恋恣イ

金沢 ラムネ

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飲み干したマグカップ2

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 須永は変装して霞ヶ関、警視庁へやってきていた。

「事件の真相はこんなところです。いかがですか?感想としては」
「私は見えないものは信じない」
「そうですか」
「だが、千歳華火かのじょの噂はよく聞いていた。・・・残念だよ、我々は強力な戦力を一つ失ったのだから」
 警務部長は視える人間と面識を持っている。というよりも、警察上層部と拝み屋の上層部は繋がっているのだ。管轄が違うが、共に手を取り合っているのである。
「それで、終わらせる理由はどうする?」
「沖峰浄呉の自殺、でいかがでしょうか」
「心中でもいいのではないか?」
「・・・記憶のない忍冬矜にその荷物は重いでしょう」
「意外と甘い男だな」
「故人の意向は出来る限り尊重するタイプなんです」
「・・・そうか」
「ある程度納得いく報告書とマスコミ対応については、後日メールでお送りします」
「全く、手間がかかる」
 警務部長は舌打ちをする。
「そういえば拝み屋どもの方は何も手出しをしないのか?」
「しばらくは様子を見るのではないでしょうか。正直、千歳華火が再び「拝み屋」に復帰するかどうかは誰にもわかりませんから。視えないのであれば、余計な干渉はしないでしょう」
「そうか」
 この警務部長は比較的物分かりが良く、柔軟である。だからこそ、須永のような男とこうして取引をしている。くだらない警察の威信なんかより、長期的な損得勘定を大事にしている。
「またよろしくお願いしますね」
「できれば二度と来るな」
 口が悪いのがたまに傷である。

「やれやれ・・・」
 まさか仁がここまで関わるとは思わなかったが、結果オーライ。俺の仕事は完了だ。あいつには警告めいた動画まで渡したが、火に油だったのかもしれない。正直、次に仁に会った時が面倒そうだが、さてどうしたもんか。

 昨夜の、沖峰浄呉だったはずのソレと戦っていた、であろう様子は遠巻きに観察していた。須永はもちろん何も視えないが、観察は出来る。慣れもあるが、地面が凹んでいくところと千歳華火の動きを見れば、そこにナニかがいることは想像できるのだ。
 学校にはあまり見たくもない女の顔もあったが、恐らく千歳華火と仁を助けたのはあの女なのだろう。先日の件といい、ずいぶんと千歳華火に懐いているらしい。
「大概、化物は化物に好かれるもんなのかね」

 伊予総合病院のだいたいの座標は知っているが、俺が行っても視ることが出来ない。入ることも出来ない。あそこは入る者を選ぶのだ。選ばれない俺に取っては無いものと一緒である。だから俺は伊予総合病院で何があったかは知らないが、朝方には飛鳥祭の腹と千歳華火の二の腕がある程度治っているくらいだ。ここにも化物みたいのがいるのだろう。触らぬ神に祟りなし、視えない俺はここにも近づきたいとは思わない。

 忍冬矜は相変わらず目覚める気配なし。これは俺の依頼には含まれていないため、たいした興味はない。

 千歳華火。あいつの報酬は毎回前払いだった。仕事がなければ半額分は返金していたが、今回は全額もらっていくぞ。正直、高校生から大金をもらっていることが仁にバレるとうるさそうだが、正当な対価だ。今回に至っては足りないくらいだった。

 正直俺みたいな仕事をしている人間は大概ロクでなしだ。だが、千歳華火に関して言えば、よっぽどお前の方がロクな人間じゃない。だからこの機会にまともに人間ってやつを体験した方がいいさ。俺はもうお前と関わることはないだろうが、お前もこの先こんなロクでなしと関わるような生活に戻らないことを祈るよ。祈るだけならタダだからな。珈琲豆の原産地っぽい方向向いて願っといてやるよ。

「お前の新たな門出が、平穏無事であることを」

 須永縛はただの情報屋である。化物との縁も切れた、ただのロクでなしに成りあがった。
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