モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない

霞花怜

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第Ⅱ章 ミニイベント:月の言霊

1.御伽噺の花 魔性スズラン

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 計画を練りに練った次の日の放課後
 クラブ室には、マリア以外の全員が揃っていた。
 ノエルは薬草本学の分厚い本を手に部屋に入った。

「ノエル、今日は薬草学の勉強かい? いつも熱心だね」

 ウィリアムがノエルの手元に気が付いた。

「ノエルって放っておくと、いっつも本ばかり読んでいるよね。図書室の本、読破しちゃうんじゃない?」
「まだ半分くらい残ってる。卒業までに読破したいんだけど、余ってる棚が苦手分野だから厳しそう」

 揶揄い半分に笑うロキに、渋い顔を返す。

「本当に読む気なのか。というか、すでに半分も読んだのか」

 ドン引きしているアイザックに、レイリーが苦笑した。

「夜中、本を読んでいて気が付いたら朝になってたって話を、三回は聞いたな」
「ノエル、寝ないと人はあっさり死ぬんだよ。君は、もう少し自重したほうが良い」

 ウィリアムに、呆れながら当たり前の注意をされた。
 確かに、徹夜とカフェインが前の死因だから、気を付けたほうが良いんだろう。

「中和術を覚える時も毎日、十時間以上練習していて、止めるのが大変だったって、アーロ先生がぼやいていたよ。ユリウス先生が二人いるみたいだった、てさ」

 ロキが揶揄い半分に笑っている。
 アーロはユリウスと同じく研究員兼教員だ。
 聖魔術師に名を連ねる者は、ほとんどが学院で教鞭をとっている。
 ロキとアーロは相性も良さそうだから、何かと話もするのだろう。

「ロキ、やめて。ユリウス先生と一緒にしないで。あの時は必死だっただけだから」

 ノエル的には実技より座学の方が好きだ。自分に向いていると思う。

「それより、今日は、皆に提案があるんだ。マリアを起こすための秘策を考えた」
「そんな手段があるのか⁉」

 前のめりになるアイザックに頷いて見せる。
 薬草学の本を開くと、テーブルの真ん中に置いた。

「魔性スズラン、別名、月の言霊という花を知っている?」

 本を覗き込んでレイリーが頷いた。

「御伽話に出てくる花だな。月の言霊の蜜に想いを吹き込んで好きな相手に飲ませると想いが叶う、という」
「そう。お話の中では、悪魔に悪戯で呪いを掛けられて眠りから目覚めなくなった姫に王子が蜜を飲ませて起こすでしょ。あれって実際は、魔性スズランの効用を語った物語なんだよ」

 本の中の説明文を指さす。
 皆が、その文を覗き込んだ。

「へぇ。ただの恋物語じゃなかったんだ。実際は口移しじゃなくてもいいんだね。物語は大袈裟だなぁ」

 ロキの反応に、レイリーが反論する。

「いやしかし、あれはあれで可愛らしい話だから、良いと思うが」
「レイリー、あの話、好きだったもんね。ウィリアムに試したくって魔性スズラン探してたくらいだし」
「別にそういうことではなくて! あの頃は子供だったから!」

 ふふっと笑うロキに、レイリーが顔を真っ赤にして食って掛かった。
 目の前のウィリアムが耳の先を赤くして黙っている姿が、ちょっと可愛い。

「想い、つまり魔術を吹き込んで流し込めばいいんだけど、言霊の効果を強めるなら、物語と同じように術者が口移しするのが良いと思うんだ」
「どうして?」

 ロキの問いかけに、ノエルは本の説明文を指さす。

「術師の魔力を含めれば、魔性スズランの効用以上の効果が期待できる。魔性スズランの蜜は空気に触れた際の劣化が早い。実験では実際、効果が低下している」

 本の実験結果の欄を指さす。

「なるほどな。空気に接触する時間を短縮するための口移しか。事前にではなく、口に含んだ際に魔術を付与して流し込めば、効果を落とさずにすむ」

 ウィリアムが納得した顔で頷く。

「物語の記述は、あながち嘘ではないんだな。ノエルの言う通り、魔性スズランの薬効をわかりやすく説明している」

 レイリーが感心しながら、薬草学の本に目を落とす。

「魔性スズランの蜜の本来の薬効は、瘴気を払うこと。マリアはアイザックの呪いを解呪する時、瘴気を纏ったアイザックに抱き付いたでしょ?」

 瘴気とは本来、魔族が扱う特殊な気のことだ。闇魔術で生成された呪いの影響か、呪いが発動した時のアイザックの魔力は瘴気を孕んでいたらしい。
 それは後から、アーロが教えてくれた。

(普通は感じ取れるはずだけど、あの時は必至で気が付かなかった。そこまで濃い瘴気ではなかったってことかもしれないけど)

「物語の王子様みたいに、マリアがアイザックに抱き付いて、中和術を口移しで流し込んだよね。あの時のマリア、物語の王子様みたいだったなぁ」

 ロキが、ちらりとアイザックを窺う。
 アイザックがびくり、と肩を強張らせた。

「あの時のことは、俺もよく覚えていないんだが、確かにマリアの温かさが流れ込んできた、と思う」

 アイザックが顔を真っ赤にしている。口元が緩んでいた。

(その反応は、しっかり覚えてるな。良くやった。良くやったよ、マリア、アイザック)

 あの時、アイザックは確かにマリアに向かって「愛している」と呟いた。思いっきり両思いだ。
 心の中でガッツポーズをする。

「だったら、呪いの瘴気にてられている可能性もあるし、試す価値はあると思うんだよね」

 とはいうものの、治療院に払えない瘴気など、滅多にない。マリアが瘴気の影響で起きないとは考え難い。

(魔性スズランは瘴気を払う目的より、術式を付与できる方の効果に期待したい)

 ゲームのミニイベントということで、理屈度外視雰囲気重視のシナリオを書いたから、理由付けはとっても適当なのだ。乙女ゲ的には、主人公と攻略対象が盛り上がってキスすればいいみたいなラブラブイベントである。

(自分名義で出す小説なら絶対ねぇわって書き方なんだよね。制作班に押されて恋愛パートのみにしちゃったような。ゲームなら、それでもいいけどさ)

 この現実世界では、何処まで通用する話か、正直なところ分からない。

 そもそも、この乙女ゲームのシナリオ自体、恋愛パートが減ると制作班に嫌味を言われても、最低ラインの物語の整合性は守って書いた。そこだけは崩さなかった。今まで散々、シナリオをぶっちぎってくれたこの世界だが、だからこそ、今、何とかなっているのだと思っている。

(ミニイベントもギリ大丈夫だと思うんだけど、納得のいく内容ではなかっただけに、ちょっと自信がない)

 こういう時は、、を念頭に動くしかない。

 ノエルは、キリっとアイザックに視線を向けた。

「アイザックが言霊を吹き込んで、マリアに口移しするべきだと思う。マリアは命懸けでアイザックを助けたんだ。次は、アイザックがマリアを助ける番だよ」
「確かにノエルの言う通りだと思うし、俺もマリアを助けたい。だが、結論が突然過ぎないか? 話が飛躍した気がするんだが」

 アイザックは慌てているが、他の皆は納得の顔をしている。
 ノエルとしては、我が意を得たり、である。

「アイザックがやらないなら、私がマリアに口移しするけど、それでもいい?」

 ドヤ顔で啖呵をきる。アイザックが困惑した顔をしている。

「ノエル、ノエル。もしかして昨日、寝ていないんじゃないの?」

 隣からロキが、ノエルの肩をちょいちょい突く。
 確かに寝ていない。月の言霊の作戦を一晩中練っていた。

「ちょっと寝るの忘れた、かも」
「やっぱり。ノエルの発言がぶっ飛んでる時って、大概寝ていない時だよね」

 ノエルは黙秘した。ロキが納得の顔で呆れた笑いを漏らす。 
 ウィリアムが盛大に息を吐いた。

「ノエル、君って子は。そんなに眠らないなら、クラブの皆で交代で寝かしつけに行くよ?」
「じゃぁ、今夜は俺が添い寝しに行ってあげようか?」
「何を言っているんだ、ロキ。嫁入り前のノエルに対して不純だぞ。貴族にあるまじき下品な発言だ」

 レイリーがノエルの肩を抱いてロキから離す。

「ちゃんと責任だって取るよ。ノエルなら、いつお嫁さんに貰っても構わないんだけど? 本当なら、ウィリアムに代わって俺が婚約したいんだから」

(あの一件以来、ロキの発言が大胆になってる)

 ウィリアムとの婚約は保留状態が続いている。
 だが、ユリウスとの婚約に関しては、まだ誰にも話していない。現時点では、王家への配慮として、家同士の話し合いにも至っていない。
 そのあたりの匙加減は、ユリウスの従姉弟であるシエナからも慎重にと念を押されている。

(他言無用って言われているけど、本当はロキにはちゃんと話したい)

 真っ直ぐに想いを伝えてくれたロキに話さないのは、不誠実だと思う。せめて自分のユリウスへの想いは伝えたいと思うが、なかなか機会を探せずにいた。
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