モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない

霞花怜

文字の大きさ
10 / 78
第Ⅰ章 ゲーム本編①

9.ゲームシナリオをおさらいしてみる

しおりを挟む
 最後の療養日、ノエルは自室で机に向かっていた。
 乙女ゲーム『フレイヤの剣と聖魔術師』の内容を再確認するため、ノートに書き殴っていた。

「何せ二年くらい前に書いたシナリオだしなぁ。世界観は制作班と一緒に作ってるし、記憶が曖昧だな」

 恋愛シミュレーションゲーム、いわゆる乙女ゲームは基本、世界観や登場人物の枠組みを制作班がある程度決めた状態で、作家にシナリオが委ねられる。
 作家はシナリオを書くにあたり、人物設定を作り込みながらプロットを立てる。その過程で制作班と細かい世界観の設定などを詰めていくのだ。
 作家はゲーム会社内のシナリオ班だったり、フリーの作家やライターだったりと様々だ。

「私の場合は、シナリオ未経験のフリーの小説家。異例中の異例だった」

 右も左もわからない状態からのスタートだった。
 制作班の人たちに沢山教わって勉強しながら書き上げたシナリオだ。
 思い入れは強い、が。

「普段、書いている小説は時代劇、SF、ミステリー。恋愛要素が薄いものばかり。おまけに要素があっても悲恋好き」

 正直、何故自分にこの話が回ってきたのか、最初は不思議でたまらなかった。

「先生、元気かな」

 ぽつりと呟く。
 小説の書き方を教えてくれた高校時代の恩師は、この乙女ゲームのシナリオライターに自分を推薦してくれた人でもあった。
 古い知り合いがゲーム会社を立ち上げたから、シナリオを手掛けてくれないか、と。

『君は良い話を書くのに、愛や恋には疎いから、きっと良い勉強になると思うよ』

 恩師がくれた言葉を思い出す。

「Ⅱのシナリオ、どうなったかな。私のパソコンから、誰か見付けてくれているといいけど」

 二度と戻れない世界だ。売り出されたとしても、評判を知ることはできない。もう関係ない世界の話では、あるけれど。
 信頼して託されたシナリオを渡せなかったのは、心残りだった。

「書きたい話が他にもたくさん、あったのにな」

 俯きかけた顔を上げる。

「いかん、いかん。今は目の前の問題を何とかしないと」

 ノートに目を向けて、ペンを取る。
 乙女ゲーム『フレイヤの剣と聖魔術師』は物語が前半と後半に分けられる。
 第一部:呪いの解呪編は、主人公が攻略対象と共に、この世界に長年蔓延る『呪い』を究明するストーリーだ。
 その過程で、主人公は攻略対象と恋に落ち、仲を深める。
 本来なら、友人ノエルの死がきっかけで、主人公は『呪い』の究明に意欲を持つ。

「ノエルは生きているけど、マリアはやる気になってくれているし、出だしはとりあえず、クリアとしよう」

 次の課題は、病院イベントだ。
『呪い』の正体に近付くために、主人公たちが踏まねばならない不可避イベント。

「ウィリアムかアイザックが、うまく気付いてくれるといいんだけどな。無理そうなら、マリアにそれとなく情報を流して……」

 この世界を破滅から救う。正直、どうすればいいのか、わからない。
 しかし、神様が破滅回避のために原作者自分をこの世界に送り込んだ以上、シナリオ展開を知る人物ならどうにかできる、ということなんだろう。
 主人公たちの行動がシナリオから外れない限り、破滅は免れるはずだ。

「最終的に、誰かがフレイヤの剣を手にすれば、世界の滅亡は免れる、はず」

 この乙女ゲームのタイトルにも入っているフレイヤの剣は、精霊国を守る結界の要になる。この世界は浮島のような国が結界に守られて多数点在、浮遊している。
 それらの国の結界を維持しているのがフレイヤの剣であり、継承者だ。つまり精霊国は、数多ある国の中心に位置する。

 フレイヤの剣を継承した人物は、男女問わず王族と婚姻を結ぶのが通例だ。
 アイザックルートなら、マリアが中和術を習得し、アイザックの『呪い』を解呪した時点で、フレイヤの剣の後継者候補に入る。

 別のキャラがフレイヤの剣を手にする場合もある。
 それは主人公が誰とハッピーエンドを迎えるかで決まる。

「例えば、ユリウスとか闇魔術師だし王族でもないから、主人公マリアとユリウスが恋仲になった場合、フレイヤの剣を手にするのはレイリー。それはそれでアリ」

 各ルートのエンディングまでの流れを、丹念に確認していく。

「主人公が誰かとハッピーエンドを迎えることが最低限の絶対条件だな。あとは、フレイヤの剣の後継者候補を逐一チェック、と」

 現段階では、後継者候補はいないはずだ。
 現れれば国中が騒ぐはずだから、すぐに気付ける。

「で、一番の問題は……」

 主人公が攻略対象とバッドエンドを迎えた場合と、主人公が誰とも結ばれず親密度も上がらなかった場合だ。
 誰とも結ばれなくても、全員と一定以上の親密度があれば、友情エンドで終わる。その時点でのフレイヤの剣の後継者はウィリアムだ。

 だが、友情エンドにすら入れなかった場合、主人公はフレイヤの剣の後継者に選ばれない。それどころか他の継承者も現れずに、結界が壊れて精霊国が滅亡する。
 他国の結界維持も担う精霊国の滅亡は、この世界そのものの破滅を意味する。

「すべては主人公の親密度アップに掛かっているといって過言でない」

 まさに、愛は世界を救う、である。
 この世界は乙女ゲームだから、世界観として当然だが。もっと違う媒体だったら、手段は他にもあったかも、と無駄なことを考えてしまう。

『君は、愛や恋に疎いから』

 先生の言葉を思い出す。
 恋愛経験も少ないし他者に恋愛感情を抱いたことも、ほとんどない。
 こんな自分が、この世界を救うことなんて、できるのだろうか。

(自信ない。けど、恋愛するのは私じゃなくて、マリアだから)

 ノートをパタン、と閉じて、息を吐いた。

「とにかく、マリアには中和術を覚えてもらって、皆と仲良しになってもらおう」
「皆って誰のこと?」

 背後から声がして、振り返る。
 ユリウスが、ノエルを見下ろしていた。

「なっ、何しているんですか。勝手に人の部屋に入らないでください」
「マリアに中和術を覚えさせたいの? 君が覚えたほうが、早いと思うけど?」

 質問はガン無視で、ユリウスがノエルに迫った。

「ユリウスさんがいう中和術は、禁忌の術式でしょ。無理ですよ」
「ユリウス、先生、だよ」

 ユリウスがノエルの額を突く。

「明日から、学院に復帰するんだ。僕は学院の教師でもあるからね」

(そういえば、こんなんでも教師だったな。教師が生徒に禁忌術を強いるなよ)

 そう思いつつも、ノエルは素直に頷いた。

「でも、禁忌の術式を覚える気はないですよ。命は惜しいので」

 国の法に逆らえば、死罪だ。
 特に禁忌術は、曰くがありすぎる。

「光魔法と闇魔法、両属性適応者でなければ成し得ない特別な魔法ってだけだよ。光魔法単一の中和術より、ずっと強力な魔法だ。覚えてしまえば、こっちのものだよ」

 どっちのものなのか、わからない。

(ユリウスが興味あるってだけだろうな。私は平和に世界を救いたい。できれば目立たず静かに余生を過ごしたい)

 すでに一度、死んでいるので、危険にはできるだけ近付きたくない。

「どんなに強力な魔法でも、法律からは身を守れないでしょう。嫌ですよ」

 背けた顔を、顎を掴んで引き戻される。
 唇が触れて、魔力が流れ込んで来た。

「ぅぁ……」

 柔らかい熱さが、体の中に沁み込む。唇が押し付けられて、体が崩れそうになる。
 ユリウスの腕が、ノエルの体を引き寄せた。

「お気に入りを放置するほど、薄情ではないつもりだけど?」

 唇を離したユリウスは、満足そうだ。
 最初の日から毎日、ユリウスは魔力を分け与えにやってくる。
 魔石に耐性を作るために必要だと言われている。

(本当に必要なのかな。ユリウスに都合がいいように体を作り替えられている気がする)

 怖気が走って、身震いした。

「……それでも、嫌です」

 ノエルの頬に手を添えて肌を撫でるユリウスから、目を逸らす。
 少しだけ熱い頬を見られたくなくて、ノエルは俯いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...