令和に活きる就活終活のヒント

《２８》御曹司

　ホッとした。綺麗な星空だし、ちゃんと『家路』に聴こえる『家路』が聴こえてくるようになったからだ。新川さんと俺は、裏庭から拝めるように、リビングのガラス戸の前に祭壇を組んでいた。高いテーブルと低いテーブルを合わせて、その上に、押入れにあった新しい白いシーツを重ね掛けした。
「♪遠き山に日は落ちて　星は空をちりばめぬ」
　聴こえてくるバイオリンに合わせて、つい口ずさんでしまっていた。新川さんにも牟礼さんにも、歌になってないだろう歌は、聴こえてなかったみたいだ。セーフ。俺の耳には、ちゃんと歌に聞こえてんだけどね。牟礼さんは、アルバムの写真をスキャニングしてくれてる。

　新川さんが買ってきてくれた旨い弁当を、チンして、４人で食べた。
「人に聴かせられるくらいになったじゃん」
「上手でしたよ」新川さんも褒めてくれた。
「ありがとう。最初はね、お葬式に来てくれた人達を、私の母が得意だった料理でもてなせればいいのにって……、後悔してたのよ」妹は、馴れ馴れしいというか、変に気取ってるというか、なんか、通訳してるみたいに答えた。
「おいしかったなあ、金目鯛の煮付。自然薯のとろろ御飯も」牟礼さんが言ってくれた。
「情けない娘。最低ね。お茶も満足に入れられなくて」
　今飲んでるお茶は、俺が入れ直した。
「晴子が出来ること、お兄ちゃんが出来ることをしっかりやって、見てもらえばいいんだよ、主役の母ちゃんにさ。母ちゃんこれでいいかなって」
「本当は確認なんて出来ないんですよね。だって主役は……」と呟いた新川さんは、「いや、心のこもったいいイベントプランだと思いますよ。いや、本当に」と失言を詫びるように付け足した。新川さんは、去年お兄さんを亡くされてる。
「死んだ後のことは、生きてる人に任せるしかないから」妹も、新川さんに同調してる。でも新川さんは、
「いや、私は、自分らしい立派な墓、建てときますけどね。死ぬ前に」と、妹が沈めた雰囲気を上方修正してくれた。
「そらそうよ。新川石材工業の御曹司なんやから」
「いや、別に、御曹司っていう程でも」
「御曹司やないの。お墓は、会社の経費で建てられるん？」
「さあ、どうでしょう」御曹司はとぼけてる。
　「新川石材工業」のトラックで、御曹司と部長は東京に帰った。明日の昼、また来てくれる。ありがたい。ありがとうございます。