モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない

霞花怜

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第Ⅰ章 ゲーム本編①

30.ラブロマンスは慎重に

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 史跡調査クラブのメンバーがクラブ室に集まったのは秘密の作戦会議から二日後だった。
 レイリーとアイザックには事前に話しておきたいと、ウィリアムが配慮したのだ。
 案の定、今日の集まりにレイリーの姿はなかった。

「俺はノエルの計画に参加するよ。見過ごすことはできないし、他に預けるアテも思い付かないからね」

 ウィリアムとノエルの話を聞いて、最初に手を挙げてくれたのはロキだった。

「俺も賛成だ。何より、誰よりも俺が動かなければならないだろう。意趣返しというなら、ノエルに負けない理由があると知ったからな」

 家柄的にロキは乗ってくれると思っていたが、アイザックが意気込んでいるのが意外だった。

(ゲームのアイザックなら、『呪い』の発動を恐れて尻込むところだ。精神的な成長が早いな。マリアのお陰か、良き良き)

 ラスボスの難易度が上がった以上、嬉しい誤算と言っていい。
 ノエルはマリアに目を向けた。

「この計画の肝は、言うまでもなくマリアなんだけど、マリアは協力してくれる?」

 エリートチートのノアを屈服させるノエルの奇策。
 簡単にいうなら、ノアの魔力を削げるだけ削いで、核を封印すること。魔力がなければ魔術は使えない。チートもただの人である。ノアを殺さずに解決するための苦肉の策だ。
 その上で、交渉のテーブルに持っていく。教会が『呪い』を解呪し放棄するのと引き換えに、ノアの魔力封印を解く。

(教会とノアを傷付けずに『呪い』をこの世界から撲滅する。リヨンがラスボスだった時と同じ結末に結び付けるには、これしかない。惨敗も後始末も、全部ノアに担ってもらう)

 ノアの魔力を封じる一番の決め手はマリアとユリウスだ。
 マリアの中和術で魔力を削り、ユリウスが魔力封印を掛ける。
 光魔法と闇魔法の合わせ技だ。

「でも私、まだ中和術が使えない。昔、偶然できただけなのよ。協力したくても、できないわ」

 申し訳さなそうに唇を噛むマリアを、ノエルは見詰めた。

(アイザックルートだと、アイザックよりマリアのほうがノリノリで無謀案件に立ち向かうんだけど、立場が逆転しているなぁ)

「だから、頑張ってほしいんだ。計画の実行は、マリアの中和術の習得に合わせるから」
「頑張れって……、中和術自体が、御伽噺みたいな術式なのに、責任が重すぎるわ。私が習得できなかったら、どうするの? 他の方法を考えるべきだわ」

 現時点で出来る確実な手段を取るべきだと言いたいのだろう。

(御尤もである。けど、主人公は、それじゃダメだ)

 ラスボスを直接倒すのは、主人公でなければならない。
 魔法を中和されるという屈辱をノアに味わわせるのは、マリアでなければならないのだ。

 それに、マリアは幼少期に無自覚で中和術を発動させている。学院に入学が決まった理由は、それだ。ノエルが突かなくても、マリアは学院、ひいては国から中和術の習得を期待されている。

「できない人にやれ、なんて残酷な試練を、私は友人に強いたりしないよ。マリアは必ずやり遂げる。私は知っているから。だから、お願いしたいんだ」

 難局を乗り越えて成長するのが、主人公というものだ。
 マリアには頑張ってもらわなければならない。
 故に、時には厳しく接することも追い詰めることも、原作者には必要なのだ。

(許してほしい、マリア。これは、愛の鞭だから。愛故だから!)

 ノエルはマリアに背を向けて、涙を飲む。
 アイザックがマリアの手を取った。

「マリア、頑張ってみないか。俺も協力する。やる前から諦めるのは、君らしくない」
「だけど、いくら何でも……。ノエルやアイザックが思ってくれるほど、私には才能もないし、天才でもないわ」
「才能があろうがなかろうが、努力しなきゃ始まらないんじゃない? あれこれ考える前にやってみるといいよ。天才も努力しなきゃ凡人以上になんて開化しないんだからさ」

 ユリウスの言葉に、ウィリアムが頷いた。

「どちらにしろ、状況として優雅に構えてはいられない。マリアの中和術習得が難しければ、別の策を取る。だからマリアには、努力だけはしておいてほしい」
「別の策って、どんな?」

 マリアが恐る恐る、問う。

「私とノア様の追いかけっこ、だよ。私を囮に皆で攻撃しながら、ノア様の魔力を削いで隙を作るんだ」

 ノエルの返答に、マリアの顔が息を飲んだ。

 そもそもこの計画は、ノエルの名前でノアを呼び出す。ノエルが注意を引いている間にマリアに中和術でノアの魔力をごっそり抉ってもらう算段だ。

(壇ノ浦の義経然り、桶狭間の信長然り、弱者が強者に勝つには、不意打ちからのカウンターは必須!)

 それが無理ならノアにノエルを攻撃させながら、ウィリアム、ロキ、アイザックに攻撃を仕掛けてもらって物理的に魔力を削いでいくしかない。

「ユリウス先生が隙を見てノア様に魔力封印を仕掛けるまで、私が逃げ続ける感じになるね」

 マリアの顔が見る間に青褪める。

「私、死ぬ気で覚えるわ。頑張る。だから、追いかけっこだけはダメ。絶対にダメ。もう二度と、ノエルを死ぬような目には、遭わせられない」

 ノエルの肩をぶんぶん揺らして、マリアが必死に訴える。

「だよね。追いかけっこは無謀だよね。頑張る気になってくれて、嬉しいよ」

(保険がない訳じゃないから、いいんだけど。今後に向けても、マリアには心身ともに強くなってもらわないといけない)

 今はまだ、物語の前半だ。
 後半には、もっと厄介な展開が待っている。この程度で挫けてもらっては困る。

「それに、本題はノア様の魔力を封印した後です。『呪い』の撲滅に協力してもらわなきゃなりません」
「ノエルの計画書だと、教会が抱える『呪い』関連の闇魔術師の解放、『呪い』の生成と操作の中止、更に『呪い』の消滅を大司教として宣言後に引退。そんなに上手くいく?」

 ノエルの計画書を手に、ロキが眉を寄せる。

(それも御尤もな意見だが、勝算はある)

 ノエルは力強く頷いた。

「交換条件を出します。魔力の封印解除は前提として、教会とノア様の悪事は隠匿する。表向きクリーンな状態で、ノア様には『呪い』を消し去った英雄になっていただきます」
「ノアにとっては屈辱だろうなぁ。国内トップの誇り高き光魔術師様だから」

 ユリウスが楽しそうに相槌を打つ。

「魔力を封じられては、魔術師としては形無しか。しかし、それだけで我々の条件を飲むか?」

 アイザックの言う通り、ノアに条件を飲ませるには、まだ弱い。

「アイザック様とウィリアム様は王族です。教会の暗部が国王に流れれば死罪は確実、教会はご破算。ファーバイル家も取り潰しでしょう。ノア様にとって、望む結果ではないはずです。それら総てを御二人の間で不問とし、内密に闇に葬る」
「王族の立場を利用した、脅迫か」
「御立場を有効活用した、取引です」

 アイザックの言葉を被せ気味に訂正する。

「兄上が呪い持ちになった理由を盾に取れば、ノア大司教は首を縦に振るしかないだろうね」

 第一皇子を人質に取るために『呪い』をかけた、なんてことが国王に露見すれば、恩赦はない。 
 ウィリアムの言葉には、皆、納得だった。

 ゲームの終盤、リヨンを負かして『呪い』の真実に辿り着いた主人公と攻略対象は、ノアを糾弾する。その際にノアが提案し実行する手段が、まさに今、ノエルが提案している計画だ。

(ゲームシナリオでは、ノアの方からこの提案をしてくる。こちらから仕掛ければ、きっと乗ってくる)

 そうなればシナリオ通りの結果に至り、物語は第二部へと入れる。

(途中のシナリオが多少違っても、結果が同じならいい。何としても、そこに繋げないと)

 そのためには、もう一人、役者が足りない。

「それで、ウィリアム様、レイリーは?」

 黙り込んだウィリアムの代わりに、ロキが答えてくれた。

「気持ちを整理したいってさ。ウィリアムと喧嘩しちゃったし、誰にも相談できずにいるのかもね、レイリーかわいそー」
「違う、私はただっ……」

 明らかにウィリアムを非難する言い回しだ。
 ウィリアムが反論しようとしながら言葉を詰まらせる。

「今、この状況で喧嘩とか、何してくれちゃってるんですか。むしろ慰める立場でしょうが。いつものように器用に立ち回ってくださいよ」

 思わず、舌打ちしそうな勢いで攻めてしまった。

「すまないと思っているよ。ノエル、君は案外、辛辣なんだな」

 しゅん、と肩を落とすウィリアムを見て、まずいと思った。

「すみません、思わず本音が勝手に。その、あれです。ウィリアム様らしくないなと思っただけです」

 ウィリアムが余計に肩を落とす。
 その姿を見て、ロキが笑っている。

(レイリーにはノアを慰めて立ち直らせてもらわないといけないんだが)

 ノアの心をバキボキに折った後、ノアが使い物にならなくなっては困る。物語の後半、ノアには仕事がたっぷりある。前半とは打って変わって、主人公の味方をしてもらわないとならない。
 そのために、レイリーの協力は不可欠なのだが。

(すぐには受け入れられないよな。考える時間は必要だ。こんな時だからこそ、ウィリアムが一緒に悩んであげたらいいのに)

 ウィリアムに恨みがましい視線を送る。
 そんなノエルを眺めていたロキが、とんでもないことを口にした。

「ノエルはあんまりウィリアムを責められないと思うなぁ。二人が喧嘩したのは、ノエルのせいなんだから」
「は?」

 ロキが意地悪な顔で、ニヤリと笑う。

「ウィリアムに抱き上げられて帰ってきたりするから、嫉妬したんだよ」

 すぅっと背中に冷たいものが流れた。

(ユリウスが言ってた、御姫様抱っこか。なんてことだ。米俵みたいに担いで持ってきてくれたら良かったのに)

 そもそも御姫様抱っこという名称が良くない。
 あんな抱き上げ方、病人や怪我人に対してだってやるだろう。
 何でもかんでもロマンティックに考え過ぎである。

(男性の看護師さんがおじいちゃんを抱き上げても、ときめくのかよ、この野郎)

 泣きたくなると同時に、危機感が湧き上がる。

「口論の原因は、それではない。誤解だからな、ノエル」

 ウィリアムが何か必死に訴えてくる。
 だが、どうでもいい。今はそれどころではない。

(理由はどうあれ、レイリーの気に障る行動をとった事実が問題だ。モブがメインキャラの恋愛事情に横やりを入れて、どうする)

 こんなくだらないことで計画が破綻するなど、あってはならない。

「私ちょっと、レイリーと話をしてきます」

 ふらつく足取りで、部屋を出た。
 後ろで誰かの声がした気がしたが、よく聞き取れなかった。
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