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19.不安②side白川結衣
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シーズン②19 不安②side白川結衣
あの日はーー。
一条家のお屋敷で夜のお茶会が行われて、私達使用人の子どもも同席していた。楽しく過ごして一乃瀬のお屋敷に着いて少しした時だった。
「坊ちゃん、こちらへ」
そう落ち着いた声で呼びかけたのは父だった。そして目配せでその場にいた使用人の子ども達ーー今も仕える5人と私達姉妹を呼び出した。只事では無いと思った私は、眠そうな柚子の手を慌てて引いた事を覚えている。
「ここで待機なさってください。ーーみんな、非常事態の時は分かってるわね?」
母の言葉で私達は場所を移すーーその先はご当主様の部屋の隣の部屋、私達が隠れることになったのは隠し通路に繋がる本棚だった。非常事態の時は、坊ちゃんをお守りしつつ隠し通路を通って外に逃げろとの事だった。横にいた泉くんが首を縦に振った。
「……お母さん」
優しい笑顔の母に、何となく嫌な予感がした私は無意識にそう呼びかけていた。
「結衣ちゃん。私達は大丈夫よ、坊ちゃんとみんなの事をお願いね?……さぁ閉めるわよ」
本棚が外から見えないように閉じられ、暗くなった。みんなが静かに待機する中、昼間にはしゃぎすぎた柚子と坊ちゃんと耕ちゃんは眠りについてしまった。
「静かすぎない?」
沈黙を破ったのは理玖くんだった。確かに静か過ぎるのだ、まるで誰も屋敷にいないかのように。快星くんがそっと扉を開いた瞬間だったーードタドタと人が走り回る音と数発の銃声が響き渡ったのは。
「今のってーー銃声だよね」
震えた声で泉くんが小さく呟いた。けたたましい音に坊ちゃんと耕ちゃんは目を覚ました。
「……隠し通路の先は安全そうだったよ~行く~?」
いつの間にか姿が見えなくなったウィルくんは通路の先の安全を確認してきたようだった。全員で通路を抜ける事が確認される。
「柚子は僕がおぶるよ」
柚子のお世話を買って出てくれるのは、いつも泉くんだった。
先頭はウィルくんと理玖くん、続いて柚子と泉くん、そして坊ちゃんーー責任のある立場の者は最後の安全確認をしてから逃げる、それは一乃瀬家のルールだったから私と快星くんが努める事になった。
柚子をおぶった泉くんの後ろ姿が見えなくなった時、扉の向こうから今まで以上にすごい音がした。私は小さく空いた隙間から部屋の様子を伺った。目の前に広がったのは、人生の中で最も衝撃的だったと言っても過言ではない光景だった。
「透さんーー私ごと撃ってーー」
黒づくめの男に拳銃を突き立てられ人質に取られている母と、その母と男に拳銃を向けている父の姿。思わず出かけた悲鳴を懸命に飲み込む。
「俺の狙いは1つだ。わかるな?白川執事長。要求を飲まなければ、お前の妻はここで死ぬ」
「透さんっ!」
必死に父の名前を呼んで要求を飲まないようにと叫ぶ母、執事長としてのお屋敷を守る責務と母を救いたいと思う感情で揺れる父、2人の姿は私にとって忘れられない光景になり、そして私が両親を見た最期の姿になった。
あの日はーー。
一条家のお屋敷で夜のお茶会が行われて、私達使用人の子どもも同席していた。楽しく過ごして一乃瀬のお屋敷に着いて少しした時だった。
「坊ちゃん、こちらへ」
そう落ち着いた声で呼びかけたのは父だった。そして目配せでその場にいた使用人の子ども達ーー今も仕える5人と私達姉妹を呼び出した。只事では無いと思った私は、眠そうな柚子の手を慌てて引いた事を覚えている。
「ここで待機なさってください。ーーみんな、非常事態の時は分かってるわね?」
母の言葉で私達は場所を移すーーその先はご当主様の部屋の隣の部屋、私達が隠れることになったのは隠し通路に繋がる本棚だった。非常事態の時は、坊ちゃんをお守りしつつ隠し通路を通って外に逃げろとの事だった。横にいた泉くんが首を縦に振った。
「……お母さん」
優しい笑顔の母に、何となく嫌な予感がした私は無意識にそう呼びかけていた。
「結衣ちゃん。私達は大丈夫よ、坊ちゃんとみんなの事をお願いね?……さぁ閉めるわよ」
本棚が外から見えないように閉じられ、暗くなった。みんなが静かに待機する中、昼間にはしゃぎすぎた柚子と坊ちゃんと耕ちゃんは眠りについてしまった。
「静かすぎない?」
沈黙を破ったのは理玖くんだった。確かに静か過ぎるのだ、まるで誰も屋敷にいないかのように。快星くんがそっと扉を開いた瞬間だったーードタドタと人が走り回る音と数発の銃声が響き渡ったのは。
「今のってーー銃声だよね」
震えた声で泉くんが小さく呟いた。けたたましい音に坊ちゃんと耕ちゃんは目を覚ました。
「……隠し通路の先は安全そうだったよ~行く~?」
いつの間にか姿が見えなくなったウィルくんは通路の先の安全を確認してきたようだった。全員で通路を抜ける事が確認される。
「柚子は僕がおぶるよ」
柚子のお世話を買って出てくれるのは、いつも泉くんだった。
先頭はウィルくんと理玖くん、続いて柚子と泉くん、そして坊ちゃんーー責任のある立場の者は最後の安全確認をしてから逃げる、それは一乃瀬家のルールだったから私と快星くんが努める事になった。
柚子をおぶった泉くんの後ろ姿が見えなくなった時、扉の向こうから今まで以上にすごい音がした。私は小さく空いた隙間から部屋の様子を伺った。目の前に広がったのは、人生の中で最も衝撃的だったと言っても過言ではない光景だった。
「透さんーー私ごと撃ってーー」
黒づくめの男に拳銃を突き立てられ人質に取られている母と、その母と男に拳銃を向けている父の姿。思わず出かけた悲鳴を懸命に飲み込む。
「俺の狙いは1つだ。わかるな?白川執事長。要求を飲まなければ、お前の妻はここで死ぬ」
「透さんっ!」
必死に父の名前を呼んで要求を飲まないようにと叫ぶ母、執事長としてのお屋敷を守る責務と母を救いたいと思う感情で揺れる父、2人の姿は私にとって忘れられない光景になり、そして私が両親を見た最期の姿になった。
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