ようこそ、一条家へ

如月はづき

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14.事件②side立花正義

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「柚子がいないのだけれど、見なかったかしら?」


 時刻は午前10時49分。ご当主様の部屋での仕事を終えて一階に降りている時だった。階下から立花さんと、自分の名前を呼ばれ見ると不安そうな顔の結衣ちゃんが立っている。いつも凛とした表情を見せる彼女のそんな顔は初めて見る。なるべく穏やかにどうかしたのか尋ねれば、まさかの言葉が紡がれた。


「僕もさっきまでご当主様の部屋にいたからわからないな……。望月はいる?郵便を取りに行くように言ったから、外で柚子ちゃんに会ってると思うけれど」


「光くんも見当たらないの。さっき裏庭にいた育くんにも聞いたんだけど見ていないって」


 少し不味いことになったかもしれない。ーー柚子ちゃんは郵便を受け取ると、僕のところに持ってくるか、ご当主様の部屋に届けている。この時間に郵便が届いていないとは考えづらい……あの子のことだから、10時のおやつは必ず食べに来ることを考えると隠れているという可能性は低い。だとすると……。


「外を少し探してくるよ、結衣ちゃんはお昼ご飯の準備をお願いしていいかな?」


 はい。と力無く告げて彼女はキッチンへと姿を消した。
 近頃、王国内では高位貴族の家のメイドが誘拐されるという事件が何件かあった。犯人の目的や正体はまだ不明ではあるが……。この一条家は国内で最も高い位だ、メイドが狙われる可能性は十分にあったのに……少し油断したか、思わず口から漏れた声は誰もいない玄関に吸い込まれていった。





 外に出ると、門の方から歩いてくる深雪の姿が見えた。


「深雪!」


 僕からの呼びかけに右手を上げている、彼の左手には紙の束が見えた。


「どうかした~?そんなに大声で呼ぶなんて珍しいね」


「……それは」


 悪い予感は次々に的中していく。


「門番サンのところに置いてあったよ~。それに門も鍵が開いていたし……。顔色悪いけど、何があった?」


 外に出たのか、門を開けさせられたのか、郵便配達と誘拐はどちらが先なのか……2人とも誘拐されたのか、いろんなことが頭を駆け巡った。


「柚子ちゃんと望月がいなくなった。……深雪悪いけど、ご当主様に報告して。僕は屋敷の外を確認して戻るから」


 外側から無理矢理鍵を開けた形跡はない。結衣ちゃんの話だと裏庭には、風見が滞在していたようだし、やはり2人はここから外に?でもどうやって……。柚子ちゃんはまだしも、望月をどうやって連れ出すんだ。


「立花~!ご当主様に報告してきたよ、これから昼食を食べつつ話し合いにするって」


「ありがとう」




 ダイニングは重い空気に包まれていた。昼食はサンドイッチとスープ、結衣ちゃんは話し合いになることを予想して、メモを取っても大丈夫なように、片手で食べやすいメニューにしたのだろう。食事中の飲み物を配る彼女は、いつもの冷静な表情ではあるけれど、よく見れば不安や心配が隠しきれていない。

 全員が席に着いたところで、ご当主様が話し始める。


「さて、頂こう。食べながらで良いので聞いて貰いたい。……柚子と望月がいなくなった。王都近辺で起きている誘拐事件と関連があるものと考えている、いなくなった状況について……立花説明を頼む」


 はい。と返事をしてから端的に情報を整理する。まず、結衣ちゃんからいなくなったと言われたこと、郵便を取りに行った望月が帰ってきていないこと、深雪が帰宅した時には門は開いていて郵便が届けられていたこと。そして見回りの結果、門は外から鍵を開けられた形跡はないこと。


「……何かがきっかけで、内側から鍵を開けさせたって事?」


 風見の声が一段と冷たく聞こえる。大声で怒鳴りそうな鳥待は、怒りで震えていた。


「我が家だけの問題ではないから、王宮にも報告をする。騎士団の行事も終わっているだろうから、調査依頼を行う。修斗、結衣は王宮へ同行。深雪は独自調査を、立花と育は犯人からコンタクトがある可能性も含め屋敷に留まること。以上!」




 各々で仕事を振り分けられ、その後無言の食事となった。
 いつもは柚子ちゃんが行う食後の片付けは、僕が手伝うことになった。結衣ちゃんは昼食のスープしか口を付けなかった、よっぽど食欲がないのだろう。ご両親は既に亡くなっていると聞いたし、あんなに可愛がっているたった1人の妹だ、それは心配だろう。
 それに加えて、一条家の分家の中で1番信頼のおける一乃瀬家は、数日前から国境付近に警備に向かっている。調査できる人数が少ないーー。犯人はここまで知っているのか、それとも偶然か。
 お皿を拭いてテーブルに置いていく。


「結衣ちゃん、これここでいいかな?」


「ありがとう。あとは片付けるから大丈夫よ」


「あっ…」


 食器洗いを終えて今度は片付けを進めている、ふとテーブルの端に2人分のスープカップが見えた。


「柚子も光くんも、お腹空いてないかしらね」


 力無く笑う彼女の言葉は、食器を片付ける音にかき消された。

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