ようこそ、一条家へ season2

如月はづき

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10.最初の試練②side望月光

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「ねえ修斗くん。玉ねぎはみじん切りだよ。そんなに大きかったら口当たりが悪いよね」

 いつも結衣さんがいて男手が入ることはほとんどなかった台所に、立花さん、修斗さん、風見、俺の4人が立っている。
 昨日までであれば夕食を囲んでいるはずの時間に、俺たちは試行錯誤を繰り返しながら料理を進めていた。

「結衣ちゃんは卵ふわふわにさせるよ」

「そんな技術俺にはねえよ、そんくらい我慢できるだろ」

 風見が小姑のように修斗さんのやることなすことに口を出す。

「柚子だよ。我慢できるわけないでしょ。食べ物のことに妥協は許さない女だよ」

 ーまさか本当に出てこないとは思わなかった。
 夕食の1時間前になっても部屋から出てこない柚子ちゃん。痺れを切らした修斗さんが部屋に突撃しようにも、バリケードが張られているのか開かない扉。何度ノックしても聞こえない返事。
 30分ほど奮闘したところでとりあえず夕食の支度に柚子ちゃんを交えるのは諦め、現在に至る。

「そんなに言うならお前がやれよ」

「僕は今サラダ作ってるんだからそんな暇ないよ」

「…先が思いやられるな」

 修斗さんと風見が言い合いをしている横で大量の洗い物を前に立ち尽くす立花さん。ボソリと呟かれたその声色は、珍しく疲れ切っていた。


 それからさらに30分ほど経過したところで何とか夕食が形になった。

 コンコン。立花さんが控えめにノックをした扉の先には柚子ちゃんがいるはずだが、相変わらず返事は聞こえない。

「柚子ちゃんお腹空かない?ご飯食べよう?」

 立花さんは優しい声で続ける。

「今日のご飯は柚子ちゃんの大好きなオムライスだよ」

 ガタガタッ!と大きな音が扉の先で聞こえた。そうしてようやく開いた扉からは目元を腫らした柚子ちゃんが出てきた。

「ご飯食べる」

 泣き疲れたのか、お腹が空いたのか覇気がないガラガラ声だったけど、彼女の顔を見られてホッとした気がした。

 リビングに移動すると結衣さんのものには及ばないが、綺麗に盛り付けをされた料理が食卓に並んでいた。
 柚子ちゃんが席につき、ご当主がいただきますと手を合わせて遅めの夕食が始まる。
 柚子ちゃんはまずスープを一口啜り、その後オムライスにスプーンを入れる。
 みんなが固唾を呑んで見守る中、オムライスを飲み込んだ柚子ちゃんが何かを呟いた。

「何だよ?文句あんのか?」

 オムライス担当の修斗さんが苛立ちと緊張感を含んだ様子で柚子ちゃんに目をやる。

「…ピーマン」

「は?」

「ピーマン入ってる!」

 柚子ちゃんはオムライスを指差し、キッと修斗さんを睨みつけた。

「何でピーマンが入ってるんだ!」

「は?結衣だって入れてただろ!?」

「えーっと…結衣ちゃんは確か柚子ちゃんの分には入れてなかったと思う、んだけど」

 立花さんが遠慮がちに立ち上がり、気まずそうに修斗さんと柚子ちゃんを交互に見やる。

「~っ!柚子の健康のためだ!」

「うわーん!お姉ちゃんのオムライスが食べたいぃぃぃ!」

 リビングはカオスと化した。
 ご当主様は朗らかに笑い、柚子ちゃんは大泣き。修斗さんはプリプリと怒り、立花さんはオロオロとしていて、風見は何事もなかったかのように料理を口に運んでいる。

 ー騒がしい食卓なんて、故郷ではあり得なかった。人前で大きな声で笑うなんてできなかった。
 一緒に食事をする人たちを愛おしいなんて、そんな時間が楽しいなんて、今まで生きてきた中で一度も感じたことはなかったのに。

「賑やかだねぇ」

 ケラケラと笑う深雪さんの言葉に頷いて、
 思わず声を出して笑ったのは初めてのことだった。

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