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サメジマエリア編
1話
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「はぁ~~~~」
オンライン上でも、ため息は出るものだ。高度文明社会になって『ユニオンライン』なんて呼ばれる世界になったはいいが、結局社畜は社畜のままらしい。
今日も端末に向かって「異常なし」という文字を、既に50回ほど打ち終えたところである。
「ま、ゲームのアバターみたいに好きに外見変えられるし、名前もSNSアカウントみたいに自分でつけられるし。色々便利になった世の中ですなぁ~」
オンラインと現実が融合した社会、『ユニオンライン』と呼ばれる世界になってはや数年。目まぐるしく社会はその形と価値観を変えていった。以前やっていたポストマン的な仕事も、もう指先一本で速達メールができるような世界なのだ。廃業も同然の扱いになってしまって、結局勤め先は潰れてしまった。
一応公務員的な扱いではあったので運よくこうして仕事にありつけた訳なのだが……
「ふんぁぁぁ!!……飽きた……」
デスクに向かって、監視カメラ映像を確認。一定時間ごとに異常がないかを確認するだけの作業。
……これをほぼ一日中。
これが『セキュリティシステムセンター』、通称「SSS」のバイトだ。
「『ユニオンライン』のセキュリティを担うセンター……の、セキュリティを確認するバイトだもんな~」
椅子にもたれかかってだら~っとしていると、足音が聞こえてきた。
「『パシャリ』さん、バンチャ~」
「コンチャーす」
挨拶がてら、思わず突っ込む。
「まだ昼だけど?」
「いやまぁ、この挨拶が癖みたいなもんで」
レジ袋をぶら下げてやってきた彼女は「たうふ」。「SSS」の正職員で、立場としては自分より上なのだが、一時期ここで一緒にバイトしていた事もあって、仲良くやっているのだ。
「で、どしたのタフちゃん」
「いや、実は……」
タフちゃんはちょっとだけ表情を曇らせて続けた。
「『SSS』内部で、ちょっと変な反応?というかそんなのがあって確認してこいって上からの指示でー」
「え?なぜ自分?他の職員は?いなかったっけ?」
「ジュキトさんがバーベキューやるって言って、残りの人みんなついていっちゃった」
「セキュリティガバガバすぎん?」
なんてこった。ここの職員どうやら頭がバーベキューだったらしい。
「おけい、じゃあ自分と行きましょー」
少なくとも、これ以上デスクと睨めっこしてると、自分も脳みそがバーベキューしそうだった。
「で、ここスカ」
「SSS」でも結構深部にある場所。こ~れバイトの自分が入って良いのか?
「ここだねー。ちょっと待ってね警戒アラートオフにするから」
タフちゃんはそう言って白衣から職員カードを取り出して、機械にピッと通す。その後アナウンスらしき声が響いた。どうやらこれで中に入れるらしい。
いろんなパイプがそこらに伸びている部屋を歩いて、雑談がてら話題を飛ばす。
「で、ここは何ですー?見たことないッスねー」
「ここね。まぁなんだろうな……情報過多社会にとっていらなくなったデータとかを圧縮して転送する装置……みたいな?」
「あー、っと?ユニオンラインにある古いデータとか色々送るやつ?」
「えーっとね、『新聞紙を新聞受けに入れて、それをゴミ収集所に持っていく』ってイメージをして欲しんだけど……その新聞受けに新聞紙をギュ~って詰め込んで、ごみ収集所に持っていく作業をここでしてる感じ?」
「あー、そーゆーことね。多分わかったわ」
「さすがー元ポストマン」
データ化社会でも、メッセージだけじゃあやっぱり会話って味気ないよね~。ちゃんと対面して会話しないとね。
「で、変な反応?があったんだっけ?」
「そそ。ここら辺なんだけど……」
「ん?なにこれ?」
足元にコツンと何かがぶつかる感覚。拾い上げたそれは、カセットテープのような物だった。
「これ……あー……な~るほど~」
パッケージにあだるてーなタイトル。赤丸で囲まれた『修正無し』の文字。これ実物かぁ~?
「パシャリさんなに拾ったの~?」
「あー、見なくて良いようん。Rが18なアレだった」
「R……あ~……」
言葉を濁したってことは察したらしい。
本来ここに人はあまり立ち寄らない。何なら正職員ぐらいな物だ。つまり、デスクワークで疲れたおそらく男性職員であろうコレの持ち主が、ここで勤しんでいたのであろう。
「コレどーするよ~。こんなところに持ち込んでるって事は違法モノだと思うし~、なるべくならコレ持ってたくないんだけど……」
「そうだよね……う~ん」
っと、ここで考え込んでしまったのがいけなかったのだろう。
「ただいま~、ってアレ?たうふさんがいらっしゃらないぞ?」
大きな体で、キョロキョロと見回す。その職員の胸元には『ジュキト』という文字が刻まれていた。
「多分、バイトとお昼じゃあないですかね」
「バーベキュー美味かったす」
「ご馳走さん」
「あれ?ジュキトさん。なんかデータ転送システムの警戒アラート、オフになってますよ」
「え?ホント?誰か点検した後忘れちゃったのかな?オンにしといて!」
「オッケーす。あ、ついでに今日の転送もしておきますわ~」
その職員は、ポチッと転送ボタンを押した。
唐突に警戒アラートが鳴り響き、扉が閉まる。
「「え??」」
二人して同じ顔で同じ声を発した。
「ちょっと!?まだいるんですけど~!?」
「嘘でしょ~……」
「俺は無実だぁ~~!!!」
「え?なんかやらかしたんですか?」
「いや、言ってみたかっただけ」
アホみたいなやり取りの後、周囲を見回す。
「タフちゃん!!こっから入れる保険は!!?」
「あったら私が真っ先に入ってる」
「……ですよね~」
隣のタフちゃんは、スンとした真顔で立っていた。それはもはや芸術的な真顔だった。
『データ転送を開始します』
『エラー!エラー!異物が紛れ込んでいます!』
『強制転送を実行します』
『転送先未設定により……を……かい……』
『複数……該当……者……強……転送……』
アナウンスが聞こえなくなって、視界が光に包まれた。
「え……」
瞬きすると、景色は丸きり変わっていた。
「どこここ!?!?」
「パシャリさん……あれ……」
隣にいたタフちゃんがいたことに安堵しつつ、指差した先を見る。そこの看板に……
『セキュリティシステムセンター』
見慣れた、いや見飽きた文字が並んでいた。
「異世界転生だと思ったら社畜変わらずかよチキショー!!」
「いやそこ!?」
人の気配が全くしない。まるで廃墟のようなSSSの中に。
バイトと一人の正職員が、迷い込んだ。
『垢BANズ!!』
「コレ帰れるの?」
「うちが知りたい」
「ですよね~」
オンライン上でも、ため息は出るものだ。高度文明社会になって『ユニオンライン』なんて呼ばれる世界になったはいいが、結局社畜は社畜のままらしい。
今日も端末に向かって「異常なし」という文字を、既に50回ほど打ち終えたところである。
「ま、ゲームのアバターみたいに好きに外見変えられるし、名前もSNSアカウントみたいに自分でつけられるし。色々便利になった世の中ですなぁ~」
オンラインと現実が融合した社会、『ユニオンライン』と呼ばれる世界になってはや数年。目まぐるしく社会はその形と価値観を変えていった。以前やっていたポストマン的な仕事も、もう指先一本で速達メールができるような世界なのだ。廃業も同然の扱いになってしまって、結局勤め先は潰れてしまった。
一応公務員的な扱いではあったので運よくこうして仕事にありつけた訳なのだが……
「ふんぁぁぁ!!……飽きた……」
デスクに向かって、監視カメラ映像を確認。一定時間ごとに異常がないかを確認するだけの作業。
……これをほぼ一日中。
これが『セキュリティシステムセンター』、通称「SSS」のバイトだ。
「『ユニオンライン』のセキュリティを担うセンター……の、セキュリティを確認するバイトだもんな~」
椅子にもたれかかってだら~っとしていると、足音が聞こえてきた。
「『パシャリ』さん、バンチャ~」
「コンチャーす」
挨拶がてら、思わず突っ込む。
「まだ昼だけど?」
「いやまぁ、この挨拶が癖みたいなもんで」
レジ袋をぶら下げてやってきた彼女は「たうふ」。「SSS」の正職員で、立場としては自分より上なのだが、一時期ここで一緒にバイトしていた事もあって、仲良くやっているのだ。
「で、どしたのタフちゃん」
「いや、実は……」
タフちゃんはちょっとだけ表情を曇らせて続けた。
「『SSS』内部で、ちょっと変な反応?というかそんなのがあって確認してこいって上からの指示でー」
「え?なぜ自分?他の職員は?いなかったっけ?」
「ジュキトさんがバーベキューやるって言って、残りの人みんなついていっちゃった」
「セキュリティガバガバすぎん?」
なんてこった。ここの職員どうやら頭がバーベキューだったらしい。
「おけい、じゃあ自分と行きましょー」
少なくとも、これ以上デスクと睨めっこしてると、自分も脳みそがバーベキューしそうだった。
「で、ここスカ」
「SSS」でも結構深部にある場所。こ~れバイトの自分が入って良いのか?
「ここだねー。ちょっと待ってね警戒アラートオフにするから」
タフちゃんはそう言って白衣から職員カードを取り出して、機械にピッと通す。その後アナウンスらしき声が響いた。どうやらこれで中に入れるらしい。
いろんなパイプがそこらに伸びている部屋を歩いて、雑談がてら話題を飛ばす。
「で、ここは何ですー?見たことないッスねー」
「ここね。まぁなんだろうな……情報過多社会にとっていらなくなったデータとかを圧縮して転送する装置……みたいな?」
「あー、っと?ユニオンラインにある古いデータとか色々送るやつ?」
「えーっとね、『新聞紙を新聞受けに入れて、それをゴミ収集所に持っていく』ってイメージをして欲しんだけど……その新聞受けに新聞紙をギュ~って詰め込んで、ごみ収集所に持っていく作業をここでしてる感じ?」
「あー、そーゆーことね。多分わかったわ」
「さすがー元ポストマン」
データ化社会でも、メッセージだけじゃあやっぱり会話って味気ないよね~。ちゃんと対面して会話しないとね。
「で、変な反応?があったんだっけ?」
「そそ。ここら辺なんだけど……」
「ん?なにこれ?」
足元にコツンと何かがぶつかる感覚。拾い上げたそれは、カセットテープのような物だった。
「これ……あー……な~るほど~」
パッケージにあだるてーなタイトル。赤丸で囲まれた『修正無し』の文字。これ実物かぁ~?
「パシャリさんなに拾ったの~?」
「あー、見なくて良いようん。Rが18なアレだった」
「R……あ~……」
言葉を濁したってことは察したらしい。
本来ここに人はあまり立ち寄らない。何なら正職員ぐらいな物だ。つまり、デスクワークで疲れたおそらく男性職員であろうコレの持ち主が、ここで勤しんでいたのであろう。
「コレどーするよ~。こんなところに持ち込んでるって事は違法モノだと思うし~、なるべくならコレ持ってたくないんだけど……」
「そうだよね……う~ん」
っと、ここで考え込んでしまったのがいけなかったのだろう。
「ただいま~、ってアレ?たうふさんがいらっしゃらないぞ?」
大きな体で、キョロキョロと見回す。その職員の胸元には『ジュキト』という文字が刻まれていた。
「多分、バイトとお昼じゃあないですかね」
「バーベキュー美味かったす」
「ご馳走さん」
「あれ?ジュキトさん。なんかデータ転送システムの警戒アラート、オフになってますよ」
「え?ホント?誰か点検した後忘れちゃったのかな?オンにしといて!」
「オッケーす。あ、ついでに今日の転送もしておきますわ~」
その職員は、ポチッと転送ボタンを押した。
唐突に警戒アラートが鳴り響き、扉が閉まる。
「「え??」」
二人して同じ顔で同じ声を発した。
「ちょっと!?まだいるんですけど~!?」
「嘘でしょ~……」
「俺は無実だぁ~~!!!」
「え?なんかやらかしたんですか?」
「いや、言ってみたかっただけ」
アホみたいなやり取りの後、周囲を見回す。
「タフちゃん!!こっから入れる保険は!!?」
「あったら私が真っ先に入ってる」
「……ですよね~」
隣のタフちゃんは、スンとした真顔で立っていた。それはもはや芸術的な真顔だった。
『データ転送を開始します』
『エラー!エラー!異物が紛れ込んでいます!』
『強制転送を実行します』
『転送先未設定により……を……かい……』
『複数……該当……者……強……転送……』
アナウンスが聞こえなくなって、視界が光に包まれた。
「え……」
瞬きすると、景色は丸きり変わっていた。
「どこここ!?!?」
「パシャリさん……あれ……」
隣にいたタフちゃんがいたことに安堵しつつ、指差した先を見る。そこの看板に……
『セキュリティシステムセンター』
見慣れた、いや見飽きた文字が並んでいた。
「異世界転生だと思ったら社畜変わらずかよチキショー!!」
「いやそこ!?」
人の気配が全くしない。まるで廃墟のようなSSSの中に。
バイトと一人の正職員が、迷い込んだ。
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