婚約者にフラれたので、復讐しようと思います

紗夏

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第3章 辞表は切り札に

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「一体全体何があったって言うんだ」

課長が珍しくうわずった声を上げる。


「あ、ここから先はプライベートな話なんで、まだご内密にお願いしたいんですが」
「おうよ。俺は頭は軽いが、口は堅い」

それって自慢できる人間性なのかな。けど、課長のことは、私も信頼している。


「実は宮本さんの方の都合で一方的に…」
「は? あいつから? 営業課一の高嶺の花むしり取っておいて? 本来なら、三顧の礼で恭しく迎えるべき花嫁だろ」
「や。そこは普通に嫁入りしたかったです。って、それは置いておいて。――実は他につき合ってる女性がいて、彼女との間に子どもが。宮本さんは責任感が強いので、そうなった以上は、私とは結婚出来ない、と」

私の話を聞いているうちに、課長の顔はみるみるうちに、厳しいものになる。


「その相手はお前も知ってる女か」

課長に親身に尋ねられて、私は小さく頷いた。


「この会社の中の人間、ってことか?」
「はい」
「宮本、ここに連れて来い! 俺が根性たたき直してやる!」

右手で固めた拳を左手で掴みながら、柏木課長はドスの効いた声をあげる。


「課長課長。社内で暴力はダメです」
「わーってるよ、冗談だ」

そうですか? 本気っぽかったけど。
いや。一発どころか、30発くらい本気パンチお見舞いしたいんですけどね。私も。


けど、暴力は何の解決にもならないから。


「ってーと…そうか、お前は会社にいづらいわな、やめたくもなるか」

流石社内きっての人情派。何も言わなくても、私の気持ちを察してくれる。


「宮本さんもやりにくいんじゃないかと思うんです…」

課長が代弁してくれたから、自分のことには触れず、敢えて、透の側からの意見を差し挟む。
こうすれば、ますます課長は透の方を下げる。


「あいつはいいんだ、やりにくかろうが何だろうが、自業自得だろ。そして、お前は何一つ悪いことはしていない。堂々としてりゃいい」
「……」

課長の言葉は、私の想像を遥かに越えて、ぶっきらぼうにあったかくて、昨日から、やさぐれてる心に、すーっと染み入ってきた。


「おわ、なんだ、お前泣いてるのか」

課長が私の顔を見て、幽霊でも見たかのように叫んだ。そして、慌てて自分のスラックスから、しわくちゃのハンカチを取り出す。


「わ、私も泣くつもりなんて、これっぽっちもなかったんです」

差し出された課長のハンカチはスルーして、私は指先で涙を拭った。


「いや、お前も女だったんだな…と思ってな」
「課長、それ別の意味で泣けてきます」
「ああ、悪い悪い。俺の唯一の欠点は口の悪さだな」

唯一? しかもそこ?
課長の見解には首を傾げてしまうけれど、今はそこは問題じゃない。


「そら辛いわな。生涯をともにすると約束した男に裏切られたんだもんな。よし! お前、今日から3日有給取れ」
「は?」
「傷心旅行でも何でもして来い。流石に今、元婚約者と机を並べて仕事するのはキツイだろ」
「……」

課長の気遣いはありがたい。けどそれは飽くまで一時凌ぎ。私は三日後の先の方が気になる。


この先も、透と同じ部署で働くのは嫌だ。




「けど来週には必ず戻ってこい。営業一課には、お前の力が必要だ。宮本は…今は人事異動の時期でもないから、すぐには無理だろうけれど、何処か他の部署に移ってもらうように、部長にも俺から、働きかけてみる」
「え」

願ったりかなったりの展開なのに、私は敢えて驚いた顔をして見せた。



「うちの会社は夫婦で同じ課への配属はない。どっちみち宮本は動かすつもりだった。それが少し早くなるだけだ」

透にあっけなくあっさりと「いらない」と捨てられたからだろうか。
必要としてもらえたのが嬉しい。



「課長~~」
「何だよ、マジ泣きすんなよ、メイク落ちるぞ。大体、お前、本気で会社やめるつもりなんて、これっぽっちもなかったろ」

親指と人差し指で輪っかを作って、課長はニヤリと笑った。
度合いを示すはずの親指と人差し指には、ほぼ隙間がない。



「…バレてました?」
「当たり前だ。いいよ、もう、今日は仕事しなくて。そのまま帰れ」

課長の言葉に甘えて、その日はメールのチェックと、外で取引先のバイヤーとの商談だけ済ませて、帰ることにした。


でも、もちろん傷心旅行なんて出かけない。
行きたいところも、やりたいこともたくさんある。

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