三ヶ月間の両思い

ろむこ

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第十話

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「小さな女の子が、声もあげずにはらはらと泣きながら、『絵ばかり描いているわたくしは悪い子なのです。わたくしが絵を描いていると、周りの皆が困るのです。誰も褒めてなどくれないのです』と言うんだ。私に芸術のことはわからなかったけど、エルノワが描いていた絵は格好良いとあの時思ったんだよ。悪い子だなんて、言わせたくなかった」



   自分より小さな女の子を泣かせてしまって動揺したヴァイン様は、なんとか泣き止ませようとしたらしい。



「泣かないで、意地悪したいんじゃないよ、どうしたら泣きやんでくれる?と言ったらね。君はこう言ったんだ」



「「絵を描けば止まるから」」



   そう、これはフロスティ家では幼いエルノワが癇癪を起こした時の一番のあやし方だったのだ。



「はははっ!そんなに定番なのかい?フロスティ子爵殿と話した時も、エルノワが泣いたり怒ったりした時はペンと画用紙を渡せば解決すると言っていたよ。今も必要かい?私の奥さん」



「もう、大丈夫ですわ。それにわたくしが描きはじめると夢中になってしまって。しばらくはお話しも出来なくなってしまいますわ」



「ははは!それは寂しいな。でも嬉しいよ。エルノワは何も変わっていないね。だがとても美しく可愛らしくなっていて、そして私の奥さんなんだ。素晴らしいね!」



   喜んだヴァイン、しかし、笑った勢いからか咳が一つこぼれたと思ったら、ゴホゴホと続けて咳をが出て止まらなくなった。



「ヴァイン様!」



エルノワがヴァインの背中に手を出し伸ばしさすろうとすると、ヴァインが片手を挙げてそれを制す。



「触ら……ゴホッ、触らない、でっゴホゴホ、万が一にも、君に、病をプレゼント、したく、ないんだっゴホゴホ」



人を呼んで参りますと声をかけ、扉の外に控えている侍女達を呼ぶ。



慣れた様子でヴァインの身の回りの世話をする侍女達。

エルノワはその場にただ立ち尽くすしか出来なかった。



「奥様、申し訳ありませんが外へ」



と退出を促す侍女に、「待って」とヴァインが声をかける。



ふー、と大きく呼吸をしてから、



「驚かせてしまって、すまない。本当に、ままならない身体だ……。君も長旅で疲れているだろうにすまなかった。ゆっくり休んで欲しい」



「お気遣いありがとうございます。ヴァイン様、ご無理なさらないで下さいませね」



「エルノワ、こちらへ」



呼ばれてヴァインに近づくと、手を伸ばされた。



「少し、手を貸して?左手」



言われた通り左手を差し出すと、やつれた手で、大事なものを扱うようにそうっと支える。



手袋の上からでもわかる左手薬指の指輪の膨らみに、



「指輪、付けてくれているんだね。嬉しいよ」



ととても嬉しそうに、でも少し泣きそうな顔で笑う。
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