59 / 64
四月十日:エピローグ
しおりを挟む
結局全てが終わったのは朝方になってのことだった。まず華火自身の出血が酷かった。意識を失いはしなかったが、一人で立つとふらふらだった。そんな様子を見るなり笑っていたのは猫だった。否、函嶺だった。学校の敷地内であれば自由に出入り出来るのだから、校庭にいても不思議ではない。
町や学校の修繕は心配ないと函嶺が断言していた。
どうするのかはよく分からなかったが、函嶺さんが断言していると大丈夫だと思えた。
華火が三浦に肩をかりて麻美子のところへ戻ると、今度は仁王立ちの、良い笑顔をした伊予麻美子がいた。
「ほお、ずいぶん派手にいったね。手間を増やして楽しいかい?」
身体が動けば土下座をしていただろう。三浦さんでさえたじろいでいた。
祭は華火たちが戻ったくらいのタイミングで目が覚めた。ある程度は治療できたが、麻美子から激しい運動は二、三日控えろ、と言われていた。祭はどうやって部活を休むか頭を悩ませていた。
そして祭は刺されたショックで前後の記憶をなくしていた。
そのため、どこまで聞いていたかわからないが、私と三浦さんの密談部分は気にしなくて良さそうだった。変に心配させたくなかったが、流石に二の腕は心配されてしまった。
「華火っ、う、腕っ、急いで病院にっ」
「ここが病院で私が医者だ」
麻美子さんにツッコまれていた。
麻美子さんに治療をしてもらいながら簡単に二の腕に関する部分だけを話をした。
前にあった幽霊みたいな男が沖峰浄呉だったこと、その沖峰浄呉が悪霊になっていたこと、それをどうにか封印しようと思って失敗したこと、最後になっちゃんに助けてもらったこと。
祭ちゃんは真剣に聞いていた。そして怒られてしまった。そんな危ないことしないで、と。
人を庇って刺された祭ちゃんには言われたくなかったが、謝った。私は、もう喧嘩するのは嫌だったのだ。
三浦さんも相当疲れていた。それを見かねた麻美子さんが朝まで三人ともここで寝ていけ、と言ってくれた。三浦さんは最初は断っていたが、
「真人間がする体験じゃないものを体験したんだ。朝起きて、気が変になってないか確認するためにもここで寝ていけ」
本気なのか冗談なのかわからない言葉に怯え、最後は大人しく病人用のベッドを貸りて眠っていた。仕事のことも気になっていたのだろうけれど、麻美子さんにスマホを取り上げられ、成す術はなにもなかった。
三人とも熟睡していた。
あっという間に朝日が昇っていたようだった。
「おはようございます」
三浦は出勤して真っ先に寒川に話しかけた。
「そういえば昨日はろくに連絡出来ずにすいませんでした。日付も超えてしまって。・・・四月一日の事件は上の予定通り沖峰浄呉の自殺という結末で進んでいますね」
新しく報道された沖峰浄呉の自殺というニュースは、三浦にとっては考えさせられるものだった。
「沖峰浄呉の自殺、という見解は本当に正しいものなんでしょうかね」
「・・・既に我々に捜査権はありません。上がそうする、ということならそうなのでしょう」
「公務員の世知辛いところですね」
「そうですね。でも」
でも?と聞き返す寒川にその続きを話すことは出来なかった。でもそっちの方が良かったかも、なんて。
「いえ、なんでもありません」
そうですか、なんて寒川にしては気のない返事はこの後の本部の片付けが億劫だからかもしれない。
「そういえば、千歳華火とは会えたんですか?」
「はい。なんとか」
「・・・そうですか」
寒川は真顔で言う。
「正しいことだけが全てじゃないかもですが、真実がわかったら俺なら公表しちゃいますね。周りから尊敬されたいんで」
「意外ですね。・・・ひっそりと、穏やかに生きることも良いと思いますよ」
三浦は言外に真実を知っていると白状していた。
「俺はこの一度しかない人生、使えるものは全部使って、最大限に楽しみたいと思ってますよ」
三浦は寒川に驚いた目を向けた。
「そういうわけなんで、俺はちょっと外周りにでてきます。後はよろしくお願いします」
「寒川君。これから本部の掃除が」
三浦の言葉が言い終わる前に寒川は本部室から退散していた。
「・・・怒られるの私なんですが」
上司がここに来るのも時間の問題だろう。どううまく取り繕えるか、三浦は必死にいい訳を考え始めた。
須永縛はこの事件の一部始終を全て見ていた。彼は三月三十一日から本日までの全てを把握している。彼は紛れもない一般人であり、特別な力など何もない。ただ、情報屋という肩書と千歳華火という人間と関りがあった点だけが異常な、一般人。そしてこの十日間ほど、大きな仕事を抱えていた。
それは―――千歳華火の後始末である。
クライアントはもちろん千歳華火自身である。彼女はいつも仕事をするたびに、保険をかけていた。自分に何かがあった時に、自分が関わった人間、真眼者に関する情報やデータの消去、改ざんを依頼していた。もちろん自分を含めた。
千歳華火が須永縛は一種のビジネスパートナーだった。視えている世界が違うからこそ、任せられることもあったのだろう。
町や学校の修繕は心配ないと函嶺が断言していた。
どうするのかはよく分からなかったが、函嶺さんが断言していると大丈夫だと思えた。
華火が三浦に肩をかりて麻美子のところへ戻ると、今度は仁王立ちの、良い笑顔をした伊予麻美子がいた。
「ほお、ずいぶん派手にいったね。手間を増やして楽しいかい?」
身体が動けば土下座をしていただろう。三浦さんでさえたじろいでいた。
祭は華火たちが戻ったくらいのタイミングで目が覚めた。ある程度は治療できたが、麻美子から激しい運動は二、三日控えろ、と言われていた。祭はどうやって部活を休むか頭を悩ませていた。
そして祭は刺されたショックで前後の記憶をなくしていた。
そのため、どこまで聞いていたかわからないが、私と三浦さんの密談部分は気にしなくて良さそうだった。変に心配させたくなかったが、流石に二の腕は心配されてしまった。
「華火っ、う、腕っ、急いで病院にっ」
「ここが病院で私が医者だ」
麻美子さんにツッコまれていた。
麻美子さんに治療をしてもらいながら簡単に二の腕に関する部分だけを話をした。
前にあった幽霊みたいな男が沖峰浄呉だったこと、その沖峰浄呉が悪霊になっていたこと、それをどうにか封印しようと思って失敗したこと、最後になっちゃんに助けてもらったこと。
祭ちゃんは真剣に聞いていた。そして怒られてしまった。そんな危ないことしないで、と。
人を庇って刺された祭ちゃんには言われたくなかったが、謝った。私は、もう喧嘩するのは嫌だったのだ。
三浦さんも相当疲れていた。それを見かねた麻美子さんが朝まで三人ともここで寝ていけ、と言ってくれた。三浦さんは最初は断っていたが、
「真人間がする体験じゃないものを体験したんだ。朝起きて、気が変になってないか確認するためにもここで寝ていけ」
本気なのか冗談なのかわからない言葉に怯え、最後は大人しく病人用のベッドを貸りて眠っていた。仕事のことも気になっていたのだろうけれど、麻美子さんにスマホを取り上げられ、成す術はなにもなかった。
三人とも熟睡していた。
あっという間に朝日が昇っていたようだった。
「おはようございます」
三浦は出勤して真っ先に寒川に話しかけた。
「そういえば昨日はろくに連絡出来ずにすいませんでした。日付も超えてしまって。・・・四月一日の事件は上の予定通り沖峰浄呉の自殺という結末で進んでいますね」
新しく報道された沖峰浄呉の自殺というニュースは、三浦にとっては考えさせられるものだった。
「沖峰浄呉の自殺、という見解は本当に正しいものなんでしょうかね」
「・・・既に我々に捜査権はありません。上がそうする、ということならそうなのでしょう」
「公務員の世知辛いところですね」
「そうですね。でも」
でも?と聞き返す寒川にその続きを話すことは出来なかった。でもそっちの方が良かったかも、なんて。
「いえ、なんでもありません」
そうですか、なんて寒川にしては気のない返事はこの後の本部の片付けが億劫だからかもしれない。
「そういえば、千歳華火とは会えたんですか?」
「はい。なんとか」
「・・・そうですか」
寒川は真顔で言う。
「正しいことだけが全てじゃないかもですが、真実がわかったら俺なら公表しちゃいますね。周りから尊敬されたいんで」
「意外ですね。・・・ひっそりと、穏やかに生きることも良いと思いますよ」
三浦は言外に真実を知っていると白状していた。
「俺はこの一度しかない人生、使えるものは全部使って、最大限に楽しみたいと思ってますよ」
三浦は寒川に驚いた目を向けた。
「そういうわけなんで、俺はちょっと外周りにでてきます。後はよろしくお願いします」
「寒川君。これから本部の掃除が」
三浦の言葉が言い終わる前に寒川は本部室から退散していた。
「・・・怒られるの私なんですが」
上司がここに来るのも時間の問題だろう。どううまく取り繕えるか、三浦は必死にいい訳を考え始めた。
須永縛はこの事件の一部始終を全て見ていた。彼は三月三十一日から本日までの全てを把握している。彼は紛れもない一般人であり、特別な力など何もない。ただ、情報屋という肩書と千歳華火という人間と関りがあった点だけが異常な、一般人。そしてこの十日間ほど、大きな仕事を抱えていた。
それは―――千歳華火の後始末である。
クライアントはもちろん千歳華火自身である。彼女はいつも仕事をするたびに、保険をかけていた。自分に何かがあった時に、自分が関わった人間、真眼者に関する情報やデータの消去、改ざんを依頼していた。もちろん自分を含めた。
千歳華火が須永縛は一種のビジネスパートナーだった。視えている世界が違うからこそ、任せられることもあったのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?
鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。
先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
隣人意識調査の結果について
三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」
隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。
一部、確認の必要な点がございます。
今後も引き続き、調査をお願いいたします。
伊佐鷺裏市役所 防犯推進課
※
・モキュメンタリー調を意識しています。
書体や口調が話によって異なる場合があります。
・この話は、別サイトでも公開しています。
※
【更新について】
既に完結済みのお話を、
・投稿初日は5話
・翌日から一週間毎日1話
・その後は二日に一回1話
の更新予定で進めていきます。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる