婚約者にフラれたので、復讐しようと思います

紗夏

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第7章 運命の恋とか言われても、慰謝料は下げません

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「なんだか難しい話してますね」

ピンと張りつめた空気を割って入ったのは、低くて甘い声だった。


「マスター!」

冴木さんの話に集中していて、全く気が付かなかった。パスタ皿を2枚持ったマスターが、 私たちの席の脇に立っていた。


「智ちゃんも気になる?」
「咲良さんには幸せになってほしいですからね」

冴木さんがからかうのを、さらっと流してから、マスターはテーブルの上に二枚のお皿を置いた。

まん丸いお皿に盛りつけてあるのは、トマトソースの赤とアスパラの緑のコントラストが綺麗なパスタだった。

「…注文してないですよ?」
「この時間だと、お食事まだなんじゃないかと思いまして…。今度、ランチのメニューに加えようと思ってる夏限定パスタなんです。お味見してみてください」
「するする!」

言うが早いが、冴木さんはフォークを手にする。


「…あ、いつもありがとうございます」

冴木さんは身内だからいいだろうけど…私まで、ご相伴に預かっちゃっていいのかな。けど、食べないのはもっと失礼。

そう思って、私もフォークを取った。

トマトとアスパラ、それにチーズだけのシンプルなパスタは、味付けがあっさりしてるから、より素材のおいしさが引き立つ。


「マスター、おいしいです。おいしいものって、人を幸せにしますよね~」

そう言ったら、マスターはくすっと笑う。

「あ、今、私のこと、食い意地の張った単純な女だって思いました?」
「違いますよ。咲良さんは本当においしそうに食べるから、作り甲斐があるなあ、って」
「……」

やっぱり食い意地が張ってるってことなのでは…。いいんですけど。


「腹が減っては戦が出来ぬ! だからね。エネルギー充填するのは、いいことよ。ね?」
「…光さんはよりハングリーになって闘争心に火がつくだけのような気もしますけど」
「智ちゃん、ホント失礼だから」

そんなマスターと冴木さんの話を聞きながら、私は笑いを堪えきれなくなってしまう。


私のことを気に掛けてくれる人がいて、頼もしい人がついててくれる…。


「冴木さん、さっきのお話の返事ですが、私の気持ちでいいんですか?」
「うん、もちろん。弁護士はクライアントの意向に添うだけだからね」

透はきっと私の足元見てる。こんな風に言いがかりつけて、ごねれば、きっと折れて、争うくらいなら、妥協で構わない…そんな風に。


けど。私の目的と目標は最後まで、『私を振ったことを透に後悔させたい』だ。それが透への憎しみだろうが、未練だろうが、どうでもいいよ。



「だったら減額に応じるのは嫌です」
「うん。咲良ちゃんはそういうと思った」
「裁判とか…勝てます?」
「勝とうよ、――というより、この減額の要求自体、かなり稚拙で言い訳がましいよね」

うわ、きっつい。

「逆に言えばさ、こんなあるかないかもわかんないことを、理由づけにしなきゃいけない程、向うは困ってるんだよね。だから、裁判になるとは思ってないんじゃないかな」
「なるほど」
「光さん。あまり咲良さんを矢面に立たせるようなことはしないでくださいね。かつて愛した人と憎み合い、争い合うのは、精神的にも消耗しますから」
「はいはーい、わかってるって。智ちゃん心配症なんだから。ほら、仕事して仕事」

マスターの苦言を、光さんは適当に退ける。
マスターがテーブルを離れてから、光さんは私だけに言う。

「私が代理になって、一切元婚約者とは接触持たないようにすることも出来るからね」
「…でも」
「でも何?」
「私、やっぱり自分で透を叩きのめしたいんです」

本音を飾らずに言うと、冴木さんはぎゃははと大きな口を開けて笑った。


「智ちゃんが、あなたを私に紹介したのわかるわ~! そういう女の子、大好き」
「あはは…」

冴木さんにつられて、私も空笑いした。



冴木さんといると、なんだか何でも大丈夫な気がしてくる。
残ってたパスタを、私はフォークにぐるぐるに巻いて、ぱくっと食べた。


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