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エゴイストとピアニスト
夜、安藤さんの店 その1
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小百合に何故か元気づけられてしまったこの日、僕は部活が終わってからそのまま家に帰る気持ちにもなれずになんとなく安藤さんの店に寄った。
ドアを開けるとすでにオヤジがカウンターで飲んでいた。僕は黙てオヤジの隣に座った。
オヤジは僕を横目で一瞥すると
「学校の帰りか?」
とひとことだけ聞いてきた。
「うん」
と僕は応えると安藤さんに
「ホットください」
と注文した。
この頃はブラックコーヒーの苦さにも慣れてきて、砂糖を恋しく思わなくなっていた。
安藤さんは黙って頷くと珈琲を淹れ始めてくれた。
店内にはいつものように80年代のロックが流れている。曲はクォーターフラッシュの『Harden My Heart』だった。
この曲の存在はこの店に来て初めて知ったのだが、この不安定な曲調と声がなんだか僕は気に入っていた。
「腹は減ってないんか?」
とオヤジは安藤さんが珈琲を淹れるのを見つめながら聞いてきた。
「うん。別にまだそんなに減ってへん」
と僕は首を振った。
「そうか」
とオヤジは応えるとロックグラスに口をつけた。
もうオヤジは夕食を食い終えたようだった。
僕は
「父さんは学生時代部活とかしとったん?」
と聞いた。
「あぁ? どうしたんや? 後輩にでも虐められたか?」
と僕の顔を覗き込むように何故か楽しそうな表情で聞いてきた。
さっきまでの店内の落ち着いた空気が一気に変わったような気がした。
ちょっとムカついた。
オヤジに何かネタを与えてしまったようで腹立たしい。
「なんでそうなんねん、そんなんとちゃうわ」
「なんや違うんか」
とオヤジは残念そうな表情を浮かべた。
「なんで俺が後輩に虐められなアカンねん。そんなんやないわ……けど……後輩は関係あるかなぁ……」
と微妙にカスっているオヤジの指摘に更にムカつきながら応えた。
「なんや? それ? どないしたんや? 言うてみ」
ついさっき落胆した表情を浮かべていたオヤジの顔がみるみる明るくなった。興味が湧いたようだったが本当に腹立たしいムカつくオヤジだ。
「いや、そんな大したことやないねん。みんな色んな事を考えてんねんなぁって思ったんや。周りの事を見て、先々の事も考えて……でも俺はなんも考えてないなぁ……って」
と僕はオヤジへの腹立たしさは抑えながら、今日音楽室での小百合との会話と瑞穂の事を二人に語った。
オヤジは黙って聞いていたが、僕がある程度話し終えると
「へぇ……今どきの高校生ってそんな事まで考えるんやぁ?」
と感心したように驚いて安藤さんに意見を求めるように顔を向けた。
話を振られた安藤さんは
「ホンマやなぁ……今どきというかその二人が凄いなぁ……それに比べてお前ときたら昔から何を考えとんのか分からんかったからなぁ……あるいは全く人とは違う事しか考えとらんかったからなぁ……亮平はそもそも相談する相手を間違ごうてるわ。一平に判る訳ないわなぁ」
と軽い口調でオヤジに返した。
「誰が俺の事を聞いた? そんな事聞いとんのとちゃうわ。第一、俺はいつも俺は周りの人たちの幸せを考えて生きて来ましたですよ」
といかにもその場しのぎの誰でもでたらめと分かるような言い訳をしたが
「ああ、分かった分かった。一平、日本語がおかしくなっとるぞ」
と安藤さんはうんざりしたような表情でオヤジの言葉を一蹴した。
安藤さん自身も余計なネタを振ったと後悔しているようだった。
今日もオヤジと安藤さんのコンビは健在だ。
ドアを開けるとすでにオヤジがカウンターで飲んでいた。僕は黙てオヤジの隣に座った。
オヤジは僕を横目で一瞥すると
「学校の帰りか?」
とひとことだけ聞いてきた。
「うん」
と僕は応えると安藤さんに
「ホットください」
と注文した。
この頃はブラックコーヒーの苦さにも慣れてきて、砂糖を恋しく思わなくなっていた。
安藤さんは黙って頷くと珈琲を淹れ始めてくれた。
店内にはいつものように80年代のロックが流れている。曲はクォーターフラッシュの『Harden My Heart』だった。
この曲の存在はこの店に来て初めて知ったのだが、この不安定な曲調と声がなんだか僕は気に入っていた。
「腹は減ってないんか?」
とオヤジは安藤さんが珈琲を淹れるのを見つめながら聞いてきた。
「うん。別にまだそんなに減ってへん」
と僕は首を振った。
「そうか」
とオヤジは応えるとロックグラスに口をつけた。
もうオヤジは夕食を食い終えたようだった。
僕は
「父さんは学生時代部活とかしとったん?」
と聞いた。
「あぁ? どうしたんや? 後輩にでも虐められたか?」
と僕の顔を覗き込むように何故か楽しそうな表情で聞いてきた。
さっきまでの店内の落ち着いた空気が一気に変わったような気がした。
ちょっとムカついた。
オヤジに何かネタを与えてしまったようで腹立たしい。
「なんでそうなんねん、そんなんとちゃうわ」
「なんや違うんか」
とオヤジは残念そうな表情を浮かべた。
「なんで俺が後輩に虐められなアカンねん。そんなんやないわ……けど……後輩は関係あるかなぁ……」
と微妙にカスっているオヤジの指摘に更にムカつきながら応えた。
「なんや? それ? どないしたんや? 言うてみ」
ついさっき落胆した表情を浮かべていたオヤジの顔がみるみる明るくなった。興味が湧いたようだったが本当に腹立たしいムカつくオヤジだ。
「いや、そんな大したことやないねん。みんな色んな事を考えてんねんなぁって思ったんや。周りの事を見て、先々の事も考えて……でも俺はなんも考えてないなぁ……って」
と僕はオヤジへの腹立たしさは抑えながら、今日音楽室での小百合との会話と瑞穂の事を二人に語った。
オヤジは黙って聞いていたが、僕がある程度話し終えると
「へぇ……今どきの高校生ってそんな事まで考えるんやぁ?」
と感心したように驚いて安藤さんに意見を求めるように顔を向けた。
話を振られた安藤さんは
「ホンマやなぁ……今どきというかその二人が凄いなぁ……それに比べてお前ときたら昔から何を考えとんのか分からんかったからなぁ……あるいは全く人とは違う事しか考えとらんかったからなぁ……亮平はそもそも相談する相手を間違ごうてるわ。一平に判る訳ないわなぁ」
と軽い口調でオヤジに返した。
「誰が俺の事を聞いた? そんな事聞いとんのとちゃうわ。第一、俺はいつも俺は周りの人たちの幸せを考えて生きて来ましたですよ」
といかにもその場しのぎの誰でもでたらめと分かるような言い訳をしたが
「ああ、分かった分かった。一平、日本語がおかしくなっとるぞ」
と安藤さんはうんざりしたような表情でオヤジの言葉を一蹴した。
安藤さん自身も余計なネタを振ったと後悔しているようだった。
今日もオヤジと安藤さんのコンビは健在だ。
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※この物語はフィクションです。
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