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四月八日:浸透ビュー4
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「千歳さん。私は先日起きた殺人事件の真相が知りたいのです」
三浦は率直な気持ちを伝えた。
「忍冬矜さんはおそらく事件関係者で間違いありません。しかし、不可思議なことが多すぎる。千歳さんの先程の質問、『忍冬さんはどんな人だったんですか?』この言葉にはどういった意味があるのですか?あなたは忍冬さんと幼馴染みだと伺っております。―――あなたでも知らない忍冬さんがいる、ということでしょうか?」
華火はじっと三浦を見た後に、少しだけ笑った。
「私は何も知りませんよ。私よりよっぽど三浦さんの方が彼女についてご存知かもしれません」
「・・・千歳さん、少し雰囲気が変わりましたか?以前のあなたとは少し違う気がします」
「・・・三浦さんってすごいですね。ちょっとだけ、私の立ち位置が少し変わったんです」
「立ち位置、ですか?」
「はい。まだ私自身わからないことだらけで、何かを言える立場ではないんですけどね」
少し困ったように笑う華火に対し、三浦はぎゅっと拳を握る。
「それでもいいです。事件について何か知ってるのであれば教えてもらいたい」
「すいません」
華火は残念そうに笑った。
「今日はもう失礼します」
「待ってくれ!」
帰ろうとする華火を三浦が止めようとする。しかし三浦は止められなかった。
彼女の目の色が紅く染まっていた。
「ごめんなさい」
謝っているのは千歳華火のはずなのに、物凄い威圧感を放っていた。
「・・・千歳さん?」
「動かないでくれて、ありがとうございます。私もまだ力加減がわからないんです」
三浦は冷や汗が止まらない。
「三浦さん。幽霊って信じますか?」
「ゆ、幽霊?」
「例えば、こういうのとか」
目が合った。その瞬間だった。彼女の周りに禍々しい黒いもやのようなものが見えたような気がした。
「脅し、というわけではないんですけど。あまり、深入りはおすすめしませんよ」
病室の扉が閉まった。すぐに三浦は追いかけようと扉を開けたが、それは出来なかった。千歳華火の姿は既に消えていたのだ。周りを見回すが、足音どころか気配もしない。窓だけが開いていた。春先のまだ肌寒い風が三浦の頬に刺激を与える。これは現実だと言い聞かせるように。
「・・・なんなんだ、本当に」
千歳華火は五階から飛び降りていた。だが、怪我一つすることなく着地する。まるで綿毛のように軽やかに。
「さっきはありがとうございました。すいません、変なこと頼んでしまって」
誰もいないはずの壁に向かい、華火は話しかけていた。否、そこにはナニかがいた。
「ふふ、大丈夫。面白い体験だったわ。警察官を脅かす、なんて」
優し気な声だった。彼女はつい先ほど亡くなった、幽霊というやつだった。証拠といってはあれだが、足がない。
「私、死んでしまったのねぇ。全然実感わかないわ」
「・・・なんだか、普通に生きているみたいですね」
「あら、あなた視えるのに他の幽霊と話したりしたことないの?」
「はい。・・・最近、視えるようになりました」
そうなのぉ、と女性の霊は華火の回りをくるくると飛ぶ。
「でもたしかに幽霊なのね、私。だってあなたに触れないし、足もないわ。病院着を着ていたはずなのに、お気に入りの服を着てる」
そっかぁ、死んじゃったのかぁ、と女性の霊は空を見上げる。
「うん、なんだか体が軽い気がするわ。って、そりゃそうよね、身体なんてないんですもの」
アハハハハハ、とひとしきり笑うと彼女の身体が光りだした。
「なんだかとっても、気分がいいわ」
気づけば彼女の姿はなかった。
華火は女性の霊がいた場所を見つめ、両手を合わす。そして一度おじぎをした。顔をあげ、人知れず帰路についた。
「先ほどはあんなことを言いましたが、正直簡単ではないでしょうね」
伊予刻路は呟いた。
「大きな力を持つ者、というのは皆さん難儀なものなのですね。だから、お気に入りなんですか、麻美子さん」
返事はなく、伊予刻路は外を眺めていた。
三浦仁は函嶺高校を出ていた。そして一度警察署に戻っていた。
「とりあえず一息つきましょうかね」
自席に着く前にコーヒーメーカーを利用する。珈琲のいい香りが漂う。先ほどまでの現実が少し薄れるような気がした。
「さて。須永は何を渡してきたんですかね」
正直、三浦は病院で見た千歳華火のインパクトが大きすぎて、頭は考えることを放棄しつつあった。
三浦はパソコンを起動させ、須永から渡されてUSBを読み込む。すると、どうやら動画ファイルのようだった。
「短い動画みたいですね」
再生させればあっという間だったが、一度見ただけでは三浦は何も理解できなかった。
『ふむ、今の人間はいろいろ面白い物を作り上げるのぉ』
画面の中の女と思しき人影が発した声だろうか。声だけが三浦に届く。画質の問題なのか、映像は荒く、顔は鮮明に確認できない。画面に映っているのは赤い着物を着崩して纏う女。そして紅い眼だった。
最初の音声以外は須永が消したのか、機材の故障か、全く入っていなかった。音のないただの映像。しかし、その映像はある種、映画やドラマのワンシーンのようだった。
女が笑う。そしてに向けて指を指す。すると、女の周りから火柱が数本突如として上がる。それは一本一本、確実に近づいている。最後はカメラの真横あたりで火柱が上がり、画面は砂嵐になり、終了している。
「これを見て諦めろ、ということは、これは警告に近いのだろうな。お前もこうなるぞ、という」
三浦は深いため息とともに、動画を見返す。
「紅い眼・・・」
動画に映る女の目は、三浦が病院で見た千歳華火の目のようだった。
三浦はコーヒーを飲み切ると、三浦は警察という権力を使い、個人情報を調べ上げる。
「彼女が最初に言っていた通り、警察がその気になれば個人情報なんてすぐにわかるんですよ。まぁ、正直苦手ですし、手間がかかるのも本当なんですけどね」
三浦は区役所などで保管している個人データバンクの閲覧許可を取るために書類をそろえる。もちろん、正直に理由を書いたところで鼻で笑われるのが落ちである。多少の脚色、演出はお手の物だ。
書類を揃えることに奔走し、気づけば終電もなくなっていた。
三浦は率直な気持ちを伝えた。
「忍冬矜さんはおそらく事件関係者で間違いありません。しかし、不可思議なことが多すぎる。千歳さんの先程の質問、『忍冬さんはどんな人だったんですか?』この言葉にはどういった意味があるのですか?あなたは忍冬さんと幼馴染みだと伺っております。―――あなたでも知らない忍冬さんがいる、ということでしょうか?」
華火はじっと三浦を見た後に、少しだけ笑った。
「私は何も知りませんよ。私よりよっぽど三浦さんの方が彼女についてご存知かもしれません」
「・・・千歳さん、少し雰囲気が変わりましたか?以前のあなたとは少し違う気がします」
「・・・三浦さんってすごいですね。ちょっとだけ、私の立ち位置が少し変わったんです」
「立ち位置、ですか?」
「はい。まだ私自身わからないことだらけで、何かを言える立場ではないんですけどね」
少し困ったように笑う華火に対し、三浦はぎゅっと拳を握る。
「それでもいいです。事件について何か知ってるのであれば教えてもらいたい」
「すいません」
華火は残念そうに笑った。
「今日はもう失礼します」
「待ってくれ!」
帰ろうとする華火を三浦が止めようとする。しかし三浦は止められなかった。
彼女の目の色が紅く染まっていた。
「ごめんなさい」
謝っているのは千歳華火のはずなのに、物凄い威圧感を放っていた。
「・・・千歳さん?」
「動かないでくれて、ありがとうございます。私もまだ力加減がわからないんです」
三浦は冷や汗が止まらない。
「三浦さん。幽霊って信じますか?」
「ゆ、幽霊?」
「例えば、こういうのとか」
目が合った。その瞬間だった。彼女の周りに禍々しい黒いもやのようなものが見えたような気がした。
「脅し、というわけではないんですけど。あまり、深入りはおすすめしませんよ」
病室の扉が閉まった。すぐに三浦は追いかけようと扉を開けたが、それは出来なかった。千歳華火の姿は既に消えていたのだ。周りを見回すが、足音どころか気配もしない。窓だけが開いていた。春先のまだ肌寒い風が三浦の頬に刺激を与える。これは現実だと言い聞かせるように。
「・・・なんなんだ、本当に」
千歳華火は五階から飛び降りていた。だが、怪我一つすることなく着地する。まるで綿毛のように軽やかに。
「さっきはありがとうございました。すいません、変なこと頼んでしまって」
誰もいないはずの壁に向かい、華火は話しかけていた。否、そこにはナニかがいた。
「ふふ、大丈夫。面白い体験だったわ。警察官を脅かす、なんて」
優し気な声だった。彼女はつい先ほど亡くなった、幽霊というやつだった。証拠といってはあれだが、足がない。
「私、死んでしまったのねぇ。全然実感わかないわ」
「・・・なんだか、普通に生きているみたいですね」
「あら、あなた視えるのに他の幽霊と話したりしたことないの?」
「はい。・・・最近、視えるようになりました」
そうなのぉ、と女性の霊は華火の回りをくるくると飛ぶ。
「でもたしかに幽霊なのね、私。だってあなたに触れないし、足もないわ。病院着を着ていたはずなのに、お気に入りの服を着てる」
そっかぁ、死んじゃったのかぁ、と女性の霊は空を見上げる。
「うん、なんだか体が軽い気がするわ。って、そりゃそうよね、身体なんてないんですもの」
アハハハハハ、とひとしきり笑うと彼女の身体が光りだした。
「なんだかとっても、気分がいいわ」
気づけば彼女の姿はなかった。
華火は女性の霊がいた場所を見つめ、両手を合わす。そして一度おじぎをした。顔をあげ、人知れず帰路についた。
「先ほどはあんなことを言いましたが、正直簡単ではないでしょうね」
伊予刻路は呟いた。
「大きな力を持つ者、というのは皆さん難儀なものなのですね。だから、お気に入りなんですか、麻美子さん」
返事はなく、伊予刻路は外を眺めていた。
三浦仁は函嶺高校を出ていた。そして一度警察署に戻っていた。
「とりあえず一息つきましょうかね」
自席に着く前にコーヒーメーカーを利用する。珈琲のいい香りが漂う。先ほどまでの現実が少し薄れるような気がした。
「さて。須永は何を渡してきたんですかね」
正直、三浦は病院で見た千歳華火のインパクトが大きすぎて、頭は考えることを放棄しつつあった。
三浦はパソコンを起動させ、須永から渡されてUSBを読み込む。すると、どうやら動画ファイルのようだった。
「短い動画みたいですね」
再生させればあっという間だったが、一度見ただけでは三浦は何も理解できなかった。
『ふむ、今の人間はいろいろ面白い物を作り上げるのぉ』
画面の中の女と思しき人影が発した声だろうか。声だけが三浦に届く。画質の問題なのか、映像は荒く、顔は鮮明に確認できない。画面に映っているのは赤い着物を着崩して纏う女。そして紅い眼だった。
最初の音声以外は須永が消したのか、機材の故障か、全く入っていなかった。音のないただの映像。しかし、その映像はある種、映画やドラマのワンシーンのようだった。
女が笑う。そしてに向けて指を指す。すると、女の周りから火柱が数本突如として上がる。それは一本一本、確実に近づいている。最後はカメラの真横あたりで火柱が上がり、画面は砂嵐になり、終了している。
「これを見て諦めろ、ということは、これは警告に近いのだろうな。お前もこうなるぞ、という」
三浦は深いため息とともに、動画を見返す。
「紅い眼・・・」
動画に映る女の目は、三浦が病院で見た千歳華火の目のようだった。
三浦はコーヒーを飲み切ると、三浦は警察という権力を使い、個人情報を調べ上げる。
「彼女が最初に言っていた通り、警察がその気になれば個人情報なんてすぐにわかるんですよ。まぁ、正直苦手ですし、手間がかかるのも本当なんですけどね」
三浦は区役所などで保管している個人データバンクの閲覧許可を取るために書類をそろえる。もちろん、正直に理由を書いたところで鼻で笑われるのが落ちである。多少の脚色、演出はお手の物だ。
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