潺の鈴 御庭番怪異禄

霞花怜

文字の大きさ
9 / 38
第二章

第二章 狛犬が啜り泣く《四》

しおりを挟む
 床に就いてから微睡に落ちるまでは、直ぐだった。思っていた以上に疲れていたようだ。

(長い一日だった……)

 瞼の裏の暗闇が徐々に濃くなり、気が遠くなる……。

 暗闇の向こうから、小鳥の囀(さえず)りが聞こえてきた。目を開くと、見慣れた風景が目に飛び込んだ。

「ここは、家の、庭?」

 見える景色は、雉子橋門内の御用屋敷だ。

 晴れた空を背に浮かび上がる庭木の新緑や、頬を掠める風。何もかも、平生と変わらない。だが、現とは微かに変わる異様な気這いに、善次郎は気付いていた

(随分と巧く造り込んだものだが。妖の幻影にでも、引き込まれたのか)

 用心しながら、辺りを見回す。目の端が捉えた自分の手に、唯一の非常を見つけた。

(手が、小さい)

 両手を開き、まじまじと見つめる。善次郎の両手は、まるで童のように小さい。体中を触り、確かめる。手だけでなく、体そのものが童の如く小さくなっていた。

(体が縮んだのか? まさか、妖の魔力まりきで魂を体から切り離されたのでは)

 至悪の事体が浮かび、ぞっとする。あれこれ考えを巡らせていると、遠くに人の気を感じた。どかどかと大きな足音を立てて、誰かが歩いてくる。

「これ、宇八郎。静かに歩けぬのですか」

 母の怒り声が遠くに響く。足音は縁側に寝転ぶ善次郎に向かってきた。

「おぉ、善次郎。昼寝か? 良い陽気じゃからのう。昼寝には打付けじゃな」

「兄、上……」

 宇八郎が、善次郎を見下ろして、にっと笑った。宇八郎の姿もまた、善次郎と同様に若い。家督を継ぐより前の奔放さが、ほとばしっている。

(違う。これもきっと、兄上ではない)

 そう思うのに、胸中に懐かしさが込み上がる。

「兄上、お帰りなさい」

 口が独りでに動く。警戒を尖らそうとするほどに、思考が膜に覆われるようだった。

(いかん、気を保たねば。昼間のようになっては……昼間、何が、あったのだったか)

 思い返そうにも、頭がぼんやりと重く、何も浮かばない。

「どうした? 寝ぼけておるのか?」

 兄の大きな手が伸びてきて、善次郎の頭を豪快に撫でた。手の熱が直に伝わる。心の奥に鳴り響く陣鉦が、小さくなっていく。

「兄上は今日、どちらにお出掛けだったのですか」

 ぼんやりした頭のまま問い掛ける。宇八郎は表情を止め、善次郎を覗き込んだ。

「今日は久方振りに、卯之助と稽古を付けてくると、申したであろうが」

「卯之助殿と。そうでしたね。稽古は如何でしたか」

 浅い思案で、何となく返事をする。

 急に苦々しい顔になった宇八郎が、どっかりと善次郎の目の前に座り込んだ。

宇八郎と話したい欲が、心の奥に僅かに残っていた警戒を押し退けた。

「一本も取れなんだ。近頃、やけに剣筋が鋭いのは、何故なのだ」

「それは、そうでしょう。卯之助殿は西脇新陰流師範代。加えて、あの背丈と筋骨です。並の使い手では、ありませんよ」

 宇八郎は、にやりとして、善次郎に向かい合った。

「ほぅ。なかなか言うようになったのう、善次郎。そういえば卯之助がお主を、筋が良いと褒めておったぞ。さすがは、儂の弟じゃ」

 宇八郎がまた、わしゃわしゃと善次郎の頭を撫でた。

「あ、兄上。おやめください。目が回ります」

 兄の大きな手が温かく、胸の奥が熱くなる。込み上げるものが何かわからないが、善次郎は、それを懸命に飲み込んだ。

「ははっ。この程度で降参では、卯之助の稽古に耐えられんぞ」

 宇八郎が手を引っ込める。照れた心地を見破られるのが気恥ずかしい。善次郎は髪を梳くふりをして顔を隠した。

「関係ありません。それより、兄上。何故、一本も取れなかったのです。兄上とて、稽古場では卯之助殿に勝るとも劣らぬと言われる腕前では、ありませんか」

「そう言われると、悪い気はせぬがな。儂なぞ、まだまだよ。じゃが、いつか必ず卯之助を負かすぞ」

 にっかりと嬉しそうに笑う顔に、安堵を覚えた。善次郎の大好きな宇八郎の顔だ。

「なぁ、善次郎。儂は卯之助より四寸は背丈が低い。自分より体の大きな相手に、お主ならどう挑む」

真面目な面持ちで宇八郎が問う。善次郎は腕を組み、思案した。

「低い構えから間合いを詰め、素早く懐に飛び込み、足を払います。小さくても、動きの速さには自負があります」

「うむ、悪くない。してそれが、木刀でなく、真剣であれば、何とする」

「え? 真剣、ですか」

「相手は卯之助、否、儂としよう。足を払い、儂が転べば、喉元に刃を突きつける隙を付けよう」

 善次郎は半端に開いた口を、ぐっと閉じた。

「どうした、できぬか」

 宇八郎の声から、先ほどまでの明るさが消えていた。

「兄上を斬るなど、できません」

 宇八郎の纏う気這いが変わった。俯く顔に、宇八郎の手が伸びてくる。がつりと頭を掴まれて、顔が上がった。

躊躇ためらわず、斬れ」

 鋭い眼光が殺気を帯びる。心の奥に押し退けた陣鉦が、徐々に蘇った。

「何故、そのような話をなさるのですか。兄上を斬らねばならぬ事体など、起きようはずもありません」

 抗おうと、頭を掴む腕に手を伸ばす。思考を覆う膜が一枚ずつ剥がれていき、頭がはっきりしてきた。

(ここは幻影の中だ。これは、兄上ではない。早く、この腕を……)

 童の小さな手では、逞しい宇八郎の腕に届かない。

(抜け出す、糸口を、探さねば)

懸命に伸ばす小さな手を払い退け、宇八郎が低い声で凄んだ。

「如何な次第であろうと、必用と判じた時は、儂を斬れ。良いな」

 有無を言わさぬ宇八郎の威力いりきに、ぴたりと動きを止めた。

(兄上の、気這い。これは、本物の兄上か。この幻影は、兄上が……?)

 善次郎を貫く眼の奥に、確かに宇八郎を感じた。

 刹那、宇八郎が善次郎の体を投げ捨てた。受け身を取り、素早く起き上がると、身構える。

 目の前に立つ宇八郎は既に、全く別の気這いに覆われていた。

(惑わされるな。気を研ぎ澄まし、心を凝らせ。眼だけで見ようとするな)

 善次郎は目を閉じ、気這いに気を尖らせた。瞼の裏に、赤い灯火がゆらりと揺れた。

(先ほどの兄上とは、別物だ。やはり、この幻影は、妖か、或いは怨霊の仕業か)

 瞼を開き、目を凝らす。宇八郎の身から赤い気がじわりと浮きあがった。

「そうだ、迷わず儂を斬れ。斬られる前に、儂がお主を斬って捨てるがな!」

 禍々しい風が暗闇の中を靡く。宇八郎が剣を振り上げ、走り込んだ。

(これが、幻影の正体か)

 善次郎は身を屈め、宇八郎の足を低く蹴り払う。宇八郎が体勢を崩した隙に後ろに飛び退き、端に転がる木刀を拾い上げた。

「邪魔な小者が。ようやく動き出したところを、飼い犬風情が、ちょろちょろと鬱陶しい」

 蹲ったまま、宇八郎が苦痛の呻りを上げる。地を這うような声は、善次郎の知る兄の声ではない。

「兄上の顔でそれ以上、口を開くな。この場で斬って、終わらせてくれる」

「愚かしい。この幻影は儂の腹の中。紀州の飼い犬如きに何ができる。久方振りに兄と話ができて喜んでいたであろうが。なぁ、善次郎」

 くっくと病んだ笑みを噛み潰して、宇八郎の顔が悪辣に歪む。善次郎の怒りは頂上に達し、足が勝手に地を蹴った。

「その顔で、儂の名を呼ぶな!」

 振り下ろした木刀を宇八郎が、あっさりと受け流す。

「浅い、浅い。飼い犬の剣など儂には届かぬ」

 飛び込んできた宇八郎に足を蹴り払われ、堪らず地に転がる。避ける隙もなく、真剣が首元を目掛けて降ってきた。

(しまった!)

 がつん、と突然、頭の後ろに強い打撃が走った。

 刹那、暗闇が善次郎の眼前を塞ぐ。沈んだ意識が浮遊する、嫌な酔いに流されそうになる。抗いながら、善次郎は無理やりに目を抉じ開けた。

 眼前で、刀の切っ先が鈍い光を放つ。今まさに振り下ろされんとする刃を、体を反転させて避ける。転がりながら、脇に置いた自分の刀を掴み、起き上がった。

 同時に辺りを見回す。善次郎が床に就いた、皓月堂の部屋に戻ったようだ。

(なんとか幻影からは逃れたが)

 善次郎が寝ていた布団に刀が突き刺さっている。闇に白く浮かび上がる刀剣を、宇八郎が引き抜いた。

「現でも、変わらぬか」

 ぐっと喉を引き締める。脇に携えた刀を鞘から引き抜くと、宇八郎に向かい、構えた。

 宇八郎の体は手にした刀と同じように白い。乱れた髪が揺れ動いて、眼の表情を隠す。

(幻影の中のような殺気を感じぬ。何かが、違う)

 白刃を持つ手を、だらりと垂らした宇八郎は、強直したまま動かない。善次郎は静かに目を閉じた。

 瞼の裏に、ぼんやりと白い灯火が浮かび上がる。白い影は微動だにせず、善次郎を見詰めている。幻影の中の宇八郎とは違う。静かで懐かしい気が、流れ込んでくる。

(幻影の中で斬り懸かってきた兄上とは、まるで別人だ)

 ゆっくり眼を開く。瞼の裏の灯火と同じ色を纏う宇八郎が、善次郎を見つめる。

「本当に、兄上、なのですか」

 善次郎の構えが、ふと緩む。宇八郎が小さく口を開きかけた、その時。

「如何なさいました、善次郎様!」

 勢いよく襖が開き、皓月が飛び込んだ。宇八郎の姿を見つけて、ぴたりと動きを止める。

「宇、八郎……」

 皓月の呟きに、宇八郎が目だけを向ける。しばし眺めた後、開きかけた口を閉じた。ゆっくりと善次郎に眼の先を戻してから、宇八郎は瞼を閉じた。

淡靄たんあいがじわりと宇八郎の体を包み込む。足元が白い粒になり崩れ始めた。やがて体の総てが白光の淡い粒に変わり、闇に溶ける。一塵も残すことなく、宇八郎は暗闇に消えた。

美しくも儚い光景を目前にして、善次郎の腕から力が抜けた。刀の重さに引き摺られ、その場にくずおれる。

「善次郎様、お怪我は?」

「大事ない。何者かの幻影に飲まれたが、寸で逃げ遂せた」

「それは、何よりでございました。御傍に付きながらの無様な失体。申し訳ございません」

 頭を下げる皓月に、善次郎は奥歯を噛んだ。

「お主の失体ではない。あれは儂が仕留めるべきであった」

 皓月は俯き、表情を強張らせた。

「今の死霊は、宇八郎で、ございますね」

 噛みしめる皓月に、善次郎は無言で頷く。皓月の纏う気が張り詰めた。覚悟が痛いほどに伝わってくる。

「皓月、お主は殺気を漏らさず、人を斬れるか」

 宇八郎の立っていた所を見詰めたまま、善次郎は淡々と問う。

「善次郎様? ……何かが、あったので、ございますね。今の宇八郎と関りが?」

 皓月が険しい顔で、善次郎を見詰めた。

「幻影の中で、兄上に会った。奴は確かに儂を殺す気であった。だが、幻影から逃れ現に戻った後に会った、今の兄上に、殺気は微塵もなかった」

 皓月は押し黙ったまま、善次郎と同じ場所を見詰める。

「確かにあれは、兄上だ。死霊と化したのも、どうやら間違いない。だが」

 立ち上がり、宇八郎の刀が突き刺さった場所を凝視する。布団の一部が黒く焼け焦げていた。その真ん中に、刃の刺さった跡がある。

 焦げた所に指を滑らせ、目を閉じる。瞼の裏に、赤い灯火が微かに滲んだ。

(禍々しさを帯びる赤い灯。狛犬に膠着していた恨みの念と、あまりに近い)

 幻影の中で善次郎を襲った宇八郎も、これに近い気這いを纏っていた。

(あの幻影の主と狛犬を壊した者は、同じかもしれぬ)

 林の中で狛犬の姿をした妖に襲われた時、最初に宇八郎を見つけた。幻影の中にも、この場にも、宇八郎が現れた。

 何らかの事情で宇八郎が件に関わっているのは、もう否定できない。

(だが、違う。兄上ではない)

宇八郎が犯人ではないと信じるだけの自信が、善次郎には、あった。

『紀州の飼い犬』

 幻影の中の宇八郎は確かに、そう吐き捨てた。大御所様が呼び寄せた御庭番を蔑視するような挙動を、少なくとも宇八郎は、しないはずだ。

「兄上を元凶と断ずるのは、早計だ。他にも何かが絡んでいると、考えるべきだろう」

 言葉を詰まらせた皓月だったが、一つ息を吐くと、表情を変えた。

「善次郎様がそう仰るのなら、異議なんざ、ありやせんよ。俺も、宇八郎を信じてぇですからね」

 悲しげに微笑む皓月の顔は、まだ気持ちを決めかねているように見えた。

 ふと、皓月の後ろに、枕を抱えた小さな童を見つけた。善次郎が覗き込むと、童はそそくさと広い背中に隠れた。

「こいつぁ、前からうちに住み着いている、座敷ぼっこでさぁ」

「前に話していた妖か。姿を見るのは、初めてだな」

 かなり前から存在は察していたが、姿を見たことは一度もなかった。

(これほど傍に寄ってきたのは、初めてだ。やはり儂の中の、何かが変わったのか)

 座敷ぼっこが抱える枕を眺めて、ふと気が付いた。

「まさか、儂の頭から枕を引き抜いたのは、お主か?」

 叱られると思ったのか、座敷ぼっこは震えて皓月の後ろに引っ込む。ひそひそと皓月に何か耳打ちした。途端に、皓月の頬が緩んだ。

「善次郎様が魘されていたので、枕返しをしようと思ったそうですよ。しくじっちまったそうですが」

 刺されそうになった直前に、頭に響いた強い痛み。あれが恐らく、座敷ぼっこが、しくじった枕返しだ。あの打撃がなければ、幻影から抜け出せなかったかもしれない。

 善次郎は絶句した。同時に、ふっと、体から力が抜けた。

「そうか、儂を救ってくれたのは、お主だったか。お陰で難を逃れた。礼を言う」

 座敷ぼっこが皓月の背中から、そっと顔を出す。善次郎に向かい、嬉しそうに笑った。小躍りするような足取りで、枕を抱えたまま、どこかに消えた。

「待て、儂の枕を返してくれ」

「枕なら他に、いくらでもありやすよ。新しいものをお出ししやしょう」

 皓月もまた、嬉しそうに笑う。

「善次郎様、お変わりになりましたね。以前より、妖が怯えを見せなくなりやした」

 皓月の顔には、自信が見える。善次郎本人より、確かな変化を感じとっている表情だ。

「まだ感得はないのだが、確かに何かが変わったと感じる」

 父の教えである、心眼。今より自在に操れるようになれば、必ず何かが変わる。

「御役目に役立てられるよう、鍛錬せねば」

「善次郎様なら、きっと使いこなせるようになりやしょう。此度の御役目には特に、肝要になりやしょうから」

 笑みを仕舞った皓月の目が、焼け焦げた布団に向く。善次郎もまた、刺さった刃の跡を、じっと見つめた。

 白い刀剣が突き刺さった、赤い灯火の焦げ跡。これが何を意味するのかで、前途は大きく変わってくる。

(兄上の白刀が刺したのが、儂だったのか、赤い灯火だったのか)

汗ばみ熱を持った掌を、善次郎は強く握る。

(急がなければ。至悪の事体だけは、何としても避けねばならぬ)

 胸の内に燻る昂りが抑えきれず、拳がせわしなく震えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

無用庵隠居清左衛門

蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。 第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。 松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。 幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。 この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。 そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。 清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。 俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。 清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。 ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。 清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、 無視したのであった。 そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。 「おぬし、本当にそれで良いのだな」 「拙者、一向に構いません」 「分かった。好きにするがよい」 こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

江戸『古道具 藍凪屋 〜再生と縁結いの物語〜』

藍舟めいな
歴史・時代
捨てられた道具に命を吹き込め。算盤娘と天才職人が贈る、痛快再生譚! 大坂の商才 × 長崎の技術 × 庄内の祈り。 神田お玉が池の古道具屋『藍凪屋(あいなぎや)』、本日開店。 文化十四年、江戸。 泥にまみれ、捨てられたガラクタを、異国の技で「勝色(かちいろ)」へと蘇らせる天才職人・徳三。 その価値を冷徹に見抜き、江戸の「粋」へとプロデュースする算盤娘・おめい。 吹き溜まりの裏長屋から、二人の「余所者」が江戸の価値観をひっくり返す! 捨てられた道具に新しい命を吹き込み、絶たれた「縁」を再び結ぶ、再生の物語。 「うちが売ってるんは物やなくて、職人の執念と、それを持つ人の『格』なんですわ」 どん底から江戸の頂点を目指す、痛快・職人再生サクセスストーリー! ※カクヨムで先読み可能です

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...