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6.メイドの仕事 午前
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一条家に戻ってきて2ヶ月が経った。お姉ちゃんから1人でも出来ると任せられたのは、洗濯と門から玄関までの掃除。他の仕事はまだお姉ちゃんから習っている途中だ。朝ごはんの準備から始まるこの生活にも、少しずつ慣れてきた。
「おはよぉー」
「おはよう、柚子。お姉ちゃんはこれから、ハムエッグ焼くわ。サラダと付け合わせの野菜盛り付けてくれるかしら?」
何時に起きてキッチンに来るんだろう。私が来る時間は、お姉ちゃんが何品から作り終えた後だ。
前は料理長さんがいたけれど、近くにあるご実家のレストランを継ぐとのことで屋敷を去ってしまった。今でも来客の多い晩餐会や、お姉ちゃんがいない日に手伝いに来てくれるけれど。
「はーい。……お姉ちゃんさぁ、メイドの仕事もして料理もして大変じゃない?」
サラダの盛り付けをしながらお姉ちゃんに尋ねる。フライパンに続々と卵を割り入れている所だった。
「大変も何も……ご当主様がそれでいいならいいのよ。与えられた仕事に最大限に務める―ーそれがこの家のメイドの仕事よ」
手も止めなければ、口も止めない。凜とした表情で返された言葉に、この家に仕えるメイドの誇りを感じた。
一条家の朝食は6時半からだ。盛り付けたお皿をテーブルに並べていると、みんなが続々とやってくる。光くんは立花さんの後ろについてメモを取りながら、育は庭から摘んできた花をダイニングの花瓶に生けて、大雅くんは優雅にやってくるし、深雪さんは知らないうちに席にいる、修斗くんは寝癖をつけて時間ギリギリに……個性豊かだなぁとみんなを見ながら思う。
食事中に簡単な1日の申し送りがあって、食事が終われば各自所定の位置へ。私は各部屋の洗濯物を回収して洗濯機にかける。1日3回、回しては干してを繰り返す。大変だけど、洗濯は綺麗になった洗濯物が心地よくて好きだ。3回目の洗濯物を干し終わると、キッチンのお姉ちゃんの所へ行く。
「お姉ちゃん来たよー!」
「ありがとう。じゃあこれ、お願いね」
大きめの水筒2本とクッキーの入った袋を受け取る。門番さんの所に朝の挨拶と差し入れを持って行き、ついでに門から玄関までの掃除だ。
「おはよーございます。これお姉ちゃんからです」
「おはようございます。……いつも悪いな」
門番の古林さんは、騎士団から派遣されて日中はここにいてくれる。最初は大きいし怖い人かと思ったけど、優しいいい人だった。箒を持って掃除を始める。……クッキー美味しそうだったなぁ。チラリと門番さんを見ると何やら書類仕事をしている。
「ふー。今日も暑いなぁ、柚子お腹空いたなぁ」
ぶつぶつ独り言を言いつつ、地面を掃いていく。
「ほら、……いつも言うけど、欲しいなら欲しいっていいな」
門番さんはそう言って、差し入れのクッキーを少し分けてくれる。ありがとうございますとお礼を言って、お菓子タイムの始まりだ。
「……怒られないか?」
「大丈夫!ここでこっそりお菓子を食べているのは、柚子と門番さんしか知らない!門番さんが誰にも言わなければバレない!」
そうか。と呆れたように言われることにも慣れた。門番さんには私より3歳年下の娘さんがいる。年頃の娘の意見を聞かれているんだろな、とあれこれ話しながら思う。私もお父さんとお母さんが生きていればこんな感じなのかなと思いを馳せる。
誰にも内緒のお菓子タイムという日課を終えると、お屋敷の掃除だ。今日は1階の廊下……。窓が多いし、玄関ホールは広いし1番大変だ。
「柚子、これ。今日入れ替える分」
踏み台に上りせっせと窓拭きをしていると、育が手に赤薔薇を抱えてやってくる。さすが庭師、元気のなさそうな花はすぐに入れ替えか。
「……柚子、窓拭いてるの!」
「はぁ。……はいはい、僕がやればいいの?まぁ、柚子はこの前花瓶割ったばっかりだもんね」
静かにしてよ!と慌てて踏み台から降りて育に近寄る。先日私は花を生けようと思って花瓶を割った―いや、花瓶が勝手に落ちてきて割れた。そしてその現場を運悪く育に見られてしまったのだ。バレたら怒られる……と思った私は育と一緒に証拠隠滅をしたのだが、その後から育は何かとこの調子だ。花瓶に生けたらまた来ると、洗面所方面へ向かう後ろ姿に思う。何が狙いだ……私を脅して自分が好きな夕食のおかずを要求する気か。
「ここにおったんか。柚子ちゃん、昼ごはんになるで?」
1階の端っこまでモップが到達した時に背後から声がした。もうそんな時間か急にお腹が空いてきた。今行くと返事をして掃除道具を片付ける、水の入ったバケツを光くんが持ってくれる。
「持てるよ!……いつも悪いじゃん」
「大したことしとらんよ。えぇねん、女の子には親切にせんとな」
ここ最近は光くんが私を呼びに来てくれることが多くなった、優しい彼はいつも片付けまで手伝ってくれる。修斗くんや育も昔から優しいと思っていたけど、目に見えて言葉に出して女の子扱いされるのは、ちょっと恥ずかしい気もする。
今日の昼食はミートソースパスタだった。一条家の分家にあたる、一乃瀬家から大量のトマトが届いたらしい。王宮に行っている大雅くん、修斗くんを除いたみんなで食べる。ワンプレートの簡単な食事だけど、気取らない昼食の雰囲気が私は割と好きだったりする。
昼食の片付けを終えると休憩時間だ。私の定位置はリビングにある3人掛けソファー、丸まって横になりお昼寝を少しだけ。午後は洗濯物をしまって畳んで片付けて、それから……あ、ブランケット持ってくれば良かったなぁ、瞼が重くなってきた。
「おはよぉー」
「おはよう、柚子。お姉ちゃんはこれから、ハムエッグ焼くわ。サラダと付け合わせの野菜盛り付けてくれるかしら?」
何時に起きてキッチンに来るんだろう。私が来る時間は、お姉ちゃんが何品から作り終えた後だ。
前は料理長さんがいたけれど、近くにあるご実家のレストランを継ぐとのことで屋敷を去ってしまった。今でも来客の多い晩餐会や、お姉ちゃんがいない日に手伝いに来てくれるけれど。
「はーい。……お姉ちゃんさぁ、メイドの仕事もして料理もして大変じゃない?」
サラダの盛り付けをしながらお姉ちゃんに尋ねる。フライパンに続々と卵を割り入れている所だった。
「大変も何も……ご当主様がそれでいいならいいのよ。与えられた仕事に最大限に務める―ーそれがこの家のメイドの仕事よ」
手も止めなければ、口も止めない。凜とした表情で返された言葉に、この家に仕えるメイドの誇りを感じた。
一条家の朝食は6時半からだ。盛り付けたお皿をテーブルに並べていると、みんなが続々とやってくる。光くんは立花さんの後ろについてメモを取りながら、育は庭から摘んできた花をダイニングの花瓶に生けて、大雅くんは優雅にやってくるし、深雪さんは知らないうちに席にいる、修斗くんは寝癖をつけて時間ギリギリに……個性豊かだなぁとみんなを見ながら思う。
食事中に簡単な1日の申し送りがあって、食事が終われば各自所定の位置へ。私は各部屋の洗濯物を回収して洗濯機にかける。1日3回、回しては干してを繰り返す。大変だけど、洗濯は綺麗になった洗濯物が心地よくて好きだ。3回目の洗濯物を干し終わると、キッチンのお姉ちゃんの所へ行く。
「お姉ちゃん来たよー!」
「ありがとう。じゃあこれ、お願いね」
大きめの水筒2本とクッキーの入った袋を受け取る。門番さんの所に朝の挨拶と差し入れを持って行き、ついでに門から玄関までの掃除だ。
「おはよーございます。これお姉ちゃんからです」
「おはようございます。……いつも悪いな」
門番の古林さんは、騎士団から派遣されて日中はここにいてくれる。最初は大きいし怖い人かと思ったけど、優しいいい人だった。箒を持って掃除を始める。……クッキー美味しそうだったなぁ。チラリと門番さんを見ると何やら書類仕事をしている。
「ふー。今日も暑いなぁ、柚子お腹空いたなぁ」
ぶつぶつ独り言を言いつつ、地面を掃いていく。
「ほら、……いつも言うけど、欲しいなら欲しいっていいな」
門番さんはそう言って、差し入れのクッキーを少し分けてくれる。ありがとうございますとお礼を言って、お菓子タイムの始まりだ。
「……怒られないか?」
「大丈夫!ここでこっそりお菓子を食べているのは、柚子と門番さんしか知らない!門番さんが誰にも言わなければバレない!」
そうか。と呆れたように言われることにも慣れた。門番さんには私より3歳年下の娘さんがいる。年頃の娘の意見を聞かれているんだろな、とあれこれ話しながら思う。私もお父さんとお母さんが生きていればこんな感じなのかなと思いを馳せる。
誰にも内緒のお菓子タイムという日課を終えると、お屋敷の掃除だ。今日は1階の廊下……。窓が多いし、玄関ホールは広いし1番大変だ。
「柚子、これ。今日入れ替える分」
踏み台に上りせっせと窓拭きをしていると、育が手に赤薔薇を抱えてやってくる。さすが庭師、元気のなさそうな花はすぐに入れ替えか。
「……柚子、窓拭いてるの!」
「はぁ。……はいはい、僕がやればいいの?まぁ、柚子はこの前花瓶割ったばっかりだもんね」
静かにしてよ!と慌てて踏み台から降りて育に近寄る。先日私は花を生けようと思って花瓶を割った―いや、花瓶が勝手に落ちてきて割れた。そしてその現場を運悪く育に見られてしまったのだ。バレたら怒られる……と思った私は育と一緒に証拠隠滅をしたのだが、その後から育は何かとこの調子だ。花瓶に生けたらまた来ると、洗面所方面へ向かう後ろ姿に思う。何が狙いだ……私を脅して自分が好きな夕食のおかずを要求する気か。
「ここにおったんか。柚子ちゃん、昼ごはんになるで?」
1階の端っこまでモップが到達した時に背後から声がした。もうそんな時間か急にお腹が空いてきた。今行くと返事をして掃除道具を片付ける、水の入ったバケツを光くんが持ってくれる。
「持てるよ!……いつも悪いじゃん」
「大したことしとらんよ。えぇねん、女の子には親切にせんとな」
ここ最近は光くんが私を呼びに来てくれることが多くなった、優しい彼はいつも片付けまで手伝ってくれる。修斗くんや育も昔から優しいと思っていたけど、目に見えて言葉に出して女の子扱いされるのは、ちょっと恥ずかしい気もする。
今日の昼食はミートソースパスタだった。一条家の分家にあたる、一乃瀬家から大量のトマトが届いたらしい。王宮に行っている大雅くん、修斗くんを除いたみんなで食べる。ワンプレートの簡単な食事だけど、気取らない昼食の雰囲気が私は割と好きだったりする。
昼食の片付けを終えると休憩時間だ。私の定位置はリビングにある3人掛けソファー、丸まって横になりお昼寝を少しだけ。午後は洗濯物をしまって畳んで片付けて、それから……あ、ブランケット持ってくれば良かったなぁ、瞼が重くなってきた。
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