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夏合宿
合宿二日目
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昨晩の出来事が何もなかったかの如く、僕たちは二日目の朝を迎えた。
拓哉は朝起きてもいつも通りの拓哉だった。ただ朝食が済むと黙って吹奏楽部の練習に合流した。
午前中のヴァイオリンパートは二年三年チームと一年新人チームに分かれての練習となった。一年生のマリアさんトリオだけは、言うまでもなく二年・三年チームに合流した。
古野さんは昨日に引き続き新入部員に基本的な演奏技術を教える事になっていた。
「ヴァイオリンの正しい持ち方と姿勢。弓の使い方と弦の押さえ方。リズムや音程の基本的な理解と演奏法。これを徹底的にこの合宿でマスターしてもらいますから」
と笑顔で古野さんは新入部員に語っていた。
――頑張れ! 一年生!――
それにしてもプロのヴァイオリニスト二人から指導を受けるなんて贅沢過ぎると思う。
これもダニーの存在のなせる技なんだろう。
二年生以上の部員は車座にパイプ椅子を並べ替えて座った。
手島さんはその輪の中心で指導を始めた。
直ぐに演奏を始めるのかと思っていたが、手島さんは
「昨日演奏を聴かせてもらったバーバーのこの曲。とてもいい曲なんだなぁ。で、この曲のオーケストラの中でのヴァイオリンの役割と位置付けが理解できているかどうかを確認したいんだけど……」
と唐突に座学から始め出した。
こういうのに全く弱いのが大二郎だ。だからなのか苦手オーラでも発散していたのだろう、手島さんに
「君はどう思う? 谷川君」
とめでたく指名されていた。昨日さんざん手取り足取り手島さんに突っ込まれていたが、今日もそれが続きそうな予感がする。
「えーと、まずファーストはメロディが担当です。なので感情の表現力が大事だと思います」
と大二郎は答えていた。
とっさに答えた割には良い答えだと思った。
「では、第二ヴァイオリンは?」
と手島さんは畳みかけるように更に質問を重ねた。
「ファーストのメロディを支えるように弾くべきだと思います」
「なるほど。模範的な回答ありがとう。他の意見はありますか?」
と手島さんは車座に座った僕たちを見回した。
すると大二郎が
「僕は去年セカンドを担当していたのですけど、最初はファーストのメロディーだけをサポートすればいいと思てましたが、チェロやヴィオラとのバランスも考えなければならない事に気が付きました。この曲に関して言えば僕はファーストが全体を引っ張っていくのは当たり前ですが、セカンドがちゃんと全体のバランスを保てるかも重要だと思います」
とさっきの言葉に付け足すように話した。自分でも言葉足らずだと思ったのかもしれない。
「私もその通りだと思います。とてもいい意見です。ただこの曲に限らず合奏やアンサンブルでの基本的な技術と意識は必要です。つまり自分のパートだけに注力するのではなく他のセクションとの調和を図りながら、全体の音楽的な一体感を作り出すという作業も行わなくてはならないということです。分かりますか?」
「はい」
と僕たちは応えた。
「細かい技術論はその都度お話しします。では、まず今言った事を意識して弾いてみましょうか」
と手島さんはにこやかに笑って手を叩いた。
――ああ、今日は長い一日になりそうな予感がする――
結果的にその予感は良い方に外れるのだが、午前中は充実した時間を送る事が出来た。
拓哉は朝起きてもいつも通りの拓哉だった。ただ朝食が済むと黙って吹奏楽部の練習に合流した。
午前中のヴァイオリンパートは二年三年チームと一年新人チームに分かれての練習となった。一年生のマリアさんトリオだけは、言うまでもなく二年・三年チームに合流した。
古野さんは昨日に引き続き新入部員に基本的な演奏技術を教える事になっていた。
「ヴァイオリンの正しい持ち方と姿勢。弓の使い方と弦の押さえ方。リズムや音程の基本的な理解と演奏法。これを徹底的にこの合宿でマスターしてもらいますから」
と笑顔で古野さんは新入部員に語っていた。
――頑張れ! 一年生!――
それにしてもプロのヴァイオリニスト二人から指導を受けるなんて贅沢過ぎると思う。
これもダニーの存在のなせる技なんだろう。
二年生以上の部員は車座にパイプ椅子を並べ替えて座った。
手島さんはその輪の中心で指導を始めた。
直ぐに演奏を始めるのかと思っていたが、手島さんは
「昨日演奏を聴かせてもらったバーバーのこの曲。とてもいい曲なんだなぁ。で、この曲のオーケストラの中でのヴァイオリンの役割と位置付けが理解できているかどうかを確認したいんだけど……」
と唐突に座学から始め出した。
こういうのに全く弱いのが大二郎だ。だからなのか苦手オーラでも発散していたのだろう、手島さんに
「君はどう思う? 谷川君」
とめでたく指名されていた。昨日さんざん手取り足取り手島さんに突っ込まれていたが、今日もそれが続きそうな予感がする。
「えーと、まずファーストはメロディが担当です。なので感情の表現力が大事だと思います」
と大二郎は答えていた。
とっさに答えた割には良い答えだと思った。
「では、第二ヴァイオリンは?」
と手島さんは畳みかけるように更に質問を重ねた。
「ファーストのメロディを支えるように弾くべきだと思います」
「なるほど。模範的な回答ありがとう。他の意見はありますか?」
と手島さんは車座に座った僕たちを見回した。
すると大二郎が
「僕は去年セカンドを担当していたのですけど、最初はファーストのメロディーだけをサポートすればいいと思てましたが、チェロやヴィオラとのバランスも考えなければならない事に気が付きました。この曲に関して言えば僕はファーストが全体を引っ張っていくのは当たり前ですが、セカンドがちゃんと全体のバランスを保てるかも重要だと思います」
とさっきの言葉に付け足すように話した。自分でも言葉足らずだと思ったのかもしれない。
「私もその通りだと思います。とてもいい意見です。ただこの曲に限らず合奏やアンサンブルでの基本的な技術と意識は必要です。つまり自分のパートだけに注力するのではなく他のセクションとの調和を図りながら、全体の音楽的な一体感を作り出すという作業も行わなくてはならないということです。分かりますか?」
「はい」
と僕たちは応えた。
「細かい技術論はその都度お話しします。では、まず今言った事を意識して弾いてみましょうか」
と手島さんはにこやかに笑って手を叩いた。
――ああ、今日は長い一日になりそうな予感がする――
結果的にその予感は良い方に外れるのだが、午前中は充実した時間を送る事が出来た。
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