モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない

霞花怜

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第Ⅰ章 ゲーム本編①

29.秘密の作戦会議②

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「いったん情報を整理しようか。千年ほど前に自然発生したと思われていた『呪い』は、実は教会が管理し生成していた。更には国中にばらまき死者の数さえもコントロールした。ここまでは、いいね?」

 ずっと黙っていたユリウスが口を開いた。

「死者のほとんどが闇魔術師なのが気になります。『呪い』が闇魔術で構成されていることに関係があののでしょうか」
「ポイントはそこだろうね。光属性でなければ神官にはなれない。でも『呪い』は闇魔術、神官には生成できない」
「つまり、闇魔術師に『呪い』を生成させて、最終的には『呪い』で殺す、ということですか?」

 ウィリアムの顔が引き攣る。

「先に『呪い』をかけて生成させていた可能性が高いだろうね。その方が行動を縛りやすいから」

 ユリウスは、まるで何でもないことのように話す。

「他の属性の死亡者は、事実をごまかすための犠牲、ですか」
「或いは、アイザック様と同じような趣向かと、思います。教会が何らかの理由でとった人質ではないでしょうか」

 ノエルの言葉に、ウィリアムが苦々しい顔で口を噤んだ。
 アイザックは教会が王族に対してとった人質だ。今のウィリアムにとり、腸が煮えくり返る想いだろう。
 ユリウスは表情なく黙っている。

「大規模な工程ではありますが、教会内でも『呪い』に関わっている神官はそう多くないと考えます。でなければ、リヨン様がこれだけ多くの資料を持ち出せたとは思えません」

 ゲーム内の設定では、リヨンが『呪い』の最高責任者だった。
 神官が一人で管理し、それを次代に引き継ぐ仕組みを数百年繰り返してきた。
 だが、リヨン亡き今の管理がどうなっているかは、正直ノエルにもわからない。

「そう仮定するなら、現在の管理者はノアだろうね。リヨンの裏切りは教会にとって想定外だったはずだ。後継者を選ぶ暇はなかった。だから、ノア自らリヨンの死の確認に動いた」
「教会そのものを糾弾しなければ、『呪い』の根絶は見込めない、ですね」

 ノアを敵に回す時点で、この国の人間なら誰もがウィリアムと同じ発想をするに違いない。王室と同様に古くからこの国の根幹となってきた教会を瓦解に追いやる危機を想像するだろう。
 だが、違う。ノエルには、昨晩中寝ないで考えた作戦がある。

「いいえ、その必要はありません。私に計画があります。皆の力を貸してもらえたら、何とかなります」

 ユリウスがノエルを振り返った。

「教会もノアも敵に回さずに『呪い』を消し去る方法が、あるのかい?」
「ノア様を避けることはできないけど、少なくとも教会との全面対決は避けられます」

 ノエルは計画書を二人の前に差し出した。

(ラスボスはリヨンじゃなくなった。シナリオ通りの結論に持っていくためには、ノアとの対峙は避けられない。だったら、結果に繋がるように過程を書き換えるしかない)

「ダメだ。私は賛成できない。これではノエルがあまりにも危険すぎる」

 ウィリアムが拳を握る。

「勝たなくていい、負けなければいいんです。ただのパフォーマンスだと考えてください。これが一番、無難な方法だと思います」

 ノエルは前のめりになった。

(これを反対されたら、主人公と攻略対象が関わる形での解決が難しくなる。何とか説得しないと)

「この国から教会を無くさずに問題を解決するには、ノア大司教に全部被って片付けてもらわないといけません。その為には、最強のエリート様の鼻っ柱を叩き折らないといけません」

 力が入るノエルの言葉に、ウィリアムが被せる。

「確かに『呪い』を克服し生きているノエルを、ノア大司教は目の敵にしている印象だった。だが、君でなくても、いいだろう。例えば私でも務まる。リヨン殿から封筒を受け取ったのは私だ」
「いや、ウィリアムじゃぁ、ダメだろうね。君は王族で、光属性の魔術師だ」

 ユリウスが計画書から目を離し、ノエルに向き合った。

「ノエルの意図は理解できるよ。けど、ノエルにできる? 君は今でもノアに怯えているよね? 失敗したら、今度こそ死ぬよ」

 ユリウスがノエルの手を見詰める。
 いつの間にか震えていた手を隠して、ノエルは俯いた。

(それでも、やらないと。怖いからって逃げたら、もっと怖いことになる)

 ノアの殺意と世界の崩壊を天秤に掛けるなら、ノアを選ぶ。
 本当なら、こんな危険で怖い役回りやりたくない。

(今やらないと、今後の平穏はあり得ない。シナリオの崩壊は、止められない)

 シナリオの崩壊は世界の破滅に繋がる。
 そうなったら待っているのは、どのみち死だ。

「一人でなければ、負けません。私のことは、ユリウス先生が助けてくれますよね。ユリウス先生はノア様より強い。私は、信じています」

 設定上、現時点での最強はユリウスだ。
 ノアはエリートチートだが、規格外チートのユリウスには勝てない。

(私はユリウスを最強魔術師に設定した。そこの設定は狂っていないと信じたい。いや、信じよう。私は原作者なんだから)

 ノエルを見詰めていたユリウスの顔が赤らむ。
 目を逸らして、小さく息を吐いた。

「ノエルは狡いね。そんなこと言われたら、命懸けで君を守りたくなる」

 ノエルの震える手を握って、口付けた。

「ちょっ……ユリウス先生!」

 慌てるノエルに、ユリウスが微笑みかける。

「いいよ。ノエルのことは、僕が守ってあげる。何があっても傷付けさせない」

 あまりに綺麗な表情に、絶句した。

(ナニコレ、スチル絵みたい……。顔面が綺麗すぎて、ヤバイ)

 その表情が自分に向いている今が、不思議で仕方なかった。
 コホン、とウィリアムが咳払いした。

「えっと。ノア大司教の忌むべき要素を一番多く持っているノエルが囮になって呼び出し、袋にする。ざっくりと、そういうことでいいのかな」

 ウィリアムが淡々と、かつ乱暴に計画書を要約した。
 言葉遣いも、普段より俗っぽい。

「ざっくりというなら、そうですね」

(なんだか棘がある言い方だな。ウィリアム的には納得いかないのかな)

「だったら早速、準備を始めようか。今のままじゃ、ノアを丸め込むことはできないよ。ちゃんとレベルアップして望まないとね」

 ユリウスに向かい、ノエルは頷く。

「待ってください、先生。それでも私は賛成できません。ノエルはパフォーマンスというが、一歩間違えれば命に係わるやり方だ」

 ウィリアムは優しい。
 その優しさは、レイリーに使ってあげてほしいと思う。
 今回の一件を、彼はどう話す気なのだろう。

「皆でサポートすれば問題ないんじゃない? もちろん、君たちにも魔力を練る訓練をしてもらうよ。ノアの魔力量はとんでもないからね」
「だから余計に、無茶だというのです。他に温厚な手段を考えましょう。話し合いをベースに歩み寄るべきです」

 ウィリアムの主張は、平和な時代の為政者として及第点の発想だ。
 間違ってはいない。だが、現時点で有効な手段でないのは、原作者ノエルが一番よくわかっている。 

「無理ですよ。何百年と続けてきた教会の暗部を話し合いで浄化するのは不可能です。クーデターは必須、けれどこれ以上、犠牲は出しません、絶対に」

 ノエルは強く拳を握る。

(誰も傷付けさせないし、これ以上シナリオも崩さない。絶対に結末に繋げる。原作者の意地だ)

 ノア自身も死なせない。
『呪い』を排除し、全員生き残る手段は、これしかない。

「ノア大司教様に意趣返ししてやりましょう。やられっぱなしで泣き寝入りなんて、腹が立つじゃないですか。ウィリアム様も、私に力を貸してください」

 どんなに完璧なチートだろうと、自分の発想から生まれたキャラだ。
 このままでは終われない。

「全く、思い切りが良すぎる発想だよ。君は今、とんでもないことを言っているんだよ、ノエル」

 頭を抱えるウィリアムの隣で、ユリウスが笑っている。

「ノアが悔しがる顔は見ものだなぁ。楽しみだね」
「先生は、ノエルが心配ではないのですか」

 呆れるウィリアムに、ユリウスが笑いかける。

「心配だよ。だから、僕が守るんだよ。僕がいればノエルは無事だから大丈夫だよ」

 ムッとした顔をして、ウィリアムが表情を変えた。

「わかった。私もノエルに協力しよう。元々、リヨン殿に呼び出されたのは、私とノエルだ。私にはノエルと意を同じくする理由があるからね」

 ユリウスが頷きながらウィリアムの頭を撫でる。

「はいはい、素直でよろしい」

 ウィリアムが蒼い顔で仰け反った。
 ユリウスの引かない手に、ウィリアムは諦めた顔で撫でられている。
 そんなウィリアムは気の毒だが、ちょっと可愛い。

(こういうとこだろうなぁ。多分、こういうところだよ、ユリウィルの人気は)

 しみじみと実感する。 
 それより、これから始まるユリウスのスパルタ特訓が怖いな、などとノエルは考えていた。
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