垢BANズ!!

幽零

文字の大きさ
1 / 22
サメジマエリア編

1話

しおりを挟む
「はぁ~~~~」

オンライン上でも、ため息は出るものだ。高度文明社会になって『ユニオンライン』なんて呼ばれる世界になったはいいが、結局社畜は社畜のままらしい。

今日も端末に向かって「異常なし」という文字を、既に50回ほど打ち終えたところである。


「ま、ゲームのアバターみたいに好きに外見変えられるし、名前もSNSアカウントみたいに自分でつけられるし。色々便利になった世の中ですなぁ~」


オンラインと現実が融合した社会、『ユニオンライン』と呼ばれる世界になってはや数年。目まぐるしく社会はその形と価値観を変えていった。以前やっていたポストマン的な仕事も、もう指先一本で速達メールができるような世界なのだ。廃業も同然の扱いになってしまって、結局勤め先は潰れてしまった。


一応公務員的な扱いではあったので運よくこうして仕事にありつけた訳なのだが……


「ふんぁぁぁ!!……飽きた……」


デスクに向かって、監視カメラ映像を確認。一定時間ごとに異常がないかを確認するだけの作業。

……これをほぼ一日中。

これが『セキュリティシステムセンター』、通称「SSS」のバイトだ。


「『ユニオンライン』のセキュリティを担うセンター……の、セキュリティを確認するバイトだもんな~」

椅子にもたれかかってだら~っとしていると、足音が聞こえてきた。


「『パシャリ』さん、バンチャ~」

「コンチャーす」

挨拶がてら、思わず突っ込む。

「まだ昼だけど?」

「いやまぁ、この挨拶が癖みたいなもんで」


レジ袋をぶら下げてやってきた彼女は「たうふ」。「SSS」の正職員で、立場としては自分より上なのだが、一時期ここで一緒にバイトしていた事もあって、仲良くやっているのだ。


「で、どしたのタフちゃん」

「いや、実は……」


タフちゃんはちょっとだけ表情を曇らせて続けた。


「『SSS』内部で、ちょっと変な反応?というかそんなのがあって確認してこいって上からの指示でー」

「え?なぜ自分?他の職員は?いなかったっけ?」

「ジュキトさんがバーベキューやるって言って、残りの人みんなついていっちゃった」

「セキュリティガバガバすぎん?」


なんてこった。ここの職員どうやら頭がバーベキューだったらしい。


「おけい、じゃあ自分と行きましょー」

少なくとも、これ以上デスクと睨めっこしてると、自分も脳みそがバーベキューしそうだった。






「で、ここスカ」

「SSS」でも結構深部にある場所。こ~れバイトの自分が入って良いのか?

「ここだねー。ちょっと待ってね警戒アラートオフにするから」

タフちゃんはそう言って白衣から職員カードを取り出して、機械にピッと通す。その後アナウンスらしき声が響いた。どうやらこれで中に入れるらしい。

いろんなパイプがそこらに伸びている部屋を歩いて、雑談がてら話題を飛ばす。

「で、ここは何ですー?見たことないッスねー」

「ここね。まぁなんだろうな……情報過多社会にとっていらなくなったデータとかを圧縮して転送する装置……みたいな?」

「あー、っと?ユニオンラインにある古いデータとか色々送るやつ?」

「えーっとね、『新聞紙を新聞受けに入れて、それをゴミ収集所に持っていく』ってイメージをして欲しんだけど……その新聞受けに新聞紙をギュ~って詰め込んで、ごみ収集所に持っていく作業をここでしてる感じ?」

「あー、そーゆーことね。多分わかったわ」

「さすがー元ポストマン」


データ化社会でも、メッセージだけじゃあやっぱり会話って味気ないよね~。ちゃんと対面して会話しないとね。


「で、変な反応?があったんだっけ?」

「そそ。ここら辺なんだけど……」

「ん?なにこれ?」

足元にコツンと何かがぶつかる感覚。拾い上げたそれは、カセットテープのような物だった。

「これ……あー……な~るほど~」

パッケージにあだるてーなタイトル。赤丸で囲まれた『修正無し』の文字。これ実物かぁ~?

「パシャリさんなに拾ったの~?」

「あー、見なくて良いようん。Rが18なアレだった」

「R……あ~……」

言葉を濁したってことは察したらしい。


本来ここに人はあまり立ち寄らない。何なら正職員ぐらいな物だ。つまり、デスクワークで疲れたおそらく男性職員であろうコレの持ち主が、ここで勤しんでいたのであろう。


「コレどーするよ~。こんなところに持ち込んでるって事は違法モノだと思うし~、なるべくならコレ持ってたくないんだけど……」

「そうだよね……う~ん」


っと、ここで考え込んでしまったのがいけなかったのだろう。





「ただいま~、ってアレ?たうふさんがいらっしゃらないぞ?」

大きな体で、キョロキョロと見回す。その職員の胸元には『ジュキト』という文字が刻まれていた。

「多分、バイトとお昼じゃあないですかね」

「バーベキュー美味かったす」

「ご馳走さん」

「あれ?ジュキトさん。なんかデータ転送システムの警戒アラート、オフになってますよ」

「え?ホント?誰か点検した後忘れちゃったのかな?オンにしといて!」

「オッケーす。あ、ついでに今日の転送もしておきますわ~」

その職員は、ポチッと転送ボタンを押した。





唐突に警戒アラートが鳴り響き、扉が閉まる。

「「え??」」

二人して同じ顔で同じ声を発した。

「ちょっと!?まだいるんですけど~!?」

「嘘でしょ~……」

「俺は無実だぁ~~!!!」

「え?なんかやらかしたんですか?」

「いや、言ってみたかっただけ」

アホみたいなやり取りの後、周囲を見回す。

「タフちゃん!!こっから入れる保険は!!?」

「あったら私が真っ先に入ってる」

「……ですよね~」

隣のタフちゃんは、スンとした真顔で立っていた。それはもはや芸術的な真顔だった。




『データ転送を開始します』

『エラー!エラー!異物が紛れ込んでいます!』

『強制転送を実行します』

『転送先未設定により……を……かい……』

『複数……該当……者……強……転送……』




アナウンスが聞こえなくなって、視界が光に包まれた。




「え……」

瞬きすると、景色は丸きり変わっていた。

「どこここ!?!?」

「パシャリさん……あれ……」

隣にいたタフちゃんがいたことに安堵しつつ、指差した先を見る。そこの看板に……





『セキュリティシステムセンター』





見慣れた、いや見飽きた文字が並んでいた。

「異世界転生だと思ったら社畜変わらずかよチキショー!!」

「いやそこ!?」




人の気配が全くしない。SSS


バイトと一人の正職員が、迷い込んだ。







『垢BANズ!!』












「コレ帰れるの?」

「うちが知りたい」

「ですよね~」



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...