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ヴォーカリストとギタリスト
意地の張り合い
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でもこのラインはとても参考になる。
こんな呆れるほどの自己主張が許されるのであれば、いくらでも弾き方はある。
2コーラスが終わってギターソロが入った。
翔の独壇場だ。
今の僕は完全に翔とそのバックバンドになっているような気がするが、それはそれで楽しい。悪い気はしない。
哲也達と演奏するときとは違った緊張感を感じる。新鮮な楽しさを感じる。
本当にこのピアノは楽しすぎる。今までの自分を全否定するかの如く鍵盤をたたきまくっている。
おそらく今までの人生でこれほど鍵盤と力勝負をしたことはなかっただろう。
ちょっとでも気を抜くと、エレキギターの音とドラムスに完璧に置いて行かれるし埋もれてしまう。
今まで培ったピアノの常識が消えていくような気さえした。
それでもまだ僕は翔のギターに引っ張られている。ドラマーも負けじと強烈な自己主張を繰り返すがそれが妙に緊張感を生んでいる。
この緊張感は間違いなく観客にも伝わっている。この会場に居る人間は僕たち三人の演奏を固唾を飲んで聞いていた。
ここで僕だけ脱落する訳にはいかない。
それにしてもクリームの三人は、いつもこんなお互いが戦うような自己主張の強い演奏をしていたのか? 狂気以外の何物でもない。
――これは疲れるぞぉ――
たまにはいいが毎回は絶対に嫌だな。クリームが短期間で解散した理由がよく分かったような気がした。
僕なら毎回こんな真剣勝負は遠慮する。
しかし演奏者としてはこれほどの本気で自己主張をぶつけながら、一つの作品へと昇華できるって事は羨ましくもあり尊敬さえしてしまう。
翔の二回目のソロが始まった。怒涛の様なソロ。ブルースコードに忠実なソロだが、クラプトンの手に掛かるとこんな格好の良いソロになるのか? と改めて聞き入ってしまいそうになる。
翔はそれを完璧にコピーしていた。弾きなれた感が半端ない。本当に『クラプトンが好きなんだ』という思いが伝わってくる。
翔のギターに聞き惚れてばかりもいられない。僕も負けない様にジャック・ブルースの自己中なベースラインを思い出して張り合った。
そしてそのまま一気にこの三人の意地の張り合いは終わった。僕は精も根も尽き果てたように軽い放心状態に陥った。
今まで味わった事がない達成感を感じながら。
ホールは観客の歓声と拍手で包まれた。
それを横目で見ながら
――ホンマに疲れたわ――
と心地よい疲労感を感じている僕に翔が近づいて来て
「お疲れさん」
とひとこと声を掛けてきた。
「ああ、面白かったけど無茶振り過ぎるわ」
と応えて僕は舞台を後にしようと立ち上がった。
「え? ぽっぽちゃんの伴奏せえへんの?」
と翔が慌てて僕を押しとどめようとした。
「ああ? もうお腹一杯やし……それは勇山に任すわ」
と言いながらも
「なにやんの?」
と聞き返した。
このまま舞台を降りようと思っていたが、ぽっぽちゃんのデビュー曲には興味があった。
翔はニヤッと笑って
「アニソン」
とだけ答えた。
「アニソン?」
意外な返事に僕は思わず聞き返した。
「そう」
翔は当たり前のように頷いた。
こんな呆れるほどの自己主張が許されるのであれば、いくらでも弾き方はある。
2コーラスが終わってギターソロが入った。
翔の独壇場だ。
今の僕は完全に翔とそのバックバンドになっているような気がするが、それはそれで楽しい。悪い気はしない。
哲也達と演奏するときとは違った緊張感を感じる。新鮮な楽しさを感じる。
本当にこのピアノは楽しすぎる。今までの自分を全否定するかの如く鍵盤をたたきまくっている。
おそらく今までの人生でこれほど鍵盤と力勝負をしたことはなかっただろう。
ちょっとでも気を抜くと、エレキギターの音とドラムスに完璧に置いて行かれるし埋もれてしまう。
今まで培ったピアノの常識が消えていくような気さえした。
それでもまだ僕は翔のギターに引っ張られている。ドラマーも負けじと強烈な自己主張を繰り返すがそれが妙に緊張感を生んでいる。
この緊張感は間違いなく観客にも伝わっている。この会場に居る人間は僕たち三人の演奏を固唾を飲んで聞いていた。
ここで僕だけ脱落する訳にはいかない。
それにしてもクリームの三人は、いつもこんなお互いが戦うような自己主張の強い演奏をしていたのか? 狂気以外の何物でもない。
――これは疲れるぞぉ――
たまにはいいが毎回は絶対に嫌だな。クリームが短期間で解散した理由がよく分かったような気がした。
僕なら毎回こんな真剣勝負は遠慮する。
しかし演奏者としてはこれほどの本気で自己主張をぶつけながら、一つの作品へと昇華できるって事は羨ましくもあり尊敬さえしてしまう。
翔の二回目のソロが始まった。怒涛の様なソロ。ブルースコードに忠実なソロだが、クラプトンの手に掛かるとこんな格好の良いソロになるのか? と改めて聞き入ってしまいそうになる。
翔はそれを完璧にコピーしていた。弾きなれた感が半端ない。本当に『クラプトンが好きなんだ』という思いが伝わってくる。
翔のギターに聞き惚れてばかりもいられない。僕も負けない様にジャック・ブルースの自己中なベースラインを思い出して張り合った。
そしてそのまま一気にこの三人の意地の張り合いは終わった。僕は精も根も尽き果てたように軽い放心状態に陥った。
今まで味わった事がない達成感を感じながら。
ホールは観客の歓声と拍手で包まれた。
それを横目で見ながら
――ホンマに疲れたわ――
と心地よい疲労感を感じている僕に翔が近づいて来て
「お疲れさん」
とひとこと声を掛けてきた。
「ああ、面白かったけど無茶振り過ぎるわ」
と応えて僕は舞台を後にしようと立ち上がった。
「え? ぽっぽちゃんの伴奏せえへんの?」
と翔が慌てて僕を押しとどめようとした。
「ああ? もうお腹一杯やし……それは勇山に任すわ」
と言いながらも
「なにやんの?」
と聞き返した。
このまま舞台を降りようと思っていたが、ぽっぽちゃんのデビュー曲には興味があった。
翔はニヤッと笑って
「アニソン」
とだけ答えた。
「アニソン?」
意外な返事に僕は思わず聞き返した。
「そう」
翔は当たり前のように頷いた。
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*****
※この物語はフィクションです。
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