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第36話 〝封印の祠〟
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地底湖を後にした二人は奥へ奥へと進んでいく。
途中何度か似たようなドーム状の空間に出くわしたが、どれも地底湖があった空間よりは狭く、特筆すべき点は何もないただの空間だった。
さながら、主の居なくなったアリの巣にでも迷い込んだような気分になりながら、二人は尚も進む。
――そして。
二人はそれまでにないほどの広大な空間へと辿り着いた。
ドーム状の広間ではなく、角張った部屋といった方が最適なその空間は、他と比べれば符の枚数は多かったが、魔素が切れかかっているのかどこよりも薄暗い。
ルーイとて、ここまで潜るのは半年に一度か二度といった頻度で、ほとんど放置されている場所だった。
その空間の中心に佇んでいるソレ。
「アレだ。アレが〝封印の祠〟」
「アレが……」
祠にしては大きめだろう。
社殿は木祠で切妻屋根を携えている。注連縄とルーン文字で埋め尽くされた紙垂が、ありふれた祠とは一線を画すようにも見えるが、素人のルーイには当を付けることしか出来なかった。
その祠を中心に置き、ぐるりと環状の魔術方陣が敷かれている。
いつから展開されているのか分からない魔術方陣には、神々しさと禍々しさが同居しており、魔素が切れることもなく薄ぼんやりとした紫色の光を放っている。
そして、祠の正面。
硬い石の地面に木の棒が一本、場違いに突き刺さっていた。
素人が見ても只事ではない祠と魔術方陣、そして木の棒。
それらを今まで何度となく見てきたルーイは、平時と何も変わらずに軽い口調で言う。
「さて、ようやく辿り着いたわけだが、どれくらいかかる見込みなんだ?」
「………………」
「クレハ?」
黙り込んでいるクレハの顔を覗き込む。
「……あっ……そうですね。そうそう来られるわけではないので念入りに見ておきたいです。……一時間では済みそうにないですが、よろしいですか」
「かまわねぇよ。どうせ遅くなってるんだし、気が済むまで調べてくれ」
そう言ってルーイは薄暗い空間に明かりを確保するため、符に魔素を込め直す作業に移ろうとしていると、
「……ルーイ様」
「ん?」
クレハが声を掛けた。
「あの魔術方陣と木の棒と思しき物は……」
「んなのオレが知ってるわけないだろ。……っていうか、それも含めて調べに来たんじゃないのか?」
「え? ……っえぇ、そうでしたね」
歯切れの悪い台詞を訝しんだルーイが問いかける。
「何か気になることでもあるのか?」
「いえ……初めて〝封印の祠〟をこの目で見たので驚いただけです」
「それもそうか」
明らかに動揺しているクレハに首を傾げつつ、ルーイは符に魔素を込めて廻る。
魔素が補充された符は輝きを取り戻していく。
ぐるりと部屋を回り、全ての符に魔素を込め終えたルーイは、近くの適当な岩に腰を下ろした。
そして、今まで一体どこに隠し持っていたのか、分厚いハードカバーの本まで取り出した。どうやらクレハが調査に勤しんでいる間は、読書で時間を潰す気らしい。
それを傍観していたクレハもようやく動き出す。
「………………」
一度深呼吸をし、内心の動揺を一緒に吐き出して気持ちを切り替える。
まずは、祠を取り囲んでいる魔術方陣の解読を試みようと地に膝をついた。
ルーン文字と馴染みのない記号が織り交ぜられた不可思議な魔術方陣。魔術に長けたクレハも初めて見る代物。
ただ、この記号には見覚えがあった。
「神聖文字……」
神話の時代、神々が記していたとされる神聖文字に関する情報は少ない。
なにせ数千年も前の話だ。いくら文献を漁ろうと、資料を読み解こうと、神聖文字に関する記述はほとんど残されていなかった。
(ビオラ様なら解読出来るはず……っていうか、私が解読できないなんて知られたら……)
ブルッと肩が震えたが、先の心労を憂いても何も進まない。
せっかくわざわざ、この小さな島に初めてのそれらしい役目として足を運んだのだ。
今は目の前の事柄に集中しなくては、と次にルーン文字に目を向ける。
ルーン文字で描かれた内容は、壮大な封印を施すための詠唱文だ。
クレハから見ても出鱈目な威力の封印で、もし個人を対象に行使されれば、封印される前に消し飛んでしまうだろう代物だった。
だが、逆に言えばそれだけでしかない。
ルーン文字で描かれているのは詠唱文で、壮大で強力なものではあるが、術式自体は珍しくない。
国王近衛隊であれば、さして苦も無く行使出来るだろう。
となると、やはり鍵になってくるのは神聖文字になるが、と振り出しに戻ってしまう。
ひとまず魔術方陣の内容を模写して、帰ってから師に相談しよう、と決める。
クレハが次に目を向けたのは、祠の前に突き刺さった木の棒だ。
まさかこんな重要な魔術方陣の――それも祠の真正面に、たまたま突き刺さっていたなどということはないだろう。
場違いに見えるが、間違いなく何らかの意味があるはず。
それもこの封印に関する重要な意味が。
クレハは恐れず魔術方陣の環に足を踏み入れる。
先のルーン文字の解読で、封印の効果が祠にしか及ばないことは判明している。
もっとも、神聖文字の内容が分からないので足を踏み入れた瞬間にクレハ自身が消し飛ぶ可能性も零ではなかったが、さすがに杞憂だったようだ。
まずは棒を観察してみる。
クレハの身長ほどのそれは握るには少し太い。そして、長年放置されていたせいか、どす黒く汚れており触れるのは些か気が引けた。
頂点には白藍色の鉱物が収まっている。こちらも経年によるくすみや汚れは目立つが、今尚鈍く輝いている。
この鉱物には見覚えがあった。
魔法銀だ。
魔素を伝導する物質が幾多も存在する中で、これ以上ないほどに優秀な金属の内の一つだ。
そして、広大な大陸ダーナといえど、採掘される場所は限られている貴重な鉱物。
クレハの細い小指サイズの物でも、王都に庭付きの家が建てられる程の価値を持つ。
それが手のひらに収まるサイズ、それも綺麗に形取られ研磨されている。
その価値はクレハにも分からないほどだ。
(貴重な魔法銀がこんなに……それも綺麗に成形して研磨されている。一体これは……?)
途中何度か似たようなドーム状の空間に出くわしたが、どれも地底湖があった空間よりは狭く、特筆すべき点は何もないただの空間だった。
さながら、主の居なくなったアリの巣にでも迷い込んだような気分になりながら、二人は尚も進む。
――そして。
二人はそれまでにないほどの広大な空間へと辿り着いた。
ドーム状の広間ではなく、角張った部屋といった方が最適なその空間は、他と比べれば符の枚数は多かったが、魔素が切れかかっているのかどこよりも薄暗い。
ルーイとて、ここまで潜るのは半年に一度か二度といった頻度で、ほとんど放置されている場所だった。
その空間の中心に佇んでいるソレ。
「アレだ。アレが〝封印の祠〟」
「アレが……」
祠にしては大きめだろう。
社殿は木祠で切妻屋根を携えている。注連縄とルーン文字で埋め尽くされた紙垂が、ありふれた祠とは一線を画すようにも見えるが、素人のルーイには当を付けることしか出来なかった。
その祠を中心に置き、ぐるりと環状の魔術方陣が敷かれている。
いつから展開されているのか分からない魔術方陣には、神々しさと禍々しさが同居しており、魔素が切れることもなく薄ぼんやりとした紫色の光を放っている。
そして、祠の正面。
硬い石の地面に木の棒が一本、場違いに突き刺さっていた。
素人が見ても只事ではない祠と魔術方陣、そして木の棒。
それらを今まで何度となく見てきたルーイは、平時と何も変わらずに軽い口調で言う。
「さて、ようやく辿り着いたわけだが、どれくらいかかる見込みなんだ?」
「………………」
「クレハ?」
黙り込んでいるクレハの顔を覗き込む。
「……あっ……そうですね。そうそう来られるわけではないので念入りに見ておきたいです。……一時間では済みそうにないですが、よろしいですか」
「かまわねぇよ。どうせ遅くなってるんだし、気が済むまで調べてくれ」
そう言ってルーイは薄暗い空間に明かりを確保するため、符に魔素を込め直す作業に移ろうとしていると、
「……ルーイ様」
「ん?」
クレハが声を掛けた。
「あの魔術方陣と木の棒と思しき物は……」
「んなのオレが知ってるわけないだろ。……っていうか、それも含めて調べに来たんじゃないのか?」
「え? ……っえぇ、そうでしたね」
歯切れの悪い台詞を訝しんだルーイが問いかける。
「何か気になることでもあるのか?」
「いえ……初めて〝封印の祠〟をこの目で見たので驚いただけです」
「それもそうか」
明らかに動揺しているクレハに首を傾げつつ、ルーイは符に魔素を込めて廻る。
魔素が補充された符は輝きを取り戻していく。
ぐるりと部屋を回り、全ての符に魔素を込め終えたルーイは、近くの適当な岩に腰を下ろした。
そして、今まで一体どこに隠し持っていたのか、分厚いハードカバーの本まで取り出した。どうやらクレハが調査に勤しんでいる間は、読書で時間を潰す気らしい。
それを傍観していたクレハもようやく動き出す。
「………………」
一度深呼吸をし、内心の動揺を一緒に吐き出して気持ちを切り替える。
まずは、祠を取り囲んでいる魔術方陣の解読を試みようと地に膝をついた。
ルーン文字と馴染みのない記号が織り交ぜられた不可思議な魔術方陣。魔術に長けたクレハも初めて見る代物。
ただ、この記号には見覚えがあった。
「神聖文字……」
神話の時代、神々が記していたとされる神聖文字に関する情報は少ない。
なにせ数千年も前の話だ。いくら文献を漁ろうと、資料を読み解こうと、神聖文字に関する記述はほとんど残されていなかった。
(ビオラ様なら解読出来るはず……っていうか、私が解読できないなんて知られたら……)
ブルッと肩が震えたが、先の心労を憂いても何も進まない。
せっかくわざわざ、この小さな島に初めてのそれらしい役目として足を運んだのだ。
今は目の前の事柄に集中しなくては、と次にルーン文字に目を向ける。
ルーン文字で描かれた内容は、壮大な封印を施すための詠唱文だ。
クレハから見ても出鱈目な威力の封印で、もし個人を対象に行使されれば、封印される前に消し飛んでしまうだろう代物だった。
だが、逆に言えばそれだけでしかない。
ルーン文字で描かれているのは詠唱文で、壮大で強力なものではあるが、術式自体は珍しくない。
国王近衛隊であれば、さして苦も無く行使出来るだろう。
となると、やはり鍵になってくるのは神聖文字になるが、と振り出しに戻ってしまう。
ひとまず魔術方陣の内容を模写して、帰ってから師に相談しよう、と決める。
クレハが次に目を向けたのは、祠の前に突き刺さった木の棒だ。
まさかこんな重要な魔術方陣の――それも祠の真正面に、たまたま突き刺さっていたなどということはないだろう。
場違いに見えるが、間違いなく何らかの意味があるはず。
それもこの封印に関する重要な意味が。
クレハは恐れず魔術方陣の環に足を踏み入れる。
先のルーン文字の解読で、封印の効果が祠にしか及ばないことは判明している。
もっとも、神聖文字の内容が分からないので足を踏み入れた瞬間にクレハ自身が消し飛ぶ可能性も零ではなかったが、さすがに杞憂だったようだ。
まずは棒を観察してみる。
クレハの身長ほどのそれは握るには少し太い。そして、長年放置されていたせいか、どす黒く汚れており触れるのは些か気が引けた。
頂点には白藍色の鉱物が収まっている。こちらも経年によるくすみや汚れは目立つが、今尚鈍く輝いている。
この鉱物には見覚えがあった。
魔法銀だ。
魔素を伝導する物質が幾多も存在する中で、これ以上ないほどに優秀な金属の内の一つだ。
そして、広大な大陸ダーナといえど、採掘される場所は限られている貴重な鉱物。
クレハの細い小指サイズの物でも、王都に庭付きの家が建てられる程の価値を持つ。
それが手のひらに収まるサイズ、それも綺麗に形取られ研磨されている。
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