恋恣イ

金沢 ラムネ

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四月六日:青春2

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 心配なんてなんてその、真水は話に花を咲かせていた。そして十五分ほど経っただろうか、相手にお辞儀をして真水は戻ってきた。

「ただいま~」
「おかえり~」
 いい笑顔だった。
「さっさと移動するわよ。買い物もまだなんだから」
 すぐに移動しようとする真水に祭は驚いた顔をする。
「すぐに話してくれるんじゃないのかよ」
「私に今聞いたことをメモする時間くらい頂戴な。悪いけど買い物は二人で行ってきてもらってもいい?その間にまとめておくから」

 真水はバス停のあたりで留守番となったため、二人でスーパーマーケットまでやってきた。
 正直祭はやっと華火と二人で話せると思うと、つい楽しい気持ちになっていた。真水のように長い付き合いがあるわけではないのに、どうしてか、華火といる時間は心地よかった。気持ち的には可愛い動物を独り占めしているような気分だろうか。
「祭ちゃんは今日何食べたい?」
「ん~、なにがいいかな」
 祭は華火の負担になり過ぎず、自分も手伝えるようなものを考える。華火は特に意識した様子もなく夕飯候補を並べていた。子供が好きな料理を挙げているのかと勘違いしそうだ。
 確かにオムライスなんかはそんなに手間もかからずいいかもしれないけど・・・。
 祭は一人暮らしの華火が、楽しい、と思えるような、一人じゃないからこそ、作れる夕飯がよかった。友達と食べるご飯はそれだけで楽しいし、美味しいかもしれない。だが、別にオムライスはいつでも食べられる。それこそ一人分でも五人分でも簡単に作れる。そういうものではなく、鍋料理のような、複数人いるからこそ、より美味しく、楽しい食事がしたいのだ。
「華火、嫌いな食べ物とかは?」
「うん?特にないよ」
「アレルギーもない?」
「ないよ」
「ふむ・・・。ちなみに大きい土鍋どなべとかってある?」
 真水を入れると三人だ。一人用の鍋では賄えないだろう。
「どうだったかな。鍋自体ないかも・・・」
 じゃあ鍋はなしだ。この一回のために土鍋を買うという決断は高校生には重いのだ。そこでもう一つ、案が浮かんだ。祭が最も得意とする料理だ。
「あ、華火の家にあれある?」
「あれ?」
 三十分ほどで買い物を終え、三人は華火の家に帰宅した。もう日も沈み、全員お腹が空いていたため、すぐに夕飯の支度をしていた。

「いよし!うちがめちゃくちゃ美味しいたこ焼きを焼いてあげるのよ!」
 生粋の関東人らしいが、家でよくたこ焼きを作るという祭の希望により、本日は三人でたこ焼きパーティーである。千歳家には土鍋はないが、都合よくタコ焼き機はあったのだ。
「祭~、一応生地出来たけど、これでいい?」
 真水はせかせかと生地を作り、祭に見せにくる。
「うん、おっけおっけ。あ、華火、あと油とクッキングペーパーある?最悪テッシュでもいいの」
「あるよ、持っていくよ」
「ありがと華火~」
「かつお節と青のりどこ~」
「スーパーの袋の中!」
「出しといてよ~」
「ごめんなのよ」
「二人は飲み物は何がいい?」
「コーラ!」
「ジンジャーエール!」
「祭ちゃんの言う通り、買っておいてよかったね」
「真水は絶対ジンジャーエールだと思ったのよ」
「流石わかってる~」
「やっぱ粉ものには炭酸なのよ」
「買ってきたお惣菜も温めちゃうね」
「ありがとう~」
「いい嫁になるわねぇ、華火ちゃん」
「ぶっ、変なこと言わないのよ!真水!!」
「華火ちゃん私のところに嫁に来ない~?」
「え」
「真水!」
「なんちて」
「あぁもう!」
「ほらさっさと焼いてよ」
「ったく、もう!」
「二人ともここに飲み物おいとくね」
「ありがとう~」
「サンキューなのよ」
「祭~、お腹減ったぁ~」
「うるさいわ!あ!誰かタコ!」
 祭は生地を流しながら叫ぶ。
「普通最初に思い浮かぶでしょ」
 真水がタコを取り出す。
「さんきゅー、よ」
 三人で好きなことを言いながら準備し、夕食を一緒に作る。それはとても、楽しいと、華火は思った。一人で、一人分の食事を準備するのは簡単だし、早いかもしれないが、みんなで会話をしながらというのは、手間だが、面倒ではなかった。それが良い、と思えた。家の中が色づいて見えた。
 手際良く祭はたこ焼きを作る。綺麗な球になっていくたこ焼きは見ているだけで美味しそうだった。
「もうすぐ第一陣が出来るぞ~、お皿の準備は良いか~?」
 私と真水は二つ返事でお皿を祭へ渡す。祭は数が均等になるように盛り付けをしていく。
「ほい!熱いからゆっくり食べるのよ」
 ソースと青のりをかけ、熱々のたこ焼きを食べる。
「美味しい!」
 ほとんど同時に二人は声に出していた。
「それは良かったのよ!」
 祭は上機嫌でどんどんたこ焼きを作っていく。
「これ食べたら今度は私が作るよ、祭も食べな」
「え、そう?出来る?」
「出来るわよ、何回あんたの家で焼いてると思ってるのよ」
「真水ちゃんもたこ焼き良くやるの?」
「私の家はあんまりやらないんだけど、祭の家に遊びに行くと、祭のお母さんが食べていきなさいってよく作ってくれてね。何回もごちそうになってる間に、自分でも焼けるようになっちゃったのよ」
「そそ、本当うちの家はたこ焼きとかお好み焼きとか好きなのよ。大勢でわいわいするのが好きなのよ、きっと」
 私はこうした思い出話を眩しく思った。
「これからは華火もこうやって一緒にたこ焼きパーティーやったりするのよ。大勢って人数じゃないけど、人とご飯食べると、より美味しいのよ」
「うん」
「私も呼んでね~、たこ焼きパーティーじゃなくても呼んでね!」
「え~」
 嫌がる素振りをする祭に、真水が意外に必死に主張してくるのが存外面白く、三人で笑いあった。
「ありがとう、二人とも。すっごい嬉しい」
 自分が思っていたよりも感情が顔に出ていたかもしれない。真水ちゃんには写真を撮られてしまった。それにまた祭ちゃんが文句を言う。これ以上ない、楽しい食卓だった。

 二人の思い出話はたくさんあり、華火はずっと聞いていた。自分でも後から気づいたが、人の話を聞くのはとても好きなようだった。
 夕飯の片付けもそこそこに真水が二人に声をかける。
「さて、お腹もいっぱいになったことですし、そろそろさっき聞いた話を披露してもいいかしら」
 真水はにやりと笑った。
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