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第7章 運命の恋とか言われても、慰謝料は下げません
③
しおりを挟む「そんな…」
揉めるってのは、冴木さんに聞いていたから、ある程度は想定していた。
けど…。
「私にも原因があるってどういうことですか。一体何が…」
納得いかない、意味がわからない。
ついムキになって、冴木さんに突っかかってしまう。
「…どうやら、あなたに他に恋愛関係をにおわせる男がいた、って言いたいみたいよ、向うは」
「はあ?」
自分棚上げにして、何言っちゃってるの? 透。
私がそんなことするって本気で疑ってたの?
怒りを通り越して、悲しくなってくる。
「咲良ちゃん? 大丈夫?」
「…怒りに震えてますけど、大丈夫です」
「正直ね」と冴木さんはふふっと笑ってから。
「明日、夜時間空いてたら、うちの事務所に来れるかしら」
「八時過ぎても大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ああ、それと…」
「はい」
「この間は、智ちゃん押し付けて、ごめんなさいね。ありがとう」
突然、マスターの話を振られて、反応に困った。
「え、あ、いや…。あ! マスター、その後お加減は…」
「もうすっかり元気よ、月曜から店も開けてるわ」
「良かった」
気にはなってたんだけど。相変らず連絡先も知らないし、店に立ち寄る時間もなくて…。
「あ、じゃあ予定変更しない?」
「え?」
「明日、カフェバウムに夜8時…でどう?」
「わかりました」
快諾して電話を切った。
次の日、約束の時間よりちょっと早めに、マスターの店を訪れた。
「いらっしゃい…あ」
血色も戻り、声も張りと艶のあるいつもの美声のマスターが迎えてくれた。
「この間はありがとうございました。咲良さんの差し入れ助かりました」
カウンター席に座ると、マスターがこっそりお礼を言ってくれる。
「お元気になられたみたいで良かったです」
「そうそう、この間のお代を払ってなくて」
「そんなの要らないです! いつもお世話になってるし」
「でも…」
「本当大丈夫なので」
「じゃあ、今日は僕の奢りで」
「ありがとうございます」
コーヒーくらいなら、ごちそうになってもいいよね。
8時1分前に冴木さんが現れて、私はコーヒーごと席を移動する。
「これが向こうの事務所から送られてきた書類」
冴木さんが見せてくれた書類に目を通すと、昨日の電話の時の怒りが再燃してきた。
丁寧かつ専門用語を多用して、やたら小難しく言っているけれど、要は――
○私が上司と結託して、透を見下している
○その上司と私は親密で、上司と部下を越えた付き合いをしている疑いあり
○そのために透は疑心暗鬼になり、婚約自体も見直したくなった
○白井美雪と関係を持ったのは、そのことがあったからで、御園咲良が誠実かつ真摯に向き合っていれば、婚約破棄にはならなかった
言い訳と責任逃れに終始してるとしか思えない文章の羅列だった。
冴木さんがいなかったら、書類をライターで燃やしてたかもしれない。
「ひどい。こんなの全くの…」
事実無根。そう言おうとしたら、冴木さんが「わかってるから」って、優しく微笑んでくれる。
相手を包み込むような笑顔。やっぱりマスターと冴木さんは似てる。血が繋がってるからなのかな。
「まあ、これは明らかに相手にも罪をなすりつけて、慰謝料を少しでも減らそうって魂胆が見え見えだよね」
「…納得いかないです」
「うん。あなたの気持ちはもっともだと思う」
…と私に共感してくれてから、冴木さんは弁護士としての意見を言った。
「婚姻関係の破綻だとさ、お互い何年も一緒にいて、倦んで嫌になって…
ってパターンが多いから、諦めもつきやすいんだ。そもそも、努力で何とかなるものならとっくに修復してるだろうしね。
けど、婚約破棄は違う。たいていは一方的で突発的なのが多い。もう一方の気持ちは置き去り、または蔑ろにしてね」
「……」
まさに、今の私だ。
約束した未来を引きちぎられて、どうしていいかわからなくて、復讐という行為で自分の気持ちに折り合いをつけようとしている。
「つまり、まだ相手に想いを残してるケースが多い」
自分のことを言われたわけじゃないのに、気持を見透かされてるみたいで、どきっとなった。
「だからさ、徹底的に争いたくない、って人も多いんだ、実際。調停だ、裁判だ、ってなったら時間も掛かるしね」
「裁判なんてなるんですか?」
そこまでの事態は想定してなくて、私は冴木さんに確かめてしまう。
「ま、大体はその前に妥協点を見つけて、示談にするのが殆どだよ? でも、徹底的にやる道はちゃんとある。争うか妥協するか――あなた次第、ってこと」
冴木さんはそう言って、私の目をまじまじと見た。
どうする? そう選択を迫られてるも同じだった。
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