モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない

霞花怜

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第Ⅰ章 ゲーム本編①

28.秘密の作戦会議①

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 次の日、ノエルはウィリアムを呼び出した。
 色々と確認したいことがあったからだ。
 ウィリアムが配慮して、クラブ室ではなく例の食堂の個室を借りてくれた。

「動いて大丈夫なのかい? マリアから、酷い状態で治療中も目を覚まさなかったと聞いたよ。今も、元気な顔色とは言えない」

 ノエルの顔色を見て、ウィリアムの表情が曇る。
 ここで初めて会った時も体調の心配をされたが、あの時より言葉に気持ちがこもって感じられた。

「丸一日休みましたし、もう平気です。それより、ご迷惑をおかけしました」

 ウィリアムに向かい、頭を下げる。

(お姫様抱っこのせいでレイリーと喧嘩とかしてたら、本当に申し訳ない)

 ウィリアムがノエルの肩に手を掛け、顔を覗き込んだ。

「迷惑なものか。むしろ、君を守れなかった私の落ち度だ。すまない。まだこんなに、顔が蒼い」

 ノエルの頬をそっと撫でる。
 焦燥が混じった顔が、ノエルを見下ろしていた。

(ウィリアムは、こんなに優しい顔をする人だったんだ。ゲームの立ち絵に、こんな表情はないからな)

「ウィリアム様には、守っていただきました。一人だったら、確実に死んでいましたから。ずっと背中に庇ってくださって、ありがとうございます。心強かったです」

 ウィリアムの手をキュッと握る。

(主人公以外でも、弱き乙女を守るメインヒーローに育ってくれて、原作者的に、嬉しい。乙女ゲの攻略キャラなら、全人類をたらし込むくらいでないとね)

「ウィリアム様は弱い立場の者を慮り守れる優しい皇子様です。いてくれるだけで、安心します」

 ウィリアムを見上げ、微笑む。

「ノエル……」

 ウィリアムがノエルの肩を、ふわりと抱いた。

「私の方がノエルに慰められているな。君は本当に、強い人だ」

 ちらり、とウィリアムを見上げる。
 苦悶の表情が見て取れた。

(教会の真実を知れば、ウィリアムの立場では悩むだろうな。リヨンからの封筒に何が入っていたとしても、良い内容ではないはずだから)

 ノエルはウィリアムの背中に腕を伸ばす。
 ポンポン、と背中を撫でて慰める。

「はーい、そこまで。僕がいない所で、ノエルに何をしているのかな?」

 部屋に入ってきたユリウスは、あからさまに不機嫌だ。
 ノエルの体を引っ張ってウィリアムから引き剥がした。

「ユリウス先生……。別に、やましいことは、何も」

 頬を赤らめるウィリアムは、顔が引き攣っている。

(ユリウスへの苦手意識、少しはマシになったと思ってたけど、そうでもないのか)

 ウィリアムを呼び出す時点で、ユリウスにも相談していた。
 だから、ここに来るのは当然なのだが、ウィリアム的には歓迎できない人かもしれない。

「はいはい、さっさと座って話を始めるよ。ノエルは本調子じゃないんだから、終わったら部屋に戻って休むこと」

 席に着いたユリウスがノエルを隣に座らせる。

(なんか機嫌悪いな。珍しい)

 いつも煙に巻くような笑みで感情を隠しているユリウスらしからぬ態度だ。
 疑問に思いながらユリウスを眺める。
 向かいに腰掛けたウィリアムが苦笑していた。

「それで、ノエル。私に相談とは、これだろう?」

 ウィリアムが持っているのはリヨンから託された封筒だ。
 封筒から紙の束を取り出して、ノエルに手渡した。

「ウィリアム様は、内容を確認しましたか?」

 ウィリアムが頷いた。

「確認した上で、クラブの皆には伏せてある。私もユリウス先生とノエルに相談したかったから、声を掛けてもらえて、良かったよ」

 リヨンが命懸けで託してくれた情報は、どうやら教会の内部事情らしい。数年前からの呪いの分布図と死亡者数の推計が細かく記載されている。
 さらには、『呪い』の構成原理、生成法、発動方法まで書かれていた。

(これは、さすがに背筋が寒くなる。リヨンは本気で教会を裏切ったんだな)

 ウィリアムが躊躇いながら、口を開いた。

「この、『呪い』の分布図と死亡者数の統計は、結果ではなく計画ではないかと考える。どう、思う?」

 推計の数字を指さしてウィリアムが二人に問う。
 ノエルは迷いなく頷いた。

「私もそう思います。教会は、『呪い』をばらまく数と死亡数をコントロールしていたのでしょう。でなければ、発動はオートのみで良かったはずです。ここには、リモート発動の手順があります」

 ノエルが書類を差し出すと、今度はウィリアムが頷いた。

「私は、魔法を纏った手で触れることが発動条件だと思っていた。だが、この記述では、遠隔操作が可能だ。リヨン殿のあの行動には意味があったのだろうか」
「ブラフでしょうね。学生ボランティアである我々に目撃させるために、あえて行っていたのでしょう。でなければ、神官は国中を廻って呪い持ちに接触しなければなりません」

 もっと言うなら、ウィリアムに気付かせるため、だったのだろう。手紙でウィリアムを呼び出したのも、他に適任がいなかったからだ。リヨンは最初からウィリアムに告発を託すつもりでいた、と考えるのが自然だ。

(ノエルが呼ばれた理由は、きっと別にあるんだろうけど)

 教会に呪いの生き残りであるノエルを始末させるため、と最初は考えた。実際、ノエルは殺されかけている。

(でも、違う気がする。リヨン自身には、ノエルを殺す気なんか、なかったんじゃないかな)

 そもそも教会の悪事を告発しようとしていたリヨンがノエルを殺す動機はない。
 リヨンが見せたあの表情には、殺意などなかった。慈しむような表情には、むしろ好意を感じた。
 部屋に残っていた箱からもリヨンの魔力を感じた。事故前のノエルとリヨンに接点があったのは、確実だ。

(殺す気がなかったのなら、リヨンはどうして、ノエルを呼び出したのかな)

 そこには、もっとシンプルで重大な何かが隠れている気がするのに、考えが進まない。

(答えは、すぐ近くにあるような気がするのにな)

「私たちに気付かせるため……。只それだけのために、人を殺したのか」

 ウィリアムが悔しそうに歯噛みした。

 ウィリアムの怒りは正しい。
 ゲームの中ではリヨンが下手を打って目撃されてしまう流れだが、この世界のリヨンは、見せにきた。それくらい、切羽詰まっていたのかもしれない。

(他に頼れる相手なんて、私でも思いつかない。たとえ学生でも王族や貴族が『呪い』に疑いを持ったなら、私だってそのチャンスに縋る)

「それでも、リヨン様が作ってくださったチャンスです。無駄にはできません」

 奥歯を噛み締めて、ウィリアムが顔を上げた。

「あぁ、無駄にはしない。託された想いは必ず繋ぐ。それが、我々王族の務めだ」

 強く拳を握るウィリアムは、決意の顔をしている。

(そうだな、ウィリアムは、そういう人だ。理不尽な現実や逆境にも立ち向かえる強さを、ちゃんと持っている)

 キャラとしてのアイデンティティを備えてくれているのは原作者として嬉しい。
 けれど今は、友人として頼もしく感じた。
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