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番外編 ある女の事情
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とある子沢山の木こりの長女。
家族は貧しくとも仲は良かったように思う。毎日をただ必死に生きていた。身体が女らしく成長すると、村の男がちょっかいを掛けてくるようになった。最初は断っていいのかわからず、身を任せていたら、そのうちお金がもらえるようになった。
狭い村だ。妻子持ちが居て、奥さんにバレて刺されそうになった。
アタシが誘惑したわけじゃない。
断らないのは罪なのか?
断れる立場にないのが罪なのか?
食い扶持は少ない方がいい。弟妹もこんな姉が居ては肩身が狭い。家を出た。街に出て、住み込みで酒場で働きながら、時々身体も売った。
フロアで客に声を掛けられて、気に入ったら自分の部屋でしけこむ。そういう類の店だから、店主にも分け前は必要だけど、気が乗らなければ断れるし、気楽だった。
その日暮らしで先の事などわからない。いつかこんなアタシでも誰かと家庭を築く事ができるだろう。みんなそうしてるように。
この人となら、もしかして、、、そう信じて妊娠した。
結婚すると言っていた男は逃げてしまった。どっかの夢見がちな金持ちの息子だったらしいが、高望みはするもんじゃなかったようだ。
1人で子どもを産んだ。女の子だった。弟妹の世話をしてきたから、まぁまぁ何とかなったが、自分が産んで育てるのは想像より身体がきつかった。
酒場に、赤子を背負いながら出る。男は取らなくなった。収入は減ったが、蓄えも少しあるから、贅沢しなければ何とかなる。
背中にずしりと重みを感じる。生きる意味を得たような、楔が出来て煩わしいような、時に不自由に苛立ち、時に愛しさを感じた。
子どもがチョコチョコと歩くようになった。にこにこと、かわいい子だ。アタシに似てる。
ある日、酒場でお母さんに似て別嬪になるぞと言われ、娘は嬉しそうに笑った。何故かわからないが、胸がざわついた。
話ができるようになると、部屋で待てるようになったので、酒場には連れて行かなくなった。また男の誘いを受けるようになったが、客を取る日は、子どもは物置部屋に居させるようにした。
酒場で誘われるのが減ってきた頃、馴染みの男が働く屋敷で、働き手を探しているからどうかと誘われた。
ボロい小屋だけど、子どもと2人で過ごす部屋も貰えるという。ここよりかはいいだろう。
誘いに乗る事にした。
意外にも男はその屋敷でそれなりの地位に居て、男の機嫌さえ取っていれば生活は安定していた。
ただ、彼は生活時間が不規則で、呼ばれたら相手をしなくてはいけない。そんなことだから、家庭を持つ気も無いという。
屋敷の使用人の中にも、そんな後腐れない関係を持てる女に、声を掛けてくる男は居たが、全て笑顔で聞き流していた。
女の使用人には妬まれているようだが、それなりの地位に居る男に睨まれたくないだろうから、アタシには直接手を出すことは出来ない。子どもが心配だ。
子どもは私に似てる。わざと男の子と間違えられるようなボロいブカブカの服を着せた。わざと汚く、人が寄り付かない仕事をさせた。
子どもと2人で小屋で居る時は穏やかでいい。この屋敷に来てから、子どもは随分と大人しくあまり話す事も無くなった。どこへ行っても、アタシがこんなだから、自分で身を守れるようになるまでは、目立たない方がいい。
下手に目立って、変な奴に襲われたら、アタシのようになってしまう。それだけは嫌だ。
娘がこの屋敷の坊ちゃんに、気に入られている事を知り愕然とした。もう、娘は初潮もきてしまった。益々、目立たないよう汚い格好をさせていたのに。何故、目をつけられたのだろう。
いつものように事を済ませて、ベッドの中でゆっくりしていると、男が言う。
母娘して、うまくやったなと。坊ちゃんは馬鹿だから、本気でお前の娘と結婚するつもりだよ、と。まぁ流石に正妻にするのは旦那様が許さないだろうから、愛人として置いてくれるだろう。お前も安泰だなと。
ゾッとした。娘まで、アタシのように男に媚を売って娼婦と呼ばれるようになるのか。
男に辞めると告げ、屋敷を出ていくと娘に言うと、娘は泣いた。坊ちゃんと別れるのは嫌だと。驚いた。
豚のように太ったダメ息子のどこにそんな魅力があるというのか。騙されていると思った。
屋敷を出て行くとき、振り返ると、窓から見つめる彼は泣いていたようだ。そして、娘も泣いていた。
屋敷を出て、ひとまず住み込みの家事の仕事を探すことにした。雇われた先の主人は、奥さんを亡くして途方に暮れていた。こんな風に愛されていた奥さんは幸せだったろうと思った。
身体を売る事もなく働き、自分がまともになった気がした。
数年、働いていると後妻にどうかと打診された。前妻とは子どもがおらず、娘を本当の子どもにしたいと。家族になりたいと言ってくれた。
アタシももうそれなりの歳になった。激しい性愛はもうウンザリで、歳上の夫と穏やかな安定を手に入れた。
娘は頭がよく、後継者教育にも問題が無くほっとした。そこはアタシに似なかったらしい。
問題があるとしたら、娘が彼氏と言って連れてくるのが、小太りの冴えない男ばかりなこと。そして長続きしないで別れてしまうこと。
あの屋敷を出たのが間違いだとは思わない。思わないが…。
夫はそれなりの歳だから、孫が早く見たいと言う。アタシはエヴァが幸せになってくれれば、何でもいいけど。
娘が結婚すると連れて来た男を見て、これが運命というものなのだな、と感慨深く思ったのだった。
家族は貧しくとも仲は良かったように思う。毎日をただ必死に生きていた。身体が女らしく成長すると、村の男がちょっかいを掛けてくるようになった。最初は断っていいのかわからず、身を任せていたら、そのうちお金がもらえるようになった。
狭い村だ。妻子持ちが居て、奥さんにバレて刺されそうになった。
アタシが誘惑したわけじゃない。
断らないのは罪なのか?
断れる立場にないのが罪なのか?
食い扶持は少ない方がいい。弟妹もこんな姉が居ては肩身が狭い。家を出た。街に出て、住み込みで酒場で働きながら、時々身体も売った。
フロアで客に声を掛けられて、気に入ったら自分の部屋でしけこむ。そういう類の店だから、店主にも分け前は必要だけど、気が乗らなければ断れるし、気楽だった。
その日暮らしで先の事などわからない。いつかこんなアタシでも誰かと家庭を築く事ができるだろう。みんなそうしてるように。
この人となら、もしかして、、、そう信じて妊娠した。
結婚すると言っていた男は逃げてしまった。どっかの夢見がちな金持ちの息子だったらしいが、高望みはするもんじゃなかったようだ。
1人で子どもを産んだ。女の子だった。弟妹の世話をしてきたから、まぁまぁ何とかなったが、自分が産んで育てるのは想像より身体がきつかった。
酒場に、赤子を背負いながら出る。男は取らなくなった。収入は減ったが、蓄えも少しあるから、贅沢しなければ何とかなる。
背中にずしりと重みを感じる。生きる意味を得たような、楔が出来て煩わしいような、時に不自由に苛立ち、時に愛しさを感じた。
子どもがチョコチョコと歩くようになった。にこにこと、かわいい子だ。アタシに似てる。
ある日、酒場でお母さんに似て別嬪になるぞと言われ、娘は嬉しそうに笑った。何故かわからないが、胸がざわついた。
話ができるようになると、部屋で待てるようになったので、酒場には連れて行かなくなった。また男の誘いを受けるようになったが、客を取る日は、子どもは物置部屋に居させるようにした。
酒場で誘われるのが減ってきた頃、馴染みの男が働く屋敷で、働き手を探しているからどうかと誘われた。
ボロい小屋だけど、子どもと2人で過ごす部屋も貰えるという。ここよりかはいいだろう。
誘いに乗る事にした。
意外にも男はその屋敷でそれなりの地位に居て、男の機嫌さえ取っていれば生活は安定していた。
ただ、彼は生活時間が不規則で、呼ばれたら相手をしなくてはいけない。そんなことだから、家庭を持つ気も無いという。
屋敷の使用人の中にも、そんな後腐れない関係を持てる女に、声を掛けてくる男は居たが、全て笑顔で聞き流していた。
女の使用人には妬まれているようだが、それなりの地位に居る男に睨まれたくないだろうから、アタシには直接手を出すことは出来ない。子どもが心配だ。
子どもは私に似てる。わざと男の子と間違えられるようなボロいブカブカの服を着せた。わざと汚く、人が寄り付かない仕事をさせた。
子どもと2人で小屋で居る時は穏やかでいい。この屋敷に来てから、子どもは随分と大人しくあまり話す事も無くなった。どこへ行っても、アタシがこんなだから、自分で身を守れるようになるまでは、目立たない方がいい。
下手に目立って、変な奴に襲われたら、アタシのようになってしまう。それだけは嫌だ。
娘がこの屋敷の坊ちゃんに、気に入られている事を知り愕然とした。もう、娘は初潮もきてしまった。益々、目立たないよう汚い格好をさせていたのに。何故、目をつけられたのだろう。
いつものように事を済ませて、ベッドの中でゆっくりしていると、男が言う。
母娘して、うまくやったなと。坊ちゃんは馬鹿だから、本気でお前の娘と結婚するつもりだよ、と。まぁ流石に正妻にするのは旦那様が許さないだろうから、愛人として置いてくれるだろう。お前も安泰だなと。
ゾッとした。娘まで、アタシのように男に媚を売って娼婦と呼ばれるようになるのか。
男に辞めると告げ、屋敷を出ていくと娘に言うと、娘は泣いた。坊ちゃんと別れるのは嫌だと。驚いた。
豚のように太ったダメ息子のどこにそんな魅力があるというのか。騙されていると思った。
屋敷を出て行くとき、振り返ると、窓から見つめる彼は泣いていたようだ。そして、娘も泣いていた。
屋敷を出て、ひとまず住み込みの家事の仕事を探すことにした。雇われた先の主人は、奥さんを亡くして途方に暮れていた。こんな風に愛されていた奥さんは幸せだったろうと思った。
身体を売る事もなく働き、自分がまともになった気がした。
数年、働いていると後妻にどうかと打診された。前妻とは子どもがおらず、娘を本当の子どもにしたいと。家族になりたいと言ってくれた。
アタシももうそれなりの歳になった。激しい性愛はもうウンザリで、歳上の夫と穏やかな安定を手に入れた。
娘は頭がよく、後継者教育にも問題が無くほっとした。そこはアタシに似なかったらしい。
問題があるとしたら、娘が彼氏と言って連れてくるのが、小太りの冴えない男ばかりなこと。そして長続きしないで別れてしまうこと。
あの屋敷を出たのが間違いだとは思わない。思わないが…。
夫はそれなりの歳だから、孫が早く見たいと言う。アタシはエヴァが幸せになってくれれば、何でもいいけど。
娘が結婚すると連れて来た男を見て、これが運命というものなのだな、と感慨深く思ったのだった。
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