香りの比翼 Ωの香水

鳩愛

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貴方のダンスが見てみたい8

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昼間昏倒した時、ソフィアリはなかなか目を覚まさなかった。
疲れと緊張がピークだったところにつけ、番以外の男から項を触られるというストレスが引き金となり倒れたようだ。呼吸は落ち着いていて、そのまま途中からは泥のように眠り続けた。

会議の会場として提供されていたのがサレへの領主の館だったこともあり、一室を与えられ半刻ほどは勧められるまま様子を見ていたが、程なく港に停めていた船に向けて出発した。心配して様子を見に来てくれていた領主の妻や娘たちには一晩泊まって休むように言われたが、慣れず安らぎ辛い環境にソフィアリを置くのが忍びなかったのだ。

港へ向けて出してもらった車中でソフィアリを膝の上に抱えて、その暖かな重みの確かな手応えに彼の成長を感じていた。以前は片手でも軽々と抱きあげられたなと、いやに懐かしく思い出す。

そういえば出会った頃もこんなことがあった。ソフィアリを腕に抱いたまま、キドゥの街中で大立ち回りをしてそのままおぶって宿までの夜道を帰っていった。街なかでも中央よりは埃っぽく、二人で薄汚れた身体を宿のぬるいお湯しか出ないシャワーを掛け合って落とした。まさか半年後には生涯の伴侶になるとも知らず、まだ出会ったばかりの少年の頭から遠慮なくぬるま湯をぶっかけて、ソフィアリは冷たがって子どものようにケラケラ笑っていた。不思議と記憶に残っている。

あの頃はまだ少年のあどけなさが残っていたソフィアリも今ではときおり見せる表情もまた静かで大人びた。
すらりとした手足は骨格もしっかりし伸びやかで力強いほどだ。まだまだ大きくなりそうな余地すらある。そして比例するように高潔な美しさはむしろ時に触れ難く感じるほどに増した。

日々愛しさが募り更新されるような心地にさえなり、ソフィアリがいない人生などもはや考えられない。しかしそんな風にかんがえてしまう自分の気持ちの持ちように恐ろしさも感じていた。

ある日の朝。
大切なものを次々に奪われる夢を見た。
実際には目にしていない情景であるにも関わらず、妻子が故郷の山里の家の前で雪崩に飲まれ、二人を助けに行こうとしたソフィアリもさらに失うという、信じられない悪夢だった。

滝のように汗をびっしょりとかき、自分の出した叫び声で飛び起きたのだ。
幸い傍らに眠る番は前の晩の激しい情事に疲れ果て、瞼に疲労の色を濃くしたまま眠り続けており、悟られることはなかったが。

目に眩しい清潔な白い寝具の上に艶かしい裸体を晒し、夜の帳のような長い黒髪を乱して眠るソフィアリは神々しいほどで、ラグはいつか番がどこかに…… 
むしろ神に愛され求められ、早々に連れさられてしまうのではないかと、いいしれぬ畏怖を覚えた。

今まで恐れを知らずに生きてきた。
戦場で幾度となく危ない目にもあったし、大怪我もした。敵の前に臨み、死の間際までは何度となく足を運んでいた。しかし、どんな時にも自分自身の力を信じ、仲間を助けて生き抜いて来た。這ってでも妻子のもとに戻ろうという気概でいたし、頑健であろうと考えることすらないほど無敵だった。

その拠り所であった妻子を亡くしたときは悲しみの淵に沈んだが、突然の別れに恐怖する暇さえ与えられずただ無慈悲に奪いさられた。

二度目はない、絶対にない。
そう信じたい気持ちの中に、不意に疑念が生まれる。

そんなこと言い切れるのか? わざわざ人から恨みを買うかもしれぬ領主の座に、あのか弱き身でつく番を、お前は守りきれるのか?

自分が領主となり、矢面に立つほうがどれほど楽かわからない。

しかしソフィアリは自分の脚で立ち、一歩一歩たとえ険しい山でも登り続けるような果敢な男だ。
ラグの番であるまえに一人の男としてこの世に存在し、この地に根ざそうと不退転の覚悟で乗り込んできた。そんな気高く不屈の心を持つところも愛している。

ただこれはラグが自分自身の中の恐れとの向き合い方を学ぶ機会に過ぎない。
そう思い込もうとしていた。

船にソフィアリを連れ帰り、そのまますぐにハレへへ連れ帰ろうと思ったが、何故かそんな気になれなかった。

苦しげには見えずに静かに眠る顔が、逆にラグにはもう二度と目を覚まさないのではないかという強い気持ちを駆り立てる。

揺さぶり起こすこともできず、ただ目覚めを待つ。あの海原のような青い瞳が自分を見つめて微笑むのを今かいまかと待ち続ける。

目覚めなかったら? 船上で心に巣食う不安に向き合うことをやめて、ラグはただ静かに揺れる波が作り出す深い紺碧の水紋を眺めていた。
もしも目覚めなかったら、そのときは。

(この波間に二人で沈んでいこうか)

本気でそんな考えが頭を過ぎったのだ。


「俺が先に居なくなることがあったら…… いいよ。俺の後を追ってきて。俺、空に登らないでラグのことちゃんと待ってるから」

らしくない本音を漏らしてしまい、心の中には年若い番に、そんなことを言ってしまった自分に軽蔑と後悔の念しか浮かばなかった。

呆れられるか叱責されるかと思っていたが、意外にもソフィアリが紡いだ言葉は、ラグの気持ちを肯定し、すべてを許すものだった。

身体がぶるりと震え、叫びだしそうになるほど衝撃をうける。
ラグ自身自分の中に巣食う昏い、どうあっても解消できないような焦燥感をソフィアリは敏感に感じ取り、その上で自分の心にまるごとをすべて引き取っていった。

「愛してるよ。ラグ。俺こそ貴方がいないと生きていけない」

しなかやに撓んで力を逃す、鋼のように研ぎ澄まされた。逞しい最愛の番よ。
お前の存在にどれだけ助けられてきたか。



「俺、はじめてラグのこと、弱ってて可愛いなっておもったよ。こういう時って、男は意外とセクシーだね」

ソフィアリは上半身を持ち上げて胸元にあるラグの耳にからかうように甘い声で囁きながら、硬くてやや尖ったラグの褐色の大きな耳を遠慮なく舐め齧った。

ぴりっとした刺激とトロリと柔らかな舌の感触に目を剥くと、「さっきの、お返し」と涙ぼくろが色っぽい目元が三日月のように細められる。蠱惑的な表情で挑発までしてくるソフィアリに、後でどうなっても知らないぞと思いながらもう一度顎を掴んで深く口づけた。

そうしてすっかり徒っぽく成長を遂げた番に、ラグは負けてはいられぬとばかりに先ほどまでうずめていた胸元の飾りに厚い舌を這わせる。
その頭を抱えるようにして、長く形の良い白い脚を大きく開き、ソフィアリは与えられる辛いほどに甘美な刺激に遠慮なく没頭していく。少し痛いぐらいの刺激に弱くて、潰すようにしながら指先で上下に乳首をかくと、髪を振り乱して善がる。

「あっ、あぁ」

「いい声だな。屋敷と違って誰もいない。どんどんあげてくれ」

時に屋敷での営みはソフィアリは周りを慮って声を押し殺そうして苦しげにしている。
その様子が余計に健気でもありながら、いやらしくもあり。ラグは声が我慢できなくなるほどに攻め立てるのをやめられなくなるのだ。

今日は真っ白な喉元を晒してあおむけになり、背を反らしながら遠慮なく声を張り上げている。

舌先を尖らせ強くぐりぐりと捏ねるように胸飾りを弄られると、キャンディのように身体が蕩けていく。互いのフェロモンが高まるとともに、夜風に冷えた身体が少しずつ熱く燃え上がる。早くソフィアリの身体の奥底で自身の欲望を温めてもらいたくてたまらない。

ソフィアリは自ら腰のものを、シャツがはだけて覗く、ラグの筋肉質な腹に擦り付け硬さを取り戻そうとゆるゆると腰をふりだした。
少しずつ伝うように溢れる先走りがラグに擦りつけられてにちゃりにちゃりと音がなる。

「俺の腹がベチャベチャだ。堪え性がないな、ソフィアリ」

「ラグも脱いで! 俺ばっかり、やだ……」

ラグは下履きを取り去り大きなシャツを脱ぎ捨てた。ランタンの明かりに仄暗く照らされた褐色の身体は余すところなく筋肉の鎧で覆われている。そして湯気でも立っているかのように傍によるととても熱い。

同じ男だが、組成からしてまるで違う。
自分がアルファだったとして、彼ほどオメガを深く満足させられただろうか? そんなことを考えて、幾ら何でもはしたなさすぎるだろうとソフィアリは赤面した。
誤魔化すように陰影ができるほど硬く隆起したラグの腹筋に手を伸ばし羽のようにふわりと優しく撫で回した。

「ラグの身体ってさ、厚みもそうだけど……  肌の硬さも触った感じも、俺と全然違う。鞣してあるみたい。フェル族だから? 他の男もみんなこんな感じなの?」

淫欲に濡れた目でその足の間の欲望まで、遠慮なくしげしげと見つめてくる。その視線にラグの気持ちも次第に高まる。

「他の男の話をできるほど余裕があるのか?残念ながら一生確かめることはできないな」

再び金色の輪がラグの深い緑の目一面に広がり、夜行性の獣の目のようにギラッと輝いた。

こうなると夜目がさらにきくので、この仄暗い明かりの中でもソフィアリが口を半ば開き唇の乾きを癒やそうと舌なめずりし、放置され行き場をなくした陰茎に自ら手を伸ばしそろりと触れている淫蕩な場面もよく見えている。

この暗さではあまり見えないだろうと大胆になっているのだろうが、ラグからは全てが丸見えだ。もちろんそんなことを伝えたらつまらないため教えないが。

「……きて」

焦れた声はかすれ、色っぽく耳を打つ。ラグはソフィアリの手ごと陰茎を掴むともろともに擦りあげ、会陰部分を遠慮なく刺激し始めた。

「あっ…… だめ……」

はじめから駄目になりそうな程の快感に滑らかな太ももでラグの大きな手を挟み込んで静止した。

「まって、そのままで……」

そのまま野生の獣のように四つん這いでソフィアリに覆い被さろうとしたラグの口元に指先を押し当てて止める。

「ごろんってして」

ゆっくりと飼い犬が可愛がられようと腹を見せて寝るように、ラグにマットの上に寝転がるよう指示を出す。大きな体はマットから足先がはみ出てしまう。重みですっかり凹んだマットに、今度はソフィアリが四つん這いで乗り上げた。仲睦まじく一度顔を寄せ、なんだか狼の番にでもなった気分だ。
そしておもむろにラグの陰茎に手を伸ばしてきた。

「あ、おいっ」
「今日は、たくさん、俺が愛したい」

慌てるラグの声を無視しながら、暗がりでも禍々しいほどの存在感のあるそれを掴んだ。ソフィアリの手は意外と大きく指も長い。それでもとにかく大きいと感じるほどだ。冷静に考えるとよくもまあ、これを日頃納められているのだろう。オメガの身体の神秘とソフィアリは我ながら感心する。

ソフィアリの吐息に反応するようにそこだけまた、他の生き物のようにびきびきと筋を浮立しながらラグのものの硬さが増す。焦らされているように感じるのか、ラグの腹が大きくそこだけ上下する。
いつもとは、立場が逆転していて気分が良かった。

あーん。と大口を開け美しい顔が崩れるのを気にもとめず長い黒髪を肩先からかきあげ横に流しながら、ソフィアリは夫の陽物に舌を這わした。

腹筋に力を入れて上身を停止したまま、ラグは食い入るようにその淫靡な光景を凝視してしまう。そもそもソフィアリの顔はとにかくラグが今まであったものの中で一番の完璧な美貌だと思っている。
それだけではない。長い黒い絹糸を束ねたような艷やかな黒髪はいつでも触れて撫ぜてしまいたくなるし、肌の滑らかさといったら、ビロードや絹ににて、なんの引っ掛かりもなく手に馴染む。
骨格はしっかりしているし男としての美も兼ね備え、適度に筋肉がつきながらも尻や太ももは円やかに柔らかい。
そのとにかく綺麗な生き物がグロテスクと評してもおかしくない自分の逸物を可愛がる様は視覚を通じて腰にダイレクトな刺激を施し、暴力的なまでにエロティックだ。

「はぁっ…… また、大きくなった。全然口に入らない……  こことか、気持ちいい?」

おっかなびっくり裏筋を舐められなんというか、こそばゆく焦れる。子犬のように一生懸命ぺろぺろと舐めてくれている辿り方が、ラグがソフィアリをかわいがるときと似ているわけだ。そのあたりをからかうと機嫌を損なうかもしれないので黙っておく。 
一生彼の閨の指南は自分しかしないし、そのやり方しか知らなくていいのだ。

溢れる先走りの量も大きさに違わず半端ないため、ソフィアリは勝ち気な眉を若干下げ苦しげな表情をした。
それに嗜虐心がむくむくと湧き上がり、太い両腕を伸ばしてソフィアリの小さな顔を髪の毛を指に絡めるようにして包み込む。

「少し動かすぞ」

きょと? と目を見開くソフィアリの口や喉をこれまで犯したことはない。
なんのことかわからない顔をした口に、限界を見極めながら、腰をぐいっと近づけた。

「っ!!」

舌の上をざりざりと通り、天井をするようにすぼめなくても小さなソフィアリの口の中に一応の遠慮はしながらゆっくりと腰を打ち付けた。
だが、それだけでもソフィアリはぎゅうっと口元を絞らせるほど苦しげにする。
しかし生来負けん気が強いため、ラグの腰に爪を立てながら耐えようとしている。

流石にすぐに抜き去ると、ソフィアリは真っ赤な顔をしてゴホゴホと咳き込んでマットに伏せた。

「無理するな」
「あっぅ… だって…… 俺だってラグのことかわいがって、愛したかった」

そんなことを床に手をつき、涙の浮かんだ上目遣いでいうからもう、我慢できなくなった。

ソフィアリの脇に手を入れると軽々と抱き上げて、自分の腰の上に足を広げて跨がらせた。

ラグの体液でベタベタと汚れてしまった愛らしい顔を手元に引き寄せた寝具で拭き取ってやる。
大きな目は潤んで、何かやりたかったことを途中で取り上げられた子どものようにわなわなと口元が震えている。

なんという可愛いやつなのだと、ラグはいい年をしてときめきを覚える自分に驚いてしまった。
おもむろに番の尻たぶを掴んで後孔に太い指を這わせる。すでに蕩けて愛液が滲み出してきていることを確認すると、両手の中指を引っ掛けるようにしてくぱっと広げた。

「あっ! あぁ!」

ソフィアリが両手をラグの腹について身を震わせる。そのまま中指を深く差し入れてかき混ぜる。ソフィアリが、可愛く啼く場所を探して蠢かせると掠めるたびに喘ぎ声はましていった。

「いつもここで俺を可愛がってくれてるだろ?」

身悶え熱く硬い胸に倒れ込んできた顔を乗せたまま、ラグは切っ先を指の間にあてると、ギリギリまで腹側の出っ張りをにちにちと指で刺激し、ひくひくと痙攣するように震えて指を締め付けようとした孔から指を抜きざま一気にそそり立つ陰茎で貫いた。

もう、ソフィアリはその、恐ろしいまでの圧倒的な刺激でいきなり達してしまって、完全に胸の上に臥したままになる。

気をやりかけたソフィアリの長い髪を後ろからゆっくりと手綱のように引き、顔をあおのかせると唇に舌を這わせて牙を剝きながら舐め犯す。
上も下もすべてを支配し犯し尽くして、闇夜に音を響かせながら腰を振りはじめた。

「はぅっ…… あぁっ」

呼吸を奪われぐったりしそうなソフィアリの髪を離し抱き寄せて胸に招く。
眠るときに枕替わりになる気に入りの胸板の上で少し落ち着いたソフィアリは、涙を浮かべたまま、あえかな声で喘ぐ。そのまま息も絶え絶えになるほど中をラグのもので思う様擦りあげられる。

この満天の星空が目の前に降ってきたかのように眩き、チカチカと視界か白くなってきた。
それでも蜜壺は無意識にきゅうきゅうと番を可愛がることを忘れない。
腰を反り絶頂が近いことをラグに知らせる仕草を繰り返すソフィアリの尻たぶに、ラグは更に追い打ちをかけるように分厚い腰を打ち当てた。

「ああっ! くる、やぁあ」

逃げを打つ細腰を逃さず、ここが海の上と忘れるほどに共に快楽に没頭していく。

追い上げられうねりながらソフィアリの蜜壺が痙攣し達するが、アルファの精はいつまでも長く放たれ続け、後孔は長くかしめられたようになる。そのままずっと重なって抱き合い、長い時間をかけ荒い息も整い、溢れるほどの精を大方放ち終わった頃。

「くしゅんっ」

冷たい夜風が吹き抜けて、ソフィアリは小さくくしゃみがでてしまった。

そしてお互い顔を見合わせて笑い合ってしまった。どうにもしまらない。

でも共にいられることの幸せを噛み締められる。ラグは上掛けを引き寄せてソフィアリを包むと腕枕をし、二人して星空を飽かず眺めたのだった。
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