祝福の星

ばやし せいず

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 次の日、つまり水曜日の夕方。学校の夏期講習を終え、図書館で勉強してから帰ってくると、いつも通りママはいない。今日も仕事で遅くなると言っていた。
 二階に上がった。蒸している。ママの部屋のドアを開けると、ほんのりとエアコンの冷気が残っているような気がした。
 ダンボールを漁り、監視カメラを回収する。電源ボタンを探すのに数分費やしてしまった。その間に、全身からどっと汗が流れた。
 本体に差し込んだSDカードに保存されているデータを再生する。
 まず、レンズを覗き込む私が映った。鏡とで見るのとはまた印象が異なる。自分の姿なのにぎょっとした。痩せたほうがいい。ぱつぱつの制服姿の私はカメラから離れて部屋を去る。
 カーテンの隙間から朝日の漏れるママの寝室が、私がたった今いるこの場所が写っている。少し前に購入した監視カメラだと言っていたけど、思ったよりもはるかに映像がきれいで驚いた。日差しに埃がきらめく様子までわかる。
しばらく同じ絵面が続く。アパートの前を通り過ぎるバイクのエンジン音や、道路族の子どもたちの高い声があがった。
 早送りボタンに気が付いてそれを押す。カーペットの上にあぐらをかいた。毛足に汗がしみ込んでいく。
 動画をしばらく進めると、画面の端からすっと手が伸びた。再生ボタンを押そうとしたら手がもつれ、監視カメラを落としてしまった。慌てて拾い上げ、モニターを上に向ける。
 あ、と声を上げた。
 部屋の電気が付けられていた。エアコンのランプも光っている。ママの姿は無い。
 また早送り。
 一時間ほど時間をすすめると、部屋着姿のママが部屋に入ってきた。湯上りなのか、ほっぺは赤くつやつやで、少女のようににこにこしている。『すずし~!』と言いながら、手で顔を仰いでいる。声もいつもより高い。続いて、知らないジジイが慣れた様子で入室してきた。スウェットなんか着て、他人の家でくつろごうとしている。監視カメラはジジイの頭髪に混ざる白い毛も捉えていた。薄い体のジジイ。スウェットの毛玉。ママは、ジジイと抱き合って、キスなんてしている。二人はベッドに移動した。ママは服を脱がされて、ジジイに押し倒された。くたくたの部屋着に反して、ブラジャーはちゃんとしたものだった。空気が抜けかけた風船みたいなおっぱいが少し見えた。お腹だってぼてっとしている。全体的にだらしがない。決してきれいな体とはいえなかった。ママはおっぱいを揉まれ、さらに乳首をしゃぶしゃぶとやられている。アンアン言い始めた。こばすけが見せてきたAV女優よりも喘ぐのが上手だった。お股を擦られて、またアンアンと続けている。ジジイが枕もとに手を伸ばす。紫色の何かをとった。電動歯ブラシみたいな音がする。それをママの股間にぺたっと当てた。ジジイは実験結果を待つみたいにじっとしている。二人は一体なにをしているんだろうと思っているうちに、ママがグネグネ動きながらまたアンアン言い始めた。アンアンの中にアアーも混ざる。気持ちいいらしい。パンツを脱がされて、今度は高速カンチョーみたいなことをされて、ママが絶叫する。あそこの毛はきれいに剃られていた。老いた体だけど、そこだけが若い女の子のようだった。カンチョーは止まない。カンチョー、カンチョー。その度にママが叫ぶ。カンチョー、カンチョー。さすがに死ぬんじゃないかと心配になったが、ママはなんとか生きていた。起死回生したママが今度はジジイのズボンを脱がせて、ちんちんをしゃぶった。知っている。フェラってやつだ。しゃぶられているジジイの、生徒には見せられないであろう顔がばっちり映っている。他人の排泄機関なんて、よく口に入れる気になれるなと思う。自分のものだったとしても無理だ。ジジイはママの頭を押さえてスライドさせようとするけど、すぐにやめてしまった。代わりに歯を食いしばる。ママの頭をつかんでやりたいけど、我慢しているみたいだった。ママが嫌がるのか、罪悪感とか背徳感とかの問題なのかわからない。ママ、同じことをパパにもしてあげた? パパからも同じことをされた? そんなことを考えているうちに、ママはジジイのちんちんから口を離す。ジジイは前屈みになり、勃起したちんちんをいじっている。コンドームがつけられていた。勃起した状態のちんちんを見るより、コンドームを付けた状態のちんちんを見るほうが感慨深かった。二人はとうとう下半身で結合した。腰を一生懸命振るジジイ。疲れるのか、たまに動きを止める。今度はママが上にきた。ジジイよりもママのほうが腰を振るのが上手いかもしれない。仰向けのジジイがまたママの胸に手を伸ばす。気持ちよくなりたくて(気持ちよくしたくて?)揉んだ、というよりかは、そこにあったから揉んでおいたという感じだった。ママとジジイはベッドの上で転がり合うようにセックスを続けていた。ママ、私のおむつ替えのときの動画をアップしたね。監視カメラがママのまんこを捉えているように、私のまんこもばっちり映っていたね。それを世界中の人に見せたね。三歳になってもママのおっぱいをしゃぶる私の姿を載せたよね。上半身裸の私がぬいぐるみにおっぱいをあげようとする姿も載せたね。『エッチな少女漫画を読んでいたからスマホを没収しました!』って、いい話風の投稿もしたし、丸めた私の使用済みナプキンの写真も公開したね。ママはいつも、画面越しに私を見て、可愛いと言ったね。最後に私の目を見て可愛いと言ったのは、いつ。

『トイレの床に血が!?こっちゃん~!気を付けて!』
『こっちゃんの誕生日でした。生まれてきてくれてありがとう!!』
『警察から電話が。嘘だよね?』
『お久しぶりです。実はこっちゃんパパが自ら命を絶ちました。どうやったらこっちゃんと一緒に死ねるかなってことばかり考えてます…。』
『ご心配おかけしました!前を向いて生きていきます!』
『保育園の先生に号泣されてしまった。』
『父の日の似顔絵どうします~wだってあの園長くそすぎる。』
『すみません。前の投稿消します。』
『小学生になってもまだおねしょ。病院とか行くべき!?とりあえず担任に相談だ。』
『ついにこの日が!?お赤飯の炊き方を調べてまーす!』
『いきなりでゴメンナサイ。この垢も消そうと思います。仲良くしてくれた皆さん、今までありがとー!』
 



 こばすけが再び我が家にやって来る日となった。
 私は前もってスーパーで冷凍チャーハンを二袋買っておいた。好きかもしれないと思って、コーラのペットボトルも、奮発してハーゲンダッツのアイスも一緒に買った。円華ちゃんの彼氏は抹茶味のアイスを絶対に食べないらしい。だから無難にバニラとクッキー&クリームを選んだ。
 家のインターフォンが鳴る。ドアを開けると、満面の笑顔を浮かべた私服のこばすけがいた。彼は幼馴染の家にあがるみたいに入ってきた。私も笑顔で居間に通す。

「なんかきれいじゃん、家」

 念入りに掃除したことに彼はすぐに気付いた。靴も漫画本も片付けておいたのだ。

「こいつら、まだ元気じゃん」

 彼はまた水槽の前にうんこ座りした。金魚たちが泡を浴びながら暴れる。水は昨日替えたばかりなのに、また濁り始めていた。
 彼は、今回は通学バッグではなく布製の四角いケースを持ってきていた。ケースの中からノートパソコンを取り出し、ちゃぶ台の上に置いて広げる。彼専用のパソコンらしい。リーダーにSDカードを差し込んだ。
 さあ、ママのセックスを二人で見るぞと意気込んで私も隣に座った。見終わったら二人で打ち上げだ。
 最高の夏休みになりそう。私は記憶している中で、一番わくわくしていた。

「おまえはこの動画、どうするつもりなんだ?」

 パソコンを操作するこばすけも目をキラキラとさせている。
 ど、どうするって。

「母親に復讐するチャンスじゃん」

 ふ、復讐って。

「今まで散々、個人情報流されてきたわけだろ? 名前も顔写真も。で、やばいやつらに写真見られてさ。気持ち悪くねえのかよ。ユートもレンも、可愛いもんだぜ。おまえのおかげで、世の中には俺以上にやばいやつがごろごろいるんだってよくわかったわ。ちょっと安心した。なあ、復讐しろよ。母親に。俺だったらするね」

 ……。

「だから、ネットにあげちまえよ。この動画。金も稼げるらしいぞ」

 私はちゃぶ台の上のティッシュ箱をつかみ、こばすけの頭をはたいた。

「冗談だよ、冗談。なに本気にしてんの。きも」

 USBの差し込みに苦戦しながら、彼は舌打ちする。
 ティッシュ箱をつかむ自分の手は少し震えていた。ママに復讐をするなんて、考えたこともなかった。
 ママでオナニーする人はいるんだろうか。素人の動画でも金が稼げるという話は聞いたことがあったが、ハートマークや星を贈るようなシステムはあるのだろうか。あるとしたら、ママのセックスを祝福する人は一体この世に何人いるのだろう。
 子どもが親のセックスを勝手に公開したなんて知れたら、世間様は黙っちゃいないだろう。親のほうは散々、子どもの恥ずかしい姿を晒し続けていたのだとしても。
 世界中のヘンタイたちの目線が自分の皮膚を這うような感覚を体験して、ママはなにを思うだろう。動画をあげたのが実の娘だと知ったら、怒るだろうか、泣くだろうか。
 どうしてこんなことをしたのかって訊かれたら、なんて返そう。
 これはママへの愛情表現の一部なんだって言ってやろうかな。いつかママが私にそう説明したように。
「これは愛です」って。

「最近も、写真載せられてんの? 母親に」

 ううん。

 もう載せてないみたい。アカウントも消したみたい。

「なんで」

 私が太り始めたからだと思う。

「ふーん」

 こばすけがファイルをクリックする。画面に黒い窓が表示される。「おまえの母ちゃんもあほだけどさ」と呟くこばすけの顔が窓にぼんやりと映る。

「うちの担任はもっとあほだよな。家庭をぶち壊すリスクまで抱えて不倫するかよ、ふつー。子どもだって生まれたばっかりなのに」

 あの白髪交じりのジジイが新生児を抱きかかえているところを想像した。円華ちゃんのお母さんも、うちのママより一回り年上だ。育児は体力勝負だから、高齢出産はきついとぼやいていたのを思い出す。
 担任を労うと、「は? 高齢出産って誰が?」と言って、こばすけが訝しんだ。

「あ、あれ? お、奥さんは若いの? お、奥さんは何歳?」
「嫁は同い年って言ってたから、……二十七?」
「に、に、二十七!?」
「違う」
「え?」
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