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2章「vs後輩」_18話
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訓練が始まってから、なんと2時間が経過した。
アンジュと交戦を続けるのはたった1人。
期待の新人、ダンケだ。
アルフレードやウィリアムから聞いた話によると、彼は鬼種と人間のハーフだと言う。鬼は確かに力が強い種族だが、一撃で結界を壊す力を有する者は少ない。他の訓練生が戦闘不能となり、中庭に2人だけになってから上がったパワーは段違いだ。
一撃、一蹴り。まるで隕石が落ちてくる勢いだ。
攻撃を避ける度に、衝撃を代わりに受ける地面はヒビ割れている。期待されていても、彼は1年生。まだ16歳。
手加減しているとはいえ、2時間も奮闘するとはアンジュは思ってもいなかった。
(なんて素晴らしい)
アンジュは使っていた武器を捨て、素手で彼と戦っている。
「ふんッッッ!」
振り下ろされた拳を横に流す。正面から受ければ流石に身体は痺れ、酷い打ち傷を負うってしまう。下手をすれば骨にヒビが入る恐れがある。慎重に丁寧に動きを読み、躱しては反撃を繰り返した。
殴る、蹴る、掴む、投げる。
避ける、弾く、逃げる、打つ。
ダンケの動きは読みやすかった。最初は繰り出していた格闘技や魔術も今は一切使わず、怪力を生かした拳と蹴りで攻めてくる。
(ワザと?癖?………いや)
「君はなぜ強くなろうとする?その力を持って、何をしたい」
アンジュはダンケに問いかけた。
彼が力で攻めてくるのは、訳があるはずだとアンジュは考えた。
それも、かなり個人的な理由が。
ダンケは笑った。
新しいおもちゃを与えられた、子供のような輝く笑顔だ。
「何も!ただ存分に力を振るえる場所が、相手が欲しいのです!」
あぁ、やはり。アンジュはすぐさま納得する。結界を壊すほどの力を、日頃使う機会はない。毎日倒れ込んでしまう軍の訓練であってもだ。満足に発散できないばかりか、周囲に相当気を使い、力を抑えて過ごしている可能性が高いと睨んだ通りだ。
ダンケにとって、アンジュはようやく現れた救世主なのだ。力を込めても、込めても、壊れない。自分を叩きのめすことができる人物。彼は力を存分に振るえることに、快楽を感じていた。
「わかるよ、わかる。力は楽しい。暴れるたのしみを私も知っている」
彼が抱く感情に、アンジュにも覚えがある。
飛躍した能力を駆使して、領地を駆け巡り、大魔獣を倒し、元同期を全て倒した。湧き上がる高揚、興奮。達成感、爽快感は得難い瞬間である。
誰も傷つけないよう、何にも触れないようにしている時間は特訓でこもっていた1年間よりも長く、苦しく感じる時がある。
否定しない、できない。してはいけない。
間違いなく己を構成する1つの側面だからだ。
「けどそれだけじゃ虚しい。力はあるだけで、何も寄り添ってはくれない」
「だから貴女は力を隠すのですか。素晴らしい力を持っていながら。1人は嫌だと、子供のような理屈で!」
地面に響く揺れは、彼の心の咆哮か。言葉の端々から感じ取れる、不満不服。
彼はさらに吼える。
「寂しさも、孤高も、力があるものの特権です!誰か、何か…うんざりだ。我々のような存在には窮屈なだけではないですか…!!!」
ドッンッッッ!!!
今日1番の力が込められたダンケの拳を、アンジュは正面から受け止めた。
「…君、1人っ子だな?」
力は結局自分自身だ。
力に依存すればするほど、自分で自分を抱きしめている状況になる。
1人だからこそ気ままに振る舞える自由さは魅力だが、誰かから与えられる温かみを、柔らかさをアンジュは身に染みている。
兄弟、母親、父母方の祖父母たち。ポエテランジェに、彼女の夫、子供たち。親友らに、領地の人々、精霊に動物たち…。アンジュを認めてくれる者は沢山いる。彼らはどこまでもアンジュに寄り添う。窮屈なんてものじゃない。逃げ場すらない。
結局アンジュはまだ、多くの人の温もりの中で生きている。
「窮屈さは、私にとって平和の象徴。大事なものを守るためなら、私は幾らでも隠すとも」
今では婚約者もいる。
勿体無いぐらい素敵で、かっこよくて、けれど情けないところもある、尊敬できる人。アンジュ・ブルナーの最高の推しで、自慢の婚約者が。
「けど、気が変わったよ。もっと、欲深くなろうと思う」
ダンケは首を傾げる。全く理解していない様子に、アンジュは苦笑いする。それはそうだ。個人的な話をしてしまった。聞いて欲しい気持ちもあるが、呆れるほど長い話になる。この場では、相応しくない。
「ダンケ。力に振り回されれば、身動きが取れなくなるぞ。我々は力からも、自由でいなければならない。力も道具の1つにしか過ぎないんだ。制約あって、ようやく役割を与えることができる。誰か、何か。本当はもう、分かっているだろう?」
アンジュは拳を握る。魔力、能力の制限を3割まで解放し、全ての力を右の拳、一点に集中させる。
ダンケは鳥肌が立つ。避けろ!逃げろ!と頭の中でうるさく繰り返される者身体が動けない。
「また挑んで来い。窮屈な世界でも、その空は美しいと教えてあげよう」
アンジュはダンケの鳩尾に拳を打ち込んだ。
衝撃に意識を飛ばしたダンケは、膝をついた。身体は傾いていき、巨体は仰向けにゆっくりと倒れゆく。
中庭に沈黙が流れる。
2時間ぶりの静寂だ。
審判を務めていたツキヨは、カウントダウンを始める。
「……3、2、1、0。特別訓練終了!」
特別訓練はアンジュの勝利で幕を下ろした。
アンジュと交戦を続けるのはたった1人。
期待の新人、ダンケだ。
アルフレードやウィリアムから聞いた話によると、彼は鬼種と人間のハーフだと言う。鬼は確かに力が強い種族だが、一撃で結界を壊す力を有する者は少ない。他の訓練生が戦闘不能となり、中庭に2人だけになってから上がったパワーは段違いだ。
一撃、一蹴り。まるで隕石が落ちてくる勢いだ。
攻撃を避ける度に、衝撃を代わりに受ける地面はヒビ割れている。期待されていても、彼は1年生。まだ16歳。
手加減しているとはいえ、2時間も奮闘するとはアンジュは思ってもいなかった。
(なんて素晴らしい)
アンジュは使っていた武器を捨て、素手で彼と戦っている。
「ふんッッッ!」
振り下ろされた拳を横に流す。正面から受ければ流石に身体は痺れ、酷い打ち傷を負うってしまう。下手をすれば骨にヒビが入る恐れがある。慎重に丁寧に動きを読み、躱しては反撃を繰り返した。
殴る、蹴る、掴む、投げる。
避ける、弾く、逃げる、打つ。
ダンケの動きは読みやすかった。最初は繰り出していた格闘技や魔術も今は一切使わず、怪力を生かした拳と蹴りで攻めてくる。
(ワザと?癖?………いや)
「君はなぜ強くなろうとする?その力を持って、何をしたい」
アンジュはダンケに問いかけた。
彼が力で攻めてくるのは、訳があるはずだとアンジュは考えた。
それも、かなり個人的な理由が。
ダンケは笑った。
新しいおもちゃを与えられた、子供のような輝く笑顔だ。
「何も!ただ存分に力を振るえる場所が、相手が欲しいのです!」
あぁ、やはり。アンジュはすぐさま納得する。結界を壊すほどの力を、日頃使う機会はない。毎日倒れ込んでしまう軍の訓練であってもだ。満足に発散できないばかりか、周囲に相当気を使い、力を抑えて過ごしている可能性が高いと睨んだ通りだ。
ダンケにとって、アンジュはようやく現れた救世主なのだ。力を込めても、込めても、壊れない。自分を叩きのめすことができる人物。彼は力を存分に振るえることに、快楽を感じていた。
「わかるよ、わかる。力は楽しい。暴れるたのしみを私も知っている」
彼が抱く感情に、アンジュにも覚えがある。
飛躍した能力を駆使して、領地を駆け巡り、大魔獣を倒し、元同期を全て倒した。湧き上がる高揚、興奮。達成感、爽快感は得難い瞬間である。
誰も傷つけないよう、何にも触れないようにしている時間は特訓でこもっていた1年間よりも長く、苦しく感じる時がある。
否定しない、できない。してはいけない。
間違いなく己を構成する1つの側面だからだ。
「けどそれだけじゃ虚しい。力はあるだけで、何も寄り添ってはくれない」
「だから貴女は力を隠すのですか。素晴らしい力を持っていながら。1人は嫌だと、子供のような理屈で!」
地面に響く揺れは、彼の心の咆哮か。言葉の端々から感じ取れる、不満不服。
彼はさらに吼える。
「寂しさも、孤高も、力があるものの特権です!誰か、何か…うんざりだ。我々のような存在には窮屈なだけではないですか…!!!」
ドッンッッッ!!!
今日1番の力が込められたダンケの拳を、アンジュは正面から受け止めた。
「…君、1人っ子だな?」
力は結局自分自身だ。
力に依存すればするほど、自分で自分を抱きしめている状況になる。
1人だからこそ気ままに振る舞える自由さは魅力だが、誰かから与えられる温かみを、柔らかさをアンジュは身に染みている。
兄弟、母親、父母方の祖父母たち。ポエテランジェに、彼女の夫、子供たち。親友らに、領地の人々、精霊に動物たち…。アンジュを認めてくれる者は沢山いる。彼らはどこまでもアンジュに寄り添う。窮屈なんてものじゃない。逃げ場すらない。
結局アンジュはまだ、多くの人の温もりの中で生きている。
「窮屈さは、私にとって平和の象徴。大事なものを守るためなら、私は幾らでも隠すとも」
今では婚約者もいる。
勿体無いぐらい素敵で、かっこよくて、けれど情けないところもある、尊敬できる人。アンジュ・ブルナーの最高の推しで、自慢の婚約者が。
「けど、気が変わったよ。もっと、欲深くなろうと思う」
ダンケは首を傾げる。全く理解していない様子に、アンジュは苦笑いする。それはそうだ。個人的な話をしてしまった。聞いて欲しい気持ちもあるが、呆れるほど長い話になる。この場では、相応しくない。
「ダンケ。力に振り回されれば、身動きが取れなくなるぞ。我々は力からも、自由でいなければならない。力も道具の1つにしか過ぎないんだ。制約あって、ようやく役割を与えることができる。誰か、何か。本当はもう、分かっているだろう?」
アンジュは拳を握る。魔力、能力の制限を3割まで解放し、全ての力を右の拳、一点に集中させる。
ダンケは鳥肌が立つ。避けろ!逃げろ!と頭の中でうるさく繰り返される者身体が動けない。
「また挑んで来い。窮屈な世界でも、その空は美しいと教えてあげよう」
アンジュはダンケの鳩尾に拳を打ち込んだ。
衝撃に意識を飛ばしたダンケは、膝をついた。身体は傾いていき、巨体は仰向けにゆっくりと倒れゆく。
中庭に沈黙が流れる。
2時間ぶりの静寂だ。
審判を務めていたツキヨは、カウントダウンを始める。
「……3、2、1、0。特別訓練終了!」
特別訓練はアンジュの勝利で幕を下ろした。
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