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新入生
楽器選定
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「パートリーダー。行かなあかんやろ?」
と僕が促すと拓哉は
「ああ、そうやな」
と言って歩き出した。
僕はパートリーダーでも何でもないが、一応ヴァイオリン担当という事になっているので一緒にヴァイオリンのコーナーに向かった。
「しかし、吹部の奴らが聞いたら悔しがるやろうなぁ……」
と歩きながら拓哉はさっき途切れた話の続きを始めた。
「そいつらってお前が誘ったんか?」
僕も拓哉と一緒に歩きながら聞いた。
「まさか! そんな事はせえへんわ……けど……」
拓哉は即座に否定したが、歯切れが悪かった。
「けど……なんや?」
「うちの器楽部は後輩の中では話題になっとったみたいなんやわ。今日入部した奴らからは、入学前から何度か部活の状況聞かれたしな。シモもハヤンも『聞かれた』って言うとった」
「そうなんや。知らん間に有名になっていたんやな。で、たっくんはなんて答えたん?」
「聞かれたら正直に答えるやん……嘘つかれへんし……。俺なんか両方の部におったもんやから『どっちの方が面白いですか?』って聞かれるしな。だから『コンクール目指すんやったら吹部に行け』『朝練出たくないんやったら、器楽部やな』って答えたわ」
と言って拓哉は笑った。
「うまく逃げたな……でも、朝練ない事ないやん……たまに一年が出てるやん。夏休みも結構出てたみたいやし……」
「あれ自主練やろ。それに出ているのヴァイオリンばっかしやし……」
と拓哉は反論した。
「確かに……。うちに『全国目指す!』なんて目標は存在せえへんからな。朝練は強制になりようがないわなぁ」
と僕は笑った。
吹奏楽部のように全国大会が無いのは少し寂しい気もするが、それはそれで純粋に演奏が楽しめて良いとも思っている。
「まあ、そう言いながら吹部に行った奴のもおるやろうけど……国香から三人も来たら、俺が誘ったと思われるんやろなぁ……」
と最後はため息交じりで拓哉は言った。
「諸悪の根源はお前やからなぁ」
「アホ、人聞きの悪い事言うな」
と拓哉は全面否定した。
「ま、しっかり新入部員を確保しろや」
と言って僕は拓哉と別れてヴァイオリンの集合場所に向かった。
未経験者のほとんどがここに来ていた。
やはり折角入部するならヴァイオリンなんだろうか?
管楽器の集合場所の前では国香中から来た三名が、同じ中学校出身の霜鳥や早崎と懐かしそうに話し込んでいた。
「今年のヴァイオリンは豊作やなぁ」
と声を掛けて来たのは谷川大二郎だった。
「ああ、そうやなぁ」
と僕は少し離れたところで新入部員を眺めたまま頷いた。
「さっきの三人ならファーストヴァイオリンでええよなぁ?」
と大二郎も眺めたまま聞いてきた。
ヴァイオリン希望者の前で瑞穂がヴァイオリンの説明をしてる。
「うん。あの実力ならなぁ。文句ないやろうなぁ……俺もメロディラインをもっと厚くしても良いとは思うんやけど、それを決めるのは冴子と美奈子ちゃんやからなぁ……」
と僕は応えた。
彩音先輩の抜けた穴は大きかったが、それは冴子と瑞穂が何とか埋めてくれていた。
後は東雲小百合がファーストからセカンドのパートリーダに移って、琴葉と大二郎がセカンドからファーストに代わるという配置換えもそれなりにファーストの音の厚みをカバーしていたと思う。
「冴子と美奈子ちゃん次第かぁ……」
と大二郎は呟いた。彼も同じことを思っていたようだ。
この頃、僕達も千龍さんに習って美奈子先生の事を本人がいない場所では、親しみを込めてちゃん付けで呼んでいた。
「まあ、うちはオーケストラだけやる訳でもないしな……」
と僕が言うと
「でもこの人数やったら吹部に頼らんでもできるんとちゃうの?」
と大二郎が聞いてきた。もっともな意見である。
「確かに、あの国香中の三人の存在はでかいよなぁ……」
国香中から来た三人。松尾萌、植村巧、手島豊たちはフルート・トロンボーン・ホルン経験者で、昨年の国香中は全国には行けなかったが、関西大会までは行ってあと一歩のダメ金だったはず。もちろん三人ともコンクールメンバーだ。それなりに実力のある経験者だ。拓哉が憂鬱になる理由もよく分かる。吹奏楽部からしたら欲しい人材だ。先輩の拓哉が『誘った』と疑われても仕方ない。
その三人が器楽部の足りないパートを埋めてくれた。今回の新入部員で管楽器は吹奏楽部に頼らなくても何とかなりそうな気がする。
ただオーケストラは魅力的だが、うちはオーケストラ部ではなく管弦楽部でもなく器楽部だ。
僕も今はヴァイオリンを弾いているが、本来はピアノである。
そろそろ哲也と拓哉と三人で演奏したい。
「未経験の新入生は一つの楽器だけではなく色々試してください! 上級生はちゃんと誘導してください」
と冴子が指揮台の上から声を張り上げていた。
音楽室のあちらこちらからがヴァイオリンやらチェロやらコントラバスやらの音色が響きだした。
それは音色というより雑音に近いが、交じり合ったその雑音もそれなりに聞きようによっては趣がある。
この空気感は捨てがたい。それを醸し出しているのがこの入り混じった音の粒。
こういう喧騒は騒々しくもあるが嫌いではない。
新しい器楽部は思った以上に活気のある部活になりそうな気がするし、高校最後のこの一年は僕にとって楽しい一年になりそうな予感がする。
それにしても今年の新入生は個性的で面白い奴が多い。
初々しい新入部員を見ながら僕はそう思っていた。
ただ、冴子はこの一年大変な一年になりそうだ。個人的には昨年と同じようにコンクールにも出るのだろう。
部長と兼務は何かと気苦労も多そうだ。
僕に出来る事があれば手伝ってあげたいが、冴子には余計な気遣いだな。
どうせこっちの都合など関係なく余計な仕事を振ってくるだろうから……。
ただ一つ言えるのは今年の器楽部は色々な事が出来そうだという事。
飽きる暇もない一年になりそうだ。
と僕が促すと拓哉は
「ああ、そうやな」
と言って歩き出した。
僕はパートリーダーでも何でもないが、一応ヴァイオリン担当という事になっているので一緒にヴァイオリンのコーナーに向かった。
「しかし、吹部の奴らが聞いたら悔しがるやろうなぁ……」
と歩きながら拓哉はさっき途切れた話の続きを始めた。
「そいつらってお前が誘ったんか?」
僕も拓哉と一緒に歩きながら聞いた。
「まさか! そんな事はせえへんわ……けど……」
拓哉は即座に否定したが、歯切れが悪かった。
「けど……なんや?」
「うちの器楽部は後輩の中では話題になっとったみたいなんやわ。今日入部した奴らからは、入学前から何度か部活の状況聞かれたしな。シモもハヤンも『聞かれた』って言うとった」
「そうなんや。知らん間に有名になっていたんやな。で、たっくんはなんて答えたん?」
「聞かれたら正直に答えるやん……嘘つかれへんし……。俺なんか両方の部におったもんやから『どっちの方が面白いですか?』って聞かれるしな。だから『コンクール目指すんやったら吹部に行け』『朝練出たくないんやったら、器楽部やな』って答えたわ」
と言って拓哉は笑った。
「うまく逃げたな……でも、朝練ない事ないやん……たまに一年が出てるやん。夏休みも結構出てたみたいやし……」
「あれ自主練やろ。それに出ているのヴァイオリンばっかしやし……」
と拓哉は反論した。
「確かに……。うちに『全国目指す!』なんて目標は存在せえへんからな。朝練は強制になりようがないわなぁ」
と僕は笑った。
吹奏楽部のように全国大会が無いのは少し寂しい気もするが、それはそれで純粋に演奏が楽しめて良いとも思っている。
「まあ、そう言いながら吹部に行った奴のもおるやろうけど……国香から三人も来たら、俺が誘ったと思われるんやろなぁ……」
と最後はため息交じりで拓哉は言った。
「諸悪の根源はお前やからなぁ」
「アホ、人聞きの悪い事言うな」
と拓哉は全面否定した。
「ま、しっかり新入部員を確保しろや」
と言って僕は拓哉と別れてヴァイオリンの集合場所に向かった。
未経験者のほとんどがここに来ていた。
やはり折角入部するならヴァイオリンなんだろうか?
管楽器の集合場所の前では国香中から来た三名が、同じ中学校出身の霜鳥や早崎と懐かしそうに話し込んでいた。
「今年のヴァイオリンは豊作やなぁ」
と声を掛けて来たのは谷川大二郎だった。
「ああ、そうやなぁ」
と僕は少し離れたところで新入部員を眺めたまま頷いた。
「さっきの三人ならファーストヴァイオリンでええよなぁ?」
と大二郎も眺めたまま聞いてきた。
ヴァイオリン希望者の前で瑞穂がヴァイオリンの説明をしてる。
「うん。あの実力ならなぁ。文句ないやろうなぁ……俺もメロディラインをもっと厚くしても良いとは思うんやけど、それを決めるのは冴子と美奈子ちゃんやからなぁ……」
と僕は応えた。
彩音先輩の抜けた穴は大きかったが、それは冴子と瑞穂が何とか埋めてくれていた。
後は東雲小百合がファーストからセカンドのパートリーダに移って、琴葉と大二郎がセカンドからファーストに代わるという配置換えもそれなりにファーストの音の厚みをカバーしていたと思う。
「冴子と美奈子ちゃん次第かぁ……」
と大二郎は呟いた。彼も同じことを思っていたようだ。
この頃、僕達も千龍さんに習って美奈子先生の事を本人がいない場所では、親しみを込めてちゃん付けで呼んでいた。
「まあ、うちはオーケストラだけやる訳でもないしな……」
と僕が言うと
「でもこの人数やったら吹部に頼らんでもできるんとちゃうの?」
と大二郎が聞いてきた。もっともな意見である。
「確かに、あの国香中の三人の存在はでかいよなぁ……」
国香中から来た三人。松尾萌、植村巧、手島豊たちはフルート・トロンボーン・ホルン経験者で、昨年の国香中は全国には行けなかったが、関西大会までは行ってあと一歩のダメ金だったはず。もちろん三人ともコンクールメンバーだ。それなりに実力のある経験者だ。拓哉が憂鬱になる理由もよく分かる。吹奏楽部からしたら欲しい人材だ。先輩の拓哉が『誘った』と疑われても仕方ない。
その三人が器楽部の足りないパートを埋めてくれた。今回の新入部員で管楽器は吹奏楽部に頼らなくても何とかなりそうな気がする。
ただオーケストラは魅力的だが、うちはオーケストラ部ではなく管弦楽部でもなく器楽部だ。
僕も今はヴァイオリンを弾いているが、本来はピアノである。
そろそろ哲也と拓哉と三人で演奏したい。
「未経験の新入生は一つの楽器だけではなく色々試してください! 上級生はちゃんと誘導してください」
と冴子が指揮台の上から声を張り上げていた。
音楽室のあちらこちらからがヴァイオリンやらチェロやらコントラバスやらの音色が響きだした。
それは音色というより雑音に近いが、交じり合ったその雑音もそれなりに聞きようによっては趣がある。
この空気感は捨てがたい。それを醸し出しているのがこの入り混じった音の粒。
こういう喧騒は騒々しくもあるが嫌いではない。
新しい器楽部は思った以上に活気のある部活になりそうな気がするし、高校最後のこの一年は僕にとって楽しい一年になりそうな予感がする。
それにしても今年の新入生は個性的で面白い奴が多い。
初々しい新入部員を見ながら僕はそう思っていた。
ただ、冴子はこの一年大変な一年になりそうだ。個人的には昨年と同じようにコンクールにも出るのだろう。
部長と兼務は何かと気苦労も多そうだ。
僕に出来る事があれば手伝ってあげたいが、冴子には余計な気遣いだな。
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