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コンクールの二人
哲也のプレッシャー
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「うん。何とかね。彩音さんと千龍さんも本選に残ってるよ」
彼女は九月の頭にさっさと地区本選への切符を手に入れていた。
実は彩音さんと瑞穂は本選には残ると思っていたが、ヴィオラに転向したと言っていた千龍さんまでもが本選に残るとは思ってもいなかった。
口では『記念受験みたいなもんだよ』とか言っておきながら、陰では結構密かに練習していたに違いない。
「へぇ。凄いな……それにしてもピアノも併せたら五人やろ。これで哲也が残れば六人かぁ……ってこの学校にホンマに普通科の高校かぁ?」
「ホンマにねぇ……」
と瑞穂は笑ったが、すぐにその笑いは消えた。
そして
「チェロは予選無しの本選一発勝負やからね」
と重たい声で言った。
「え? そうなん? いつなん?」
冴子が驚いたような声を上げて聞いた。
「あんたらピアノの本選と同じ日や」
「そうかぁ……」
冴子はそう言うと、そのまま押し黙った。冴子の後を引き継ぐように様に瑞穂が応えた。
「あのアホ、また余計なプレッシャーを勝手に自分に与えていないか心配や」
「そうやねんなぁ……今のところ哲ちゃん以外全員本選に残っとぉからなぁ……結構なプレッシャーになっとるやろなぁ……なんせ千龍さんまで残っとぉしねぇ」
とやはり冴子も瑞穂と同じ意見だった。
哲也が自らプレッシャーを創り出す達人である事は誰もが知っている事実だけに、冴子も本当に心配なんだろう。あそこまで行くとあれは彼の特技と言って良いだろう。
「そう。それは結構なプレッシャーになると思うわ。でも千龍さんは昔から練習だけはきっちりやる人やったから、私はこの結果は不思議でも何でもないと思うんやけど……」
瑞穂は冴子の言葉に強く頷きながら千龍さんを弁護するように言った。
そうだった。彼女は千龍さんや彩音先輩の事を昔から知っていたんだった。
「そうなんやぁ……ヴィオラに転向するなんて言うから俺はてっきりヴァイオリンは諦めたと思っとったわ」
僕は二人の話を黙って聞いていたが、思わず口を挟んだ。
「いや、うちもそう思ってた。千龍さんはヴァイオリンよりもヴィオラの方が性格的に合うような気がするし……でもヴァイオリンもまだ捨てがたいんとちゃうかな?」
瑞穂は何度もうなずきながら僕の言葉に応えた。
「そうかぁ……千龍さんも色々と考えとるんやなぁ」
僕は『もし今もヴァイオリンを続けていたら、ピアノにするかヴァイオリンにするか悩んだのだろうか?』と少し考えた。仮定の話は何とも言えない。ただもしそうなった場合でも何となくピアノを選んだような気がする。
――冴子はどんな気持ちでヴァイオリンを選んだんやろう? ――
そんな事を思いながら何気に視線を冴子に移したら、彼女は僕を軽く睨んで首を振った。
――余計な事は詮索しなくてよろしい――
という風に……。
――なんで分かったんや?――
僕は思わず首をすくめた。
「亮ちゃん、今日も哲也たちと一緒に練習するんやんねぇ?」
重くなりかけた気分を変えるように、敢えて明るい声で瑞穂が聞いてきた。
「ああ、多分すると思う」
「だったら哲也の事を見てあげてね」
「ああ……でも下手な事言うたら余計にプレッシャーを与えるかもしれんなぁ……」
僕は人を勇気づけられるような真似ができるような器用な人間ではない。下手にそんな事をしても逆効果な結果を招くような気がする。
「それはあるなぁ……」
と冴子は頷いた。瑞穂はそれを聞いてため息をついた。重い空気が漂った。
「まあ、余計な事は言わんようにするわ。見てるだけにしとくわ」
「そうやね。あんたは余計な事を言わん方がええわ」
と冴子はいつものように上から目線で僕を見下した。それに反論が出来ない自分が悔しい。
彼女は九月の頭にさっさと地区本選への切符を手に入れていた。
実は彩音さんと瑞穂は本選には残ると思っていたが、ヴィオラに転向したと言っていた千龍さんまでもが本選に残るとは思ってもいなかった。
口では『記念受験みたいなもんだよ』とか言っておきながら、陰では結構密かに練習していたに違いない。
「へぇ。凄いな……それにしてもピアノも併せたら五人やろ。これで哲也が残れば六人かぁ……ってこの学校にホンマに普通科の高校かぁ?」
「ホンマにねぇ……」
と瑞穂は笑ったが、すぐにその笑いは消えた。
そして
「チェロは予選無しの本選一発勝負やからね」
と重たい声で言った。
「え? そうなん? いつなん?」
冴子が驚いたような声を上げて聞いた。
「あんたらピアノの本選と同じ日や」
「そうかぁ……」
冴子はそう言うと、そのまま押し黙った。冴子の後を引き継ぐように様に瑞穂が応えた。
「あのアホ、また余計なプレッシャーを勝手に自分に与えていないか心配や」
「そうやねんなぁ……今のところ哲ちゃん以外全員本選に残っとぉからなぁ……結構なプレッシャーになっとるやろなぁ……なんせ千龍さんまで残っとぉしねぇ」
とやはり冴子も瑞穂と同じ意見だった。
哲也が自らプレッシャーを創り出す達人である事は誰もが知っている事実だけに、冴子も本当に心配なんだろう。あそこまで行くとあれは彼の特技と言って良いだろう。
「そう。それは結構なプレッシャーになると思うわ。でも千龍さんは昔から練習だけはきっちりやる人やったから、私はこの結果は不思議でも何でもないと思うんやけど……」
瑞穂は冴子の言葉に強く頷きながら千龍さんを弁護するように言った。
そうだった。彼女は千龍さんや彩音先輩の事を昔から知っていたんだった。
「そうなんやぁ……ヴィオラに転向するなんて言うから俺はてっきりヴァイオリンは諦めたと思っとったわ」
僕は二人の話を黙って聞いていたが、思わず口を挟んだ。
「いや、うちもそう思ってた。千龍さんはヴァイオリンよりもヴィオラの方が性格的に合うような気がするし……でもヴァイオリンもまだ捨てがたいんとちゃうかな?」
瑞穂は何度もうなずきながら僕の言葉に応えた。
「そうかぁ……千龍さんも色々と考えとるんやなぁ」
僕は『もし今もヴァイオリンを続けていたら、ピアノにするかヴァイオリンにするか悩んだのだろうか?』と少し考えた。仮定の話は何とも言えない。ただもしそうなった場合でも何となくピアノを選んだような気がする。
――冴子はどんな気持ちでヴァイオリンを選んだんやろう? ――
そんな事を思いながら何気に視線を冴子に移したら、彼女は僕を軽く睨んで首を振った。
――余計な事は詮索しなくてよろしい――
という風に……。
――なんで分かったんや?――
僕は思わず首をすくめた。
「亮ちゃん、今日も哲也たちと一緒に練習するんやんねぇ?」
重くなりかけた気分を変えるように、敢えて明るい声で瑞穂が聞いてきた。
「ああ、多分すると思う」
「だったら哲也の事を見てあげてね」
「ああ……でも下手な事言うたら余計にプレッシャーを与えるかもしれんなぁ……」
僕は人を勇気づけられるような真似ができるような器用な人間ではない。下手にそんな事をしても逆効果な結果を招くような気がする。
「それはあるなぁ……」
と冴子は頷いた。瑞穂はそれを聞いてため息をついた。重い空気が漂った。
「まあ、余計な事は言わんようにするわ。見てるだけにしとくわ」
「そうやね。あんたは余計な事を言わん方がええわ」
と冴子はいつものように上から目線で僕を見下した。それに反論が出来ない自分が悔しい。
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