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誰かの感情

《誰かの退屈》

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《誰かの退屈》


「あぁ~暇。おれっち暇で死んじまいそうだよ~。......なぁなぁ今外はどうなってんの?おれっちを差し置いて面白いこと起こしてる奴とかいない?あんた達の飼い主はおれっちが居なくて喜んでる?」


男はニヤニヤしながら自身と通路を隔てる鉄格子を掴み顔を寄せた。だが鉄格子傍に仁王立ちする赤の腕章をつけた生徒は振り向きもせず、ただ男に背を向け続けている。

男は気にせずまた口を開く。


「こんなとこにぶち込む緋賀ちゃんも酷いよなぁ?今どき鉄格子って!!学園外の犯罪者でも今どき質素な部屋を与えられるそうじゃない!おれっちの扱いが酷くて泣けてくるぜ……プライベートもクソもねぇ鉄格子に常に付けられた手錠。この手錠寝る時邪魔ったらありゃしねぇよ。まぁ何より最悪なのはこの空間。なぁ、緋賀ちゃんに言ってくれよォ。この石はねぇだろって。おれっちが冷え症なの知ってるだろ?」


男が腕を動かせば両手を繋ぐ鎖がガチャガチャと石部屋に木霊した。
石、石、石
そう、彼のぶち込まれているのは壁・床・天井、一面が石で出来ている。夏は涼しく感じるだろうが、冬は地獄になるだろうことが窺えるものだ。


(冬までには出てぇなぁ~)


鉄格子前に胡座をかくと男はそう思った。


「あ~そうそう。風の噂で聞いたんだけどさ、風紀に優秀な奴入ったらしいじゃん?なんでもあの緋賀ちゃんが副委員長に推したっていう。おれっち会ってみたいなぁ。そいつがΩだったらちょうgood!いひっ、いひひひひひ!そしたら緋賀ちゃんの目の前でうなじに噛み付いてやるのになァ」


ガンッ!!


鉄格子が揺れたと錯覚するほどの大きな音が響く。男はハッとしたように見上げ、そして目の前に立つ人物に対しニンマリと口端を釣り上げた。


「あれ?あれあれ??さっきの風紀の子はどこいったんだ?まぁいいや。いひひひひ!ようこそぉ!!このクソみたいな懲罰部屋へ!久しぶりだねぇ緋賀ちゃん♡」


鉄格子を蹴りつけた緋賀 永利は嫌悪と侮蔑の眼差しで男を見下ろす。それは燈弥の目の前で向けた望月 俊樹への眼差しを凌駕するほどのものだった。


「そんな怒るなよォ。おれっちと緋賀ちゃんの仲だろ?冗談だよ冗談!というかそんなにキレるほど気に入ってんの?噂の副委員長に」

「黙れ」

「いいじゃない!ちょっとくらい喋ろうぜ?」

「......はぁ。テメェをここで撃ち殺すことが出来ればどんなにいいか」

「いひひひひっ!おれっちは殺すに惜しいってか?」

「いつ聞いても上の判断は正気を疑うな。コイツ一人のためにどれだけの異能者を切り捨てるのか……」

「緋賀ちゃんだって弱者を切り捨てるじゃないの。それと一緒でしょ」

「自分が強ぇから生かされてると自覚してんのかよ。まぁ確かに俺様は弱ぇ違反者は殺す。強ぇ違反者は懲罰棟にぶち込んで更正......だがテメェみたいな野郎は更正の余地がねぇだろ。ここにぶち込んでも意味は無い。処分した方がこの学園の、ひいては世界のためだ」

「ひでぇwwだけど上はそう思ってないようだけど?」

「はっ、自分の生まれに感謝するんだな」

「そうだなぁ~.....本当におれっちはおれっちに産まれて良かった」

「......だからテメェと話すの嫌なんだよ」


気持ち悪いものを見るような目で見下ろされ、男は首を傾げた。今の会話に自分が嫌われるようなことを言った覚えがなかったのだ。


「おれっちは緋賀ちゃんのこと大好きだぜ?殺しがいのある奴はみ~んな大好きさ」

「じゃあ強者だけ狙えよ。なんで明らかに格下の奴を殺すんだ」

「えぇ?おれっち弱いやつも好きだからなぁ。好きだから殺っちまうんだよ。ん?殺っちまうから好きなのか.....??」


自分の言った言葉に考え込む男を一瞥した永利は付き合ってられないとでもいうように溜息をつき、鉄格子に背を向ける。


(ここに来たのもコイツが大人しくしているかの確認だしもういいだろ。あんま話してっとストレス溜まるし。.....今日も一条のとこ泊まるか。なんかアイツの居る空間、居心地がいいんだよな。疲れを癒してぇ)


そう考えその場から去ろうとした。
だが、後ろから何か囁くような小さな声を聞き振り向く。


「.....おい、何か言ったか?」

「ぇ?なに?っていうかもう帰っちゃうの?もっとおれっちと話そうぜ!」

「気のせいか......」


男のほざきを無視して永利は見張っていた風紀委員に帰ってもいい事を伝えると、今度こそ男の前から去っていった。


無視された男は愉快そうに瞳を歪め、その場から立ち上がる。


「これは何がなんでも脱獄しねぇと......」


男が思い出すのは永利の去り際の横顔。
あれは優しい表情だった。
あれは楽しそうな表情だった。
あれは慈しむような表情だった。
あれは、あれは――


「おれっちが滅茶苦茶にしたい顔だァ」


男は興奮により頬を上気させ、唇をペロリと舐めとった。



「だっつごく♪たっつごく~♪いひひひひ.....」








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