33 / 41
第7章 運命の恋とか言われても、慰謝料は下げません
④
しおりを挟む
「なんだか難しい話してますね」
ピンと張りつめた空気を割って入ったのは、低くて甘い声だった。
「マスター!」
冴木さんの話に集中していて、全く気が付かなかった。パスタ皿を2枚持ったマスターが、 私たちの席の脇に立っていた。
「智ちゃんも気になる?」
「咲良さんには幸せになってほしいですからね」
冴木さんがからかうのを、さらっと流してから、マスターはテーブルの上に二枚のお皿を置いた。
まん丸いお皿に盛りつけてあるのは、トマトソースの赤とアスパラの緑のコントラストが綺麗なパスタだった。
「…注文してないですよ?」
「この時間だと、お食事まだなんじゃないかと思いまして…。今度、ランチのメニューに加えようと思ってる夏限定パスタなんです。お味見してみてください」
「するする!」
言うが早いが、冴木さんはフォークを手にする。
「…あ、いつもありがとうございます」
冴木さんは身内だからいいだろうけど…私まで、ご相伴に預かっちゃっていいのかな。けど、食べないのはもっと失礼。
そう思って、私もフォークを取った。
トマトとアスパラ、それにチーズだけのシンプルなパスタは、味付けがあっさりしてるから、より素材のおいしさが引き立つ。
「マスター、おいしいです。おいしいものって、人を幸せにしますよね~」
そう言ったら、マスターはくすっと笑う。
「あ、今、私のこと、食い意地の張った単純な女だって思いました?」
「違いますよ。咲良さんは本当においしそうに食べるから、作り甲斐があるなあ、って」
「……」
やっぱり食い意地が張ってるってことなのでは…。いいんですけど。
「腹が減っては戦が出来ぬ! だからね。エネルギー充填するのは、いいことよ。ね?」
「…光さんはよりハングリーになって闘争心に火がつくだけのような気もしますけど」
「智ちゃん、ホント失礼だから」
そんなマスターと冴木さんの話を聞きながら、私は笑いを堪えきれなくなってしまう。
私のことを気に掛けてくれる人がいて、頼もしい人がついててくれる…。
「冴木さん、さっきのお話の返事ですが、私の気持ちでいいんですか?」
「うん、もちろん。弁護士はクライアントの意向に添うだけだからね」
透はきっと私の足元見てる。こんな風に言いがかりつけて、ごねれば、きっと折れて、争うくらいなら、妥協で構わない…そんな風に。
けど。私の目的と目標は最後まで、『私を振ったことを透に後悔させたい』だ。それが透への憎しみだろうが、未練だろうが、どうでもいいよ。
「だったら減額に応じるのは嫌です」
「うん。咲良ちゃんはそういうと思った」
「裁判とか…勝てます?」
「勝とうよ、――というより、この減額の要求自体、かなり稚拙で言い訳がましいよね」
うわ、きっつい。
「逆に言えばさ、こんなあるかないかもわかんないことを、理由づけにしなきゃいけない程、向うは困ってるんだよね。だから、裁判になるとは思ってないんじゃないかな」
「なるほど」
「光さん。あまり咲良さんを矢面に立たせるようなことはしないでくださいね。かつて愛した人と憎み合い、争い合うのは、精神的にも消耗しますから」
「はいはーい、わかってるって。智ちゃん心配症なんだから。ほら、仕事して仕事」
マスターの苦言を、光さんは適当に退ける。
マスターがテーブルを離れてから、光さんは私だけに言う。
「私が代理になって、一切元婚約者とは接触持たないようにすることも出来るからね」
「…でも」
「でも何?」
「私、やっぱり自分で透を叩きのめしたいんです」
本音を飾らずに言うと、冴木さんはぎゃははと大きな口を開けて笑った。
「智ちゃんが、あなたを私に紹介したのわかるわ~! そういう女の子、大好き」
「あはは…」
冴木さんにつられて、私も空笑いした。
冴木さんといると、なんだか何でも大丈夫な気がしてくる。
残ってたパスタを、私はフォークにぐるぐるに巻いて、ぱくっと食べた。
ピンと張りつめた空気を割って入ったのは、低くて甘い声だった。
「マスター!」
冴木さんの話に集中していて、全く気が付かなかった。パスタ皿を2枚持ったマスターが、 私たちの席の脇に立っていた。
「智ちゃんも気になる?」
「咲良さんには幸せになってほしいですからね」
冴木さんがからかうのを、さらっと流してから、マスターはテーブルの上に二枚のお皿を置いた。
まん丸いお皿に盛りつけてあるのは、トマトソースの赤とアスパラの緑のコントラストが綺麗なパスタだった。
「…注文してないですよ?」
「この時間だと、お食事まだなんじゃないかと思いまして…。今度、ランチのメニューに加えようと思ってる夏限定パスタなんです。お味見してみてください」
「するする!」
言うが早いが、冴木さんはフォークを手にする。
「…あ、いつもありがとうございます」
冴木さんは身内だからいいだろうけど…私まで、ご相伴に預かっちゃっていいのかな。けど、食べないのはもっと失礼。
そう思って、私もフォークを取った。
トマトとアスパラ、それにチーズだけのシンプルなパスタは、味付けがあっさりしてるから、より素材のおいしさが引き立つ。
「マスター、おいしいです。おいしいものって、人を幸せにしますよね~」
そう言ったら、マスターはくすっと笑う。
「あ、今、私のこと、食い意地の張った単純な女だって思いました?」
「違いますよ。咲良さんは本当においしそうに食べるから、作り甲斐があるなあ、って」
「……」
やっぱり食い意地が張ってるってことなのでは…。いいんですけど。
「腹が減っては戦が出来ぬ! だからね。エネルギー充填するのは、いいことよ。ね?」
「…光さんはよりハングリーになって闘争心に火がつくだけのような気もしますけど」
「智ちゃん、ホント失礼だから」
そんなマスターと冴木さんの話を聞きながら、私は笑いを堪えきれなくなってしまう。
私のことを気に掛けてくれる人がいて、頼もしい人がついててくれる…。
「冴木さん、さっきのお話の返事ですが、私の気持ちでいいんですか?」
「うん、もちろん。弁護士はクライアントの意向に添うだけだからね」
透はきっと私の足元見てる。こんな風に言いがかりつけて、ごねれば、きっと折れて、争うくらいなら、妥協で構わない…そんな風に。
けど。私の目的と目標は最後まで、『私を振ったことを透に後悔させたい』だ。それが透への憎しみだろうが、未練だろうが、どうでもいいよ。
「だったら減額に応じるのは嫌です」
「うん。咲良ちゃんはそういうと思った」
「裁判とか…勝てます?」
「勝とうよ、――というより、この減額の要求自体、かなり稚拙で言い訳がましいよね」
うわ、きっつい。
「逆に言えばさ、こんなあるかないかもわかんないことを、理由づけにしなきゃいけない程、向うは困ってるんだよね。だから、裁判になるとは思ってないんじゃないかな」
「なるほど」
「光さん。あまり咲良さんを矢面に立たせるようなことはしないでくださいね。かつて愛した人と憎み合い、争い合うのは、精神的にも消耗しますから」
「はいはーい、わかってるって。智ちゃん心配症なんだから。ほら、仕事して仕事」
マスターの苦言を、光さんは適当に退ける。
マスターがテーブルを離れてから、光さんは私だけに言う。
「私が代理になって、一切元婚約者とは接触持たないようにすることも出来るからね」
「…でも」
「でも何?」
「私、やっぱり自分で透を叩きのめしたいんです」
本音を飾らずに言うと、冴木さんはぎゃははと大きな口を開けて笑った。
「智ちゃんが、あなたを私に紹介したのわかるわ~! そういう女の子、大好き」
「あはは…」
冴木さんにつられて、私も空笑いした。
冴木さんといると、なんだか何でも大丈夫な気がしてくる。
残ってたパスタを、私はフォークにぐるぐるに巻いて、ぱくっと食べた。
2
あなたにおすすめの小説
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
サバ読み令嬢の厄介な婚約〜それでも学園生活を謳歌します!〜
本見りん
恋愛
療養中の体の弱い伯爵令嬢と、4つ年上の庶子の姉。
シルビア マイザー伯爵令嬢は生まれつき体が弱かった。そんな彼女には婚約者がおり、もうすぐ学園にも通う予定だったが……まさかの駆け落ち。
侯爵家との政略結婚を断れない伯爵家。それまで病弱で顔の知られていなかった妹の代わりに隠された庶子の姉フィーネがその身代わりになり学園に通うことに……。
まさかの4歳もサバを読んで。
───王立学園での昼下がり、昼食の後お喋りに花を咲かせる令嬢たち。
「───シルビア様は、本当に大人びて……いえ、……落ち着いていらっしゃるわねぇ」
「ま、まあ……。そうですかしら? うふふ?」
……そりゃ、そうですわよね。
だって本当は私、貴女方より4歳も年上なんですもの……!
今日もフィーネは儚げな笑顔(演技)で疑惑を躱しつつ、学園生活を楽しむ。しかしそんな彼女の婚約者は……。
サバ読み令嬢の、厄介な婚約の物語
私が生きていたことは秘密にしてください
月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。
見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。
「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる