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《14》東日本大博覧会
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「東日本大博覧会」は、ふるさと創生事業で1億円の交付を受けた複数の自治体と、大手ゼネコンの共催で、東北の工業団地予定地で開かれた。スポンサー不足で規模が大幅に縮小されたし、同じ時期に西日本(大阪)で「国際花と緑の博覧会」(花の万博)が開催されてたりしたんだけど、「東日本大博覧会」って名前のイベントも、まずまず盛況だった。だだっ広い駐車場でも、桃やメロン、それから魚の干物が売られたり、会場への入場料も大人1030円に値下げされたりしたから、夏休みのドライブの行き先として、丁度よかったのかな。
俺の会社、有限会社LASTは、メインパビリオンの運営業務を受注していた。メインパビリオンていっても、建物も設備も北海道の博覧会のお下がりで、本来は、30分間で世界旅行と月旅行が疑似体験できるというパビリオンだった。天井と壁と床に、明るい映像が映し出されるんだ。ところが、その映像を使用するには相当な著作権料が掛かってしまうということで、町役場の人が趣味で撮り溜めてた映像を、15分間に編集して、その映像を使うことになってたんだ。「パスポートサイズ」のCMでバカ売れしてたビデオカメラ・ハンディカムを使って、近隣の自然や年中行事を撮影したものだった。
「うっわあ」
最初のリハーサルで、声を上げてしまった。感動的に美しい緑だったんだ。木々の枝葉が天井にも壁にも床にも映し出されている。これが新緑の緑だと直感した。緑色が実に多様で、若々しい緑だった。前からなんとなく、直接見るよりテレビで見た時の方が色にメリハリがあるのかなとは思ってたんだけど、あの時は、なんとなくじゃなくて、20年間俺だけが知らなかったことを正に劇的に体験できたと思った。夏祭の映像、日本海上空に次々と打ち上げられる超色鮮やかな花火の巨大な映像を見て、「夜空に咲く花」っていう形容に初めて共感、体感できた。
会期中の23日間、1日に何回もこの映像を見てた。毎回、入場者の歓声が上がる。子供の驚きの声が、一番嬉しかった。
隣の「東日本ワールドフォトコンテスト作品展」ていう「パビリオン」では、海外旅行の写真の他に、花の写真が多数展示されていた。その写真が気に入って、非番の日は、何時間もそこにいた。花よりも、葉っぱが、多様な緑が、美しかったから。
俺達が担当したパビリオンの映像を撮った町役場の人には、最終日の翌日に「ありがとうございました!」って声を掛けることができた。できたって、まあ、それしかできてないんだけど。でも、これから先、どんな感動的な映画を見ても、あなたの作品は、俺のベスト5からこぼれることはありませんよ、と心で深く感謝した。今でもそうだ。
俺の会社、有限会社LASTは、メインパビリオンの運営業務を受注していた。メインパビリオンていっても、建物も設備も北海道の博覧会のお下がりで、本来は、30分間で世界旅行と月旅行が疑似体験できるというパビリオンだった。天井と壁と床に、明るい映像が映し出されるんだ。ところが、その映像を使用するには相当な著作権料が掛かってしまうということで、町役場の人が趣味で撮り溜めてた映像を、15分間に編集して、その映像を使うことになってたんだ。「パスポートサイズ」のCMでバカ売れしてたビデオカメラ・ハンディカムを使って、近隣の自然や年中行事を撮影したものだった。
「うっわあ」
最初のリハーサルで、声を上げてしまった。感動的に美しい緑だったんだ。木々の枝葉が天井にも壁にも床にも映し出されている。これが新緑の緑だと直感した。緑色が実に多様で、若々しい緑だった。前からなんとなく、直接見るよりテレビで見た時の方が色にメリハリがあるのかなとは思ってたんだけど、あの時は、なんとなくじゃなくて、20年間俺だけが知らなかったことを正に劇的に体験できたと思った。夏祭の映像、日本海上空に次々と打ち上げられる超色鮮やかな花火の巨大な映像を見て、「夜空に咲く花」っていう形容に初めて共感、体感できた。
会期中の23日間、1日に何回もこの映像を見てた。毎回、入場者の歓声が上がる。子供の驚きの声が、一番嬉しかった。
隣の「東日本ワールドフォトコンテスト作品展」ていう「パビリオン」では、海外旅行の写真の他に、花の写真が多数展示されていた。その写真が気に入って、非番の日は、何時間もそこにいた。花よりも、葉っぱが、多様な緑が、美しかったから。
俺達が担当したパビリオンの映像を撮った町役場の人には、最終日の翌日に「ありがとうございました!」って声を掛けることができた。できたって、まあ、それしかできてないんだけど。でも、これから先、どんな感動的な映画を見ても、あなたの作品は、俺のベスト5からこぼれることはありませんよ、と心で深く感謝した。今でもそうだ。
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