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初詣
初詣
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大晦日の夜、除夜の鐘を聞いてから一年前と同じように、オフクロと宏美と生田神社に二年参りの初詣に出かけた。
そして一年前と同じように屋台で日本酒を煽っているオヤジを見つけた。
ただその時と少し違うのは、オヤジは一人ではなく向かいにヴァレンタインと鈴原さんが座って、オヤジと同じように飲んで居た事だった。
「また、こんなところで飲んどるんかぁ」
と、これまた一年前と同じようにオフクロは吐き捨てるように言ったが、口元はあからさまに緩んでいた。
はなから自分も参戦する気でいたのが見て取れた。
僕達はお賽銭をさっさと放り込んでから、オヤジ達のいる屋台に向かった。オフクロの気持ちは既に屋台の中にありそうだ。信心深さの欠片も無い行為だ。
透明なビニールで覆われた屋台に入ると、オヤジはすぐに僕達に気が付いて手を挙げた。
中に入ると外の寒さが一気に和らいだ。
「明けましておめでとうございます」
僕と宏美は鈴原さんと巨匠に新年の挨拶をした。
「またここで飲んでいるんや?」
僕はコートのボタンを外しながらオヤジに聞いた。
「まぁな。他に行くとこないしな」
と言って笑いながら僕達に隣のテーブル席を勧めた。
「おー。ユノ久しぶりですね」
とヴァレンタインが立ち上がりオフクロに声を掛けた。
「お元気そうで何よりですわ。マエストロ。明けましておめでとうございます」
とそつなく受け応えしながらオフクロはヴァレンタインとハグをした。
オフクロもバレンタインとは顔見知りの様だ。
「お~い。こっちにグラスとおちょこ3つ持ってきてくれ。後ビールと甘酒二つな」
と鈴原さんが店員に声を掛けた。屋台の中は人の熱気で外の寒さが嘘のようだった。
僕はコートを脱いでオヤジの隣に宏美と並んで座った。
「ま、兎に角、乾杯やな。あけましておめでとう!」
と鈴原さんの音頭で僕達はビールを飲んだ。
正月だけはビールを一杯ぐらいなら許してもらえる。
昨年と同じようにお年玉を貰い。僕と宏美の懐も一気に温かくなった。
「亮平。例の話だがちゃんとお母さんの許しは貰えたのかな?」
とヴァレンタインは僕に唐突に話を切り出した。
思わず口に含んだ甘酒を鼻から吹き出しそうになった。
――しまった!! オフクロにはまだ何も話してなかった!!――
一気に冷たい汗が背中を流れた。
恐る恐る目の前に座っているオフクロの顔を伺うと、既に眉間に皺が寄っていた。目じりがひくひくと痙攣している。
巨匠の一言でオフクロはその意図する内容をほとんど理解してしまったようだ。昔からオフクロは勘が良い。
「例の話って何の事かなぁ? 亮平くん」
いつもより一オクターブ低い声が僕の耳に届く。
「じ、実は……巨匠から『卒業したらフランスに留学しないか?』と誘われてたんやけど……」
僕はオフクロの顔色を窺いながら答えた。
「……けど?」
オフクロは表情も変えず聞き返してきた。
「母さんに言うのを忘れてた……」
「忘れてた……だと? そんな大事な話を?」
オフクロの眉間の皺がさらに深く刻まれた。
オヤジはそっと立ち上がろうっとしてオフクロに睨まれていた。
蛇に睨まれたカエルのようにオヤジは椅子に座り直して
「なんや? まだ言うてなかったんかぁ?」
と僕に言った。
声が上ずっている上に責任を僕にかぶせるような言い回しだ。
「あんたは知っていたんや?」
オフクロの声が更に低い。余計なセリフは自ら墓穴を掘ることになる。僕は心の中で『ざまあ見ろ』と呟いた。
「いや、風の噂でそんな気がしていただけなんやけど……」
オヤジはしどろもどろになりながら訳の分からない事を言っていた。明らかに論理的な思考回路が破綻している。
鈴原さんは黙って見ているが、どうやってこの場から逃げようかを考えているようだった。
しかし、今この場で一番逃げ出したいのは何を隠そうこの僕自身だ。
そして一年前と同じように屋台で日本酒を煽っているオヤジを見つけた。
ただその時と少し違うのは、オヤジは一人ではなく向かいにヴァレンタインと鈴原さんが座って、オヤジと同じように飲んで居た事だった。
「また、こんなところで飲んどるんかぁ」
と、これまた一年前と同じようにオフクロは吐き捨てるように言ったが、口元はあからさまに緩んでいた。
はなから自分も参戦する気でいたのが見て取れた。
僕達はお賽銭をさっさと放り込んでから、オヤジ達のいる屋台に向かった。オフクロの気持ちは既に屋台の中にありそうだ。信心深さの欠片も無い行為だ。
透明なビニールで覆われた屋台に入ると、オヤジはすぐに僕達に気が付いて手を挙げた。
中に入ると外の寒さが一気に和らいだ。
「明けましておめでとうございます」
僕と宏美は鈴原さんと巨匠に新年の挨拶をした。
「またここで飲んでいるんや?」
僕はコートのボタンを外しながらオヤジに聞いた。
「まぁな。他に行くとこないしな」
と言って笑いながら僕達に隣のテーブル席を勧めた。
「おー。ユノ久しぶりですね」
とヴァレンタインが立ち上がりオフクロに声を掛けた。
「お元気そうで何よりですわ。マエストロ。明けましておめでとうございます」
とそつなく受け応えしながらオフクロはヴァレンタインとハグをした。
オフクロもバレンタインとは顔見知りの様だ。
「お~い。こっちにグラスとおちょこ3つ持ってきてくれ。後ビールと甘酒二つな」
と鈴原さんが店員に声を掛けた。屋台の中は人の熱気で外の寒さが嘘のようだった。
僕はコートを脱いでオヤジの隣に宏美と並んで座った。
「ま、兎に角、乾杯やな。あけましておめでとう!」
と鈴原さんの音頭で僕達はビールを飲んだ。
正月だけはビールを一杯ぐらいなら許してもらえる。
昨年と同じようにお年玉を貰い。僕と宏美の懐も一気に温かくなった。
「亮平。例の話だがちゃんとお母さんの許しは貰えたのかな?」
とヴァレンタインは僕に唐突に話を切り出した。
思わず口に含んだ甘酒を鼻から吹き出しそうになった。
――しまった!! オフクロにはまだ何も話してなかった!!――
一気に冷たい汗が背中を流れた。
恐る恐る目の前に座っているオフクロの顔を伺うと、既に眉間に皺が寄っていた。目じりがひくひくと痙攣している。
巨匠の一言でオフクロはその意図する内容をほとんど理解してしまったようだ。昔からオフクロは勘が良い。
「例の話って何の事かなぁ? 亮平くん」
いつもより一オクターブ低い声が僕の耳に届く。
「じ、実は……巨匠から『卒業したらフランスに留学しないか?』と誘われてたんやけど……」
僕はオフクロの顔色を窺いながら答えた。
「……けど?」
オフクロは表情も変えず聞き返してきた。
「母さんに言うのを忘れてた……」
「忘れてた……だと? そんな大事な話を?」
オフクロの眉間の皺がさらに深く刻まれた。
オヤジはそっと立ち上がろうっとしてオフクロに睨まれていた。
蛇に睨まれたカエルのようにオヤジは椅子に座り直して
「なんや? まだ言うてなかったんかぁ?」
と僕に言った。
声が上ずっている上に責任を僕にかぶせるような言い回しだ。
「あんたは知っていたんや?」
オフクロの声が更に低い。余計なセリフは自ら墓穴を掘ることになる。僕は心の中で『ざまあ見ろ』と呟いた。
「いや、風の噂でそんな気がしていただけなんやけど……」
オヤジはしどろもどろになりながら訳の分からない事を言っていた。明らかに論理的な思考回路が破綻している。
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しかし、今この場で一番逃げ出したいのは何を隠そうこの僕自身だ。
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