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噴水広場
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カルエルの街は東と西、そして北と南を繋ぐ十字路が大通りになっている。
その中心には噴水があり、人々の待ち合わせ場所として活躍している。
噴水広場に一番近いのは、南門だ。
四角く区切ったMAPで表すならば、南は門から入って噴水まで一つ、西と東は二つ、北の城へも噴水広場から二つ超えるような感じになる。
ああそうだ、後で城も覗いてみよう。
大通りを進む俺は、そのまま噴水広場を突っ切ろうとして足を止めた。
東から入ったから、左手側である南門の方に顔を向けて……その違和感に足を止めたのだ。
ここはもう一度言うが、最初の街である。
初心者プレイヤーが、ここに現れるのだ。
なので、そういう初心者を販売層にしている商人が露店を開いているのだ。
低級体力回復薬とか、低レベル向けの武器や防具を売る、そんな商人が、噴水広場や南門の近くには場所を奪い合うようにして露店を開いている。
他にも初心者を誘おうとするプレイヤーも多く集まり、高性能の装備品とかを売るような商人も、やっぱりここで露店を開いているのだ。
いや……開いて、いたのだ。
噴水の周辺にもパーティー募集の看板を持って立つ人もいた。
そしてこのゲームでは、プレイヤーはその頭上に名前が浮かんでいるのだ。
NPCは何もない。
何故プレイヤーの頭上に名前が浮かんでいるのかと言えば、防犯の為だ。
名前がわかれば違反者通報もしやすい。
そして名前が大っぴらに表示されているということは、自分が誰か皆がわかる、ということで、抑止力になる。
過去、この名前表示を消そうとしたプレイヤーが居たらしいのだが、そのせいでゲーム全体に不具合を起こし酷いことになったらしい。
そしてネットで本名やらが流出したとか。
叩かれまくって、そこからどうなったかは知らないが、プレイヤーの中の過激派を公式が宥める声明を出した程だったらしい。
ちょうどノってきていた時期だったらしく、大炎上したと見られていた。
今もノってるけどな。
それが、今はどうだ。
行き交う人々の頭上に名前は浮かんでいない。
大通りの左右を挟んでみっちり開かれていた露店はない。
初心者装備でおろおろしている初心者もいなければ、意気揚々としている初心者もいない。
そんな初心者に声を掛ける人も見当たらない。
パーティーを募集している人もいない。
俺の視界には、プレイヤーが一人も見当たらない。
ぐらりと視界が揺れた。
辛うじて踏みとどまり、唾を飲み込む。
もしかして、本当に『俺』しかいないのだろうか。
いや、それはまだ決められない。
何故なら街に来たのはここだけだ。
もしかしたら他の街に居たり、建物の中に居るかもしれないじゃないか。
そこまで考えて詰めていた息を細く吐き出す。
ドッドッドッと心臓が鳴る。
無意識に、胸を押さえていた。
「あら? クピドじゃない?」
横から掛けられた声にビクッと体が跳ねる。
そっとそちらに顔を向ければ、そこにはフレンドリストに名前が載っているNPCが居た。
足元には真っ赤なハイヒール。
深くスリットの入った黒のロングのキャミソールドレスに、ハイヒールとは違った赤のレースのストールがふんわりと首に巻かれていた。
涼やかな目元には赤のラインが引かれ、薄い唇も赤く艶やかだ。
緩く編まれたオレンジの三つ編みが左肩から前に流されている。
「どうしたの、顔色が悪いわ」
「……いや、なんでもない」
「……そうは見えないわよ?」
心配そうに俺を見下ろすのは美女だ。
例え俺より身長が高くても、筋肉があっても、肩幅が広くても、声が低くても、俺が無くした息子さんがぶら下がってても、だ。
目の前の美女の名前は、ジュリエーヌさんという。
本名はジュステリアンだ。
彼女は美女だが……オネェだ。
その中心には噴水があり、人々の待ち合わせ場所として活躍している。
噴水広場に一番近いのは、南門だ。
四角く区切ったMAPで表すならば、南は門から入って噴水まで一つ、西と東は二つ、北の城へも噴水広場から二つ超えるような感じになる。
ああそうだ、後で城も覗いてみよう。
大通りを進む俺は、そのまま噴水広場を突っ切ろうとして足を止めた。
東から入ったから、左手側である南門の方に顔を向けて……その違和感に足を止めたのだ。
ここはもう一度言うが、最初の街である。
初心者プレイヤーが、ここに現れるのだ。
なので、そういう初心者を販売層にしている商人が露店を開いているのだ。
低級体力回復薬とか、低レベル向けの武器や防具を売る、そんな商人が、噴水広場や南門の近くには場所を奪い合うようにして露店を開いている。
他にも初心者を誘おうとするプレイヤーも多く集まり、高性能の装備品とかを売るような商人も、やっぱりここで露店を開いているのだ。
いや……開いて、いたのだ。
噴水の周辺にもパーティー募集の看板を持って立つ人もいた。
そしてこのゲームでは、プレイヤーはその頭上に名前が浮かんでいるのだ。
NPCは何もない。
何故プレイヤーの頭上に名前が浮かんでいるのかと言えば、防犯の為だ。
名前がわかれば違反者通報もしやすい。
そして名前が大っぴらに表示されているということは、自分が誰か皆がわかる、ということで、抑止力になる。
過去、この名前表示を消そうとしたプレイヤーが居たらしいのだが、そのせいでゲーム全体に不具合を起こし酷いことになったらしい。
そしてネットで本名やらが流出したとか。
叩かれまくって、そこからどうなったかは知らないが、プレイヤーの中の過激派を公式が宥める声明を出した程だったらしい。
ちょうどノってきていた時期だったらしく、大炎上したと見られていた。
今もノってるけどな。
それが、今はどうだ。
行き交う人々の頭上に名前は浮かんでいない。
大通りの左右を挟んでみっちり開かれていた露店はない。
初心者装備でおろおろしている初心者もいなければ、意気揚々としている初心者もいない。
そんな初心者に声を掛ける人も見当たらない。
パーティーを募集している人もいない。
俺の視界には、プレイヤーが一人も見当たらない。
ぐらりと視界が揺れた。
辛うじて踏みとどまり、唾を飲み込む。
もしかして、本当に『俺』しかいないのだろうか。
いや、それはまだ決められない。
何故なら街に来たのはここだけだ。
もしかしたら他の街に居たり、建物の中に居るかもしれないじゃないか。
そこまで考えて詰めていた息を細く吐き出す。
ドッドッドッと心臓が鳴る。
無意識に、胸を押さえていた。
「あら? クピドじゃない?」
横から掛けられた声にビクッと体が跳ねる。
そっとそちらに顔を向ければ、そこにはフレンドリストに名前が載っているNPCが居た。
足元には真っ赤なハイヒール。
深くスリットの入った黒のロングのキャミソールドレスに、ハイヒールとは違った赤のレースのストールがふんわりと首に巻かれていた。
涼やかな目元には赤のラインが引かれ、薄い唇も赤く艶やかだ。
緩く編まれたオレンジの三つ編みが左肩から前に流されている。
「どうしたの、顔色が悪いわ」
「……いや、なんでもない」
「……そうは見えないわよ?」
心配そうに俺を見下ろすのは美女だ。
例え俺より身長が高くても、筋肉があっても、肩幅が広くても、声が低くても、俺が無くした息子さんがぶら下がってても、だ。
目の前の美女の名前は、ジュリエーヌさんという。
本名はジュステリアンだ。
彼女は美女だが……オネェだ。
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