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クリスマスの演奏会
オヤジのひとこと
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「なんでここにおるんや?」
と僕は小声で聞いた。
冴子と宏美も驚いたような表情で慌ててオヤジに挨拶をしていた。
「鈴と事務所で打ち合わせしてたら、鈴が教えてくれたんや。ほれあそこで鈴も安ちゃんも見てるやろ」
と顎で反対側の壁際で見ている二人を指した。
「あ、ホンマや。お父さんもいてる」
冴子の表情が明るくなった。
「勝手に入って来てええの?」
と僕はオヤジに聞いた。
「家主がええって言うとうねんからな。ええんやろ。それに俺はこの集まりには何度も顔を出しとうで」
と当たり前のようにオヤジは応えた。
「え? そうなん?」
「ああ、家主側の人間と思われとうからな」
「そうなんや」
「一応こう見えても、鈴のおかげでこの辺の財界には顔が利くからな……ところで、亮平。なんでもええけど、あのピアノはなんや?」
オヤジは僕の耳元で呟いた。
「あのピアノって?」
「とぼけんな。あのアヴェ・マリアは誰の真似や?」
とオヤジは小声で聞いてきた。
「あ? やっぱり判った?」
オヤジには、僕のささやかな企みを見破られていた。
「分かるわ」
そう言ってオヤジは呆れたように笑った。
僕はこの春先に我が家のリビングで起きた出来事をオヤジに話した。
オヤジはそれを聞くと
「お前、そんなスケッチからそこまで見れるって凄いな。やっぱり美乃梨よりも視えとるなぁ」
と感心したように言った。まさかそこに感心されるとは思ってもいなかった。
「いや。母さんの絵は上手かったで。流石、藝大やと思たわ」
「そうかぁ……確かにお母さんは絵が上手やったけどなぁ……俺はそのスケッチ見たこと無いなぁ」
と軽く首をかしげながら残念そうにオヤジは呟いた。どうやら本気でそれを見たいようだった。
「そうなんや……母さんの借りてこよか?」
「いや、それはええわ……ま、でも、俺も久しぶりにあの音を聞いたわ」
オヤジは舞台の演奏を見ながら軽く首を振り、そして懐かしそうに言った。
「うん。あのオヤジのピアノはどうしてもここで再現したかってん。あの音をもっと沢山の人に聞いてもらいたかってん」
その表情を見て、僕はオヤジには言うつもりのなかった僕の本音も白状してしまった。
「そうかぁ……。でもなぁ亮平。その気持ちは父さん嬉しいけど、もう、せんでええぞ」
とオヤジは言った。
「お前はお前の音を追いかけていかなあかん。父さんの物まねなんかせんでもええんやからな」
僕はオヤジの横顔を見つめながら
「うん。それは判っとぉ。でも、どうしてもあれはここで弾きたかってん。オヤジが弾いたように弾きたかってん」
と言った。
「そっかぁ……判った。でもやっぱりこれからは止めてくれ……俺はあんなに……くねくね弾いたりせえへんから……」
と僕に向かって本気で迷惑そうな顔でオヤジは言った。
「え?」
「いや、流石に俺はあんなに身体を前後左右上下に振ってピアノは弾いたりせえへんから」
「いや、そんなに振ってないわ」
「いやいや、あれは自分にうっとりしとったわ」
「ちゃうわ」
そう言いながらもオヤジの音色を聞きながらとっても幸せな気持ちになっていたのは事実だった。
自分では気が付かない間に身体が揺れていたと言われたら、反論する自信は無かった。
「その顔は身に覚えがあるな?」
オヤジは笑いながら言った。
――なんぼなんでも上下は無いやろ――
僕は助けを求めるように宏美に
「なぁなぁ、俺ってくねくねしてピアノなんか弾いてなかったやんなぁ?」
と聞いた。
するとすかさず冴子が
「蛇使いの蛇のようにくねくねしてたで」
と割り込んできた。
「はったりかますな!」
と僕は思わず怒鳴りそうになった。本当に冴子の物言いは腹が立つ。
「大丈夫。いつもの亮ちゃんやったよ。くねくねしてなかったから」
と宏美が笑いながらフォローしてくれた。
僕たちがそんなくだらない話をしている間に、パーティー会場はその本来あるべき目的を思い出したかのように、完全にクリスマスパーティーになっていた。
と僕は小声で聞いた。
冴子と宏美も驚いたような表情で慌ててオヤジに挨拶をしていた。
「鈴と事務所で打ち合わせしてたら、鈴が教えてくれたんや。ほれあそこで鈴も安ちゃんも見てるやろ」
と顎で反対側の壁際で見ている二人を指した。
「あ、ホンマや。お父さんもいてる」
冴子の表情が明るくなった。
「勝手に入って来てええの?」
と僕はオヤジに聞いた。
「家主がええって言うとうねんからな。ええんやろ。それに俺はこの集まりには何度も顔を出しとうで」
と当たり前のようにオヤジは応えた。
「え? そうなん?」
「ああ、家主側の人間と思われとうからな」
「そうなんや」
「一応こう見えても、鈴のおかげでこの辺の財界には顔が利くからな……ところで、亮平。なんでもええけど、あのピアノはなんや?」
オヤジは僕の耳元で呟いた。
「あのピアノって?」
「とぼけんな。あのアヴェ・マリアは誰の真似や?」
とオヤジは小声で聞いてきた。
「あ? やっぱり判った?」
オヤジには、僕のささやかな企みを見破られていた。
「分かるわ」
そう言ってオヤジは呆れたように笑った。
僕はこの春先に我が家のリビングで起きた出来事をオヤジに話した。
オヤジはそれを聞くと
「お前、そんなスケッチからそこまで見れるって凄いな。やっぱり美乃梨よりも視えとるなぁ」
と感心したように言った。まさかそこに感心されるとは思ってもいなかった。
「いや。母さんの絵は上手かったで。流石、藝大やと思たわ」
「そうかぁ……確かにお母さんは絵が上手やったけどなぁ……俺はそのスケッチ見たこと無いなぁ」
と軽く首をかしげながら残念そうにオヤジは呟いた。どうやら本気でそれを見たいようだった。
「そうなんや……母さんの借りてこよか?」
「いや、それはええわ……ま、でも、俺も久しぶりにあの音を聞いたわ」
オヤジは舞台の演奏を見ながら軽く首を振り、そして懐かしそうに言った。
「うん。あのオヤジのピアノはどうしてもここで再現したかってん。あの音をもっと沢山の人に聞いてもらいたかってん」
その表情を見て、僕はオヤジには言うつもりのなかった僕の本音も白状してしまった。
「そうかぁ……。でもなぁ亮平。その気持ちは父さん嬉しいけど、もう、せんでええぞ」
とオヤジは言った。
「お前はお前の音を追いかけていかなあかん。父さんの物まねなんかせんでもええんやからな」
僕はオヤジの横顔を見つめながら
「うん。それは判っとぉ。でも、どうしてもあれはここで弾きたかってん。オヤジが弾いたように弾きたかってん」
と言った。
「そっかぁ……判った。でもやっぱりこれからは止めてくれ……俺はあんなに……くねくね弾いたりせえへんから……」
と僕に向かって本気で迷惑そうな顔でオヤジは言った。
「え?」
「いや、流石に俺はあんなに身体を前後左右上下に振ってピアノは弾いたりせえへんから」
「いや、そんなに振ってないわ」
「いやいや、あれは自分にうっとりしとったわ」
「ちゃうわ」
そう言いながらもオヤジの音色を聞きながらとっても幸せな気持ちになっていたのは事実だった。
自分では気が付かない間に身体が揺れていたと言われたら、反論する自信は無かった。
「その顔は身に覚えがあるな?」
オヤジは笑いながら言った。
――なんぼなんでも上下は無いやろ――
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「なぁなぁ、俺ってくねくねしてピアノなんか弾いてなかったやんなぁ?」
と聞いた。
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と割り込んできた。
「はったりかますな!」
と僕は思わず怒鳴りそうになった。本当に冴子の物言いは腹が立つ。
「大丈夫。いつもの亮ちゃんやったよ。くねくねしてなかったから」
と宏美が笑いながらフォローしてくれた。
僕たちがそんなくだらない話をしている間に、パーティー会場はその本来あるべき目的を思い出したかのように、完全にクリスマスパーティーになっていた。
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※この物語はフィクションです。
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