アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

614 突破口

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 「何やってもぜんぜんダメじゃん」

 「ええ」

 「シルフィ、ちょっと休憩しようよ」

 「そうね。発想も変えなきゃね」

 ダンッッ!

 「おっさん休憩にきた」

 「お、おお‥‥」

 ルシウスのおっさんがいる円柱に飛び乗ったんだ。

 「おっさん、だめだよ。バンダルスコーピオン、さすがにミスリルの殻だけはあるね。俺の魔法も全部跳ね返されるしさ。あーあ、もう嫌になっちゃうよ」

 「そうじゃな」
 (ふつうはバンダルスコーピオンを前にしたら死を意識するもんだろうが!)
 
 「‥‥しかしアレクよ、お主のその魔法の幅広さ。これほどの者は中原中どこを探しても1人もいまい。どうして今まで隠れておった?」

 「あははは。隠れるも何も俺は俺であって他の人のことなんか知らねえし。
 てか俺、他の人の魔法は師匠や先輩、友だち以外は知らねえし。だいたい王国と帝国意外の国は行ったこともないし」

 「なんともお前は欲のない男よな‥‥」
 
 「てかおっさん、そんなことよりこのバンダルスコーピオン倒さなきゃ俺ら外に出られないんだぞ?」

 「そのとおりじゃな」

 「ずっとここにいるのなんか嫌だぞ!」

 カチカチカチカチカチカチ‥‥

 羽音ならぬ歯音を鳴らしながら円柱の周りを徘徊しているバンダルスコーピオン。

 「くそー!ホント腹立つなぁ」

 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」           
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」
 「煉瓦バレット!」

 ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンッッ!

 煉瓦の山の中にバンダルスコーピオンを埋めてみたんだ。

 「す、すごいものだな‥‥」

 「ハァハァハァ‥‥さすがにこれなら怪我くらいしたんじゃね?」


























 ゴソゴソゴソゴソ
 ガラガラガラガラ‥‥

 煉瓦の山の中からバンダルスコーピオンがゴソゴソと出てきたよ。

 「あちゃー出てきやがった」

 「ほんにのぉ。やはりキズひとつ付いてないの」

 「どうするんだよおっさん!?
 このままじゃ何日か経ったら腹減って俺ら死ぬぞ!こんなのめっちゃ格好悪いよ!あー嫌だ嫌だ」



























 「よいかアレク。お主より経験だけは積んだおっさんの話を聞け」

 ルシウスのおっさんが急に真面目な顔をして話をし始めたんだ。 
 真面目に聞かなきゃいけないって思うくらいに。
 
 それはルシウスのおっさんから俺への忠言、アドバイスだったんだ。

 「格好よく勝とうとするな。勝負というやつはの、最後まで立っていた者が勝ちなんじゃ。

 それまで、どれだけ負けようが這いつくばろうが、嘲笑されようが構うことはない。
 どれだけ汚れようが関係ない。泥くさくてよいんじゃ。

 とにかく最後まで立っていれば勝ちなんじゃ。

 アレクよ。わかっておるな」


 こくこく


 「ルシウスのおっさん。おっさんのくせにめちゃくちゃいいこと言うな!
 俺、おっさんの今の言葉、たぶん一生忘れないぞ!」

 「おっさんを揶揄うでないわ小童め!」

 ガハハハハハ
 わははははは

 ルシウスのおっさんの俺への戒め‥‥励ましの言葉。
 これがめちゃくちゃ響いたんだ。この後の俺自身の人生の指針にもなるくらいに。

 「ありがとうなルシウスのおっさん。
 今はどんだけ時間かけてでも、とにかくこいつの弱点を見つけるまではあきらめずに頑張ってみるよ」

 「やってこい」

 「うん」

 すとんっ。

 再びバンダルスコーピオンの前に立つ。

 それじゃあもう1度おさらいしよう。
 
 バンダルスコーピオン
 こいつは脚が速い。でも飛べない。
 円柱や壁を登ることもできない。
 鋏の力はとても強い。
 身体は信じられないくらい硬いし、魔法耐性も高過ぎるくらいある。
 火は効かない、風も効かない、熱湯はイヤイヤしてたみたいだけど効くってほどでもない。ああ、やってないけどひっくり返すことくらいはできそうだな。
 土はぜんぜん効かない。雷も避雷針で避けられる。
















 あっ!?
 ミスリルって金属だよな。

 「これならいけるかも‥‥‥‥いやいけるわ。めっちゃ地味だけど」

 「おっさん!わかったかもしれない。水魔法と火魔法を交互に当てるんだよ。
 めちゃくちゃ地味だけどどうかな?」

 「ふむ?試してみる価値はあるな」

 「だよね!
 とりあえず魔力が尽きるまでやってみるよ。ダメなら今晩寝てまた明日だ」

 「よし、ではわしも‥‥‥‥応援してやる。それくらいしかやることがないからの」

 ガハハハハハ
 わははははは

 「じゃあいくよ!ブリザード!」

――――――――――

 「ハァハァ‥‥フレア!」

――――――――――

 「ハァハァハァ‥‥ブリザード!」

――――――――――

 「ハァハァハァハァ‥‥フレア!」

――――――――――

 「ハァハァハァハァハァ‥‥ブリザード!」

――――――――――

 「ハァハァハァハァハァハァ‥‥フレア!」

――――――――――

 3点鍾くらい繰り返したよ。

 「なんかいいような気がするんだけど。どう思うシルフィ?」

 「そうね。そんな気もするわね」

 「もうちょっとやってみるか」 



 【  ルシウスside  】

 なにかをブツブツと呟いているのは独言なのじゃろうか、それともアレクに憑くという精霊との会話であろうか。

 いろいろと噂には聞いていた。
 王国からの未成年者はいずれ歴史に名を残す傑物になるであろうと。

 ただわしにはどうしても理解できなんだ。ただの子どもではないのかと。

 しかもメイズやジャックの、わしから見れば未だ若造ではあるが、映えある帝都騎士団の2人の頂きに立つ者たちがすっかりあの小童を信頼しておることに。少々腹立たしくも思ったのだ。

 だが。わしの考えこそが間違っていたと思わざるを得ないことに気付かされた。
 
 なんと気持ちの良い若者であろう。

 今も‥‥‥‥自然と誦じておるのはまだ幼いころのわしが、好んで読み聞かせてもらった昔話の一節。
 以来、折に触れ誦じておる一節が自然と口から出ておったわ。

 『そはただのヒューマンにしてただのヒューマンに非らず
 そは類い稀な天賦の才に恵まれた者に非らず
 愚直なまでに反復を繰り返して得た高貴なる魔法の技の体現。

 これぞ魔法の頂き
 これぞ魔法の高み

 この者に触れる者いずれも同じ道を歩まん
 
 いずれも頂きに向けて歩きだす者ばかり。

 この者と仲間たち
 いずれ世界を破滅から救わん』

 もしやアレクがの‥‥

――――――――――

 「ハァハァハァハァハァハァハァ‥‥ブリザード!」

――――――――――

 「ハァハァハァハァハァハァハァ‥‥フレア!」

――――――――――

 「ハァハァハァハァハァハァハァ‥‥ブリザード!」

――――――――――

 「ハァハァハァハァハァハァハァ‥‥フレア!」

――――――――――

 「ハァハァハァハァハァハァハァ‥‥ブリザード!」

――――――――――

 「ハァハァハァハァハァハァハァ‥‥フレア!」

――――――――――


 連続で5点鐘を越ええた。

 「そろそろいいかな。てかさすがに魔力も切れそうだよシルフィ。ちょっと脚切ってみようか?」

 「ええ」

 ザクッッ!

 「おぉ~!斬れたよ!」

 「「イェーイ!」」

 シルフィが見えないおっさんには俺1人で踊ってるように見えただろうね。

 「アレク‥‥説明してくれんか」

 「うん。ミスリルっていっても金属だから、いずれは経年劣化すると思ったんだよね。だからできるだけ冷たい温度で凍らせて、今度はできるだけ高い温度で燃やすのを何度も何度も、何度も何度も繰り返したんだ。俺の水、腐食と発酵もできるから効果もあると思うんだよね。
 そしたら‥‥斬れた」

 「クックック。お主という奴は。最高だよ。ガハハハハハ」

 「じゃあさ、ルシウスのおっさん。最後におっさんも出番があるからな」

 「出番?」

 「ジャジャーン。これでーす。ギロチン台さん出てらっしゃーい!」

 ズズズーーッッ

 手脚も土魔法で動かないようにしたバンダルスコーピオンの氷漬けの首に狙いをつけてギロチンを発現したんだ。刃は俺の刀を装着する。尻尾の先は脇差を装着。
 頭と尻尾の2つを切断するギロチン。

 「首はおっさんの体重で斬れるはず。尻尾は俺の体重。よーし行くぜ、おっさん!」

 「こ、ここに乗ればいいんじゃな」

 「そうそう。乗ってるだけでいいよ。俺はこっちに乗るから」

 「じゃあ行くよ。おっさん、一緒に3、2、1だーんだぞ」

 「お、おお‥」

 「ではご唱和ください。サン・ニー・イチ‥‥」

 「「だーーんっ!」」
















































 ザクッッッ!
 ザクッ!

 バンダルスコーピオンの首と毒針がざっくり切断されたんだ。

 「おっさん!」

 「アレク!」

 パアアァァァンッッッ!

 2人でハイタッチしたんだ。







 「おっさんちょっと待ってて。解体するからさ」

 「ふんふんふんふーん♪」

 死んだバンダルスコーピオンからはミスリルがウソみたいに簡単に剥がせたんだ。
 中の身は‥‥
 これ、やっぱ海老蟹類と同じだよ。しかも極上のやつだ!

 「お主‥‥解体もすごいの」

 「あははは。3歳からやってるからね」

 「ただの‥‥
 なんじゃその呪詛のような文言は?
 魔獣を呪う祭祀の文言か?
 わ、わかったぞ!お主、実は悪魔崇拝者か!!」
















 「ただの鼻歌だよ‥‥ぐすっ」


 ズズズーーッッ‥‥

 バンダルスコーピオンを解体したあと。すぐに殻や骨など不要物が床の下に沈んでいったよ。
 そのあとには。

 ポンッ!

 ドロップ品の宝箱が出現したんだ。

 「出たぞ!アレクよ!ドロップ品が出たぞ!」

 ルシウスのおっさんが大喜びで叫んだんだ。

 「出た出た出ーーた!ドロップ品♪ドロップ品♪」

 宝箱の周りを小躍りしながら狂喜乱舞しているルシウスのおっさん……。

 たしかに金枠が施された豪華版の宝箱には違いないんだけどね……。

 「ドロップ品  ドロップ品  ドロップ品♪」

 「おっさん‥‥いい歳して幸せだな‥‥」

 「なんじゃいアレク、ドロップ品は冒険者だけでなくすべての男のロマンなのだぞ!」

 「へぇーーー」

 完全に白い目で見続ける俺におっさんが言ったんだ。

 「お主、ロマン派でないのぉ」

 「そんなもんあるわけねぇーわ!今まで出たのなんか食いかけでカビが生えたもんとか割れた皿とか、まともなものなんか1個も出なかったわ!」

 「あーあー哀れよのぉ。男子たるものロマンを語ってこそのものなのにの。それを語れなくなるとは‥‥」

 「なんでそんな憐れんだ顔で見られなきゃなんねぇんだよ!」

 「まぁよい。開けるぞ」

 「ちょっと待って。化けもんが出てきたらこっちから斬るからな」

 「そんなもん出るわけなかろう。これにはのぉロマンが詰まっておる。女神様の贈り物なんじゃよ。わしにはわかる」

 「へいへい」

 「では開けるぞ」

 ルシウスのおっさんが宝箱の蓋を手に取った。俺は刀を構えていつでも振り下ろせるように腰だめとなった。

 「ではご開帳ー」

 ギギギギギーーーーーッッ



――――――――――


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