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第Ⅳ.5章 番外:仄暗R18アンソロジー『温かな暗がりが愛する二人を包む夜』
おまけSS:『初めての御腐会』
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直桜は真剣な表情で律に向き合っていた。
「どうしても律姉さんに紹介したい人がいるんだ」
あまりに真剣過ぎる直桜に、律が臆している。
「化野さん以上に紹介したい人が、直桜にいるの?」
律の問いかけに、直桜は深く頷いた。
「護にも内緒にしてる、趣味的な話なんだけど。腐仲間がいるんだよね。律姉さんの趣味バレするけど、良かったら御腐会、一緒にどうかと思って」
律が息を飲んだ。
「相手によるけど、誰かしら?」
「解析室の室長になった垣井穂香……」
「行くわ。行く、絶対行く。死んでも行くから。仕事、放り出してでも行くわ」
律が食い気味に叫ぶと、直桜の手を握り締めた。
あまりに前のめりな律に、直桜の方が引く勢いだった。
穂香と約束した日時に、直桜は律と共に解析室の穂香の部屋に向かった。
前に約束した通り、今日は朱華を連れてきた。
「俺を作ってくれた穂香って娘に会えんだろ? 楽しみだな!」
直桜の頭に乗って、朱華がワクワクしている。
隣を歩く律が朱華をまじまじと眺めた。
「可愛らしい眷族ね。直桜と化野さんから生まれたんでしょ?」
「おぅよ! 俺は直桜の神力と護の血から生まれてるからな。二人の子供だぜ!」
朱華が堂々と答える。
その返答は、相変わらず恥ずかしい。
「俺、いつの間にか産んだみたいだよ……」
「直桜って、Ωだったのね。そういう世界線なら、直桜は間違いなくオメガよね」
律の発想が既にBLモードに入っている。
腐発想のスイッチは万全の様子だ。
「律姉さんはアルファだよね。女装した男子っぽいよね」
「それ、楽しそうね。私も保輔君に頼んで男の姿にしてもらおうかしら」
「絶対ダメ」
間髪入れずに否定した直桜を、律が不思議そうに眺める。
「そんなの、強すぎるよ。勝てる人、誰もいない」
直桜の発言に、律が可笑しそうに笑った。
そうこうしているうちに、解析室に着いた。
「穂香ー、来たよー」
声をかけると、室長室の扉が薄く開いた。
穂香が顔半分くらいを覗かせて、二人を手招きした。
「早く、こちらへ」
不思議に思いながら、小走りに部屋に入る。
直桜と律が部屋に入ると、穂香が部屋に鍵を掛け、更に結界を敷いた。
「厳重過ぎない?」
ただの御腐会に結界まで敷かなくても、と思う。
「今日は要統括が出張中でいません。けど、あの人は突然帰ってきたり、突然部屋に入ってきたり、まるで知っていたかのように堂々と混ざろうとしてくるので、これくらい厳重警戒しても足りないくらいです」
確かに要なら、それくらいやりそうだ。
しかも今日はお気に入りの律がいるから、乱入してくる可能性は高い。
「だったら、室長室じゃなくて俺の部屋とかでも良かったけど。マンションの空き部屋とかさ」
要の乱入を警戒するなら、直桜のマンションの方が安全だ。
事務所を通らないと入れない上、事務所には紗月がいるからストッパーになってくれる。
「それも考えましたが、アイテムを移動させるのもリスクが高いです。御腐会に必要なアイテムはこの部屋に揃っていますので」
「確かにそうね。移動中の事故って怖いものね」
律が息を飲んだ。
そんなに危険なのかと、直桜は首を傾げた。
「別に、ちょっとくらい見られても……」
「いけません!」
「ダメよ!」
穂香と律が同時に直桜の発言を否定した。
「身バレがどれだけ恐ろしいと思っているんですか。下手したら社会的に死にます」
「そこまでなの……?」
ただの趣味の話だろうと思うのだが、穂香と律の表情はそんなものではないと物語っている。
「直桜は腐男子としての意識が低すぎるわ。最近の傾向としてBLも市民権を得てきてるけど、まだまだ一般的とは言えないのよ。商業BL以外でも同人誌を書いている作家様なんか特にお仕事を他に持っている方もいるのだから、繊細な話なのよ」
律がいつになく淡々と早口で話している。
こういう時の律は腐女子モードがオンになっている。
「水瀬さんの仰る通りです。我々は陰で生きる者なんですよ。壁になりたい民なんですよ。決して明るい場所に出てはいけないのです」
穂香が律に激しく同意している。
とりあえず、隠し通したい意志は伝わった。
「わかった。この御腐会は内緒……、非公式の集まりってことで、誰にも言わない」
律と穂香が同時に頷いた。
「ところで、水瀬さんが腐女子だったなんて、直桜に聞いて初めて知りました。ずっとお知り合いだったから、とても不思議な感覚だけど、どちゃくそ嬉しいです」
穂香が律の手を握ってフリフリしている。
律の顔が赤く染まって、息を飲んだ。
「わ、私も、垣井さんと趣味が同じで、しかも腐女子だなんて、夢みたいです。こんな風にお近づきになれるなんて、じゃなくて、こんな狭い部屋で息がかかりそうなほど近くにいるなんて押し倒してしまいそ……、じゃなくて、仲良くなれたら、嬉しいです」
律が穂香の手を握り返している。
物騒な発言が聞こえた気がするが、直桜は敢えてスルーした。
「ハンドルネームとかあります? 今更かなぁ。律さんとお呼びしてもいいですか?」
穂香がスマホを取り出した。
律の肩が大袈裟なくらいに飛び跳ねた。
「律と! 是非、律とお呼びください! 私は、穂香さんとお呼びしても、良いですか? 穂香さんはハンネありますか? SNSとかされてます?」
律もスマホを取り出して、連絡先を交換している。
何となく、仲良くなれそうで良かったなと、直桜は思った。
「一応、ハンネもあるし活動もしてるんですけど、ちょっと恥ずかしいなぁ」
照れ照れと穂香が身を捩る。
「もしかして同人誌とか描かれてますか? 良かったら、教えてください。わたしもSNS垢あるし、フォローさせてください」
前のめりになる律に、穂香が困った笑みを向けた。
「まぁまぁ、それは次の機会にでも。それよりお勧めの同人誌がありましてですね。今日はそっちの話をしたくて……」
「猫又、だろ。穂香って漫画描けるんだなぁ。絵も巧いし人形も作れるし、器用だよな」
朱華が穂香の机の上で何かを眺めている。
どこから引っ張り出したのか、薄い本を開いていた。
「い、いやぁあああああああああああああ! 何してるんですか、この猫は!」
穂香が光の速さで朱華から薄い本を奪った。
「その子が、俺の眷族の朱華だよ。穂香が作ってくれた猫のあみぐるみ」
「見ればわかります、覚えてます! 直桜は眷族にどういう教育をしているんですか! 他人のモノを勝手に視るとか、絶対にダメでしょ!」
言われてみれば、薄い本にはステルス結界が張ってある。
初めて穂香の部屋に来た時も、直桜はステルス結界に気が付かずにスルーして穂香のBL漫画を読んでいた。
あれが穂香の趣味を知るきっかけだった。
「多分、ステルス結界に気が付かなかったんだと思う。なんか、ごめん。叱っとくから。ダメだよ、朱華」
朱華が机の上から直桜の膝の上に戻った。
「隠してたのかぁ、ごめんな、穂香。強い気が籠ってたから見てほしくて描いたんだと思った」
「そりゃ、読んでほしくて描きますけど、そういう意味じゃなくて」
顔を真っ赤に染めた穂香がプルプル震えている。
その目の前で律も同じようにプルプル震えていた。
「猫又……? まさかあの神作家、猫又先生、ですか? 時々、商業イラストやキャラデザもされている、同人作家とは思えないクオリティを誇る神絵の猫又先生……」
立ち上がった律が穂香の腕をがっしりと掴んだ。
「ひぃ! 律さん⁉ お、おち、落ち着いてっ」
穂香の手から薄い本を奪いじっくりと見詰めると、その場に崩れ落ちた。
「何てこと! 崇拝する神作家様が同じ職場にいたなんて! 猫又先生、大好きです。いつも通販、利用させてもらってます。本全部持ってます、愛しています!」
薄い本を抱きしめて、律が泣きながら叫んでいる。
完全にヲタクモードの律だなと思った。
「一回……、一回だけでいいから、抱き締めていいですか?」
すっくと立ちあがった律が穂香に迫った。
気圧された穂香が無言でうなずく。
完全に律に呑まれているなと思った。
律の腕が穂香の小さな肩を抱きすくめる。
「あぁ、幸せ。穂香さん、愛してます」
耳元で愛の言葉をささやかれて、穂香が顔を真っ赤にしている。
律の言葉は尊敬する神作家に向けたというより、穂香個人に向いているように聞こえた。
(律姉さん、百合も好きだもんな。陽人と婚約したって聞いたけど、やっぱりレズなのかな)
律のセクシャリティについて、確信はなかった。
だが、直桜が好き、陽人が好き、というのは本音のセクシャリティを隠すための建前なんじゃないかと、集落にいた頃から何となく感じていた。
(だとしたら、割と本気で穂香が好きだったりするのかも)
御腐会の相手が穂香だと知った時の反応も、ここに来てからのテンションも、普段の律らしからぬ態度だ。
「そんなに喜んでもらえると、照れ臭いけど、嬉しいですね」
穂香が律に笑いかける。
その笑顔を見詰める律の顔が、いつキスしてもおかしくない程、劣情を纏って見える。
「穂香さんが猫又先生じゃなくても、腐談義できるの、嬉しいので、またこんな風に集まったりしませんか?」
グイグイ攻める律に、穂香がニコリと笑んだ。
「勿論ですよぉ。また三人で御腐会しましょ。今日は、直桜にお勧めしたいソフトSMの本をですねぇ」
穂香がごそごそと本棚を漁っている。
律の気持ちには全く気が付いていない様子だ。
「直桜のお陰で穂香さんと仲良くなれちゃった。名前で呼べる仲になれちゃった。ありがとう、直桜」
律が嬉しそうに直桜に笑いかけた。
その顔が確実に恋する乙女で、直桜は自分の推測に確信を深めた。
「どうしても律姉さんに紹介したい人がいるんだ」
あまりに真剣過ぎる直桜に、律が臆している。
「化野さん以上に紹介したい人が、直桜にいるの?」
律の問いかけに、直桜は深く頷いた。
「護にも内緒にしてる、趣味的な話なんだけど。腐仲間がいるんだよね。律姉さんの趣味バレするけど、良かったら御腐会、一緒にどうかと思って」
律が息を飲んだ。
「相手によるけど、誰かしら?」
「解析室の室長になった垣井穂香……」
「行くわ。行く、絶対行く。死んでも行くから。仕事、放り出してでも行くわ」
律が食い気味に叫ぶと、直桜の手を握り締めた。
あまりに前のめりな律に、直桜の方が引く勢いだった。
穂香と約束した日時に、直桜は律と共に解析室の穂香の部屋に向かった。
前に約束した通り、今日は朱華を連れてきた。
「俺を作ってくれた穂香って娘に会えんだろ? 楽しみだな!」
直桜の頭に乗って、朱華がワクワクしている。
隣を歩く律が朱華をまじまじと眺めた。
「可愛らしい眷族ね。直桜と化野さんから生まれたんでしょ?」
「おぅよ! 俺は直桜の神力と護の血から生まれてるからな。二人の子供だぜ!」
朱華が堂々と答える。
その返答は、相変わらず恥ずかしい。
「俺、いつの間にか産んだみたいだよ……」
「直桜って、Ωだったのね。そういう世界線なら、直桜は間違いなくオメガよね」
律の発想が既にBLモードに入っている。
腐発想のスイッチは万全の様子だ。
「律姉さんはアルファだよね。女装した男子っぽいよね」
「それ、楽しそうね。私も保輔君に頼んで男の姿にしてもらおうかしら」
「絶対ダメ」
間髪入れずに否定した直桜を、律が不思議そうに眺める。
「そんなの、強すぎるよ。勝てる人、誰もいない」
直桜の発言に、律が可笑しそうに笑った。
そうこうしているうちに、解析室に着いた。
「穂香ー、来たよー」
声をかけると、室長室の扉が薄く開いた。
穂香が顔半分くらいを覗かせて、二人を手招きした。
「早く、こちらへ」
不思議に思いながら、小走りに部屋に入る。
直桜と律が部屋に入ると、穂香が部屋に鍵を掛け、更に結界を敷いた。
「厳重過ぎない?」
ただの御腐会に結界まで敷かなくても、と思う。
「今日は要統括が出張中でいません。けど、あの人は突然帰ってきたり、突然部屋に入ってきたり、まるで知っていたかのように堂々と混ざろうとしてくるので、これくらい厳重警戒しても足りないくらいです」
確かに要なら、それくらいやりそうだ。
しかも今日はお気に入りの律がいるから、乱入してくる可能性は高い。
「だったら、室長室じゃなくて俺の部屋とかでも良かったけど。マンションの空き部屋とかさ」
要の乱入を警戒するなら、直桜のマンションの方が安全だ。
事務所を通らないと入れない上、事務所には紗月がいるからストッパーになってくれる。
「それも考えましたが、アイテムを移動させるのもリスクが高いです。御腐会に必要なアイテムはこの部屋に揃っていますので」
「確かにそうね。移動中の事故って怖いものね」
律が息を飲んだ。
そんなに危険なのかと、直桜は首を傾げた。
「別に、ちょっとくらい見られても……」
「いけません!」
「ダメよ!」
穂香と律が同時に直桜の発言を否定した。
「身バレがどれだけ恐ろしいと思っているんですか。下手したら社会的に死にます」
「そこまでなの……?」
ただの趣味の話だろうと思うのだが、穂香と律の表情はそんなものではないと物語っている。
「直桜は腐男子としての意識が低すぎるわ。最近の傾向としてBLも市民権を得てきてるけど、まだまだ一般的とは言えないのよ。商業BL以外でも同人誌を書いている作家様なんか特にお仕事を他に持っている方もいるのだから、繊細な話なのよ」
律がいつになく淡々と早口で話している。
こういう時の律は腐女子モードがオンになっている。
「水瀬さんの仰る通りです。我々は陰で生きる者なんですよ。壁になりたい民なんですよ。決して明るい場所に出てはいけないのです」
穂香が律に激しく同意している。
とりあえず、隠し通したい意志は伝わった。
「わかった。この御腐会は内緒……、非公式の集まりってことで、誰にも言わない」
律と穂香が同時に頷いた。
「ところで、水瀬さんが腐女子だったなんて、直桜に聞いて初めて知りました。ずっとお知り合いだったから、とても不思議な感覚だけど、どちゃくそ嬉しいです」
穂香が律の手を握ってフリフリしている。
律の顔が赤く染まって、息を飲んだ。
「わ、私も、垣井さんと趣味が同じで、しかも腐女子だなんて、夢みたいです。こんな風にお近づきになれるなんて、じゃなくて、こんな狭い部屋で息がかかりそうなほど近くにいるなんて押し倒してしまいそ……、じゃなくて、仲良くなれたら、嬉しいです」
律が穂香の手を握り返している。
物騒な発言が聞こえた気がするが、直桜は敢えてスルーした。
「ハンドルネームとかあります? 今更かなぁ。律さんとお呼びしてもいいですか?」
穂香がスマホを取り出した。
律の肩が大袈裟なくらいに飛び跳ねた。
「律と! 是非、律とお呼びください! 私は、穂香さんとお呼びしても、良いですか? 穂香さんはハンネありますか? SNSとかされてます?」
律もスマホを取り出して、連絡先を交換している。
何となく、仲良くなれそうで良かったなと、直桜は思った。
「一応、ハンネもあるし活動もしてるんですけど、ちょっと恥ずかしいなぁ」
照れ照れと穂香が身を捩る。
「もしかして同人誌とか描かれてますか? 良かったら、教えてください。わたしもSNS垢あるし、フォローさせてください」
前のめりになる律に、穂香が困った笑みを向けた。
「まぁまぁ、それは次の機会にでも。それよりお勧めの同人誌がありましてですね。今日はそっちの話をしたくて……」
「猫又、だろ。穂香って漫画描けるんだなぁ。絵も巧いし人形も作れるし、器用だよな」
朱華が穂香の机の上で何かを眺めている。
どこから引っ張り出したのか、薄い本を開いていた。
「い、いやぁあああああああああああああ! 何してるんですか、この猫は!」
穂香が光の速さで朱華から薄い本を奪った。
「その子が、俺の眷族の朱華だよ。穂香が作ってくれた猫のあみぐるみ」
「見ればわかります、覚えてます! 直桜は眷族にどういう教育をしているんですか! 他人のモノを勝手に視るとか、絶対にダメでしょ!」
言われてみれば、薄い本にはステルス結界が張ってある。
初めて穂香の部屋に来た時も、直桜はステルス結界に気が付かずにスルーして穂香のBL漫画を読んでいた。
あれが穂香の趣味を知るきっかけだった。
「多分、ステルス結界に気が付かなかったんだと思う。なんか、ごめん。叱っとくから。ダメだよ、朱華」
朱華が机の上から直桜の膝の上に戻った。
「隠してたのかぁ、ごめんな、穂香。強い気が籠ってたから見てほしくて描いたんだと思った」
「そりゃ、読んでほしくて描きますけど、そういう意味じゃなくて」
顔を真っ赤に染めた穂香がプルプル震えている。
その目の前で律も同じようにプルプル震えていた。
「猫又……? まさかあの神作家、猫又先生、ですか? 時々、商業イラストやキャラデザもされている、同人作家とは思えないクオリティを誇る神絵の猫又先生……」
立ち上がった律が穂香の腕をがっしりと掴んだ。
「ひぃ! 律さん⁉ お、おち、落ち着いてっ」
穂香の手から薄い本を奪いじっくりと見詰めると、その場に崩れ落ちた。
「何てこと! 崇拝する神作家様が同じ職場にいたなんて! 猫又先生、大好きです。いつも通販、利用させてもらってます。本全部持ってます、愛しています!」
薄い本を抱きしめて、律が泣きながら叫んでいる。
完全にヲタクモードの律だなと思った。
「一回……、一回だけでいいから、抱き締めていいですか?」
すっくと立ちあがった律が穂香に迫った。
気圧された穂香が無言でうなずく。
完全に律に呑まれているなと思った。
律の腕が穂香の小さな肩を抱きすくめる。
「あぁ、幸せ。穂香さん、愛してます」
耳元で愛の言葉をささやかれて、穂香が顔を真っ赤にしている。
律の言葉は尊敬する神作家に向けたというより、穂香個人に向いているように聞こえた。
(律姉さん、百合も好きだもんな。陽人と婚約したって聞いたけど、やっぱりレズなのかな)
律のセクシャリティについて、確信はなかった。
だが、直桜が好き、陽人が好き、というのは本音のセクシャリティを隠すための建前なんじゃないかと、集落にいた頃から何となく感じていた。
(だとしたら、割と本気で穂香が好きだったりするのかも)
御腐会の相手が穂香だと知った時の反応も、ここに来てからのテンションも、普段の律らしからぬ態度だ。
「そんなに喜んでもらえると、照れ臭いけど、嬉しいですね」
穂香が律に笑いかける。
その笑顔を見詰める律の顔が、いつキスしてもおかしくない程、劣情を纏って見える。
「穂香さんが猫又先生じゃなくても、腐談義できるの、嬉しいので、またこんな風に集まったりしませんか?」
グイグイ攻める律に、穂香がニコリと笑んだ。
「勿論ですよぉ。また三人で御腐会しましょ。今日は、直桜にお勧めしたいソフトSMの本をですねぇ」
穂香がごそごそと本棚を漁っている。
律の気持ちには全く気が付いていない様子だ。
「直桜のお陰で穂香さんと仲良くなれちゃった。名前で呼べる仲になれちゃった。ありがとう、直桜」
律が嬉しそうに直桜に笑いかけた。
その顔が確実に恋する乙女で、直桜は自分の推測に確信を深めた。
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