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第二部 ピアノとヴァイオリン
Desperado(ならず者)
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「父さん、この曲ってEaglesの曲やんなぁ」
と僕はオヤジに聞いた。
「おお、よう知っとんな」
オヤジは僕がこの曲を知っていたのが意外なようだった。
「うん。父さんの車で聞いた」
夏オヤジと一緒に実家に帰った時に、車の中で聞いたオヤジセレクトのMDにこの曲は入っていた。
その時も「良い曲だな」と思ったが、こうやってじっくり聞くと本当に味のある良い楽曲だ。
そしてこの店でも何度も聞いた曲だった。
そう、この店でかかる曲は大体においてoldiesが多い。
「ああ、夏休みか」
オヤジは思い出したように納得した。
「うん」
「昔から安藤さんとこうやって歌ってたんや?」
僕はオヤジの顔を見て聞いた。
「前に言うたやろ、一緒にバンド組んどったって」
オヤジは横目で僕を見ながら答えた。
「そうやな。言うとったな。カスタネットやったんやろ? ハーモニカやったっけ? ピアノっていうのは聞いてへんけど」
なんか同じことを何度も聞くな……みたいな感じで言われたので言い返してみたくなった。
「あ、それね。まあ、カスタネットっていうピアノや。というか一応どちらも打楽器だし……」
そこを突っ込まれるとオヤジは思っていなかったようで、声が少しうわずっていた。
「苦しいな……」
安藤さんが突っ込んだ。
「やっぱり……」
オヤジは素直に観念した。
オヤジと安藤さんは笑った。
僕もつられて笑った。
父親の弾き語りを聞くって本当に新鮮な感覚だ。もっともこんなシュチエーションを経験する人は、そんなに居ないだろうと思う。
それを聞いて不覚にも泣きそうになった息子って言うのもあまりいないと思う。
でも「Desperado(ならず者)」ってどうよ。僕はそんなに放蕩息子ではない。放蕩していたのはどちらかといえばオヤジだ。そこが少し納得できない。
「父さん……まだ全然ピアノ弾けるんや」
「ああ、鳴らすぐらいはな」
「ずっと弾いていたん?」
「たまにな。その程度ならな」
オヤジは軽く笑いながら答えた。
オヤジのピアノの音は柔らかい音だった。余計なものはないスッキリとした音の粒だったが、それでいて温かくて優しい音だった。僕の心に染み入る音だった。僕がたまにイメージの中で聞くオヤジの音とは明らかに違った。でも、この音も僕は好きだ。
「父さん、俺もっといろんな経験したい。いろんなもん弾きたい……でも、そんなんでええんかな?」
僕は巧く言葉にならない僕の気持ちをそのまま伝えた。
オヤジはビールを飲みながら頷いた。
そしてグラスをカウンターに置くと、僕の顔をじっと見た。
「ええんちゃうか、それで」
「うん」
「なんか吹っ切れたみたいやな」
「そうかな……」
さっきよりは少し心が軽くなった様な気はする。
「我が息子がさっきより少しだけ男前になった」
とオヤジは笑った。
「なんやそれ? でも少しだけ吹っ切れたと思う。なんかくだらん事を考え過ぎていたような気がする」
もしかしたら僕の顔はさっきよりはまともな顔になっているかもしれない。
さっきよりは少しだけ自分に自信を取り戻したような気がする。
安藤さんが僕の顔を見て笑った。なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持になった。
「お前の人生や。好きなようにやったらエエ。父さんはそれでええと思う」
そう言うとビールを一気に飲み干した。
オヤジは空いたグラスを両手で囲う様に持ったまま更にひとこと言った。
「結果は後から勝手についてくる」
「うん」
僕は素直に頷いた。
オヤジのような優しい音も弾いてみたいが、それよりも今は僕の音を見極めたい。
そう強く思った。
渚さんにこれを言ったらどう思うだろうと一瞬考えたが、これは僕の問題だ。僕は自分の弾きたい音だけを弾いていたい。
――今は考えるより鍵盤を叩いていたい――
もしかしたら、これが僕の出した結論かもしれない。
と僕はオヤジに聞いた。
「おお、よう知っとんな」
オヤジは僕がこの曲を知っていたのが意外なようだった。
「うん。父さんの車で聞いた」
夏オヤジと一緒に実家に帰った時に、車の中で聞いたオヤジセレクトのMDにこの曲は入っていた。
その時も「良い曲だな」と思ったが、こうやってじっくり聞くと本当に味のある良い楽曲だ。
そしてこの店でも何度も聞いた曲だった。
そう、この店でかかる曲は大体においてoldiesが多い。
「ああ、夏休みか」
オヤジは思い出したように納得した。
「うん」
「昔から安藤さんとこうやって歌ってたんや?」
僕はオヤジの顔を見て聞いた。
「前に言うたやろ、一緒にバンド組んどったって」
オヤジは横目で僕を見ながら答えた。
「そうやな。言うとったな。カスタネットやったんやろ? ハーモニカやったっけ? ピアノっていうのは聞いてへんけど」
なんか同じことを何度も聞くな……みたいな感じで言われたので言い返してみたくなった。
「あ、それね。まあ、カスタネットっていうピアノや。というか一応どちらも打楽器だし……」
そこを突っ込まれるとオヤジは思っていなかったようで、声が少しうわずっていた。
「苦しいな……」
安藤さんが突っ込んだ。
「やっぱり……」
オヤジは素直に観念した。
オヤジと安藤さんは笑った。
僕もつられて笑った。
父親の弾き語りを聞くって本当に新鮮な感覚だ。もっともこんなシュチエーションを経験する人は、そんなに居ないだろうと思う。
それを聞いて不覚にも泣きそうになった息子って言うのもあまりいないと思う。
でも「Desperado(ならず者)」ってどうよ。僕はそんなに放蕩息子ではない。放蕩していたのはどちらかといえばオヤジだ。そこが少し納得できない。
「父さん……まだ全然ピアノ弾けるんや」
「ああ、鳴らすぐらいはな」
「ずっと弾いていたん?」
「たまにな。その程度ならな」
オヤジは軽く笑いながら答えた。
オヤジのピアノの音は柔らかい音だった。余計なものはないスッキリとした音の粒だったが、それでいて温かくて優しい音だった。僕の心に染み入る音だった。僕がたまにイメージの中で聞くオヤジの音とは明らかに違った。でも、この音も僕は好きだ。
「父さん、俺もっといろんな経験したい。いろんなもん弾きたい……でも、そんなんでええんかな?」
僕は巧く言葉にならない僕の気持ちをそのまま伝えた。
オヤジはビールを飲みながら頷いた。
そしてグラスをカウンターに置くと、僕の顔をじっと見た。
「ええんちゃうか、それで」
「うん」
「なんか吹っ切れたみたいやな」
「そうかな……」
さっきよりは少し心が軽くなった様な気はする。
「我が息子がさっきより少しだけ男前になった」
とオヤジは笑った。
「なんやそれ? でも少しだけ吹っ切れたと思う。なんかくだらん事を考え過ぎていたような気がする」
もしかしたら僕の顔はさっきよりはまともな顔になっているかもしれない。
さっきよりは少しだけ自分に自信を取り戻したような気がする。
安藤さんが僕の顔を見て笑った。なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持になった。
「お前の人生や。好きなようにやったらエエ。父さんはそれでええと思う」
そう言うとビールを一気に飲み干した。
オヤジは空いたグラスを両手で囲う様に持ったまま更にひとこと言った。
「結果は後から勝手についてくる」
「うん」
僕は素直に頷いた。
オヤジのような優しい音も弾いてみたいが、それよりも今は僕の音を見極めたい。
そう強く思った。
渚さんにこれを言ったらどう思うだろうと一瞬考えたが、これは僕の問題だ。僕は自分の弾きたい音だけを弾いていたい。
――今は考えるより鍵盤を叩いていたい――
もしかしたら、これが僕の出した結論かもしれない。
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