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うにおいくら

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クリスマスの頃の物語

ミケーレ

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「仁美さん、今日はご家族でお食事ですか?」
ミケーレさんにもやはり僕たちは家族にしか見えないようだ。

 仁美さんの頬が一瞬ピクっと動いたような気がした。
その瞬間にオヤジが
「そうなんですよ。今日は家族で元町に買い物に来たんですよ。本当にいつもうちのがお世話になっております」
と言って立ち上がった。そしてミケーレさんに近寄り
「Piacere(ピアチェーレ)」
と言って左手をミケーレさんの右ひじに寄り添うようにして握手をした。
「Piacere mio(ピアチェーレミーオ)」
とミケーレさんはぱっと明るい顔になっても同じように応えた。

今度はオヤジが家族ごっこを始めた。さっきの百貨店での仕返しか? 大人げないが面白い。今日はこのまま四人家族ごっこを続けようと僕も思った。

 それよりも驚いた事にオヤジはミケーレさんとその場で、流暢なイタリア語で話をしはじめた。

短い会話だったが最後にひとことオヤジが何か言うと、ミケーレさんと仁美さんは大笑いしていた。そしてミケーレさんは、オヤジの背中を軽く叩いて
「ヒトミさんあなたの御主人さんはとっても面白い方ですね」
と日本語で語り掛けながらテーブルにメニューを置いた。

 そして呼吸を整えてから
「今日はごゆっくりしていってください」
とお辞儀をして去って行った。
その間が何ともゆったりとしていてここは日本だという事を一瞬忘れた。

 オヤジはミケーレさんが背を向けると自分の席に座り
「今日はお・か・あ・さ・んの奢りやったけ?」
と変な上目遣いで仁美さんを見た。まるでいたずらっ子のような表情だった。

「そうやね。エエよ。今日はお・か・あ・さ・んの奢りで」
仁美さんはテーブルに座った僕達を見回して笑った。

オヤジは小声で
「よし」
と呟いていた。

「ねえ、父さん……父さんってイタリア語話せたん?」
僕は少し口が開き気味で聞いたと思う。それと同時に尊敬のまなざしも向けていたかもしれない。

「ああ、お前の英会話程度にはな」
とオヤジは薄笑いを浮かべて言った。

――なに? それはそれほどでもないって意味か?――

「イタリアに行った事あんの?」
少しむかつきながらも僕は続けて聞いた。

「ああ、あるで」
とオヤジがそっけなく答えると
「亮ちゃんのお父さんはイタリアに住んでいた事もあるんよ」
仁美さんが横から口を挟んできた。

「え?ホンマに?」
と僕は驚いて聞き返した。

「ああ。ホンマや。ちょっとの間やけどな」
オヤジは『それがどうした』というような顔をして答えた。オヤジはドヤ顔が似合うかもしれない。
でもなんかこの顔で見下されたらなんか腹が立つ。
でもそんな思いとは裏腹に僕は質問を続けた。
「いつ?」

「昔」

「今さっきはなんの話をしていたの? ミケーレさん大笑いしていたけど」

「さあてねえ…」
そう言うとオヤジは仁美さんに顔を向けて笑った。

「やっぱり、仁美さんも分かるんや?」
と仁美さんに聞くと
「まあね。さっきのは単なる挨拶をしただけよ。後はミケーレが『イタリア語お上手ですね』と褒めたので、それにお父さんがさっきのお返しに『こう見えても日本語も話せますよぉ』ってミラノ訛りぽく話をしたから笑ったのよ」

「正解!」
とオヤジは小声で叫んだ。

「亮くんのお父さんも仁美さんも凄い!」
宏美が目を輝かせて感動していた。
もしかして彼女は何でもすぐに感動するタイプか? と思ったが、実は僕も少し驚きながらオヤジの話を聞きたいと思っていた。

 そんな僕達二人の小さな感動と驚きをよそに、仁美さんは何事もなかったように
「それより一平ちゃん料理はどうすんの?」
と何事もなかったかのようにオヤジに聞いた。

「この店来たことあるんやんなぁ」

「うん。何度かね」
とオヤジは仁美さんに確認すると
「そっかぁ……この店は量が本場並み?」
と聞いた。
「うん。多い……かな」

「じゃあ、四人やし……シェアにしょうか。育ちざかりがおるしな」

「やね……まず最初にアンティパストはカルパッチョとピザかな」

「うん、そうやな……で、肉料理と魚料理どちらも注文する?」
オヤジはメニューを覗き込んで聞いた。

「それね。ここはカモ料理が美味しいのよ」
仁美さんはオヤジにこの前取材で仕入れた情報を伝えた。
「鴨かぁ……アナトゥラ・コムーネ?……ムータ?」

「ジェルマーノ・レアーレみたい」
「ほほぉ、真鴨かぁ……それは楽しみやな。じゃあ、それにしよう」

 そう言うと、メニューを仁美さんに手渡した。それで満足したようで後はどうでもいいような感じだった。オヤジは食への探求心というものを、あまり持ち合わせてはいない様だ。
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