ようこそ、一条家へ season2

如月はづき

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9.最初の試練①side望月光

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「うわーん!」

 先程まで気丈に振舞っていた柚子ちゃんは、結衣さんの乗っていた車が見えなくなった途端に子供のように泣きじゃくり始めた。

「おっ、お姉ちゃんが、お姉ちゃんが行っちゃったぁ!」

 あまりの泣き具合に立花さんはおろか、付き合いの長いはずの風見や修斗さんでさえ柚子ちゃんの近くに寄ろうとしない。

「育、お前泣き止ませろよ。幼馴染だろ」

「そういう修斗くんが泣き止ませなよ。いつも兄貴ヅラしてるのに何で僕に頼むの。育児のいいとこ取りだけしたいタイプ?」

 ああ、ただでさえ柚子ちゃんが泣き止まなくて空気が重たいというのにそこでバチバチしないでくれ。

「お姉ちゃんがいないぃぃぃ!」

 大粒の涙を零す彼女の背中をさすり、とりあえず中に入ろうかとようやく動いたのは深雪さんだった。

「柚子ちゃ~ん。おやつでも食べて元気出そうよ~」

 お腹が空いてると悲しさも倍増しちゃうし。なんて、幼い子に言い聞かせるかのような優しい声色に柚子ちゃんも落ち着きを取り戻したのか、それとも単純にお腹が空いていることに気付いたのか、深雪さんに背中を押されてようやく屋敷の中に入って行った。

 ー結衣さんがこの家から出ていく。
 俺にとっては好都合だった。この家の中で調べ物をしようにも書庫は結衣さんが管理していたし、口の軽そうな柚子ちゃんなら何かしら情報を引き出すことが出来るのではないかと話かけようにも、結衣さんがいると何だか見られているような気がして結局確信的なことは今のところ何も聞けていない。


「お姉ちゃんの味がする……」

 結衣さんがおやつに作っておいてくれたアップルパイを齧りながら柚子ちゃんは収まったと思われた涙を再び流し始めた。大声で泣かれるのも困りものだが、いつも元気いっぱいの彼女が静かに目を潤ませているのもそれはそれで調子が狂わされる。

「…ふぅ、柚子も頑張らなくちゃね」

 アップルパイの4分の3を食べ、お茶を飲み干し、お腹が満たされたのか柚子ちゃんは徐々に落ち着きを取り戻した様子だった。

「お姉ちゃんに心配かけないようにしなくちゃ。柚子もメイドとして成長するチャンスだ!」

 彼女の目元は真っ赤に腫れ、浮かべた笑みはぎこちないものだった。その姿に胸が締め付けられるような気持ちになったのは気のせいだろうか。

「俺も、出来ることあれば協力するから。だから、その」

「おい、柚子」

 無理せんといてな、なんて彼女を利用しようとしている俺が言っていいものなのか。言葉を探している間にどこからともなくやって来た修斗さんが柚子ちゃんに話しかける。

「今日の晩飯、どうするんだ。結衣はさすがに作っていってないだろ。買い物行くにしろ1人じゃ行けねえんだから誰かに頼めよ。それから掃除と洗濯に、王宮から手紙も届いてる」

 確かにそれらは結衣さんがメイド長としてこなしてきた仕事ではあるが、1人メイド初日の柚子ちゃんがこなせる量ではないだろう。まして結衣さんがいなくなって情緒不安定になっている彼女にいっぺんに言い立てなくても…。

「結衣はもういないんだからな」

 追い討ちをかけるように続いた修斗さんの言葉。鳥待、と立花さんがこの場を収めようとした時だった。

「そんなこと柚子が一番分かってるよ!」

 椅子から立ち上がり、キッと修斗さんを睨みつける柚子ちゃん。

「何で修斗くんはそうやっていつも意地悪なんだ!柚子だってお姉ちゃんいなくても頑張ろうと思ってるのに!そんなにいっぺんに色々言われたって分かんないよ!」

 堪えようとした感情が再び湧き上がり、爆発してしまったのだろうか。柚子ちゃんはこの家に柚子の味方はいないんだ、お姉ちゃんに会いたい、などと泣き喚いて自分の部屋へと走り出した。

「柚子お姉ちゃんが帰ってくるまでこの部屋から出ない!」

 ばたん、と大きな音を立てて閉ざされた扉。オロオロとしている立花さんに、そのうち出てくるだろと呆れたように修斗さんが呟く。そうそう、お腹が空けばねと風見もいつもの調子で頷き、深雪さんは本当に大丈夫かな~と楽しそうに笑う。ご当主が柚子も色々と混乱しているからみんなで協力しようと声をかけ、その場は解散となった。


 だけど、固く閉ざされたその扉は外が暗くなっても開くことはなかった。

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