香りの献身 Ωの香水

鳩愛

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再会編

抑制までの1

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はだけた淡い褐色の素肌の上でぷっくりと立ちあがった乳首を晒しながら腰を揺らし荒く息をつく淫らな姿は、彼がまさしくオメガであると思わせるほどの淫靡さだ。日頃のまだあどけない彼とのあまりの落差にセラフィンは自身の高まりを必死でこらえようとした。

 そんなセラフィンの様子などお構いなしに、ヴィオは柔軟な身体を活かして艶めかしく身をよじり、背後のセラフィンを振り返ると突き出すようにしてふるふると揺れる唇を差し出してくる。セラフィンは幼い誘惑に戸惑いながらも音を立ててもう一度今度は頬にキスをする。しかしまた咎めるようにヴィオが先を強請るのだ。

「んっ」

 再び突き出された唇。仕草は幼いが腕をセラフィンの頭を掴むようにして回してぐいっと自分に近づける様子は強引で我儘でそれもまた愛しくてたまらない。ヴィオからも求められることに有頂天になりそうだった。もちろんだからといって彼を貪るようなことをしてはならないのだ。

「せんせい、せんせい」

 なかなか欲しいものをくれないセラフィンに焦れたヴィオがセラフィンを呼ぶ。自らも右足をセラフィンのひざにかけ、大胆に開脚をした姿を見せつけ、セラフィンを翻弄してくる。

「もっと」

 喚くような愛らしい啼き声と濃厚に強くなったフェロモンのむせ返る甘さにセラフィンは思わずヴィオの項を指先で摺り上げるように探し、そして再びマーキングするように強く吸い上げた。

「あんっ」

 感じ切った声を上げて猫のようにしなやかに背を伸ばしたヴィオをかき抱く。そして胸いっぱいに彼の清楚で爽やかなフェロモンを吸い込むとオメガの急所である項に執拗に舌を這わせ唇だけで甘く食んだ。

「くうっ」

 母犬に叱られた子犬のような声を上げてから、ヴィオが本能的に首筋をかばおうとした指先を意地悪くセラフィンが上から自分の指で絡めとる。全身で無意識に彼の自由を少しずつ奪いながら、自分でもよくぞ噛みつくまで行かないで持たせられたなと後々思ったが、実際は跡が付かない程度に青年らしく発達した筋をもつ綺麗な項に甘噛みを繰り返していた。

「あああっ」

 甲高く甘美な悲鳴を上げて、その刺激だけでヴィオは一度大きく身を震わせて達してしまった。一度前のめりに身体を倒しかけるがセラフィンが胸に手をやって荒々しく身体を引き寄せなおす。

「やあ、きもちいい、こわい、だめ」

 しかしもはやすぐには攻めを止められぬセラフィンの手の中で、若いヴィオは再び硬さを取り戻し始めた。

 項に牙を食い込ませ、深く強く噛みつきたい衝動が加速度をつけて増し、発情期でなければ番にはならないのだから、このまま身体だけ奪ってしまえと腹の底から湧き上がる衝動がセラフィンを責め立ててくる。
 激しく唇を合わせながら再び茎を摺り上げる動きを再開したのでヴィオはくぐもった啼き声をあげながら細腰と筋肉が発達したしなやかな内またを震わせる。胸の飾りにまで手を伸ばしかけて、寸ででとめて汗ばんだ筋肉の凹凸が美しい身体をしかしたまらず撫でまわす。

 ここにきてもまだセラフィンはすれすれで理性保ち、頭の中では小さなころから見守ってきたヴィオの愛らしい顔を思い浮かべて自分を制しようとした。

(ヴィオは初めてアルファのフェロモンに充てられて、発情期もまだの未熟なオメガだ。本能に従って俺を求めてくるかもしれないけど、正気じゃない状態で奪うことだけは駄目だ)

 それはかつて兄に無理強いを敷いてしまい、生き別れのように自分の前から去られてしまった、苦い経験があるからだ。もしもまたヴィオがそれをなぞるように自分の元から姿を消したら……。考えるだけでどくどくと心臓が波打ち、そんなことはもう繰り返したくないと恋に臆病な男はそう思った。

 しかし一度味を知ってしまったヴィオのふわふわと甘く弾力のある唇の魅力は強力で、そんな自戒が吹き飛びそうになる。

(即効性のある抑制剤だ。数分で効いてくる。一度ヴィオの身体を鎮めて、落ち着かせれば……)

「あ、ああ!」

 放埓の予感に夢中で舌を絡めあっていた果実のように赤い唇が悲鳴を上げてセラフィンから離れ、何の技巧すらなくひたすらに動かしたセラフィンの手の中でヴィオは再び熱いものを雄々しく放った。

 互いの荒い息だけが深夜の静まり返った部屋の中に響き渡る。日頃は仲睦まじく隣同士に並んで座っていたソファーの上で、足を、舌を絡めあい、みだらな行為にふけって清潔な座面を汚す行為は背徳的ですらあった。ヴィオは人生初めて二度も連続で達したことによる放心状態になり、完全に脱力したその身体を抱えながら少しずつフェロモンの放出が収まっていくのをセラフィンは感じていた。

「ヴィオ、大丈夫か?」

 我を忘れて手荒く扱ってしまったかもしれないと、セラフィンはいまさら恐ろしくなり、再び横抱きに顔が見えるように抱えなおした。愛くるしい顔を恐る恐る見下ろすと、彼はよく日に焼けた健康的な頬を赤く染め、うっすらと全身に汗をかき宝石のような大きな瞳は伏せられていた。はだけたシャツの間から見える身体が目の毒で、再び掻き合わせてやると満ち足りたような顔から小さな寝息が聞こえてきた。

 セラフィンはほっとしたような、置いてけぼりにされたよな複雑な心地で大きく息を吐きだすと、ヴィオを落とさぬようにしっかり抱えたままソファーに背を持たれかけさせ、また大きく息をつく。自分自身の高まりも途中から感じていたが、深呼吸をして鎮まるのをゆっくりと待っていった。

 本当に色々あった一日だった。流石に身体が重くて仕方がないが、ヴィオを清めて自分もシャワーを浴びて……。

(いやとにかくヴィオだけでも綺麗にしてやって……)

 家では当然使用人に任せっきりだったセラフィンだが、今では自分のことは何でもできる。こんな時には嫌に目に眩しい純白のバスタブに温かな湯を満たし、そこに弾けんばかりに美しい裸体のヴィオをつけながら湯をかけて汗を流してやる。
 マダムがくれた髪飾りはどこかに飛んで落ちて行ってしまったようだが、絡まっていた編み込まれた髪の毛を丁寧にほぐして、身体もふかふかに泡を立てた海綿で洗ってやったが目を醒ます気配はなかった。対して自分の方はおざなりに手早くシャワーを浴びると、濡髪もそのままに手早くバスタオルを羽織り、タオルでヴィオをくるむと風呂場を後にした。

 何事もなかったかのように清らかで綺麗なヴィオに、さらに自分のパジャマの上着を着せてやる。こうしてみると修羅場の後だというのにまだまだ幼い顔で幸福そうに眠っているから、セラフィンはほっと胸を撫ぜ下ろした。

 ベラに踏み込まれて汚された自分の寝台ではなく、自然の流れのようにヴィオの部屋のマットレスの上に二人で寝転んだ。

(ヴィオ、明日はいい休日にしような)

 ともあれ二人でこうして傍にいられる。満ち足りた心地でヴィオの前髪を掻き分けその額に口づける。最愛の存在が伝える腕の重みを感じながら、長い長いセラフィンの一日はこうして終わっていった。


 
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