香りの献身 Ωの香水

鳩愛

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邂逅編

冬の日の別れ4

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「綺麗な布だね。そうしているとヴィオ、花嫁さんみたいだな」

 戦後以後豊かな中央地域では花嫁衣装がとにかく派手好みとなり、今は鮮やかな赤が人気であるとジルの姉が話していた。それが脳裏にあったジルがお得意の軽口を叩いたのだ。ヴィオはぽぽっと顔を赤くした後、むぐっと口をつぐむ前に一言ぽつりと漏らした。

「これ、死んだ母様のだったんだって。僕この色が好きだからたまに使ってた。……変だよね」
 これはまたまずい話を振ってしまったとジルが深く反省する前にきっぱりとしたセラフィンの声がした。

「変じゃないよ」

 セラフィンは立ち止まり、じっとヴィオを見下ろしてきた。赤いショールを取ろうとしていた子供らしい暖かな手を柔らかく包み込み、ジルすら見たことがないほど穏やかで暖かな笑みを浮かべる。
 そして外の清々しくも冷たい空気を大きく吸い込みながら、ヴィオのことを一気に高く抱え上げた。

「とても似合っている。赤が綺麗な瞳に映えるな。美しいよ、ヴィオ。お前は家族思いの、優しくて勇気のある素敵な子だ。だから自分を卑下したり、みっともなく思う必要はどこにもない。勉強だったらこれからいくらでもできる。沢山学んで自信を持つんだ。そうしてお前が行きたいところにいって、会いたい人に会って。しなやかに強く生きていくんだ。お前を待っている人がきっと世界のどこかにいるはずだよ」

「僕を待っている人?」

「そうだ。ヴィオを待っている人」

(僕を待っている人……)

 高い高いをされるように大切に掲げられ、腕の中で腰かけさせられたヴィオは、空をうつしてより真っ青に見えるセラフィンの澄み渡る冴え冴えとした瞳を見下ろしていた。

(僕を待っていてくれる人なら、僕は先生がいいな。先生が待っていてくれるなら、沢山勉強して僕は先生の傍に行きたい……)

「沢山勉強したら……」
「なんだい?」

 あまりにセラフィンの瞳が真剣で今まで見た人の中で一番に綺麗に見えて、気後れしたヴィオはその願いを言えず、思いの丈を伝えるようにセラフィンの首に抱き着くことしかできなかった。

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