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先輩
和樹からの電話
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金曜日の夜だった。
僕は自分の部屋でパソコンの前に座って、取りとめもなくネットの世界に浸っていた。
そこへ和樹からの電話だった。
ネット世界の住人から一気に現実に引き戻された。
僕は携帯電話を取り上げた。
「どないしたんや?」
「今なぁ、リンズガーデンに居るんやけど。お前も来えへん?」
和樹は有名な建築デザイナーが手がけたビルの名前を言った。
こちらの状況も都合も聞く事はなく和樹は要件を先に言う。いつもの事だ。
この界隈に長年住んでいる人間なら、この建築家の手がけた建物が複数ある事を誰もが知っている。
北野町界隈というか神戸にはこの建築家がけた建造物は多い。
僕はこの建物の無機質な空間が好きだった。
「リンズガーデン? 北野坂の? そんなところで、お前なにしてんの?」
もっともな疑問が湧いた。金曜日の夜にあいつはあんなところに何故居る?
「え、ちょっと珍しい人とおるんやけど来いや。二階のテラスにおるからすぐ来いよな」
そう言うと和樹は電話を切った。こっちの都合か返事くらいは聞いて欲しいと思ったが、結果は一緒だろうから時間の無駄か……。
長電話をしないという事だけが彼の美徳ではあるという事にしておこう……。
――それにしても和樹は一体誰とおるんや? 珍しい人? ちょっと気になるな――
自分の部屋を出てリビングに向かうとオフクロはソファーに体を預けてTVをBGMに外国のインテリア雑誌を読んでいた。見ないんだったら消せばいいモノを……。
勿論テーブルの上には何故か焼酎が入ったマイセンのカップが置いてあった。
マイセンもこんな使われ方をされたのでは不本意だろうなと見るたびに思う。
「ちょっと出てくるわ」
一応、オフクロに声を掛けておくことにした。
「え? こんな時間から?」
オフクロは少し驚いたような顔で僕を見た。
オフクロは夕御飯を食べてから僕が『外に出る』と言うと絶対にこのセリフを返してくる。
「まだ八時過ぎやで。和樹に呼ばれたから、ちょっと行ってくる」
「安ちゃんのとこ?」
とオフクロは聞いてきた。
「ちゃう。リンズガーデン」
隠す必要もないので僕は正直に応えた。
「リンズガーデン? あら珍しい。あまり遅くならんように帰って来んのよ。分っとぉ?」
「ああ、分かっとぉ」
そう言うと、僕は携帯電話と財布をジーンズの後ろのポケットに突っ込んで玄関を出た。
外に出ると九月だというのにまだ夏の余韻が残っている暑さだった。ただ空気は明らかに夏の湿気を失いかけていて秋の気配に入れ替わろうとしていた。
僕は山本通りをまっすぐ東に歩き北野坂を南に下ってそのビルの前に立った。
入り組んだ階段を上がると和樹の言った店がすぐに見つかった。
その店の入口横のオープンテラスに並べられていた丸テーブルに和樹は男性と向かい合って座っていた。
僕の姿を目ざとく見つけた和樹は片手を上げて僕を呼んだ。
「亮平!こっちや」
僕は目で返事をすると和樹の座っているテーブルに向かった。
「案外早かったな」
和樹は言った。
「そうかぁ。普通やと思うけど」
と僕は答えてから和樹の向かいに座っている人を見た。
「よ! 久しぶり!」
とその人は勝て手を挙げて笑った。
「あ、ご無沙汰してます」
そこに座っていたのは僕らの二つ上の小学校時代からの先輩で、今は僕らの高校の生徒会長の吉見剣次さんだった。
「元気にやっとったか?」
吉見さんは背もたれにゆったりと身体をあずけたまま僕を見上げて言った。
「はい。なんとか……。また同じ学校でお世話になります」
と言いながら僕は和樹の隣の椅子に座った。
ウェイターが注文を取りに来た。
「和樹、お前何を飲んでんねん?」
と僕が聞くと
「カナディアンドライ」
と和樹はひとこと言った。
「ジンジャーか……。じゃあ僕も同じで」
僕は和樹と同じジンジャエールを注文した。
「あ、僕もおかわりを」
吉見さんもグラスを持ち上げてウェイターに言った。
「ジンライムですね。お持ちします」
そう言うとウェイターは店の中へ入っていった。
「吉見さん、酒飲んでいるんですか?」
僕は小声で聞いた。
「飲んどるで」
吉見さんは事も無げに答えた。
「バレません?」
僕はちょっとドキドキしながら聞いた。
「バレたことないな」
吉見さんはピーナッツの皮をむきながら答えた。
「でしょうねぇ……」
確かに吉見さんは見た目は高校生には絶対に見えない。三十歳と言われても誰もが信じる風貌だった。だからといってオッサンくさい顔をしているわけではない。
吉見さんが大人に見える大きな理由。それは髪の毛がほとんど生まれつきの銀髪だった。生まれた時はまだ少し黒髪もあったそうだが小学校の三年生あたりで全て銀髪に変わったと言っていた。
僕らが小学校で吉見さんと知り合った頃には既に立派な銀髪になっていた。
それを白髪頭(しらがあたま)とかネタにされて虐められなかったのは、吉見さんが同学年では大柄で運動神経がずば抜けていて、そもそも自分から売ることはあっても他人から喧嘩をふっかられるような風貌をしていなかったからだ。
ちなみに成績も腹の立つことに学年でいつも上位だった。
小学校六年生の時に中学生を投げ飛ばしていたのを目の当たりにしたのは僕と和樹だった。
それから何故か吉見さんとは更に親しくなった。
「誰にも言うなよ」
と笑って言われたが、それが不気味でとっても怖かった事を覚えている。勿論、今の今まで誰にも言っていないがもう時効だろう。
吉見さんは小学一年生から近所の警察署に柔道を習いに行っていたが、その帰り道にピアノ教室から帰る僕とよく鉢合わせしていたのも思い出した。
後で聞いた話だが、六年生の時点で初段クラスの実力はあったそうだ。
「なんで和樹と一緒にいるんですか?」
僕は素朴な質問を吉見さんにぶつけた。確かに僕たちは吉見さんとは知り合いで街で会っても声ぐらいは掛けて貰えるが、一緒に飲みに連れて行って貰えるほどの仲ではない……と思っていた。
「いや、そこでぱったり和樹に会ってな。拉致しただけや」
と吉見さんは笑って応えた。
「拉致ですか? こんな奴を拉致しなくても、もっと拉致のし甲斐のある奴がいるでしょうに……こんな人間のクズみたいな奴を拉致しなくても……」
僕がそう言うと和樹が
「悪かったな。拉致のしがいのないクズで……だからクズついでにお前も呼んだんや」
と割って入ってきた。
「そうか。俺もクズか」
「お前らホンマに仲ええな」
吉見さんは笑いながらまたピーナッツを食った。
そこへウェイターが飲み物を持ってきた。
「お待たせしました」
「まあ、そこそこ仲は良いですかねえ……」
と僕が言うと
「腐れ縁ですかね」
と和樹が付け足すように言った。
「それはええこっちゃ。実はな、ここで待ち合わせしとってんけど、直前に相手から『遅れる』って連絡が入ってな。その時にちょうど目の前を歩いていた和樹を発見したんで、時間潰しに付き合って貰おうと拉致したんや」
そう言うと吉見さんはジンライムを美味しそうに飲んだ。
そして皮付きのピーナッツを片手で器用に剥いて口の中へ放り込んだ。
なんだか様になっているな。未成年なのに……この人ならお酒を飲んでも許してもらえそうな気がする。
大人でも飲んでくだを巻いてたちの悪い奴らが沢山いるが、こういう飲み方ができるのであれば未成年でも許してあげてもいいんではないか? なんて勝手な事を考えてしまった。
それにしても何故、この状況が生まれたのかが今のひとことで良く分かった……合点がいった。
「待ち合わせって彼女ですか?」
当然次の質問はこうなる。
「ああ、そうや。エエ勘してんな」
「まあ、それぐらいは。で、どんな人なんですかぁ? 和樹は知っとん?」
僕は和樹の顔を見た。
「いや。俺も知らん」
和樹は首を振って応えた。
「お前らも知っているかもしれんな。なんせそいつも小学校から一緒やから」
吉見先輩はそう言った。
「ええ。そうなんですか」
僕と和樹はハモってしまった。
「ホンマ、仲ええな」
吉見さんは呆れたように笑った。
「で、吉見さん、僕らも知っている彼女って誰なんですか? 吉見さんと同級生ですよね?」
と和樹が聞いたが、吉見さんは笑っているだけで何も言わなかった。
「え~そこまで言って内緒ですかぁ」
と和樹が憤慨したように言ったが、もう僕は他人の彼女なんかはどうでも良かった。自分から話をふっておきながらなのだが、もうこの話は飽きていた。本当にとっても失礼な僕だ。
「ところで吉見さん、また高校でも生徒会長やってますね」
と僕は吉見さんに聞いた。彼女ネタよりもまだこっちの話題の方が建設的だろう。
吉見さんは中学校時代も生徒会長だった。それも異様に存在感のあった生徒会長だった。老成した外見だけでなく、その発言にも重みがあった。そんな吉見さんが高校になっても生徒会長をしている事の方が、まだ僕の興味をそそられる。
「だよなぁ。もうそれが本業ですね」
和樹も一緒に頷いた。彼も吉見さんの彼女に付いては固執していなかったようだ。
「まあなぁ。別に自分から立候補した事は一度もないんやけどな」
吉見さんはため息混じりにそう応えた。
「そうや。そろそろ生徒会長の選挙があるやん」
急に思い出したように和樹が言った。
「勿論、僕らは吉見先輩に清き一票を入れますよ」
と和樹は言ったが、僕も同意見だった。
「あほ、入れなくてよろしい。三年は受験があるから生徒会からは引退や」
吉見先輩はテーブルに頬杖をついて気だるそうに言った。
まあ、どう考えても喜んで生徒会長をする三年生はいないだろう。特にこんな進学校では……。
「そうかぁ……でも立候補したら間違いなく後期も先輩で決まりだと思いますよねぇ」
「まあな。立候補せえへんけど」
そう言うとまた吉見さんはジンライムを飲んだ。
もう完全に吉見さんが未成年の高校三年生である事を忘れそうになっていた。それほど違和感がなかった。
やっぱり吉見さんは格好いい。しかし生徒会長が飲酒はやっぱりダメだろう?
僕は自分の部屋でパソコンの前に座って、取りとめもなくネットの世界に浸っていた。
そこへ和樹からの電話だった。
ネット世界の住人から一気に現実に引き戻された。
僕は携帯電話を取り上げた。
「どないしたんや?」
「今なぁ、リンズガーデンに居るんやけど。お前も来えへん?」
和樹は有名な建築デザイナーが手がけたビルの名前を言った。
こちらの状況も都合も聞く事はなく和樹は要件を先に言う。いつもの事だ。
この界隈に長年住んでいる人間なら、この建築家の手がけた建物が複数ある事を誰もが知っている。
北野町界隈というか神戸にはこの建築家がけた建造物は多い。
僕はこの建物の無機質な空間が好きだった。
「リンズガーデン? 北野坂の? そんなところで、お前なにしてんの?」
もっともな疑問が湧いた。金曜日の夜にあいつはあんなところに何故居る?
「え、ちょっと珍しい人とおるんやけど来いや。二階のテラスにおるからすぐ来いよな」
そう言うと和樹は電話を切った。こっちの都合か返事くらいは聞いて欲しいと思ったが、結果は一緒だろうから時間の無駄か……。
長電話をしないという事だけが彼の美徳ではあるという事にしておこう……。
――それにしても和樹は一体誰とおるんや? 珍しい人? ちょっと気になるな――
自分の部屋を出てリビングに向かうとオフクロはソファーに体を預けてTVをBGMに外国のインテリア雑誌を読んでいた。見ないんだったら消せばいいモノを……。
勿論テーブルの上には何故か焼酎が入ったマイセンのカップが置いてあった。
マイセンもこんな使われ方をされたのでは不本意だろうなと見るたびに思う。
「ちょっと出てくるわ」
一応、オフクロに声を掛けておくことにした。
「え? こんな時間から?」
オフクロは少し驚いたような顔で僕を見た。
オフクロは夕御飯を食べてから僕が『外に出る』と言うと絶対にこのセリフを返してくる。
「まだ八時過ぎやで。和樹に呼ばれたから、ちょっと行ってくる」
「安ちゃんのとこ?」
とオフクロは聞いてきた。
「ちゃう。リンズガーデン」
隠す必要もないので僕は正直に応えた。
「リンズガーデン? あら珍しい。あまり遅くならんように帰って来んのよ。分っとぉ?」
「ああ、分かっとぉ」
そう言うと、僕は携帯電話と財布をジーンズの後ろのポケットに突っ込んで玄関を出た。
外に出ると九月だというのにまだ夏の余韻が残っている暑さだった。ただ空気は明らかに夏の湿気を失いかけていて秋の気配に入れ替わろうとしていた。
僕は山本通りをまっすぐ東に歩き北野坂を南に下ってそのビルの前に立った。
入り組んだ階段を上がると和樹の言った店がすぐに見つかった。
その店の入口横のオープンテラスに並べられていた丸テーブルに和樹は男性と向かい合って座っていた。
僕の姿を目ざとく見つけた和樹は片手を上げて僕を呼んだ。
「亮平!こっちや」
僕は目で返事をすると和樹の座っているテーブルに向かった。
「案外早かったな」
和樹は言った。
「そうかぁ。普通やと思うけど」
と僕は答えてから和樹の向かいに座っている人を見た。
「よ! 久しぶり!」
とその人は勝て手を挙げて笑った。
「あ、ご無沙汰してます」
そこに座っていたのは僕らの二つ上の小学校時代からの先輩で、今は僕らの高校の生徒会長の吉見剣次さんだった。
「元気にやっとったか?」
吉見さんは背もたれにゆったりと身体をあずけたまま僕を見上げて言った。
「はい。なんとか……。また同じ学校でお世話になります」
と言いながら僕は和樹の隣の椅子に座った。
ウェイターが注文を取りに来た。
「和樹、お前何を飲んでんねん?」
と僕が聞くと
「カナディアンドライ」
と和樹はひとこと言った。
「ジンジャーか……。じゃあ僕も同じで」
僕は和樹と同じジンジャエールを注文した。
「あ、僕もおかわりを」
吉見さんもグラスを持ち上げてウェイターに言った。
「ジンライムですね。お持ちします」
そう言うとウェイターは店の中へ入っていった。
「吉見さん、酒飲んでいるんですか?」
僕は小声で聞いた。
「飲んどるで」
吉見さんは事も無げに答えた。
「バレません?」
僕はちょっとドキドキしながら聞いた。
「バレたことないな」
吉見さんはピーナッツの皮をむきながら答えた。
「でしょうねぇ……」
確かに吉見さんは見た目は高校生には絶対に見えない。三十歳と言われても誰もが信じる風貌だった。だからといってオッサンくさい顔をしているわけではない。
吉見さんが大人に見える大きな理由。それは髪の毛がほとんど生まれつきの銀髪だった。生まれた時はまだ少し黒髪もあったそうだが小学校の三年生あたりで全て銀髪に変わったと言っていた。
僕らが小学校で吉見さんと知り合った頃には既に立派な銀髪になっていた。
それを白髪頭(しらがあたま)とかネタにされて虐められなかったのは、吉見さんが同学年では大柄で運動神経がずば抜けていて、そもそも自分から売ることはあっても他人から喧嘩をふっかられるような風貌をしていなかったからだ。
ちなみに成績も腹の立つことに学年でいつも上位だった。
小学校六年生の時に中学生を投げ飛ばしていたのを目の当たりにしたのは僕と和樹だった。
それから何故か吉見さんとは更に親しくなった。
「誰にも言うなよ」
と笑って言われたが、それが不気味でとっても怖かった事を覚えている。勿論、今の今まで誰にも言っていないがもう時効だろう。
吉見さんは小学一年生から近所の警察署に柔道を習いに行っていたが、その帰り道にピアノ教室から帰る僕とよく鉢合わせしていたのも思い出した。
後で聞いた話だが、六年生の時点で初段クラスの実力はあったそうだ。
「なんで和樹と一緒にいるんですか?」
僕は素朴な質問を吉見さんにぶつけた。確かに僕たちは吉見さんとは知り合いで街で会っても声ぐらいは掛けて貰えるが、一緒に飲みに連れて行って貰えるほどの仲ではない……と思っていた。
「いや、そこでぱったり和樹に会ってな。拉致しただけや」
と吉見さんは笑って応えた。
「拉致ですか? こんな奴を拉致しなくても、もっと拉致のし甲斐のある奴がいるでしょうに……こんな人間のクズみたいな奴を拉致しなくても……」
僕がそう言うと和樹が
「悪かったな。拉致のしがいのないクズで……だからクズついでにお前も呼んだんや」
と割って入ってきた。
「そうか。俺もクズか」
「お前らホンマに仲ええな」
吉見さんは笑いながらまたピーナッツを食った。
そこへウェイターが飲み物を持ってきた。
「お待たせしました」
「まあ、そこそこ仲は良いですかねえ……」
と僕が言うと
「腐れ縁ですかね」
と和樹が付け足すように言った。
「それはええこっちゃ。実はな、ここで待ち合わせしとってんけど、直前に相手から『遅れる』って連絡が入ってな。その時にちょうど目の前を歩いていた和樹を発見したんで、時間潰しに付き合って貰おうと拉致したんや」
そう言うと吉見さんはジンライムを美味しそうに飲んだ。
そして皮付きのピーナッツを片手で器用に剥いて口の中へ放り込んだ。
なんだか様になっているな。未成年なのに……この人ならお酒を飲んでも許してもらえそうな気がする。
大人でも飲んでくだを巻いてたちの悪い奴らが沢山いるが、こういう飲み方ができるのであれば未成年でも許してあげてもいいんではないか? なんて勝手な事を考えてしまった。
それにしても何故、この状況が生まれたのかが今のひとことで良く分かった……合点がいった。
「待ち合わせって彼女ですか?」
当然次の質問はこうなる。
「ああ、そうや。エエ勘してんな」
「まあ、それぐらいは。で、どんな人なんですかぁ? 和樹は知っとん?」
僕は和樹の顔を見た。
「いや。俺も知らん」
和樹は首を振って応えた。
「お前らも知っているかもしれんな。なんせそいつも小学校から一緒やから」
吉見先輩はそう言った。
「ええ。そうなんですか」
僕と和樹はハモってしまった。
「ホンマ、仲ええな」
吉見さんは呆れたように笑った。
「で、吉見さん、僕らも知っている彼女って誰なんですか? 吉見さんと同級生ですよね?」
と和樹が聞いたが、吉見さんは笑っているだけで何も言わなかった。
「え~そこまで言って内緒ですかぁ」
と和樹が憤慨したように言ったが、もう僕は他人の彼女なんかはどうでも良かった。自分から話をふっておきながらなのだが、もうこの話は飽きていた。本当にとっても失礼な僕だ。
「ところで吉見さん、また高校でも生徒会長やってますね」
と僕は吉見さんに聞いた。彼女ネタよりもまだこっちの話題の方が建設的だろう。
吉見さんは中学校時代も生徒会長だった。それも異様に存在感のあった生徒会長だった。老成した外見だけでなく、その発言にも重みがあった。そんな吉見さんが高校になっても生徒会長をしている事の方が、まだ僕の興味をそそられる。
「だよなぁ。もうそれが本業ですね」
和樹も一緒に頷いた。彼も吉見さんの彼女に付いては固執していなかったようだ。
「まあなぁ。別に自分から立候補した事は一度もないんやけどな」
吉見さんはため息混じりにそう応えた。
「そうや。そろそろ生徒会長の選挙があるやん」
急に思い出したように和樹が言った。
「勿論、僕らは吉見先輩に清き一票を入れますよ」
と和樹は言ったが、僕も同意見だった。
「あほ、入れなくてよろしい。三年は受験があるから生徒会からは引退や」
吉見先輩はテーブルに頬杖をついて気だるそうに言った。
まあ、どう考えても喜んで生徒会長をする三年生はいないだろう。特にこんな進学校では……。
「そうかぁ……でも立候補したら間違いなく後期も先輩で決まりだと思いますよねぇ」
「まあな。立候補せえへんけど」
そう言うとまた吉見さんはジンライムを飲んだ。
もう完全に吉見さんが未成年の高校三年生である事を忘れそうになっていた。それほど違和感がなかった。
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