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翌朝は翌朝は真っ青な空と太陽が眩しい久しぶりの快晴だった。
朝起きるとやわらかな水色の寝具を着せられていて、優しい手ざわりの薄手の布地を幾重にも重ねた掛け物が心地よく、露出した部分の素肌に触れる。
寝台にはレノしかおらず、涼しい風が吹き込む窓にはジャラジャラと音を立てる緑色の宝玉の粒が暖簾のように両脇にたらされ、向こうが透ける白いカーテンとともに揺れていた。
窓の外は見慣れぬ町並み。
高台にあるレノの祖父母の屋敷は周りが木々に囲まれている中にあるため視界は良くないが、ここは街中なのにそれを見下ろせるぐらい高い櫓のような場所に部屋があるようだ。
レノはゆっくりと寝台から足を下ろす。
寝室とそれに続く部屋がいくつかある。勝手に見て回っては悪いかなと思ったが、この部屋の住人が見当たらないのだから仕方がない。
部屋の中はまるで外国にいるような珍しいものでいっぱいだった。
しかも住人の二面性を表すかのように。
半分は女性のようなきらびやかな空間で、作りかけの服、宝飾品、生の花が生けられた空間。
もう片方は技術者のそれだった。
図面がひかれ、使い込まれた道具とともに置かれた機械のようなもの。
しかしよく見ると雑多に置かれた小箱の中に入る金属の小物は金属でありながら南国の画集で見た海のような色で彩色されていた。ドキドキしながらそっと金属でありながら青く色が染め上げられた指輪を取り上げる。
こんなことができるのは、あの魔力を持つものしかいない。
「あら、起きたのね」
後ろから声をかけられ、勝手に人のものを触ってしまった気まずさに目を泳がせながらレノはそっと指輪を作業台に戻した。
「それ素敵でしょ。彫金も趣味の一つなのよ」
今朝のディランは、滴るような色気のある女装姿だった。ボタニカルな柄の鮮やかなグリーンのドレスには南国のオレンジや黄色の花々と鳥の絵が描かれている。
目元には金色にの煌めく粒子の粉がはたかれ、口紅は夕焼けのような暗く深い朱色。朝から極上の美麗さ極まりない。
しかしその口元を見て、急に昨晩彼に与えられ続けた甘く狂おしい記憶と、自分の恥ずかしい姿を自分を思いだし、レノは彼とまともに目を合わせられなくなった。ディランはそんなレノの様子などまるで気にしない素振りで隣に立つと、小箱の中をゴソゴソと探る。
「これでいいかな。手を出して」
素直に差し出した手のひらに乗ったのは透明な丸い硝子玉のペンダントだった。
「見ててね」
ディランの長い指先がガラスの玉に触れ、ややしたらさあっと風が通り抜けるようなスピードで透明なガラス玉の内側が水面を揺らすような波紋の入った海碧色に変化した。
驚いて言葉も出ないレノに、ディランは自慢げな笑みを浮かべると硝子玉を手に取り、レノの首から下げてやる。
「これがアタシの秘密よ。色変幻魔法を使えるの。内緒よ」
(色変幻魔法がつかれるものは希少だから、他国への出入りも厳しく国に管理されるとは聞いたことがある)
しーっと人差し指を立ててウィンクする。そしてその指先で優しくレノの唇をノックした。心をトントンと開けられそうな仕草。
「さあ、ベルちゃん。本当はなんてお名前なのか教えて頂戴」
そして、一歩踏み込むと限りなく唇に近い頬に口づけを落とした。
「好きになった子の名前、呼びたいな」
流石に話さなければならない時が来ただろうと、レノは少し息を吐く。
「俺の名前は、レノ・ジーン・マティアスだ。」
昔から大物を釣り上げるとよく言われてきたディランである。
旅先で助けた相手が王族でその後独占的な交易をとりつけたり、内緒で色変幻魔法を教わっていた相手は国家の色変幻師であり、自由に生きたいディランはその事実を内緒にしてもらえていたり。
しかしレノの本名を聞いたとき流石に言葉を失ったのだ。
お姫様っぽいとは思ったけど、
この子は本物の王子様なのだと。
マティアス将軍。かつての紅の騎士団団長にして現将軍。
白皙の美貌を誇る美丈夫であり、
臣下に下って入るが現国王が溺愛した、
血を分けた弟である。
そしてその息子は二人。
一人は紅の騎士団副団長。
ディランの友人であり色変幻を教えてくれる紅蓮の変幻師ロキナの恋人でもあるのだ。
現在王には姫しかいないため、父のマティアスは臣下にくだっているが、この兄弟は現在最も高貴な男子と言われている。
弟君の方は母方で育てられているという。その母君は悲運の貴婦人として知れ渡っていた。
この国の王都に住まう人間ならば誰でも知っている悲劇の中心人物だった。
将軍であり王弟であったマティアスは、妻子のある身で同じく夫のある色変幻師と恋に落ち、妻を省みずに恋に溺れた。
相手の色変幻師は罪の意識から力を失い衰弱死し、妻は夫の心が戻らぬまま旅先で客死したのだと。
この国のものは誰でも知っている話だった。
急にいろいろなことが腑に落ちて、ディランはさらにレノを抱きしめてやりたくなった。
「わかったわ。レノ。教えてくれてありがとう」
それにしてもだたの家出少年とはわけが違う。今頃家の方では大変なことになっているかもしれないなあと。レノの髪を撫ぜてやりながら溜息をついた。
ロキナと学園には後で連絡するとして、とりあえずは。
「朝ごはんでも食べに行きましょうね」
朝起きるとやわらかな水色の寝具を着せられていて、優しい手ざわりの薄手の布地を幾重にも重ねた掛け物が心地よく、露出した部分の素肌に触れる。
寝台にはレノしかおらず、涼しい風が吹き込む窓にはジャラジャラと音を立てる緑色の宝玉の粒が暖簾のように両脇にたらされ、向こうが透ける白いカーテンとともに揺れていた。
窓の外は見慣れぬ町並み。
高台にあるレノの祖父母の屋敷は周りが木々に囲まれている中にあるため視界は良くないが、ここは街中なのにそれを見下ろせるぐらい高い櫓のような場所に部屋があるようだ。
レノはゆっくりと寝台から足を下ろす。
寝室とそれに続く部屋がいくつかある。勝手に見て回っては悪いかなと思ったが、この部屋の住人が見当たらないのだから仕方がない。
部屋の中はまるで外国にいるような珍しいものでいっぱいだった。
しかも住人の二面性を表すかのように。
半分は女性のようなきらびやかな空間で、作りかけの服、宝飾品、生の花が生けられた空間。
もう片方は技術者のそれだった。
図面がひかれ、使い込まれた道具とともに置かれた機械のようなもの。
しかしよく見ると雑多に置かれた小箱の中に入る金属の小物は金属でありながら南国の画集で見た海のような色で彩色されていた。ドキドキしながらそっと金属でありながら青く色が染め上げられた指輪を取り上げる。
こんなことができるのは、あの魔力を持つものしかいない。
「あら、起きたのね」
後ろから声をかけられ、勝手に人のものを触ってしまった気まずさに目を泳がせながらレノはそっと指輪を作業台に戻した。
「それ素敵でしょ。彫金も趣味の一つなのよ」
今朝のディランは、滴るような色気のある女装姿だった。ボタニカルな柄の鮮やかなグリーンのドレスには南国のオレンジや黄色の花々と鳥の絵が描かれている。
目元には金色にの煌めく粒子の粉がはたかれ、口紅は夕焼けのような暗く深い朱色。朝から極上の美麗さ極まりない。
しかしその口元を見て、急に昨晩彼に与えられ続けた甘く狂おしい記憶と、自分の恥ずかしい姿を自分を思いだし、レノは彼とまともに目を合わせられなくなった。ディランはそんなレノの様子などまるで気にしない素振りで隣に立つと、小箱の中をゴソゴソと探る。
「これでいいかな。手を出して」
素直に差し出した手のひらに乗ったのは透明な丸い硝子玉のペンダントだった。
「見ててね」
ディランの長い指先がガラスの玉に触れ、ややしたらさあっと風が通り抜けるようなスピードで透明なガラス玉の内側が水面を揺らすような波紋の入った海碧色に変化した。
驚いて言葉も出ないレノに、ディランは自慢げな笑みを浮かべると硝子玉を手に取り、レノの首から下げてやる。
「これがアタシの秘密よ。色変幻魔法を使えるの。内緒よ」
(色変幻魔法がつかれるものは希少だから、他国への出入りも厳しく国に管理されるとは聞いたことがある)
しーっと人差し指を立ててウィンクする。そしてその指先で優しくレノの唇をノックした。心をトントンと開けられそうな仕草。
「さあ、ベルちゃん。本当はなんてお名前なのか教えて頂戴」
そして、一歩踏み込むと限りなく唇に近い頬に口づけを落とした。
「好きになった子の名前、呼びたいな」
流石に話さなければならない時が来ただろうと、レノは少し息を吐く。
「俺の名前は、レノ・ジーン・マティアスだ。」
昔から大物を釣り上げるとよく言われてきたディランである。
旅先で助けた相手が王族でその後独占的な交易をとりつけたり、内緒で色変幻魔法を教わっていた相手は国家の色変幻師であり、自由に生きたいディランはその事実を内緒にしてもらえていたり。
しかしレノの本名を聞いたとき流石に言葉を失ったのだ。
お姫様っぽいとは思ったけど、
この子は本物の王子様なのだと。
マティアス将軍。かつての紅の騎士団団長にして現将軍。
白皙の美貌を誇る美丈夫であり、
臣下に下って入るが現国王が溺愛した、
血を分けた弟である。
そしてその息子は二人。
一人は紅の騎士団副団長。
ディランの友人であり色変幻を教えてくれる紅蓮の変幻師ロキナの恋人でもあるのだ。
現在王には姫しかいないため、父のマティアスは臣下にくだっているが、この兄弟は現在最も高貴な男子と言われている。
弟君の方は母方で育てられているという。その母君は悲運の貴婦人として知れ渡っていた。
この国の王都に住まう人間ならば誰でも知っている悲劇の中心人物だった。
将軍であり王弟であったマティアスは、妻子のある身で同じく夫のある色変幻師と恋に落ち、妻を省みずに恋に溺れた。
相手の色変幻師は罪の意識から力を失い衰弱死し、妻は夫の心が戻らぬまま旅先で客死したのだと。
この国のものは誰でも知っている話だった。
急にいろいろなことが腑に落ちて、ディランはさらにレノを抱きしめてやりたくなった。
「わかったわ。レノ。教えてくれてありがとう」
それにしてもだたの家出少年とはわけが違う。今頃家の方では大変なことになっているかもしれないなあと。レノの髪を撫ぜてやりながら溜息をついた。
ロキナと学園には後で連絡するとして、とりあえずは。
「朝ごはんでも食べに行きましょうね」
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