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四月九日:波紋
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三浦は警察署で朝を迎えていた。書類を確認し、外に出たのはまだ八時頃のことだった。
『二十三番でお待ちの方~。三番の受付までどうぞ』
三浦がそこに着いたころには既にそこそこの人数が受付を待っていた。周りは年寄りばかりで、働いている人間くらいしか若そうな人はいなかった。自分もこの場においては若者というカテゴリーに入るだろう。
「すいません、少しよろしいでしょうか?」
三浦は職員と思われる男性に声をかける。
「はい、なんでしょうか」
警察手帳を取り出し、相手に見せる。職員の顔がぎょっとしたのがすぐにわかった。
「少し見せて頂きたいものがございまして。ご担当の方はいらっしゃいますか?」
箱根町役場の応接間へと三浦は招かれる。
役場を出て、ブランチを食べようと喫茶店に入ったところで本部から連絡があった。
「え!?」
内容は今まさに捜査中の殺人事件の捜査終了、というものだった。
「どういうことですか!?意味がわかりません!」
話を聞くと、この事件は被害者と思われていた沖峰浄呉の自殺、という線が色濃く、恐らく今日中にその路線で話が進む、ということだ。
「いや、でもこの事件には不可解なところも多い!それは、みなさんお分かりでしょう!」
『だからこそ、上は早く事を終わらせたいんだよ』
「そんな!」
『今日中だ』
「え」
『今日中に自殺以外の証拠を見つければ、本部は捜査を続ける』
「今日中って・・・」
『そういうことだ。もし無理そうならそうそうに署に置いてある荷物を片付けておけ』
「ギリギリまで戻りませんよ」
『・・・好きにしろ』
「はい」
電話が切れた後、三浦の目は何かを見据えていた。
千歳華火はその日一度も口を開かなかった。開かなかった、というよりも開く機会がなかった。学校において、自分に話しかけてくるのは飛鳥祭と手水真水だけだった。自分から話しかけなければ、口を開くこともない。これが本来の千歳華火なのだろう。
授業中や休み時間、華火はたびたび祭や真水に目線を送ってしまうが、すぐにやめる。本来、関わるべき人間ではないと言い聞かせた。だが、どうしてか落ち着かなかった。
なんでこんなにモヤモヤするんだろう。
授業が終わると、隠れるように華火はとある階段裏へ向かう。そして用意していたココアシガレットをいつものように置く。
パン、パン
柏手を二回。
華火は願う。行きたい場所へ。
華火が目を開けると、そこは幻想的な桜が見事な宵桜の間だった。
「にゃんだ、今日も一人か」
「まぁ」
面白そうに函嶺は華火を見やる。
「今日はちょっとお聞きしたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「こないだ、なんとなく自分の力を使えるようになって気づいたんですけど、このあたりに変なの、いますよね?」
函嶺は目を細めて聞き続ける。
「私が前に遭った人。その時は生きてる人なのか、死んでる人なのか、そもそも誰なのか知りませんでしたけど、今ならわかります。あの人は死んだ人間、沖峰浄呉です」
華火の目は確信に満ちた目をしていた。
「流石に気づくか」
「まぁ」
華火は少しはにかんだ表情をした。
「ふむ、まぁそうにゃ。人間の名前こそよく覚えてにゃいが、ここ最近うろついてる悪霊は恐らくそいつの怨念だ。自分の願いを叶えられずに一人で死んだ。その思いが怨念に変わり、生前の姿を作り出した」
「私は彼を一週間前に見ました。このまま放っておくとどうなるんですか?」
「人を喰うだろうにゃ」
「・・・っ」
函嶺は宙に浮きながらココアシガレットを食べ始める。
「・・・成仏とかさせることは出来ないんですか?」
「成仏。そういうのはお前ら人間の領分。本来であればお前がそういったことをするべきだろうにゃ」
「私が・・・」
函嶺は華火を適当に座らせる。
「視える者も、視えない者も人には存在する。視える人間を、視える側にゃんて言ったりもする。だが、ただ視えるだけでにゃい人間もいる」
華火には思い当たる節があった。
「悪いモノを払える力を持つ者を〝継眼者〟と呼ぶにゃ」
継眼者。
華火はつい繰り返すように口にしていた。
「そしてそういった力を持つ者の眼はだいたい眼が赤くなっている。お前のようににゃ」
華火は無意識に瞼を触っていた。
「・・・そして、払うことを生業にする者を拝み屋という」
「拝み屋?」
名前だけ聞くと私の頭のなかでは、おばあちゃんがひたすら拝んでいる姿が浮かんだ。お供え物はみかんとかおまんじゅうだろうか。
馬鹿なことを考えてそうだから先に進むにゃ、と函嶺は話を進めた。
「拝み屋、つまるところは霊媒師みたいなもんだにゃ。幽霊や悪霊を成仏させることが主な仕事にゃ」
「・・・じゃあ、千歳華火も拝み屋だったんですか?」
「さっき言っただろう?本来であればお前がそういったことをするべきだと。―――お前は拝み屋の中でも相当強い人間だったにゃ」
「そう、なんですね・・・」
「あとめちゃくちゃに稼いでたにゃ」
「え」
「高額な依頼料で除霊にゃんかを請け負っていたにゃ」
「え」
「それでの高校生クセに問題を金で解決するようにゃやつだった」
「嫌われるタイプナンバーワンのスネ夫的ポジションじゃないですか」
華火は自分のことながら、本当にわからないことだらけだった。
『二十三番でお待ちの方~。三番の受付までどうぞ』
三浦がそこに着いたころには既にそこそこの人数が受付を待っていた。周りは年寄りばかりで、働いている人間くらいしか若そうな人はいなかった。自分もこの場においては若者というカテゴリーに入るだろう。
「すいません、少しよろしいでしょうか?」
三浦は職員と思われる男性に声をかける。
「はい、なんでしょうか」
警察手帳を取り出し、相手に見せる。職員の顔がぎょっとしたのがすぐにわかった。
「少し見せて頂きたいものがございまして。ご担当の方はいらっしゃいますか?」
箱根町役場の応接間へと三浦は招かれる。
役場を出て、ブランチを食べようと喫茶店に入ったところで本部から連絡があった。
「え!?」
内容は今まさに捜査中の殺人事件の捜査終了、というものだった。
「どういうことですか!?意味がわかりません!」
話を聞くと、この事件は被害者と思われていた沖峰浄呉の自殺、という線が色濃く、恐らく今日中にその路線で話が進む、ということだ。
「いや、でもこの事件には不可解なところも多い!それは、みなさんお分かりでしょう!」
『だからこそ、上は早く事を終わらせたいんだよ』
「そんな!」
『今日中だ』
「え」
『今日中に自殺以外の証拠を見つければ、本部は捜査を続ける』
「今日中って・・・」
『そういうことだ。もし無理そうならそうそうに署に置いてある荷物を片付けておけ』
「ギリギリまで戻りませんよ」
『・・・好きにしろ』
「はい」
電話が切れた後、三浦の目は何かを見据えていた。
千歳華火はその日一度も口を開かなかった。開かなかった、というよりも開く機会がなかった。学校において、自分に話しかけてくるのは飛鳥祭と手水真水だけだった。自分から話しかけなければ、口を開くこともない。これが本来の千歳華火なのだろう。
授業中や休み時間、華火はたびたび祭や真水に目線を送ってしまうが、すぐにやめる。本来、関わるべき人間ではないと言い聞かせた。だが、どうしてか落ち着かなかった。
なんでこんなにモヤモヤするんだろう。
授業が終わると、隠れるように華火はとある階段裏へ向かう。そして用意していたココアシガレットをいつものように置く。
パン、パン
柏手を二回。
華火は願う。行きたい場所へ。
華火が目を開けると、そこは幻想的な桜が見事な宵桜の間だった。
「にゃんだ、今日も一人か」
「まぁ」
面白そうに函嶺は華火を見やる。
「今日はちょっとお聞きしたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「こないだ、なんとなく自分の力を使えるようになって気づいたんですけど、このあたりに変なの、いますよね?」
函嶺は目を細めて聞き続ける。
「私が前に遭った人。その時は生きてる人なのか、死んでる人なのか、そもそも誰なのか知りませんでしたけど、今ならわかります。あの人は死んだ人間、沖峰浄呉です」
華火の目は確信に満ちた目をしていた。
「流石に気づくか」
「まぁ」
華火は少しはにかんだ表情をした。
「ふむ、まぁそうにゃ。人間の名前こそよく覚えてにゃいが、ここ最近うろついてる悪霊は恐らくそいつの怨念だ。自分の願いを叶えられずに一人で死んだ。その思いが怨念に変わり、生前の姿を作り出した」
「私は彼を一週間前に見ました。このまま放っておくとどうなるんですか?」
「人を喰うだろうにゃ」
「・・・っ」
函嶺は宙に浮きながらココアシガレットを食べ始める。
「・・・成仏とかさせることは出来ないんですか?」
「成仏。そういうのはお前ら人間の領分。本来であればお前がそういったことをするべきだろうにゃ」
「私が・・・」
函嶺は華火を適当に座らせる。
「視える者も、視えない者も人には存在する。視える人間を、視える側にゃんて言ったりもする。だが、ただ視えるだけでにゃい人間もいる」
華火には思い当たる節があった。
「悪いモノを払える力を持つ者を〝継眼者〟と呼ぶにゃ」
継眼者。
華火はつい繰り返すように口にしていた。
「そしてそういった力を持つ者の眼はだいたい眼が赤くなっている。お前のようににゃ」
華火は無意識に瞼を触っていた。
「・・・そして、払うことを生業にする者を拝み屋という」
「拝み屋?」
名前だけ聞くと私の頭のなかでは、おばあちゃんがひたすら拝んでいる姿が浮かんだ。お供え物はみかんとかおまんじゅうだろうか。
馬鹿なことを考えてそうだから先に進むにゃ、と函嶺は話を進めた。
「拝み屋、つまるところは霊媒師みたいなもんだにゃ。幽霊や悪霊を成仏させることが主な仕事にゃ」
「・・・じゃあ、千歳華火も拝み屋だったんですか?」
「さっき言っただろう?本来であればお前がそういったことをするべきだと。―――お前は拝み屋の中でも相当強い人間だったにゃ」
「そう、なんですね・・・」
「あとめちゃくちゃに稼いでたにゃ」
「え」
「高額な依頼料で除霊にゃんかを請け負っていたにゃ」
「え」
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