、体重300K。両の瞼は己が脂肪で塞がれ、それが故に目元に感情表現は現れ難くなっている。ために若かりし頃は政争においては揺るがぬ意志を持つ男と周囲からは好意的に解された。
 出所経歴ともに不詳。それは奇しくも隣領で政(まつりごと)を執り仕切ることとなった「お館様」と同じである。
 短期間であれよあれよと頂点にまで上り詰めた男の2つ名は「アネッポの水樽」。
 黒い噂が絶えぬ男にはいつしか政敵もいなくなっていた。
 水樽の水を好んで飲む者には甘く、好まない者には毒の水となったという。好まない者にとってそれは政の世界のみならずアネキア領から存在そのものの消滅を意味していた。
 そして現在。アネッポの守護から経済までのすべてを掌握、鎮台と呼ばれる。


 「ふむ。ジャビー殿。仮面のみならず我ら帯剣のままの不作法を寛容にもお認め下さるか」
 「老師何をおっしゃいます。わが領兵もみな常在戦場との気構えにて刀を佩いております故に些細なことではございませぬ」
 「ほお。我ら7人では小虫程度であるとな。ハッハッハ。
 ではこの謁見の場も戦場というわけじゃの。さすがはアザリア領の皆々様よの。
 ロジャー殿も隣領にこのような兵(つわもの)が数多おられて心強いことよのお」
 「わっはは。それは老師の言うとおりよな」

 ビクっ!

 ビクビクっ!

 ビクビクビクビクっ‥!

 ロジャーのおっさんの大きな声にビクビクする人が伝播していったんだ。
 あーロジャーのおっさんわざとこんな振る舞いをしてるな。

 プッ  ククッ

 サンデーさんが猫の仮面を抑えて笑いを堪えてるよ!
テンプル先生といい、ロジャーのおっさんといい、サンデーさんといい‥‥こんな大勢の人の前でなんでみんな緊張しないの?心臓太っ!
 俺はブルってる鉤爪の3人に親近感を覚えるよ!


 「さて‥‥話の前にわしから一言よろしいかなジャビー伯爵。あいや、領都アネッポを守護される鎮台様とお呼びすべきかの」
 「もちろんどちらでも構いませぬぞ老師様」
 「ではの‥‥」
















 「ご領主アネキア殿ご臨席の謁見の場で。
 よもや他領からの客人に実際に刃を向ける愚か者はおりますまいな?」
 「な、なにを馬鹿な!あいやご無体なことを!
 そのような痴れ者がわがアレッポにおるわけはなかろう!」
 「はははは。なるほど、なるほどのお。痴れ者はおらぬか。それでもこの場は戦場とな」

















 「ハンス君」

そう言ったテンプル先生が頷いたんだ。

 こくん
 こくん

 俺もまたテンプル先生に頷いたそのあと。テンプル先生の意図を即座に理解したんだ。そして徐ろに肩に下げた矢筒から矢を番て天井に向けて連射した。

 シュッ!
 シュッ!
 シュッ!
 シュッ!

 あうっ
 つうっ
 うわっ
 いつっ

 ドスンッ!
 ドスンッ!
 ドスンッ!
 ドスンッ!

天井から4人の男と大きな漁網が落ちてきた。もちろん男の急所は外したよ。たぶんだけど。

 コイツら間者か暗殺者なんだよね?だけどキム先輩と比べたら天と地くらいの差があるな。

 だいたい謁見の間なんだよね?無駄に天井が高いなぁって思ってたんだよ。しかも殺気を消さずに4人潜んでいるし。いくら頑丈とはいえこんな漁網くらいで絡みとられるのは‥‥鉤爪の3人くらいだよ!

 ザワザワザワザワ‥
  ざわざわざわざわ‥
 ザワザワザワザワ‥


 「きゃーーーーー!」

 いつのまにか猫の仮面をとったサンデーさんが悲鳴を上げていた。あーこれも芝居だよなぁ。でもサンデーさんの悲鳴顔って‥‥めっちゃかわいい……。















 「寒っ!」

なぜかシャイニーちゃんが俺の顔を見て変な言葉を口走った。

 「でしょーシャイニー」

 なんでだよ!俺狐の仮面してるよ?
 あっ!仮面半分上に上げられてる!シルフィだ!

 「ねーシャイニー言ったとおりでしょー。鼻膨らませて怖いでしょーアレクって」

 うんうん、うんうん

ガクブルしながらシャイニーちゃんが俺を見てボソッと呟いたんだ。




















 「ヘンタイ‥」





 ガビーン!

 その場でガックリ項垂れる俺……。ああやっぱりシルフィに仕返しされたよ。


 そんな俺たちに構わず。間者4人にわずかに目線をおいたロジャーのおっさんがその場で静かに言い放ったんだ。

 「伯爵。まさか客人に仇なすと?よもやわがヴィヨルドと事をお構えのことをお望みかな?」


 ピキーーーーーンッッ

瞬時に凍りついた謁見の間。


 「返答や如何に?」

ロジャーのおっさんが全身にハッキリと高濃度の魔力を激らせたんだ。

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