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夏の終わりのフルート
器楽部も凄い
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「それにしても吹部の奴らホンマに気合入っていたよなぁ。合宿ん時、夜遅くまで練習していたやん? 千恵蔵らも夜遅くまでやってたんやろ?」
「うん。やってた」
「あの夜、器楽部の三年たちと卓球からの帰りに『今までの吹部とは思えん』って感動していたわ。あんな時間まで練習していたんやからな。哲也やないけど器楽部のみんな、コンクールに挑戦できる吹部が羨ましかったみたいやで」
と拓哉が冴子によって吹奏楽部に売られた夜の事を千恵蔵に話した。
「あんたら人が一生懸命練習している時にピンポンなんかしてたんや?」
と千恵蔵は眉間に皺を寄せて詰めて来た。
「え、いや……そこに卓球台があったから……言い出したんは大二郎やったし……」
まさかここで詰められるとは思ってもいなかったので僕は焦った。
「冗談やって」
と千恵蔵は笑った。
「驚かすなや。本気で焦ったやん」
「ごめんごめん。でも確かにあの時の吹部のみんなは真剣やったし必死やったと思う。でも吹部の人も器楽部の事を『凄い』って言っとったよ」
「え? どこが?」
と予想外の言葉に僕は聞き返した。このユルイ部活のどこに『凄い』要素があるというのだろう?
「だって吹部は『コンクールに出場して金を取る』とか『全国行くぞ!』とか明確な目標があるから、それに向けてみんな自分の技術を上げていくやん? 努力もできるやん? モチベーションもつけ易いやん。それに比べて器楽部ってそんなコンクールなんかないやん?」
「確かにないなぁ」
と僕は頷いた。
「なのに器楽部の部員って純粋に『上手くなりたい』ってだけで一生懸命やってるやん」
確かに千恵蔵の言う通りだった。
最初は『楽しみながらヴァイオリンを弾きたい』とか『なんとなくチェロやりたい』とかそんな軽い気持ちで入部した新入部員が、いつの間にか目の色を変えて真剣に『上手くなりたい』とか『合奏メンバーに選ばれたい』とか言って必死に練習している。
コンクールがある訳でもないのに……。
「純粋に『上手くなりたい』『いい音を響かせたい』って言うのが伝わってくるって宮田君とかが感心してたよ」
「そっかぁ……別に強制された訳でもないのになぁ……」
と千恵蔵に言われて初めて僕も気が付いた。
仮入部で辞めずに残った新入部員たちは、皆熱心に練習している。上達も早い。
何が新入部員たちのモチベーションの原動力になっているのかは分からないが、みな真面目である。
「うん。宮田君は『うちなんてコンクールがある上に一応目標は全国出場とか掲げてたけど、それでも今まで全然気合入ってなかった。それに比べて器楽部ってそんなん関係なくみんな必死に練習してる』っていつも言ってたよ。
「え? 栄はそんな事言うてたんや?」
意外だった。吹奏楽部の部長が器楽部の事をそう見ていたとは今初めて知った。
「うん。『今回にしても全国経験者や力のある部員が器楽部から来たから、吹部の人たちもその気になったけど、それが無かったらいつものように気の抜けた部活だったやろう』って言って感心していた……というより感謝しながら羨ましがっていたかな?」
「そうなんやぁ……吹部は器楽部をそういう風にみていたんや」
「うん。私もそう思ってたもん」
と千恵蔵は意外なひとことを言った。
「え? そうなん?」
「うん。例えば恵子はこの一年で凄く上手になったと思うけど、どう? 藤崎君の教え子とちゃうん?」
恵子の上達ぶりは目を見張るものがあった。栄の言う通り『全国大会』という大きな目標がある訳でもないのに、彼女は必死に練習していた。
「うん確かに、恵子は一気に上手くなったと思う。でもそれは俺よりも琴葉や瑞穂がちゃんと教えていたからやで」
と千恵蔵に応えながら僕は、彩音さんから恵子の指導を任された時の事を思い出していた。
「うん。やってた」
「あの夜、器楽部の三年たちと卓球からの帰りに『今までの吹部とは思えん』って感動していたわ。あんな時間まで練習していたんやからな。哲也やないけど器楽部のみんな、コンクールに挑戦できる吹部が羨ましかったみたいやで」
と拓哉が冴子によって吹奏楽部に売られた夜の事を千恵蔵に話した。
「あんたら人が一生懸命練習している時にピンポンなんかしてたんや?」
と千恵蔵は眉間に皺を寄せて詰めて来た。
「え、いや……そこに卓球台があったから……言い出したんは大二郎やったし……」
まさかここで詰められるとは思ってもいなかったので僕は焦った。
「冗談やって」
と千恵蔵は笑った。
「驚かすなや。本気で焦ったやん」
「ごめんごめん。でも確かにあの時の吹部のみんなは真剣やったし必死やったと思う。でも吹部の人も器楽部の事を『凄い』って言っとったよ」
「え? どこが?」
と予想外の言葉に僕は聞き返した。このユルイ部活のどこに『凄い』要素があるというのだろう?
「だって吹部は『コンクールに出場して金を取る』とか『全国行くぞ!』とか明確な目標があるから、それに向けてみんな自分の技術を上げていくやん? 努力もできるやん? モチベーションもつけ易いやん。それに比べて器楽部ってそんなコンクールなんかないやん?」
「確かにないなぁ」
と僕は頷いた。
「なのに器楽部の部員って純粋に『上手くなりたい』ってだけで一生懸命やってるやん」
確かに千恵蔵の言う通りだった。
最初は『楽しみながらヴァイオリンを弾きたい』とか『なんとなくチェロやりたい』とかそんな軽い気持ちで入部した新入部員が、いつの間にか目の色を変えて真剣に『上手くなりたい』とか『合奏メンバーに選ばれたい』とか言って必死に練習している。
コンクールがある訳でもないのに……。
「純粋に『上手くなりたい』『いい音を響かせたい』って言うのが伝わってくるって宮田君とかが感心してたよ」
「そっかぁ……別に強制された訳でもないのになぁ……」
と千恵蔵に言われて初めて僕も気が付いた。
仮入部で辞めずに残った新入部員たちは、皆熱心に練習している。上達も早い。
何が新入部員たちのモチベーションの原動力になっているのかは分からないが、みな真面目である。
「うん。宮田君は『うちなんてコンクールがある上に一応目標は全国出場とか掲げてたけど、それでも今まで全然気合入ってなかった。それに比べて器楽部ってそんなん関係なくみんな必死に練習してる』っていつも言ってたよ。
「え? 栄はそんな事言うてたんや?」
意外だった。吹奏楽部の部長が器楽部の事をそう見ていたとは今初めて知った。
「うん。『今回にしても全国経験者や力のある部員が器楽部から来たから、吹部の人たちもその気になったけど、それが無かったらいつものように気の抜けた部活だったやろう』って言って感心していた……というより感謝しながら羨ましがっていたかな?」
「そうなんやぁ……吹部は器楽部をそういう風にみていたんや」
「うん。私もそう思ってたもん」
と千恵蔵は意外なひとことを言った。
「え? そうなん?」
「うん。例えば恵子はこの一年で凄く上手になったと思うけど、どう? 藤崎君の教え子とちゃうん?」
恵子の上達ぶりは目を見張るものがあった。栄の言う通り『全国大会』という大きな目標がある訳でもないのに、彼女は必死に練習していた。
「うん確かに、恵子は一気に上手くなったと思う。でもそれは俺よりも琴葉や瑞穂がちゃんと教えていたからやで」
と千恵蔵に応えながら僕は、彩音さんから恵子の指導を任された時の事を思い出していた。
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※この物語はフィクションです。
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