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8.一乃瀬家へ side白川結衣
しおりを挟む「ねぇ、結衣ちゃん。理玖ちゃんは辞めてよ。せめて、くん付けで」
「……そうね。つい癖で、気をつけるわ」
自分が柚子に見送られる日が来るなんて、あの頃は思いもしなかった。不安そうだけれど、最大限の元気な笑顔で見送ってくれた最愛の妹を思い出す。
私は今日、メイド長を務める一条家から兼任という形で一乃瀬家メイド長に着任する。人生でもっとも幸福と言っても過言ではない時期を過ごした、実家と呼べる家に責任ある立場として戻るの事は大きな名誉であり、身が引き締まる。
「妹、大丈夫そ?結衣ちゃんいなくて、だいぶ荒れ狂ってたけど」
一条家から出発して程なく、一乃瀬家の管轄領である一条家二番街に入った時、斜め前の運転席から少し落ち着きはしたけれど、昔と変わらない特徴のある声がした。
「慣れれば大丈夫よ。柚子は適応能力のある子だもの」
「そっかそっか」
乾いた笑い声が車内に響いた。柚子はきっと大丈夫、一条家のみんなは過保護なくらいに柚子を大切にしてくれている。門番さんも騎士団から派遣されてくるから、身の安全も保証されている。柚子と私にとって命が保証されている環境にいる事は、人生において1番大切な事だ。ーーもう2度といつ殺されるかも分からない思いをするのはごめんだわ。
「そういえばさ、いい人出来た?」
バックミラー越しにこちらを見る理玖くんと目が合う。ニッと口角が上がって、まるで幼い子がいたずらをしている途中みたいな顔だ。
「そんな人はいらないわ。理玖ちゃ……理玖くんこそ、どうなの?また日替わりで取っ替え引っ替えしているのかしら?」
「人聞き悪いなぁ。俺は情報収集してんの!……柚子ちゃんは?この前のお茶会にいた望月とか?どうなの?」
一乃瀬家の情報屋として育った彼らしくないストレートな聞き方に、単純に一乃瀬家の一員として会話を求められていると気づく。ふと肩の力が抜けた気がする。
「そうね。光くんはとても優しいと思うけれど……。柚子には普通の暮らしをして欲しいのよね。身の安全は確保された上で」
窓の外を見れば晴れた空が広がる。柚子には真っ当に太陽の下を何の心配もなく歩く人生を送って欲しい。あの日からずっとそう思っているし、柚子が柚子らしく真っ直ぐと生きられるように育ててきたつもりだ。
柚子が1番大切ーーそれは永遠に変わらないし、それを覆さない。大切な人は1人でいい、これ以上増えたら守りきれないーーだから、私は婚姻関係を結ぶつもりはない。
貴族のお屋敷で働く事は、私たち姉妹にとって身の安全の為に最善であると同時に、徹底して身を隠す必要性のある場所だ。その為にこの髪は黒く染めて、瞳には目の色を変えるレンズを入れている。
ふと気がつけば、車は一乃瀬家の玄関前に停まった。この実家と呼べる場所に来るといつも気が緩みそうになる。車を降りて玄関を入れば、幼い頃から見知った面々が出迎えてくれる。
「今日からよろしくね!メイド長」
「謹んでお受け致します、坊ちゃん」
いつだって完璧なメイドでいなくてはーー自分を律し、この家に仕えるその意味も込めて深く深く頭を下げた昼下がりだった。
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